ピークエンドの法則とは?強い場面と終わり方が体験の評価に与える影響

記憶・評価・認知の歪み
Psychology Laws 編集部

顧客対応が全体としては順調だったのに、途中で大きなトラブルがあり、最後の説明も不十分だったため、「あまり良い体験ではなかった」と評価されることがあります。反対に、途中で問題があっても、強く印象に残る良い対応や納得できる終わり方によって、振り返ったときの評価が変わることもあります。

ピークエンドの法則(peak-end rule)とは、ある体験をあとから全体として評価するとき、体験中の感情が最も強かった「ピーク」と、最後の「エンド」が、ほかの場面より強く評価に関わる傾向を表す考え方です。

ただし、「ピークと最後だけで全体評価が決まる」「最後を良くすれば途中が悪くても問題ない」という法則ではありません。この記事では、古典研究とその後のメタ分析をもとに、ピークと終わりがどこまで重要なのか、体験の長さや平均的な質はどう関係するのか、顧客体験を考えるときに何を参考にできるかを説明します。

ピークエンドの法則とは?体験中と振り返った評価は同じではない

ピークエンドの法則が扱うのは、主に体験を終えたあとに、その体験全体を振り返って評価するときです。

たとえば、30分の打ち合わせの満足度を考えるとき、30分間すべてを同じ重みで平均して思い出すとは限りません。とくに印象の強かった場面と、最後の場面が、全体評価と強く結びつく場合があります。

ここでいうピークは、「一番良かった瞬間」とは限りません。体験の感情的な強さによって意味が変わります。楽しい体験なら最も良かった場面、不快な体験なら最もつらかった場面がピークとして扱われることがあります。

エンドは、体験の最後の局面です。研究では、痛み、映像、サービス体験などについて、最後の状態がその後の全体評価と関係することが調べられてきました。

「時間の長さを無視する」とはどういう意味か

ピークエンドの法則と一緒に扱われることが多いのが、持続時間の無視(duration neglect)です。これは、体験をあとから評価するとき、体験時間の長さが全体評価へ与える影響が、ピークや終わりなどに比べて小さい場合があるという現象です。

FredricksonとKahnemanは1993年、快・不快な映像を使った2つの実験で、体験後の全体評価では、時間の長さそのものの影響が小さく、体験中の一部の状態を重く使って振り返る傾向を報告しました(Fredrickson & Kahneman, 1993)。

ただし、「長時間でも気にしなくなる」という意味ではありません。待ち時間、費用、疲労など、時間そのものが実際の負担になる仕事やサービスでは、時間を短くする価値があります。ピークエンドの法則が扱うのは、主に体験後のまとめた評価で、時間がどの程度重視されるかという問題です。

研究で分かっていること

ピークと終わりが回顧的な全体評価に関係することは、実験、医療現場、メタ分析で確認されています。一方、体験全体の平均的な質も強い予測材料であり、ピークと最後だけを良くすればよいという結論にはなりません。

長く痛い体験でも、最後が少し楽だと再び選ばれやすかった

Kahneman、Fredrickson、Schreiber、Redelmeierは1993年、参加者に2種類の冷水体験をしてもらいました。

短い条件では、片手を14℃の水に60秒間入れました。長い条件では、もう片方の手を14℃の水に60秒間入れたあと、さらに30秒間続け、その間に水温を15℃まで少し上げました。追加された30秒も痛みはありましたが、多くの参加者には最初より少し楽な状態でした。

その後、どちらかをもう一度行うならどちらを選ぶか尋ねると、痛い時間そのものは長かった後者を選ぶ人が多く、その差は偶然のばらつきだけでは説明しにくい結果でした(Kahnemanら, 1993)。

研究者らは、つらい体験の振り返りでは、痛みの総量や時間よりも、最もつらかった局面と最後の状態が強く関わる場合があると考えました。

実際の医療処置でも、最も痛い場面と最後の痛みが全体評価に関係した

RedelmeierとKahnemanは1996年、実際に大腸内視鏡検査を受けた154人と、結石破砕術を受けた133人について、処置中の痛みをリアルタイムで記録し、終了後に処置全体の痛みを評価してもらいました。

その結果、患者があとから評価した「処置全体の痛み」は、処置中の最も強い痛みと、最後の3分間の痛みの強さに強く関連していました。一方、処置時間には大きなばらつきがありましたが、長い処置だから特に悪く記憶されるという関係は確認されませんでした(Redelmeier & Kahneman, 1996)。

この研究は観察的な関係を示すもので、ピークと最後が全体評価の唯一の原因だと証明するものではありません。しかし、実験室だけでなく、実際の医療体験でも同じ傾向が見られました。

682人の無作為化試験では、少し楽な終わりを加えたほうが記憶上の評価が良かった

Redelmeierらは2003年、大腸内視鏡検査を受けた682人を対象に無作為化試験を行いました。半数では通常の処置を行い、残りの半数では処置の最後に短い時間を追加し、その間は内視鏡の先端を直腸内に残して、最後の痛みが比較的弱くなるようにしました。

追加時間があった群は、処置自体は長くなりましたが、最後の痛みは10点尺度で通常群2.5に対し延長群1.7、処置全体の不快さも通常群4.9に対し延長群4.4でした。約5.3年の追跡では、受診歴・受診理由・検査所見を考慮した分析で再受診率の差が確認され、延長群のほうが高い結果でした(Redelmeierら, 2003)。

これは医療上の条件で行われた研究です。「不快な体験をわざと長くすればよい」という意味ではありません。実務への示唆として使うなら、本来必要のない負担を増やすのではなく、避けられる不快を減らし、とくに最後に不要な悪化を残さないという方向で考える必要があります。

2022年のメタ分析は2024年に訂正されたが、主要な結論は維持された

Alaybekらは2022年、ピークエンドの法則と持続時間の無視について、複数の研究結果をまとめて全体的な傾向を確かめるメタ分析を行い、174の結果を統合しました。2024年には、分析で使う数値の向きをそろえるルールの記述と適用を見直した訂正が公表され、分析値が修正されました(Alaybekら, 2022;Alaybekら, 2024 訂正)。

訂正後も、ピークと終わりが体験後の全体評価と強く関係し、体験時間の影響は小さいという主要な結論は維持されました。また、体験中の評価を全体で平均した値も、全体評価と強く関係していました。

つまり、ピークと最後は重要ですが、体験全体の平均的な質を無視してよいわけではありません。

サービス体験では「最初」も重要だった研究がある

ピークエンドの法則を、そのまますべての顧客体験へ当てはめることにも注意が必要です。

McCulloughらは2024年、ホテルでの5年間・5,497件の宿泊データを分析し、従業員との複数の接点が宿泊全体の満足度にどう関係するかを調べました。その結果、最初の印象、ピークの印象、最後の印象はいずれも全体評価に関係していましたが、この研究では最初の印象が最も強い予測要因でした(McCulloughら, 2024)。

ピークエンドの法則は有用な見方ですが、「顧客はピークと最後しか覚えていない」と考えるのは適切ではありません。体験の種類、測定する時期、各場面の性質によって、重要な局面は変わります。

仕事での具体例と活かし方

ここからは、研究結果を顧客体験や仕事の振り返りへ応用するための説明用の仮の例と提案です。以下の方法を使えば顧客満足度が上がると、すべてのサービスで直接確認されたわけではありません。

「最後だけ良くする」前に、体験全体の問題を直す

たとえば問い合わせ対応で、顧客が40分待たされたあと、最後だけ非常に丁寧に見送られたとします。

ピークエンドの法則を「最後を良くすれば待ち時間は問題にならない」と解釈するのは危険です。2022年のメタ分析ではピークと終わりだけでなく、体験全体の平均的な質も全体評価と強く関連していました。

まず長い待ち時間、説明不足、何度も同じ情報を伝えさせるといった、体験全体を悪くしている問題を減らします。そのうえで、重要な局面と終わり方を点検します。

顧客にとって「最も強い場面」がどこかを確認する

提供側が重要だと思う場面と、顧客にとって感情が最も強く動く場面は同じとは限りません。

たとえば修理サービスなら、受付よりも「故障原因と費用を聞く瞬間」がピークになるかもしれません。採用なら、応募フォームよりも面接結果の連絡が強く印象に残る場合があります。

振り返るときは、次のように分けます。

  • 顧客が最も不安になる場面はどこか。
  • 最も安心・満足する場面はどこか。
  • その場面で、何が起きているか。
  • 避けられる不快や混乱はないか。

ピークを「派手な演出を作る場面」と考えるのではなく、すでに感情が強く動く重要場面の品質を落とさないという使い方です。

終わりには「次に何をすればよいか」を残す

サポート対応を終えるとき、単に「以上です」で終わるより、顧客が次の行動を理解できる状態にします。

たとえば、説明用の例では次の3点を最後に確認します。

  1. 今回、何が解決したか。
  2. まだ残っていることは何か。
  3. 次に問題が起きた場合、どこへ連絡すればよいか。

これは「この3点を伝えればピークエンド効果で満足度が上がる」という研究結果ではありません。終わりの局面が回顧的評価に関わるという研究を踏まえ、顧客が不安や未解決感を残したまま終了しないための実務上の提案です。

満足度調査では「全体評価」だけでなく途中の場面も見る

ピークエンドの法則そのものが示すように、体験後の「全体としてどうでしたか」という評価は、すべての瞬間を均等に反映しているとは限りません。

そのため、顧客体験を改善するときは、総合満足度だけでなく、受付、待ち時間、説明、問題解決、終了時など、場面ごとの評価も分けて確認する方法があります。

総合評価が良くても途中に大きな問題が隠れている場合があります。反対に、一つの強い不満が全体評価を押し下げているなら、どの場面を優先して改善するかを見つけやすくなります。

最初・ピーク・最後を見つつ、体験全体も捨てない

ホテルのフィールド研究では、ピークと最後だけでなく、最初の印象も満足度に強く関係していました。ピークエンドの法則を実務で使うなら、「この2点だけを最適化する」という発想より、次のように使うほうが安全です。

  • 最初:顧客が状況を理解し、安心して始められるか。
  • ピーク:感情が最も強く動く重要場面で、大きな不満や混乱が起きていないか。
  • 最後:未解決感や不安を残さず終了できるか。
  • 全体:待ち時間、説明、品質など平均的な体験を悪化させる問題がないか。

ピークエンドの法則から仕事で学べるのは、体験中のすべての瞬間が、あとからの全体評価に同じ重みで残るとは限らないということです。一方、研究全体では平均的な体験の質も重要であり、サービスによっては最初の印象も強く関係します。顧客体験を考えるときは、最後だけを演出するのではなく、体験全体を整えながら、感情のピークと終了時の状態を重点的に確認することが実務での使い方になります。

参考文献・出典