単純接触効果とは?繰り返し接すると好感は増すのか

自己認知・対人認知
Psychology Laws 編集部

営業先で何度か見たサービス名や、会議で繰り返し目にする案に、最初より親しみを感じることがあります。こうした変化に関係するのが、単純接触効果です。

結論から言うと、同じ対象に繰り返し接すると、好意的な評価が高まりやすいことは多くの研究で確認されています。ただし、回数が多いほど際限なく好感が増えるわけでも、どんな対象・状況でも必ず起こるわけでもありません。

この記事では、古典的な実験とその後のメタ分析、効果が確認されなかった研究も見ながら、仕事でこの現象をどう考えればよいかを説明します。

単純接触効果とは 繰り返し接すると評価が変わる現象

単純接触効果(mere exposure effect)は、ある対象に繰り返し接することで、その対象への評価が好意的になることがある現象です。ここでいう「単純接触」は、詳しい説明や報酬を加えることを前提とせず、対象が知覚できる状態になるだけの接触を指します。

Zajonc(1968)は、この考えを「mere exposure」として体系的に検討しました。重要なのは、接触回数と好意が必ず比例するという主張ではなく、対象について新しい意味や情報を教えなくても、反復して接すること自体が評価に関わり得るという点です。

一方で、「何度も見せれば相手は好きになる」という法則として扱うのは正確ではありません。刺激の種類、複雑さ、提示時間、提示方法、評価する時期などによって、効果の大きさは変わります。Bornstein(1989)のメタ分析でも、こうした複数の条件が効果の大きさに関係することが整理されています。

研究で分かっていること

古典的な実験では、参加者にとって意味の分からない刺激でも、繰り返し提示されたものほど好意的に評価される傾向が確認されました。その後のメタ分析でも全体として単純接触効果は支持されています。ただし、効果の形は刺激や実験条件によって異なり、近年には効果が確認されなかった実験もあります。

Zajoncの実験では、見た回数が多い刺激ほど評価が好意的になった

Zajonc(1968)は複数の実験で、意味の分からない単語や中国語の文字を、0回、1回、2回、5回、10回、25回など異なる回数で提示しました。その後、それぞれが「良い」意味を持つか「悪い」意味を持つかを評価してもらいました。

単語を使った実験では、提示回数が多かったものほど、より「良い」意味を持つと評価されました。中国語の文字を使った実験では、参加者は文字を発音せず、約2秒ずつ見るだけでしたが、繰り返し提示された文字ほど評価が好意的になる傾向が確認されました。

この結果は、詳しい意味を学んだから評価が上がった、という説明だけでは捉えにくいものです。ただし、これらは管理された実験で得られた結果です。商品、人、広告など現実の対象に、そのまま同じ変化が起こると考えることはできません。

メタ分析では、視覚刺激で逆U字型の傾向が示された

Montoyaら(2017)は、単純接触効果を扱った81論文から268の変化曲線を集め、反復接触と好意、親近感、再認などの関係をメタ分析しました。

全体として、反復接触には好意を高める方向の傾きと、回数が増えるにつれてその増加が弱くなる方向の曲線が確認されました。とくに視覚刺激では、最初は評価が高まり、その後は増加が弱くなって低下に向かう逆U字型の関係が見られました。一方、同じ形は聴覚刺激では確認されていません。

つまり、ある程度見慣れた対象が好まれやすくなることはあっても、「繰り返せば繰り返すほど好感が増える」とは言えません。また、この分析では刺激の種類や提示時間などによって結果が異なり、研究者らは単純接触効果を一つの仕組みだけで十分に説明するのは難しいと結論づけています。

効果が確認されなかった実験もある

単純接触効果は、すべての研究で同じように出ているわけではありません。Chowら(2022)は、中立的な顔写真を使い、若年者と高齢者を対象にオンラインで4つの実験を行いました。

この研究では、どの実験でも、繰り返し見た顔への好意が新しい顔より高くなる結果は確認されませんでした。統計的な検討でも、効果がないという結果を支持する証拠が示されています。

この結果だけで過去の研究全体を否定することはできませんが、「繰り返し見れば必ず好感が上がる」という一般則ではないことを考えるうえで重要です。対象、提示方法、比較の仕方などによって、効果が現れない場合もあります。

仕事での具体例と活かし方

以下は、研究結果を仕事に当てはめて考えるための仮の例です。

仮の例:初めて見る提案と、何度か目にした提案を比べる

社内で二つの新しいプロジェクト案を比較するとします。A案の名称や概要は、事前の資料や定例会議で何度か目にしていました。B案は最終会議で初めて詳しく提示されました。

会議で「A案のほうが何となく安心できる」「B案は少し違和感がある」と感じても、それだけでA案の内容が優れているとは限りません。A案を見た回数の多さが、評価に関係している可能性もあります。

このような場面では、次のように整理すると判断しやすくなります。

  1. 「見慣れている」と「内容が優れている」を分ける。
    親しみや安心感をそのまま採用理由にせず、費用、期待できる効果、リスクなど同じ評価項目で比較します。
  2. 比較する案の情報量をそろえる。
    一方だけ何度も説明されていた場合は、もう一方についても判断に必要な情報を確認してから決めます。
  3. 発信する側も、反復を万能な説得方法にしない。
    商品名や提案を繰り返し見せれば必ず好かれるわけではありません。研究で確認された効果を、そのまま営業や広告の成果に置き換えないことが大切です。
  4. 実際の反応を見て頻度を調整する。
    仕事での最適な接触回数を、単純接触効果の実験から一つの数字として決めることはできません。メールや告知では、閲覧、反応、解除など実際の結果を確認して頻度を見直します。

単純接触効果が教えてくれるのは、「何度も見せれば好きにさせられる」という方法ではありません。見慣れていること自体が評価に関わる場合があるため、判断する側は親しみと中身を分け、発信する側は反復の効果と限界の両方を見ることが仕事では重要です。

参考文献・出典