リンゲルマン効果とは?人数が増えると一人分の成果はどう変わるか
「納期が厳しいなら、担当者を増やせば早く終わる」と考えることがあります。もちろん、人を増やせばチーム全体でできる仕事は増える場合があります。しかし、人数を2倍にしても成果がきれいに2倍になるとは限りません。人数が増えるほど、相談、受け渡し、作業の重複なども増えるからです。
リンゲルマン効果とは、集団の人数が増えるにつれて、1人当たりの成果が低下する傾向です。ポイントは、「大人数のほうが総成果まで必ず低い」という意味ではないことです。チーム全体の成果は増えていても、追加した1人分の成果がそのまま上乗せされず、1人当たりで見ると効率が下がることがあります。
この記事では、リンゲルマン効果の意味、社会的手抜きとの違い、古典研究で何が確認され、その後どのように見直されたのか、仕事で人数を増やすときに何を確認すればよいかを説明します。
リンゲルマン効果とは?意味と社会的手抜きとの違い
リンゲルマン効果(Ringelmann effect)は、APA Dictionary of Psychologyでは、集団の規模が大きくなるにつれて、メンバー1人当たりの出力で見た生産性が低くなる傾向と説明されています(APA Dictionary of Psychology)。
名前の由来は、フランスの農業技術者マクシミリアン・リンゲルマンです。彼は19世紀末から集めた作業データを1913年に報告し、人が集団で作業したときの成果が、各人の力を単純に足し合わせた値には届かない場合があることを示しました。
総成果と「1人当たりの成果」は分けて考える
たとえば、1人で100の仕事ができる人を2人集めたとき、単純に考えれば200の成果を期待します。しかし実際のチーム成果が180なら、チーム全体では1人より多くの仕事をしていますが、1人当たりでは90です。
リンゲルマン効果で見るのは、この1人当たりの成果が人数の増加とともにどう変わるかです。
リンゲルマンの歴史的な表では、1人の作業量を1.00としたとき、1人当たりの「実用上使える仕事」は2人で0.93、3人で0.85と下がり、8人では0.49とされています。8人の総量は1人の3.92倍で、1人よりは大きいものの、8倍にはなっていません(Kravitz & Martin, 1986)。
ただし、この有名な数字はそのまま現代のチームへ当てはめられません。KravitzとMartinが1986年にリンゲルマンの原典を再検討したところ、この表の数字がどの課題から得られたのかは原典に明記されておらず、統制された綱引き実験の結果と断定できません。複数の現場観察などからまとめられた可能性があり、後世に広まった説明より資料上の条件が不明確です。
社会的手抜きは、リンゲルマン効果の原因の一つになり得る
社会的手抜き(social loafing)は、一人で作業するときより、共同作業をするときに個人の努力が低下する傾向を指します。一方、リンゲルマン効果は、人数が増えたときの1人当たりの成果の低下に注目します。
1人当たりの成果が下がる理由は、努力が下がったからとは限りません。全員が十分に努力していても、作業のタイミングが合わない、情報の受け渡しに時間がかかる、同じ仕事を重複して行うといった協調の損失でも成果は減ります。
そのため、リンゲルマン効果を見たときは、少なくとも「努力が下がったのか」「協調にロスが出たのか」を分けて考える必要があります。
研究で分かっていること
後の研究では、人数の増加による1人当たりの成果低下が改めて確認される一方、リンゲルマンの歴史的な数字のように一定の割合で下がり続けるとは限らないことも分かっています。また、協調を難しくする要因を取り除いても成果低下が残る実験から、努力の変化も関わることが示されています。
1人から2~3人へ増えると成果は下がったが、その後は同じ割合で下がらなかった
Ingham、Levinger、Graves、Peckhamは1974年、綱を引く課題でリンゲルマン効果を実験的に再検討しました。第1研究では、1人から6人まで人数を変えて参加者に綱を引かせました。
その結果、1人から2人または3人へ増えたときには1人当たりの力が有意に低下しました。しかし、4人、5人、6人と増えるたびに同じように低下したわけではなく、その後の追加低下は有意ではありませんでした(Inghamら, 1974)。
つまり、人数が増えるほど一定の割合で一人分の成果が下がるという単純な直線ではありませんでした。「5人なら何%、8人なら何%」という固定した法則として使うことはできません。
協調のずれをなくしても、努力の低下は残った
Inghamらの第2研究では、協調の難しさと努力の低下を分けるために工夫をしました。実際には参加者一人だけが綱を引いていますが、本人には「ほかにも1~5人が一緒に綱を引いている」と思わせました。
実際には一人なので、ほかの人とのタイミングが合わないという協調の問題は起こりません。それでも、ほかにも人がいると思うと、1人で引いていると思う場合より力が低下しました。特に最初の1人、2人が加わったと認識した段階で低下し、その後は大きく下がり続けませんでした(Inghamら, 1974)。
この結果は、集団人数による成果低下のすべてを協調の難しさだけでは説明できず、共同作業だと認識することで個人の努力が変わることも関係することを示しています。
リンゲルマン本人は主に協調の問題として考えていた
KravitzとMartinが1986年に原典を詳しく検討したところ、リンゲルマン自身は集団での成果低下を主に協調の損失として解釈していました。複数人が同時に力を出そうとしても、全員が同じ瞬間、同じ方向に最大の力を伝えられるわけではないという考えです。ただし、リンゲルマンは努力や動機の違いにも気づいていました(Kravitz & Martin, 1986)。
後の研究によって、人数の増加による成果低下には、協調だけでなく、社会的手抜きのような努力の変化も含まれ得るという見方が発展しました。
現代の仕事では、人数増加に伴う「追加コスト」を見落としやすい
リンゲルマン効果そのものを調べた研究ではありませんが、人数を増やした仕事の見積もりに関する研究も参考になります。
Staats、Milkman、Foxは2012年、2つの実験とソフトウェア企業の実際のプロジェクトデータを使い、チーム人数と必要な労働時間の見積もりを調べました。その結果、チームが大きくなるほど、プロジェクトに必要な総労働時間を過小評価しやすくなる傾向が確認されました。研究者らは、人数を増やしたときの分業などの利点に目が向きやすい一方、調整などのプロセス上の損失を軽く見積もることを理由の一つとして示しています(Staats, Milkman & Fox, 2012)。
これは、「人数を増やせば単純に作業時間が人数分だけ短くなる」と見積もることへの注意材料になります。
仕事での具体例と活かし方
ここからは、研究結果を仕事へ応用するための説明用の仮の例と提案です。以下の手順そのものが、すべての職場で成果を高めると直接確認されたわけではありません。
人を増やす前に、「追加する1人が何を独立して進められるか」を確認する
たとえば、3人で作っている提案書の完成が遅れているため、2人を追加するとします。
追加する2人に独立した作業がなく、既存メンバーへの確認や説明を何度も必要とするなら、5人になっても単純に作業時間が5分の3になるわけではありません。
増員前に、次のように確認します。
- 追加する人が単独で進められる作業は何か。
- その人へ説明するために、既存メンバーの時間がどれくらい必要か。
- 誰と誰の間で成果物を受け渡す必要があるか。
- 最終判断や統合作業は誰が担当するか。
「人数」を増やすことではなく、追加した人の作業を、既存の仕事へどう接続するかまで考えます。
成果が伸びないときは、努力と協調を分けて確認する
人数を増やしたのに期待ほど成果が伸びない場合、「人数が増えてみんな手を抜いた」と決めつけないことが重要です。
たとえば、次の順で確認します。
- 個人の作業量:一人ひとりが以前より作業量を減らしているか。
- 重複:同じ調査や確認を複数人が繰り返していないか。
- 待ち時間:承認、質問への返答、前工程の完了待ちが増えていないか。
- 統合:個別に作った成果物を一つにまとめる作業が増えていないか。
1番が大きければ努力の変化、2~4番が大きければ協調や作業設計の問題が考えられます。実際には両方が重なっている場合もあります。
「総成果」と「1人当たりの成果」を両方見る
5人に増やしてチーム全体の処理件数が増えたなら、増員には意味があった可能性があります。ただし、1人当たりの処理件数や総労働時間まで見ると、効率は下がっているかもしれません。
目的によって、見る指標を分けます。
- 納期を優先する:チーム全体でどれだけ早く終わったか。
- コストを優先する:成果1単位に必要な総労働時間はどう変わったか。
- チーム設計を見直す:1人当たりの成果、待ち時間、調整時間はどう変わったか。
人数が増えたことだけで成功・失敗を判断せず、何を改善したかったのかに合わせて成果を見ます。
「最適人数」を一つの数字で決めない
リンゲルマン効果から、「チームは○人が最適」という共通の人数を導くことはできません。仕事を独立して分けやすいか、頻繁な相談が必要か、専門分野がいくつあるか、締切がどれほど厳しいかによって、人数を増やす利点と損失は変わります。
たとえば、独立して100件のデータを確認する作業なら人数を増やしやすい一方、全員で一つの文章を同時に編集する仕事では、確認や統合の負担が増えやすくなります。
リンゲルマン効果から仕事で学べるのは、人を1人追加すれば、その人の能力がそのままチーム成果へ足されるとは限らないということです。人数を増やすときは、総成果だけでなく1人当たりの成果も見て、努力の変化と協調の損失を分けて確認します。そのうえで、役割、受け渡し、判断者を明確にすることが、人数を成果につなげるための基本になります。
参考文献・出典
- American Psychological Association. (2018). APA Dictionary of Psychology: Ringelmann effect — リンゲルマン効果の定義と、社会的手抜き・大集団での非効率との関係。
- Kravitz, D. A., & Martin, B. (1986). Ringelmann Rediscovered: The Original Article. Journal of Personality and Social Psychology, 50(5), 936–941. — リンゲルマンの1913年の原典を再検討し、歴史的データの内容、出典上の注意点、本人の解釈を整理した論文。
- Ingham, A. G., Levinger, G., Graves, J., & Peckham, V. (1974). The Ringelmann Effect: Studies of Group Size and Group Performance. Journal of Experimental Social Psychology, 10(4), 371–384. — 綱引き課題で人数と1人当たりの成果を再検討し、協調の影響を取り除いた条件でも努力低下が生じることを調べた研究。
- Staats, B. R., Milkman, K. L., & Fox, C. R. (2012). The Team Scaling Fallacy: Underestimating the Declining Efficiency of Larger Teams. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 118(2), 132–142. — チーム人数が増えるほど、必要な総労働時間を過小に見積もりやすくなる傾向を実験と企業のプロジェクトデータで調べた研究。