集団浅慮とは?会議で異論が出にくくなる仕組みと見直し方

集団・組織・職場の心理
Psychology Laws 編集部

会議の冒頭で責任者が「この案で進めたい」と話したあと、誰も強く反対せず、そのまま決定した。ところが実行段階になって、参加者の何人かが「実はリスクが気になっていた」と言い出した。仕事では、全員が納得していたから意見が一致したのではなく、異論を出しにくいまま結論が固まることがあります。

集団浅慮(groupthink)とは、集団で一致しようとする傾向が強くなり、代替案や反対材料を十分に検討する意思決定が妨げられる状態を説明する考え方です。単に意見が一致したことや、集団で間違った判断をしたことだけを指す言葉ではありません。

この記事では、集団浅慮の意味、研究でどこまで支持されているのか、そして会議で異論や反証を検討しやすくするために何を見直せるかを説明します。

集団浅慮とは?意味と仕組み

集団浅慮は、心理学者アーヴィング・ジャニスが政策決定の事例を分析する中で提唱した概念です。APA Dictionary of Psychologyでは、効果的な集団意思決定を妨げるほど、意見の一致を求める傾向が強くなることとして説明されています(APA Dictionary of Psychology)。

ジャニスのモデルでは、集団浅慮が起きているときに見られる兆候として、反対意見を自分で抑えること、異論を出す人への圧力、全員一致しているように見えること、自分たちの判断を過度に正当化することなどが挙げられています。

大切なのは、「全員が賛成した」という結果だけでは集団浅慮とは言えないことです。十分に情報を調べ、異なる案を比較し、反対材料も検討したうえで全員が同じ結論になることはあります。問題になるのは、意見をそろえることが優先され、検討の幅や深さが失われる場合です。

「仲の良いチームほど危険」と単純には言えない

集団浅慮は、よく「結束の強い集団ほど起きやすい」と説明されます。しかし、その後の研究では、集団のまとまりの強さだけで意思決定の質が悪くなるとは確認されていません。

Mullenらは1994年、集団の凝集性と意思決定の質を扱った研究を統合して分析しました。その結果、凝集性だけでは意思決定の質への有意な悪影響は確認されませんでした。一方、指示的なリーダーがいるなど、集団浅慮に関係すると考えられる別の条件が重なる場合には、凝集性の高い集団で意思決定の質が低くなる傾向が見られました(Mullenら, 1994)。

つまり、「仲が良い」「チームワークが良い」こと自体を問題にするのではなく、異論を出せるか、リーダーの意向が結論を固定していないか、外からの情報や別案を検討できるかを見る必要があります。

研究で分かっていること

集団浅慮は広く知られた理論ですが、ジャニスが示した原因・兆候・結果のすべてが一つのまとまった仕組みとして強く実証されているわけではありません。一方で、意思決定の前に意見がそろいすぎていることや、異論があることが、話し合いの深さや情報の検討に関係する研究はあります。

集団浅慮の理論全体を裏づける実証研究は限られている

Esserは1998年、ジャニスの提唱から約25年間の集団浅慮研究をレビューしました。歴史的な意思決定事例の分析と実験研究の両方を検討したうえで、集団浅慮研究には集団意思決定を考えるための大きな価値がある一方、実証研究の蓄積はまだ限られ、理論から派生した多くの考えは十分に検証されていないとまとめています(Esser, 1998)。

そのため、会議で判断を誤った後に「これは集団浅慮だった」と一つの理論だけで原因を説明するのは慎重であるべきです。情報不足、時間制約、権限関係、最初の案へのこだわりなど、別の要因も検討する必要があります。

会議前の意見がそろっていると、重要な情報を見落としやすかった

Schulz-Hardtらは2006年、135組の3人グループに、4人の候補者から最適な人を選ぶ人事選考課題を行わせました。各参加者には異なる情報が与えられており、正しい選択をするには、メンバーが持つ情報を話し合いで持ち寄る必要がありました。

会議前に3人とも同じ誤った候補を好んでいたグループでは、正しい候補を見つけることはほとんどありませんでした。一方、会議前からメンバーの好みが分かれていたグループでは、正解に到達する割合が有意に高くなりました。しかも、反対意見を持つ人が最初から正解を選んでいない場合でも改善が見られました(Schulz-Hardtら, 2006)。

研究では、意見の違いがあるグループほど議論が活発になり、自分たちの最初の選択を支持する情報だけに偏る傾向も一部弱まりました。これは集団浅慮そのものを直接検証した実験ではありませんが、最初から全員の意見がそろっていることが、十分な情報交換を保証しないことを示しています。

形式的な「反対役」より、本当に異なる意見のほうが効果的な場合がある

異論を出す方法として、「誰か一人を悪魔の代弁者(devil’s advocate)にして、あえて反対させる」という方法があります。しかし、反対役を置けば実際の異論と同じ効果になるとは限りません。

Nemeth、Brown、Rogersは2001年、実際に少数意見を持つ人がいる場合と、役割として反対意見を述べる人がいる場合を比較しました。その結果、本当に異なる意見を持つ少数派の条件では、形式的な反対役の条件よりも、案の数が増え、数と質を合わせた評価も高くなりました。ただし、案の質だけを比べると明確な差は確認されませんでした(Nemeth, Brown & Rogers, 2001)。

この研究からは、「反対役を一人決めたから異論の検討は十分」と考えず、実際に違う見方を持つ人が発言できる状態を作ることの重要性が分かります。

仕事での具体例と活かし方

ここからは、研究結果を会議運営へ応用するための説明用の仮の例と提案です。以下の手順そのものが、すべての職場で集団浅慮を防ぐと直接確認されたわけではありません。

会議の前に、一人ずつ判断と懸念を書いておく

たとえば、新しい業務システムをA社とB社のどちらから導入するか決める会議を開くとします。

会議の冒頭から「A社でよさそうですね」と話し始めるのではなく、参加者それぞれが事前に次の3点を書いておきます。

  • 現時点で選びたい案
  • その理由
  • その案で最も気になる点

Schulz-Hardtらの研究では、会議前の意見の違いが、その後の議論の活発さと意思決定の質に関係しました。事前に個人の判断を出しておけば、最初の発言者や多数派に合わせて意見を作る前に、違いを確認できます。

リーダーは「結論」より先に、判断基準を示す

たとえば責任者が冒頭で、「私はA社がよいと思う」と強く述べると、それ以降の参加者が反対材料を出しにくくなる可能性があります。

集団浅慮研究では、凝集性だけではなく、指示的なリーダーなど複数の条件が組み合わさることが問題として検討されています。そのため、重要な会議では、リーダーが最初から結論を強く示すより、たとえば次のように判断基準から確認する方法があります。

  • 導入費用
  • 障害時の対応時間
  • 既存システムとの連携
  • 3年後の運用負担

そのうえで各案を同じ基準で比較すれば、「上司の案に賛成するか」ではなく、「条件に照らしてどの案が妥当か」を話しやすくなります。

賛成理由だけでなく「この案をやめる材料」を確認する

会議が一つの案に傾いたときは、賛成理由をさらに集めるだけでなく、反対方向の情報を探します。

たとえばA社に決まりそうなら、次のように問いを置きます。

  • この案を選ばないとしたら、どんな理由があるか。
  • 見落としている候補や代替案はないか。
  • どんな事実が出たら、この判断を変更するか。

これは「反対のための反対」を求めるものではありません。すでに有力になった案についても、判断を変え得る情報を明示的に探すための手順です。

「反対役」を置くだけで終わらせない

会議で一人を反対役にする方法は、検討を広げるきっかけにはなります。ただし、Nemethらの研究では、本当に異なる意見を持つ少数派の条件では、形式的な反対役の条件よりも、案の数が増え、数と質を合わせた評価も高くなりました。ただし、案の質だけを比べると明確な差は確認されませんでした。

そこで、反対役だけに異論を任せるのではなく、参加者全員から「懸念を一つ」「別案を一つ」のように意見を集める方法があります。会議で言いにくい場合は、会議前に個別に回答してもらうことも考えられます。

「全員賛成」をゴールにしない

意思決定には、最終的に一つの案を選ぶ必要があります。しかし、決定することと、全員が同じ考えになることは別です。

たとえば、「A社を選ぶ。ただし田中さんが指摘したサポート体制のリスクは残っているので、契約前に確認する」のように、少数意見を消さずに決定へ残すことができます。

集団浅慮から仕事で学べるのは、「仲良くしない」「必ず反対する」ということではありません。重要なのは、合意そのものよりも、合意に至るまでに異なる情報、代替案、反対材料を十分に検討できたかです。会議前の個人判断、リーダーの発言順、反証を探す問い、少数意見の記録などを使い、結論が固まる前の検討を広げることがポイントです。

参考文献・出典