社会的促進とは?人に見られると仕事の出来は変わるのか

集団・組織・職場の心理
Psychology Laws 編集部

同じ作業でも、一人でやるより誰かに見られているほうが速く進むことがあります。反対に、まだ慣れていない説明や難しい作業では、人がいるだけで焦って失敗が増えることもあります。

社会的促進(social facilitation)とは、他者がいることで、個人の課題成績が良くなることがある現象です。ただし、どんな仕事でも良くなるわけではありません。研究では、簡単な課題や十分に練習した課題では成績が上がりやすい一方、複雑・不慣れな課題では、反対に成績が下がることがあります。

この記事では、社会的促進の意味、なぜ課題によって反応が変わると考えられてきたのか、研究全体ではどの程度の効果が確認されているのか、仕事の環境を考えるときに何を参考にできるかを説明します。

社会的促進とは?簡単な課題と難しい課題で影響が変わる

APA Dictionary of Psychologyでは、社会的促進は、他者がいるときに個人の課題成績が改善することがあり、とくに簡単な課題や練習によって十分に身についた課題で生じやすい現象として説明されています。反対に、複雑で不慣れな課題では、他者の存在によって成績が悪くなる「社会的抑制(social inhibition)」が起こりやすいとされています(APA Dictionary of Psychology、APA Dictionary of Psychology: audience effect)。

ここでいう「他者」は、同じ仕事を一緒に担当する人とは限りません。自分の作業を見ている観客や、同じ場所で別々に課題へ取り組む人なども研究対象になってきました。

「一番出やすい反応」が強くなるという説明

Robert Zajoncは1965年、過去の研究で「人がいると成績が上がる」という結果と「人がいると成績が下がる」という結果が混在していたことを、課題で最も出やすい優勢反応(dominant response)という考えで整理しました(Zajonc, 1965)。

簡単な課題や十分に練習した課題では、最も出やすい反応が正解であることが多いため、その反応が強まれば成績は良くなります。一方、難しい課題や学習途中の課題では、最も出やすい反応が正解とは限りません。その場合、普段の反応が強く出ることで、かえって正しい解き方へ切り替えにくくなると考えます。

この考え方なら、「人に見られると良くなる」と「人に見られると悪くなる」を、課題の違いから一つの枠組みで考えられます。

社会的手抜きとは別の現象

社会的促進と社会的手抜きは、どちらも他者がいる場面を扱いますが、焦点が違います。

社会的促進では、本人が行う課題の成績が、観客やほかの作業者の存在によってどう変わるかを見ます。一方、社会的手抜きでは、複数人の努力が一つの共同成果になる状況で、一人で行うときより個人の努力が下がる傾向を扱います。

そのため、「人がいるから社会的促進」「チームだから社会的手抜き」と単純に決めるのではなく、本人の成果が個別に測られる仕事なのか、共同成果としてまとめられる仕事なのかを分けて考える必要があります。

研究で分かっていること

研究では、他者がいることで簡単・習熟した反応が出やすくなり、難しい反応が妨げられる現象が確認されています。ただし、平均的な効果は大きくなく、なぜ他者の存在が成績を変えるのかについても、単一の説明で決着しているわけではありません。

観客がいると、身についた反応が出やすくなった

ZajoncとSalesは1966年、39人の参加者を対象に、事前の訓練によって「出やすい反応」と「出にくい反応」を作ったうえで、単語を認識する課題を行わせました。

その結果、観客がいる条件では、一人で行う条件より、事前に強く身につけた優勢反応が出やすくなりました。一方、弱い反応は出にくくなりました(Zajonc & Sales, 1966)。

この結果は、「他者がいると全体的に能力が上がる」のではなく、すでに出やすい反応がより出やすくなるというZajoncの説明に合っています。

「ただ人がいるだけ」で同じ効果が出るとは限らなかった

Zajoncは、他者がいること自体が反応を強める可能性を提案しました。しかし、その後の研究では、単なる存在だけでは十分ではないという結果も出ています。

Cottrellらは1968年、45人の大学生を、一人で課題をする条件、2人の観客に見られる条件、2人がその場にいるものの本人の課題を見ていない条件に分けました。

その結果、観客に見られている条件では優勢反応が強まりましたが、本人を見ていない人がただ同席している条件では同じ効果は確認されませんでした(Cottrellら, 1968)。

この研究は、「人の存在そのもの」だけで社会的促進の仕組みを説明することへの反証の一つです。その後も、評価されることへの意識、注意が分散すること、自分への注意が高まることなど、複数の説明が研究されてきました。

241研究をまとめると、効果は確認されたが大きくはなかった

BondとTitusは1983年、社会的促進について行われた241研究、約2万4千人分の結果をメタ分析しました。

全体として、他者がいると簡単な課題は速くなり、複雑な課題は遅くなる傾向が確認されました。正確さについても、複雑な課題では悪化し、簡単な課題ではわずかな改善が見られました(Bond & Titus, 1983)。

ただし、効果は大きなものではありませんでした。メタ分析では、典型的な研究において他者の存在が説明した差はおよそ0.3%から3%でした。また、簡単な課題の正確さが上がる結果については、効果がなかった研究が公表されにくい「ファイルドロワー問題」の影響を受けている可能性も指摘されています。

したがって、社会的促進は研究で確認されている現象ですが、「誰かに見てもらえば劇的に生産性が上がる」という効果として扱うのは適切ではありません。

なぜ起こるかは、一つの仕組みに決まっていない

社会的促進の説明として、Zajoncは他者の存在が覚醒を高め、優勢反応を強めるという考えを示しました。一方、Cottrellらは「評価される可能性」が重要だと考え、ほかにも注意の競合や自己意識などを重視する理論が提案されています。

BondとTitusのメタ分析でも、単純な「他者がいる→覚醒が上がる→成績が変わる」という説明だけですべての結果が整理できたわけではありません。現在の記事では、社会的促進という現象と、なぜ起こるかについての理論を分けて考えます。

仕事での具体例と活かし方

ここからは、研究結果を仕事の環境づくりへ応用するための説明用の仮の例と提案です。以下の方法を使えば仕事の成果が上がると、職場で直接確認されたものではありません。

慣れた作業と、考えながら学ぶ作業を同じ環境にしない

たとえば、毎週行っている定型データ入力と、初めて使う分析ソフトで原因を探る仕事があるとします。

定型入力は手順が身についているため、人がいる共有スペースでも進めやすい可能性があります。一方、初めての分析では、普段のやり方では解けず、試行錯誤が必要です。このような仕事では、周囲から見られている状況や注意が分散する環境が負担になる場合があります。

そこで、「集中したい人はいつでも一人で作業すべき」と決めるのではなく、課題の習熟度と難しさに合わせて環境を選ぶという考え方ができます。

練習と本番の環境を分ける

新人が顧客向けの説明を練習するとします。まだ内容を覚えている途中なのに、大勢の前でいきなり練習させると、普段出やすい言い方に戻り、新しく覚えた説明を使いにくくなる可能性があります。

たとえば、次のように段階を分けます。

  1. まず一人で内容と手順を確認する。
  2. 次に一人の同僚を相手に練習する。
  3. 説明が安定してから、複数人の前で実践する。

これはZajoncの理論を仕事へ応用した考え方です。「観客を増やせば上達する」という意味ではなく、不慣れな反応を身につける段階と、身についた反応を発揮する段階を分けるための方法です。

「見られているから集中する」を全員に当てはめない

上司や同僚が近くにいると仕事が速くなる人がいても、それを全員に当てはめることはできません。BondとTitusのメタ分析では平均的な効果自体が小さく、課題の複雑さなどによって方向も変わりました。

そのため、常時画面を見られる、作業中ずっと進捗を確認される、といった監視を「社会的促進を起こす方法」として正当化することはできません。監視には社会的促進以外の心理的・組織的影響もあります。

成果が落ちたときは、能力だけでなく作業環境も確認する

普段はできる仕事なのに、発表や実演の場面だけミスが増える場合、「本番に弱い性格」と決めつける前に、課題の状態を確認します。

  • その手順は十分に練習できているか。
  • 本番で初めて考えなければならない部分が多くないか。
  • 観客や評価を意識することで、注意が分散していないか。
  • 練習時と本番時で課題の難しさが変わっていないか。

社会的促進から仕事で学べるのは、人がいることの影響は、課題によって同じではないということです。慣れた仕事では速さや成績を高める場合がある一方、まだ学習中の仕事や複雑な課題では妨げになることがあります。人を置くこと自体を方法にするのではなく、作業がどれだけ身についているか、どれだけ考える必要があるかを見て、練習・集中・実演の環境を分けることが実務での使い方になります。

参考文献・出典