社会的手抜きとは?チームで起こる理由と仕事の分担を考えるヒント

集団・組織・職場の心理
Psychology Laws 編集部

チームで資料を作っていると、「自分が少し遅れても、ほかの人が進めてくれるだろう」と感じることがあります。本人にさぼるつもりがなくても、共同作業になると、一人で取り組むときより力の入れ方が変わることがあります。

社会的手抜きとは、一人で作業するときに比べて、集団の一員として共同で作業するときに個人の努力が低下する傾向です。心理学でいう「手抜き」は、必ずしも意図的な怠慢や性格の問題を意味しません。個人の貢献が分かるか、自分の努力が成果にどれほど影響すると考えるか、課題をどれほど重要だと感じるかなど、作業の条件によって努力が変わることを扱います。

この記事では、社会的手抜きの意味、リンゲルマン効果との違い、研究で分かっている条件、チームの仕事を分けるときに考えたいポイントを説明します。

社会的手抜きとは?意味とリンゲルマン効果との違い

社会的手抜き(social loafing)は、KarauとWilliamsの1993年のメタ分析では、一人で働くときより、共同で働くときに個人が費やす努力が少なくなる傾向として整理されています(Karau & Williams, 1993)。

ここでいう共同作業とは、複数人の努力をまとめて一つの集団成果にする状況です。たとえば、全員の作業を合わせて一つの企画書を完成させる、チーム全体でアイデア数を増やす、といった場面です。

個人の努力が共同成果の中に埋もれると、「自分がもう少し頑張った分は結果に影響するのか」「自分の貢献は区別されるのか」が分かりにくくなることがあります。ただし、社会的手抜きの原因を一つだけに決めることはできません。研究では、評価される可能性、仲間の努力への予想、課題の意味など、複数の条件が関係しています。

リンゲルマン効果は「人数と1人当たりの成果」、社会的手抜きは「努力の低下」に注目する

社会的手抜きと近い言葉に、リンゲルマン効果があります。APA Dictionary of Psychologyでは、リンゲルマン効果は、集団の人数が増えるにつれて1人当たりの成果が低下する傾向として説明されています(APA Dictionary of Psychology)。

この1人当たり成果の低下には、一人ひとりの努力が減ることだけでなく、複数人で同時に作業することでタイミングや動きが合わず効率が落ちる「協調の損失」も含まれます。

社会的手抜きが主に扱うのは、前者の努力の低下です。そのため、「人数が増えたら成果が落ちた」という結果だけでは、社会的手抜きが起きたと断定できません。努力が変わったのか、作業の調整が難しくなったのかを分けて考える必要があります。

研究で分かっていること

研究全体では社会的手抜きは繰り返し確認されていますが、どんな集団でも同じように起こるわけではありません。個人の成果を評価できるか、仲間がどれくらい努力すると予想するか、課題にどれだけ意味を感じるかなどによって変わります。

「一緒にやっている」と思うだけでも努力が下がった

Latané、Williams、Harkinsは1979年、拍手や大声を出す課題を使って、人数が増えたときに一人当たりの出力がどう変わるかを調べました。

特に重要なのが第2実験です。参加者は目隠しとヘッドホンを着け、実際には一人で叫んでいるのに、「ほかの人も一緒に叫んでいる」と思う条件に置かれました。これなら、実際に複数人で声を合わせるときに生じる協調のずれを取り除いて、努力の変化を調べられます。

その結果、一人で叫ぶ場合と比べて、もう1人も一緒に叫んでいると思ったときは約82%、ほかに5人いると思ったときは約74%の強さになりました。実際には一人で作業していても、共同作業だと認識することで努力が低下したことから、協調の失敗とは別に社会的手抜きが起こり得ることが示されました(Latané, Williams & Harkins, 1979)。

78研究をまとめても社会的手抜きは確認された

KarauとWilliamsは1993年、社会的手抜きに関する78研究をまとめて分析しました。その結果、課題や参加者集団が異なっても、全体として社会的手抜きが確認されました。

ただし、効果の大きさは一定ではありませんでした。研究では、個人の成果が評価される可能性、仲間がどれくらい努力すると予想するか、課題をどれほど意味のあるものと感じるかなどが、社会的手抜きの強さに関わる条件として示されています(Karau & Williams, 1993)。

成果を「誰のものか分かる」だけでは十分でない場合がある

HarkinsとJacksonは1985年、4人の集団でアイデアを出す課題を使い、個人の回答が識別できるかどうかと、その回答をほかの人と比較して評価できるかどうかを分けて調べました。

個人の回答が識別できる条件では、共同成果としてまとめられる条件より多くのアイデアが出ました。ただし、この差が見られたのは、参加者が自分の成果をほかの人と比較して評価できると考えていた場合でした。個人の回答が分かっても、比較して評価できないと思っていた場合には、同じ差は見られませんでした(Harkins & Jackson, 1985)。

したがって、「名前を付けて誰の仕事か分かるようにすれば、それだけで社会的手抜きがなくなる」と単純には言えません。本人が、何を基準に自分の貢献を判断できるかも関係します。

仲間が十分に働かないと思うと、逆に努力が増えることもある

WilliamsとKarauは1991年、アイデア生成課題を使った3つの実験で、仲間がどれくらい働くと予想するかを調べました。

その結果、意味のある課題で、仲間の働きが不十分になると予想したときには、一人で作業するときより共同作業で多く努力する場合がありました。研究者らはこれを「社会的補償」と呼んでいます。一方、課題の意味が低い場合には、同じような補償は確認されませんでした(Williams & Karau, 1991)。

この結果は、「集団で働けば必ず努力が下がる」という理解が正しくないことを示しています。自分の努力が集団の成果に必要だと感じ、しかもその成果に意味を感じるときには、反対の変化も起こり得ます。

評価を強くすればよいとは限らない

個人の成果を評価できるようにすることは、社会的手抜きを考えるうえで重要な条件ですが、仕事の種類によっては注意が必要です。

Bartis、Szymanski、Harkinsの1988年の研究では、一般的な物の使い道を「できるだけ多く」考える課題では、評価される可能性がある条件のほうが成果が高くなりました。一方、「できるだけ創造的な使い道」を考える課題では、個人を評価できる条件より、回答をまとめて評価できない条件のほうが創造的な成果が高くなりました(Bartis, Szymanski & Harkins, 1988)。

つまり、社会的手抜きを防ぐために細かく評価することが、あらゆる仕事の成果を高めるわけではありません。特に発想や探索が必要な仕事では、評価の強さそのものが別の影響を与える可能性があります。

仕事での具体例と活かし方

ここからは、研究結果をチームの仕事へ応用するための説明用の仮の例と提案です。以下の方法そのものが、すべての職場で成果を上げると直接確認されたわけではありません。

「チームで担当」を、個人が動ける単位まで分ける

たとえば、4人で顧客向け提案書を作るとします。

「4人で金曜日までに提案書を完成させる」とだけ決めると、チームの目標は分かっても、一人ひとりがどこまで進めればよいかは曖昧です。

そこで、共同成果を個人が動ける単位へ分けます。

  • 市場データ:佐藤さんが水曜日までに3つの統計を確認する
  • 顧客課題:田中さんが面談記録から主要な課題を3点まとめる
  • 提案内容:鈴木さんが課題とサービスの対応案を作る
  • 最終統合:高橋さんが木曜日に全体をまとめ、抜けを確認する

目的は個人を監視することではなく、自分の努力が共同成果のどこにつながるかを分かる状態にすることです。

担当だけでなく「何をもって完了か」を決める

研究では、個人の成果が識別できるだけでは、社会的手抜きが必ずなくなるわけではありませんでした。そのため、「誰が担当か」に加えて、仕事の判断基準も共有します。

たとえば「市場調査をする」だけでなく、「公的統計または業界団体の資料を3つ確認し、出典と数字を表にまとめる」のようにします。

こうすれば、本人も周囲も、作業量だけではなく「何をできれば役割を果たしたのか」を確認できます。

貢献が必要な理由を伝える

社会的補償の研究では、課題に意味があるとき、仲間の不足を補うために努力が増える場合がありました。

仕事でも、「とにかくこの部分をお願いします」と渡すだけでなく、「この数字が間違うと顧客の投資判断に影響する」「この確認がないと次の担当者が提案を組み立てられない」のように、その作業が全体の成果にどう必要なのかを共有する考え方があります。

ただし、意味を強調して仕事量を際限なく増やすのではなく、役割と負担が妥当かも同時に確認する必要があります。

成果が落ちたときは「手抜き」と決めつけない

チームの成果が人数の割に伸びないとき、原因は社会的手抜きとは限りません。たとえば、作業の順番が合わない、同じ確認を重複している、情報共有に時間がかかる、といった協調上の問題でも1人当たりの成果は低下します。

振り返るときは、次の順で分けて確認します。

  1. 個人の努力自体が下がっていたのか。
  2. 役割や完了基準が曖昧だったのか。
  3. 複数人の作業をつなぐところで時間や成果を失っていなかったか。
  4. 本人が自分の仕事の必要性を理解できていたか。

社会的手抜きという言葉を、働きの少ない人へのラベルとして使わないことが重要です。研究が扱っているのは、個人の性格よりも、共同作業という条件によって努力がどう変わるかだからです。

創造的な仕事では、評価を細かくしすぎない

アイデア出しや企画の初期段階では、「誰が何個出したか」を細かく比較するほどよいとは限りません。量を確保したい段階と、自由な発想を広げたい段階では、適した評価方法が違う可能性があります。

たとえば、情報収集や確認作業では担当と基準を明確にし、自由な発想が必要なブレインストーミングでは、最初から個人の順位付けをしない、といった使い分けが考えられます。

社会的手抜きから仕事で学べるのは、「チームにすれば自然に力が足し合わされる」と考えないことです。個人の貢献が見えにくく、努力と成果のつながりが分かりにくいと、努力が低下することがあります。一方で、課題の意味や仲間への期待によっては、反対に努力が増えることもあります。役割、完了基準、仕事の意味を明確にしつつ、仕事の種類に合った評価方法を選ぶことが、チームの分担を考える一つの手がかりになります。

参考文献・出典