誤情報効果とは?後から聞いた情報が記憶に与える影響

記憶・評価・認知の歪み
Psychology Laws 編集部

トラブルのあとで状況を確認するとき、最初は「画面に何が出ていたか」をはっきり覚えていなかったのに、同僚から「赤い警告が出ていたよね」と聞いたあと、自分も赤い警告を見たような気がしてくることがあります。

誤情報効果(misinformation effect)とは、出来事のあとで接した誤った情報によって、その出来事についての記憶報告や再認が不正確になる現象です。後から入る情報は、質問の言い方、他人の説明、文章で読んだ内容など、さまざまな形を取ります。

この記事では、後から聞いた情報が記憶にどう関わるのか、代表的な実験で何が分かったのか、「記憶が完全に書き換わる」と言ってよいのか、仕事の聞き取りや記録で何に注意できるかを説明します。

誤情報効果とは?出来事の後の情報が記憶報告に影響する現象

誤情報効果は、ある出来事を経験したあと、その出来事について誤った情報を与えられると、後の記憶テストで元の出来事を正確に答えにくくなったり、後から与えられた内容を選んだりする現象です。

たとえば、実際には一時停止標識を見た人が、その後の質問で「譲れの標識」に触れられたあと、どちらを見たかを尋ねられると、誤った標識を選びやすくなることがあります。誤情報は、本人が意図的にうそをつく場合とは異なり、本人が正しい記憶だと思って答えている場合にも影響します。

研究では、こうした影響を調べるため、まず映像や写真で出来事を見せ、その後、一部の参加者だけに元の出来事と食い違う情報を提示し、最後に元の出来事について記憶を尋ねる方法がよく使われます。

「記憶が完全に上書きされる」とは限らない

初期の研究では、後から入った情報が元の記憶に統合され、記憶そのものを変化させるという説明が提案されました。しかし、その後、この解釈には議論が起こりました。

McCloskeyとZaragozaは1985年、従来のテスト方法では、元の記憶が失われたのか、それとも質問の選択肢や後から聞いた情報に影響されて答えただけなのかを区別しにくいと批判しました。そして別のテスト方法を用いた実験では、誤情報が元の記憶を必ず損なうという証拠は得られなかったと報告しています(McCloskey & Zaragoza, 1985)。

一方、Belliらは1994年、誤情報によって元の出来事の記憶が低下する場合と、後から得た情報を「実際に見た」と取り違える情報源の混同の両方を示す結果を報告しています(Belliら, 1994)。

そのため、誤情報効果を「後から聞いた内容が元の記憶を必ず消して書き換える現象」と説明するのは適切ではありません。確かなのは、出来事の後に誤った情報を受けることで、後の記憶報告の正確さが低下することがあるという点です。その仕組みには、元の記憶への影響、思い出すときの競合、情報源の取り違えなど、複数の説明が検討されています。

研究で分かっていること

誤情報効果は1970年代から繰り返し研究され、現在も再現されています。ただし、質問の言葉が記憶に与える影響と、明確に誤った事後情報を与える影響は分けて考える必要があります。

質問の動詞を変えると、速度の推定と後の記憶報告が変わった

LoftusとPalmerは1974年、交通事故の映像を見た参加者に、車が衝突したときの速度を尋ねました。その際、「ぶつかった」という意味の動詞を、衝撃の強さが異なる表現に変えました。

第1実験では、「smashed(激しく衝突した)」という表現で質問された人の平均速度推定は40.8マイル毎時、「hit(ぶつかった)」では34.0マイル毎時、「contacted(接触した)」では31.8マイル毎時でした。質問に使われた言葉によって、同じ事故映像に対する速度の見積もりが変わりました(Loftus & Palmer, 1974)。

第2実験では150人が事故映像を見たあと、50人は「smashed」、50人は「hit」を使った速度質問を受け、残り50人は速度を尋ねられませんでした。1週間後、映像には実際には存在しなかった割れたガラスを見たか尋ねると、「見た」と答えた人は、smashed群で16人、hit群で7人、質問を受けなかった群で6人でした。

この結果は、出来事のあとに使われた言葉が、その場の推定だけでなく、後の記憶報告にも関係し得ることを示しました。ただし、この実験だけで「元の記憶が消えて別の記憶へ完全に置き換わった」とまでは言えません。

一時停止標識を見ても、後から別の標識を示唆されると正解率が下がった

Loftus、Miller、Burnsは1978年、5つの実験と予備実験、合計1,242人を対象に、出来事後の情報が目撃記憶へ与える影響を調べました(Loftus, Miller & Burns, 1978)。

代表的な実験では、参加者は車と歩行者の事故を描いたスライドを見ました。交差点には、一時停止標識または譲れの標識のどちらかが映っていました。その後の質問で、実際に見たものと同じ標識を示す情報を受ける参加者と、別の標識を示す誤情報を受ける参加者に分けました。

最後に、一時停止標識と譲れの標識の2枚から、元のスライドで見たものを選ばせました。その結果、後の情報が元の出来事と一致していた場合は75%が正しく選んだのに対し、誤った標識を示唆された場合は41%でした。

論文全体でも、誤情報を受けた参加者は、二択の再認テストと「はい・いいえ」で答えるテストの両方で正確さが低下しました。

「記憶が壊れたのか」は、その後も議論が続いた

1985年のMcCloskeyとZaragozaの批判以降、誤情報効果が起きたときに、元の記憶そのものが損なわれるのか、元の記憶と誤情報のどちらを答えるかという検索・判断の問題なのか、どこから得た情報かを取り違えるのかが研究されてきました。

Belliらの1994年の4実験では、参加者に誤情報が含まれている可能性を警告し、元の出来事と後の説明を分けて思い出すよう求めても、誤情報を受けた項目では元の出来事の想起が悪くなり、後から示された情報を元の出来事で見たものとして報告する例も確認されました(Belliら, 1994)。

つまり、誤情報効果には単なる「質問に合わせた回答」だけでは説明しにくい記憶上の影響もありますが、どの仕組みがどの条件で働くかについては一つに決着していません。

2026年の現代的な再現研究でも、誤情報効果は確認された

Wiechertらは2026年、Loftusらの1978年研究を現代的なオンライン実験として再現しました。参加者は自動車事故の映像を見た後、別の目撃者による説明として、実際の交通標識と一致する情報、誤った情報、または標識に触れない情報を受けました。

その結果、誤情報を受けた参加者は、対照条件より元の標識を正しく答える割合が低くなりました。さらに、単に「実験者の意図に合わせて回答した」可能性を減らすため、選択肢を増やし、回答への確信度に応じたポイントを賭ける方法を使った実験でも、効果は小さくなったものの残りました(Wiechertら, 2026)。

この研究も、誤情報効果そのものが現在でも確認できる一方、その背後にある記憶の仕組みについては議論が続いていると結論づけています。

仕事での具体例と活かし方

ここからは、目撃記憶の研究を仕事の聞き取りや記録へ応用するための説明用の仮の例と提案です。以下の手順そのものが、すべての職場で記憶の誤りを防ぐと直接確認されたわけではありません。

他人の説明を聞く前に、自分が見たことを記録する

たとえばシステム障害が起き、3人が同じ画面を見ていたとします。原因調査を始めるとき、一人が先に「赤い警告が出ていた」と話すと、その情報がほかの人の後の記憶報告に入り込む可能性があります。

そこで、最初に各自が個別に記録します。

  • 自分が直接見たもの
  • 自分が直接聞いたもの
  • 確信がない部分
  • 発生した順番

その後で記録を持ち寄れば、話し合いの内容と、話し合い前の記憶を区別しやすくなります。

質問の中に、まだ確認できていない内容を入れない

聞き取りで「赤い警告が出たあと、何をしましたか」と尋ねると、赤い警告が出たこと自体を質問側が前提にしています。

まだ確認できていないなら、たとえば次のように尋ねます。

「そのとき、画面には何が表示されていましたか」

LoftusとPalmerの実験が示したように、質問の言葉はその場の回答だけでなく、後の記憶報告にも関わることがあります。誘導を完全になくすことは難しくても、質問の中へ未確認の事実を埋め込まないことは一つの対策になります。

「どこから得た情報か」を一緒に残す

記録には、内容だけでなく情報源も分けます。

  • 直接見た:「画面右上に警告表示を見た」
  • 後から聞いた:「田中さんから赤色だったと聞いた」
  • 記録で確認した:「ログにエラーコードA17が残っていた」

誤情報効果の研究では、後から得た情報を、元の出来事で見聞きした情報として取り違えることが一つの問題になります。情報源を明示しておけば、後から「自分で見た記憶」と「他人から聞いた内容」が混ざったときにも照合しやすくなります。

Echterhoffらの2005年の研究でも、後から得た情報の出所が信用できないと警告したり、記憶の情報源を意識して確認させたりすると、誤情報効果が小さくなりました(Echterhoff, Hirst & Hussy, 2005)。ただし、警告すれば誤情報の影響を完全になくせるという意味ではありません。

記録がある事実は、記憶だけで決めない

事故や障害の振り返りでは、人の記憶しか残っていない場合もあります。しかし、時刻、操作履歴、ログ、メール、チャットなど客観的に確認できる記録があるなら、それを記憶と照合します。

これは「人の記憶は信用できない」という意味ではありません。記憶には、出来事の意味やその場の判断など、記録だけでは分からない情報があります。一方、時刻や表示内容など後から確認できる事実については、記憶と記録を分けて扱うことで、後から入った情報の影響を小さくできます。

誤情報効果から仕事で学べるのは、記憶は出来事が終わった瞬間から完全に固定された記録ではなく、その後に接する情報の影響を受けることがあるという点です。聞き取りでは、最初の記録を残し、未確認の事実を質問に入れず、情報源を分け、客観記録と照合することが、事実関係を整理するための実務上の手がかりになります。

参考文献・出典