社会的比較理論とは?他人との比較が自己評価に与える影響

自己認知・対人認知
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同じ成績でも、周囲に自分より成果の高い人が多いと「まだ足りない」と感じ、逆に自分より低い人が多いと「よくできている」と感じることがあります。こうした自己評価の変化を考える手がかりが、社会的比較理論です。

社会的比較では、誰と、何について比べるかによって、自分の能力や立ち位置の見え方が変わります。仕事では、比較そのものをなくすより、比較する目的と基準をはっきりさせることが重要です。

社会的比較理論とは 他人を基準に自分を評価する考え方

社会的比較理論(social comparison theory)は、自分の意見や能力を評価するとき、他者との比較が使われるという考え方です。

Festinger(1954)は、人には自分の意見や能力を評価しようとする傾向があり、客観的で社会的ではない評価手段が十分に使えないときには、他者の意見や能力との比較が評価の手がかりになると論じました。

またFestingerは、比較相手との違いが大きくなるほど、その相手を比較対象にしにくくなると考えました。能力が自分とかけ離れた相手では、その比較から自分の能力を正確に評価しにくいという説明です。

その後の研究では、社会的比較はさらに広く研究され、比較相手は次のように整理されることがあります。

  • 上方比較:自分より成果や能力が高い相手との比較
  • 下方比較:自分より成果や能力が低い相手との比較
  • 水平的な比較:自分と同程度の相手との比較

ただし、「似た人だけを選ぶ」「落ち込んだときは必ず下方比較をする」といった単純な一般則ではありません。誰を選ぶかと、その比較からどのような反応が起きるかは分けて考える必要があります。

研究で分かっていること

60年以上の研究をまとめたメタ分析では、人は上方比較を選ぶことがあり、その後の自己評価では相手との差が強調される「対比」が多く見られました。一方で、比較の反応には条件差や個人差があり、比較しない場合との直接比較ができる研究も限られています。

客観的な基準が乏しいと、他者が評価の手がかりになる

Festinger(1954)の理論では、能力や意見を客観的に確かめる方法が十分でないほど、他者との比較が評価の手がかりになると考えます。

たとえば、100メートル走ならタイムという明確な基準があります。しかし、「自分は企画をまとめるのが上手いか」「会議で十分に貢献できているか」のような評価は、数字だけでは決めにくいことがあります。そのような場面では、同僚の働き方や周囲からの評価が、自分の位置を考える材料になり得ます。

これは、他人と比べれば正しい評価になるという意味ではありません。比較相手との条件差が大きければ、その比較から自分について読み取れることも限られます。

メタ分析では、上方比較の選択と「対比」が目立った

Gerberら(2018)は、60年以上にわたる社会的比較研究をまとめ、比較相手の選び方と、比較した後の反応を分析しました。

上方と下方のどちらかを選ぶ研究では、脅威がない状況で上方比較を選ぶ傾向が強く見られました。一方、自分と同程度の相手も選べる場合には、上方・下方の選択差は小さくなりました。また、脅威があるときに下方比較が優勢になるという証拠は確認されませんでした。

比較後の反応では、相手に近づいたように感じる「同化」よりも、相手との差を強く感じる対比が優勢でした。とくに能力の自己評価は比較の影響を受けやすく、上方比較では自己評価が低く、下方比較では高くなる方向の結果が多く見られました。

ただし、すべての研究で同じ反応が起こるわけではありません。同化が見られる条件もあります。また、このメタ分析では「比較をしない条件」を置いた研究が少ないことも限界として挙げられています。そのため、上方・下方比較が自己評価をどの程度変えるかを、どの場面にも同じ大きさで当てはめることはできません。

比較しやすさには個人差もある

GibbonsとBuunk(1999)は、人によって社会的比較を行う傾向に違いがあることを測る尺度を開発しました。米国とオランダでそれぞれ数千人を対象に検討し、その尺度が実際の比較行動を予測することも、実験とフィールド研究で確認しています。

そのため、同じ職場環境でも、周囲の成果や評価を強く気にする人と、それほど比較しない人がいることを前提に考える必要があります。

職場では、比較の頻度と仕事への評価にも関連が見られた

Brownら(2007)は、さまざまな職業の就業者991人を、12〜16週間にわたり3回調査しました。

分析では、上方比較を頻繁にすることは仕事満足や組織への情緒的コミットメントの低さと関連し、下方比較はそれらの高さと関連していました。また、役割の曖昧さ、仕事上の裁量、自分自身への評価なども、上方比較の頻度と関連していました。

ただし、これは調査データの関連を分析した研究です。「上方比較をしたから仕事満足が下がった」と原因まで確定した結果ではありません。職場での社会的比較を考える際の一つの手がかりとして扱うのが適切です。

仕事での具体例と活かし方

以下は研究内容を仕事で考えるための仮の例です。ここで示す手順は、効果が実験で確認された介入方法ではなく、研究を踏まえて比較基準を整理するための実務上の提案です。

仮の例:トップ営業だけを見て自分の実力を決めてしまう

入社2年目の営業担当者が、自分の成績を部署トップの社員と比べ、「自分は営業に向いていない」と評価したとします。

ところが、トップ社員は勤続15年で、大口顧客を多く担当しています。入社年次、担当顧客、案件規模が大きく違うため、売上だけを並べても、自分の現在地を考えるために使える情報は限られます。

このような場面では、次の順番で比較を整理できます。

  1. 何を知るための比較かを決める。
    「今の実力を知りたい」のか、「次に身につける方法を知りたい」のかで、見るべき相手や項目は変わります。
  2. 現在地を見るなら、条件差を確認する。
    経験年数、担当業務、使える資源などを確認し、条件の近い人との比較も材料にします。似ている相手だから自動的に正しい評価になるわけではありません。
  3. 成果の高い人を見るときは、順位と行動を分ける。
    「自分は劣っている」という自己評価だけで終わらせず、準備方法、顧客への聞き方、案件管理など、参考にできる具体的な行動を分けて確認します。
  4. 他人以外の基準も一緒に使う。
    自分の過去の実績、目標値、必要な技能の基準なども確認し、他者との比較だけで自己評価を決めないようにします。

社会的比較は、自分の位置を知る手がかりになりますが、比較相手を変えれば自己評価も動きます。「誰に勝っているか、負けているか」ではなく、何を確かめるために、どの条件の人と、何の項目を比べるのかを意識することが重要です。

参考文献・出典