外部の専門家が参加すると異論が出ない|質問できる会議の進め方

会議・チーム運営
Psychology Laws 編集部

外部の専門家に会議で説明してもらったあと、参加者から質問も反対意見も出ないことがあります。司会者は「専門家の説明で全員が納得した」と考えたくなるかもしれません。しかし、質問が出なかったことだけでは、理解したのか、賛成したのか、疑問を口にしにくかったのかは分かりません。

まず専門家に何を尋ねる会議なのかを明らかにし、参加者が理解できていない点、自社との条件の違い、懸念を出す時間を確保します。専門家の知識を尊重することと、その提案について確認することは両立できます。ただし、会議で本当に合意できていて質問も不要な場合まで、無理に反対意見を作る必要はありません。

専門家の説明のあと、質問が出にくくなるのはなぜか

説明用の仮の場面です。社内の業務システムを入れ替える会議に、外部のIT専門家を招きました。専門家は過去の導入経験から、全社一斉の切り替えを勧めます。部門長が「やはり詳しい人の意見は説得力がある」とうなずくと、ほかの出席者は発言しなくなりました。ところが、現場の担当者には「繁忙期でも切り替えられるのか」「旧システムのデータを移せるのか」という疑問が残っています。

この場面で考えられる理由は一つではありません。専門用語が難しかった、十分に考える時間がなかった、部門長の反応を見て反対しづらくなった、あるいは本当に提案に納得した可能性もあります。沈黙だけで特定の心理や原因を決めつけず、質問できる状況だったかを確かめます。

専門家の信頼性は、話の受け止め方に影響する

Pornpitakpan(2004)は、情報を伝える人の信頼性が説得に与える影響を、およそ50年にわたる研究から整理しました。信頼性の高い情報源が低い情報源より説得力を持つ結果が多い一方で、情報の内容、伝え方、受け手などの条件によって、その関係が変わり、逆になる場合もありました。これは主に説得に関する研究のレビューで、「専門家がいる会議では必ず異論が減る」と直接示したものではありません。

専門性や実績を判断材料にすること自体は合理的です。ただ、専門家の得意分野や過去の成功条件と、今回の職場の条件が同じとは限りません。肩書きと説明内容を分けて考える点は、権威バイアスの解説でも扱っています。

発言のしやすさには、立場の違いと周囲の反応も関わる

NembhardとEdmondson(2006)は、業務改善に取り組む23の新生児集中治療室の調査で、医療職種間の立場の違いと、意見を述べても対人関係上の不利益を受けにくいと感じられる状態(心理的安全性)の関係を調べました。責任者が異なる職種の貢献を歓迎する姿勢と心理的安全性には関連があり、その関係には職種の立場も関わっていました。これは医療チームの調査結果であり、外部コンサルタントを招いた企業の会議で、同じ働きかけが必ず有効だと証明したものではありません。

DetertとBurris(2007)も、飲食チェーンの従業員3,149人と管理職223人を対象とする調査で、上司が意見を受け入れる姿勢と、従業員が改善案を述べることとの関連を報告しています。発言に伴う危険をどう受け止めるかも、その関係に関わっていました。これも観察された関連であって、司会者が質問を募れば全員が発言するという因果関係まで確かめたものではありません。

外部専門家は、必ずしも社内の上司ではありません。それでも、専門家への敬意、司会者や上司の振る舞い、質問を歓迎する雰囲気を分けて考えることは、会議を見直す手がかりになります。

沈黙を「賛成」と判断する前に確かめること

質問が出ない会議では、参加者の心理を推測するより、まず会議の条件を点検します。確認結果によって、その場で議論を続けるか、追加資料を依頼するか、判断を延期するかが変わります。

  • 専門家に求めている役割は何か。技術上の選択肢の説明なのか、自社の事情を踏まえた提案なのか、最終決定への助言なのかを明確にします。説明を聞くことと、導入を承認することを混同しないためです。決定権限が社内の誰にあるのかも確かめます。
  • 参加者は判断に必要な言葉と資料を理解できているか。分からない用語や比較対象が残っているなら、賛否より先に説明の確認が必要です。説明資料が直前配布だった場合も、意見がまとまらない理由になりえます。
  • 自社固有の条件を専門家へ伝えているか。今回なら繁忙期、データ移行、現場での操作、既存契約、切り替え時に止められない仕事などです。専門家がその情報を知らなければ、経験豊富であっても提案の適用範囲は判断しにくくなります。外部へ伝えられない機密情報は、社内で別途確認します。
  • 質問や懸念を出せる順番と時間があるか。部門長がすぐに賛成を表明していないか、説明後すぐに採決していないか、一度に全員へ「質問は?」と聞くだけで終えていないかを確認します。質問する機会がほとんどなかったなら、沈黙を合意の材料にしません。

十分な資料があり、確認すべき条件を参加者が理解し、異なる立場の人の確認も済んでいるなら、質問が出なくても合意に進める場合があります。一方、導入後の負担や安全上の重要事項が未確認なら、その場で賛成の数を数えるより先に、確認する人と期限を決める必要があります。

専門家に質問できる会議をどう進めるか

以下は、前述の研究から得られる示唆をもとに組み立てた実務上の進行例です。この手順全体によって異論が増える、会議の質が必ず上がると直接検証されたものではありません。

  1. 冒頭で役割と今日決める範囲を伝える。司会者が「専門家には方法と適用条件を説明していただきます。導入の決定は社内で、費用や現場の条件を確認してから行います」と明確にします。参加者にも「分からない点を出すことがこの会議の仕事です」と伝えます。
  2. 説明を聞く前に、社内の確認事項を短く集める。各部門から「現場で止められない作業」「導入時に心配な点」「専門家に確認したいこと」をメモで集めます。事前に書ける時間を設ければ、専門家の説明や上司の賛否を聞いた後だけに頼らず、論点を残せます。
  3. 説明後すぐに賛否を問わず、疑問の種類を分ける。司会者が「言葉の確認」「自社への当てはめ」「根拠や限界」「別の進め方」に分けて質問を募ります。発言しづらい事情があれば、記名せず提出できる方法や後日の個別連絡も用意します。ただし、匿名にすれば必ず本音が集まるわけではありません。
  4. 司会者が最初の質問を示し、専門家の答えを引き出す。「全社一斉の切り替えが難しいのは、どのような条件でしょうか」「自社ではまだ分からないことは何ですか」と聞きます。参加者の疑問を本人の知識不足と扱わず、検討すべき条件に置き換えます。
  5. 専門家が即答できないことも記録する。未確認の移行方法や費用について、無理にその場で正解を求めません。必要な資料、確認担当、回答期限を決めます。専門家の専門外なら、別の担当者や追加の確認先を検討します。
  6. 会議の終わりに合意と未確認を分ける。「比較検討を進めること」には合意しても、「全社一斉導入を決定した」とは限りません。決まったこと、保留したこと、反対・懸念の内容、次の判断日を読み上げて共有します。

会議中の質問を、実際の判断につなげる例

次のやり取りは、システム入れ替えの会議を想定した説明用の仮の例です。

司会者:「一斉切り替えの利点は理解できました。一方、繁忙期の業務停止や旧データの移行は、まだ確認が必要です。どんな条件なら段階的な切り替えを選ぶべきでしょうか」

専門家:「運用上の制約を確認したうえで、方式を比較する必要があります」

現場担当者:「月末は受注処理を止められません。切り替えに必要な停止時間が分かれば、候補日を比較できます」

司会者:「では、現場担当は止められない業務と時間帯を、専門家は方式ごとの必要条件を整理してください。導入方式の決定は、その照合後に行います」

ここでは専門家の意見を否定するのではなく、一般的な推奨と自社の制約が重なる部分を確かめています。質問への答えが具体的で、必要条件を満たせるなら案を前に進められます。条件が合わなければ段階的な導入や延期を比較します。重大な確認が残る場合は、異論が少ないことを理由に決定を急ぎません。

参考文献・出典