自己知覚理論とは?自分の行動から気持ちを知るという考え方

自己認知・対人認知
Psychology Laws 編集部

新しい仕事を何度か自分から引き受けたあと、「もしかすると、自分はこの仕事が好きなのかもしれない」と気づくことがあります。最初から気持ちがはっきりしていたのではなく、自分が実際にしてきた行動を見て、あとから自分の態度を考える。このような自己理解の仕方を説明するのが自己知覚理論です。

自己知覚理論で大切なのは、人がいつも行動から気持ちを決めるという話ではないことです。とくに自分の態度や感情がまだ曖昧なとき、自分が何をしたか、その行動がどんな状況で起きたかが、自己理解の手がかりになります。この記事では、その意味、研究で確かめられていること、仕事で考えるときの使い方を説明します。

自己知覚理論とは?意味と仕組み

自己知覚理論(self-perception theory)は、心理学者ダリル・ベムが提唱した理論です。人は、自分の態度・感情・信念などの内的な状態を、自分自身の行動と、その行動が起きた状況から部分的に推測することがあると考えます。とくに、自分の内面から得られる手がかりが弱い、曖昧、解釈しにくい場合には、自分自身についても、他人を見るときに近い形で外から分かる情報を使うというのが中心的な考え方です(Bem, 1972、APA Dictionary of Psychology)。

たとえば「好きだから何度も選ぶ」だけでなく、「自分は何度もこれを選んでいる。ほかに強い理由も見当たらない。それなら、自分はこれを好んでいるのかもしれない」と、自分の行動から態度を推測する場合があるということです。

ただし、行動だけを見るのではありません。ベムの考えでは、その行動を説明できる外的な理由があるかも重要です。上司から強く指示された、報酬のために行った、ほかに選択肢がなかった、といった状況が明確なら、その行動だけから自分の好みや態度を判断しにくくなります。

認知的不協和との違い

認知的不協和理論では、考えや態度と行動などの間に不一致があると、不快な心理状態が生じ、それを減らそうとすると考えます(APA Dictionary of Psychology)。一方、自己知覚理論は、そのような不快感を必ずしも前提にせず、自分の行動と状況を情報として、自分の態度などを推測することに焦点を置きます。

Fazio、Zanna、Cooperは1977年、両理論を単純な競合理論ではなく、異なる範囲で働く補完的な説明として捉える案を示しました(Fazio, Zanna & Cooper, 1977)。ただし、RonisとGreenwaldは1979年に、この適用範囲の区分や実験手続きは従来の両理論から直接導かれるものではなく、両理論の調停というより新たな理論として扱うべきだと批判しています(Ronis & Greenwald, 1979)。そのため、「この場面は必ず自己知覚、この場面は必ず認知的不協和」と単純に分けられると考えないほうが安全です。

研究で分かっていること

研究からは、自分の態度が十分にはっきりしていないとき、現在目立っている自分の行動が、態度を判断する手がかりになりやすいことが示されています。ただし、その影響がどんな人や場面でも同じように起きるとは言えません。

ベムは1972年の理論整理で、人が自分の行動と状況から態度や感情などを推測するという中心命題を示しました。また、認知的不協和研究の一部を自己知覚理論でも説明できる一方、複数の説明が可能な実験だけを自己知覚理論の決定的な証拠にはできないことも論じています(Bem, 1972)。

「もともとの態度がどれくらいはっきりしているか」に注目した研究が、ChaikenとBaldwinの1981年の実験です。トロント大学の学生を対象に、まず環境保護に対する態度の感情面と考え方の一貫性を調べ、態度が比較的よく定まっていると考えられる人と、十分には定まっていないと考えられる人に分けました。

その後、2週間後の調査で、過去の環境配慮行動または環境に反する行動のどちらかを自分に当てはまると答えやすくするよう、質問文の表現を変えました。そして、自分をどの程度「環境保護を重視する人」だと考えるか、環境保護にどれくらい好意的かなどを改めて測定しました(Chaiken & Baldwin, 1981)。

結果は、事前の態度が十分には定まっていないと考えられた人では、質問によって目立ちやすくなった自分の行動に合う方向へ、その後の自己評価や態度が変わりました。一方、事前の態度が比較的よく定まっていた人では、同じ操作による有意な変化は確認されませんでした。

ただし、著者たちは「自己知覚が働くのは、態度が曖昧な人だけだ」と結論づけるのは適切ではないとも述べています。もっと強い手がかりを与えれば、態度がよく定まっている人でも影響を受ける可能性があるためです。この研究から安全に言えるのは、すでに明確な態度があるときより、態度が十分に定まっていないときのほうが、目立った自分の行動を態度判断の材料として使いやすかったということです。

仕事での具体例と活かし方

ここからは、研究結果を仕事で考えるための説明用の仮の例です。上の研究は環境保護への態度を調べたもので、職場でこの手順を使えば成果が上がると直接確認した研究ではありません。

たとえば、これまで担当したことのない「会議の進行役」を何度か経験し、最近は自分から引き受けることも増えたとします。それでも「自分は人前で進行する仕事が好きなのか」と聞かれると、まだよく分かりません。

このようなときは、気持ちだけを無理に決めようとせず、自分の行動と状況を分けて振り返る方法があります。

  1. 実際にした行動を確認する。
    「この1か月で3回、自分から進行役に手を挙げた」のように、まず事実として確認します。
  2. その行動を説明する外的な理由を確認する。
    上司から指名されたのか、人手不足で断れなかったのか、評価上の理由があったのかなど、自分の好み以外の理由を分けます。
  3. 一度の行動だけで決めない。
    別の機会でも自由に選べる状況で同じ役割を選んでいるかを見ます。状況が違っても似た行動を繰り返しているなら、自己理解の材料が増えます。
  4. 自分の態度は仮説として置く。
    外的な理由が強くなく、自分から選ぶ行動が続いているなら、「進行役にある程度関心があるのかもしれない」と考えます。次に自由に選べる場面でも同じ選択をするかを確かめれば、思い込みだけで結論を出しにくくなります。

この見方は、「自分は向いている/向いていない」と性格だけで決めるのではなく、実際の行動も自己理解の材料にするために使えます。ただし、行動は状況にも左右されます。残業が多いから仕事が好き、依頼を断らないからその業務を望んでいる、といった形で他人の気持ちを行動だけから決めつけることはできません。

自己知覚理論から仕事で取り入れられるのは、自分の気持ちが曖昧なときは、実際の行動を振り返り、その行動を生んだ状況も一緒に確認するという考え方です。行動は本心そのものではありませんが、自分について考えるための一つの手がかりになります。

参考文献・出典