公平理論とは?職場の不公平感と報酬の受け止め方

集団・組織・職場の心理
Psychology Laws 編集部

昇給したのに、なぜか納得できない。金額だけ見れば増えているのに、「自分は担当範囲が広がったのに、同じくらいの経験の人と差がない」と感じることがあります。反対に、同じ金額をもらっていても、相手の仕事量や責任が違えば「これで公平なのか」と感じることもあります。

公平理論(equity theory)は、人が仕事で受け取る報酬を、その金額だけで評価するのではなく、自分が出した貢献との釣り合いを、他者との比較の中で捉えるという考え方です。同じ給料を受け取ることが必ず公平なのではなく、「何を出し、何を得ているか」の関係が重要になります。

この記事では、公平理論の意味、何を比較して不公平を感じるのか、研究でどこまで確かめられているのか、そして給与や評価への不満を仕事でどう考えればよいかを説明します。

公平理論とは?「同じ」より「釣り合い」を見る考え方

公平理論は、心理学者J・ステイシー・アダムスが1960年代に提唱した理論です。アダムスは、仕事上の交換を考えるとき、人は自分が提供するものと、そこから受け取るものを捉え、それを比較相手の状況と照らし合わせると考えました(Adams, 1963、Adams, 1965)。

理論では、自分が提供するものを投入(input)、受け取るものを成果・見返り(outcome)として扱います。

  • 投入:努力、仕事の成果、経験、技能、教育・訓練、勤続など
  • 見返り:給与、福利厚生、評価、昇進、職務上の地位、上司からの扱いなど

重要なのは、これらが機械的に計算されるのではなく、本人が何を仕事への貢献や見返りとして認識しているかが関係する点です。同じ職場にいても、「経験年数を重く見る人」と「現在の成果を重く見る人」では、公平だと感じる条件が異なる場合があります。

自分の「見返りと貢献の釣り合い」を比較相手と比べる

公平理論では、自分の給与だけを見て「高い・低い」と判断するのではありません。簡単に言えば、次の2つを比べます。

  • 自分は、どれだけ貢献して、どれだけ見返りを得ているか。
  • 比較相手は、どれだけ貢献して、どれだけ見返りを得ているか。

たとえば、自分と同じ給与の同僚がいるとしても、仕事の責任や経験、成果も同程度だと考えれば公平だと感じるかもしれません。一方、「自分のほうが大きな責任を負い、成果も出しているのに見返りは同じだ」と認識すれば、不公平感が生じる可能性があります。

反対に、給与が違っていても、仕事の責任や必要な技能などの違いに見合った差だと理解できれば、公平だと感じる場合があります。つまり、公平と平等は同じではありません。

不公平を感じると、その状態を小さくしようとする

アダムスの理論では、不公平を感じると心理的な緊張が生まれ、その不公平を小さくする方向へ動機づけられると考えます。対応の仕方は一つではありません。

たとえば、自分の努力を減らす、より大きな見返りを求める、比較する相手を変える、状況の見方を変える、あるいはその関係から離れる、といった方法が理論上考えられます(Adams, 1965)。

ただし、「不公平を感じた人は必ず努力を減らす」という意味ではありません。どの反応を選ぶかは状況によって異なります。

研究で分かっていること

公平理論をめぐる研究では、不公平感が仕事の行動や評価に関係することが示されてきました。一方で、理論が予測する反応がすべて同じ強さで実証されているわけではありません。特に、「もらいすぎ」と感じる過大報酬側の反応は、不足側ほど一貫していないことが早くから指摘されています。

不足側の不公平は支持されたが、過大報酬の結果は一貫しなかった

Pritchardは1969年、アダムスの公平理論と、それまでに行われた研究をレビューしました。その結果、自分の見返りが少ないと感じる不足側の不公平については、理論の予測を支持する研究がある一方、過大に報酬を受けたと感じた場合の効果は、十分には実証されていないと整理しています(Pritchard, 1969)。

そのため、「多くもらいすぎた人は罪悪感から必ず仕事量を増やす」といった説明は慎重にする必要があります。公平理論は不公平の両方向を扱いますが、実証上は完全に対称な反応が確認されているわけではありません。

給与だけでなく、職場で与えられる「地位」も見返りとして働いた

Greenbergは1988年、大手保険会社の引受部門で働く198人を対象にフィールド実験を行いました。自分のオフィスが改装されている間、参加者は一時的に、自分より地位の高い人、低い人、同程度の人が使っていたオフィスへ無作為に移されました。

同程度のオフィスへ移った人と比べて、自分の地位より高いオフィスへ移った人では業績が上がり、低いオフィスへ移った人では業績が下がりました(Greenberg, 1988)。

この研究で扱われた見返りは給与そのものではなく、オフィスという職場上の地位を示す要素でした。公平理論でいう見返りには、金銭以外のものも含まれ得ることを示す例です。

15%の給与削減では、理由の説明によって反応が変わった

Greenbergは1990年、製造工場で給与が一時的に15%削減された期間の従業員の反応を調べました。給与が削減された集団では、削減前後や給与が変わらなかった対照集団と比べ、従業員による窃盗率が高くなりました。

一方、給与削減の理由を十分かつ丁寧に説明された集団では、不公平感が弱まり、窃盗率も低くなりました(Greenberg, 1990)。

これは、不公平感への反応を給与額の変化だけで説明しきれないことも示しています。同じ削減であっても、その決定がどのように説明されたかによって受け止め方が変わりました。公平理論は「投入と見返りの釣り合い」を考える中心的な枠組みですが、実際の職場での公平感には、決定の手続きや説明のされ方なども関わります。

仕事での具体例と活かし方

ここからは、研究結果を職場で考えるための説明用の仮の例と提案です。以下の対応を行えば不満がなくなると直接確認されたものではありません。

「給料が低い」という言葉だけで原因を決めない

たとえば部下から、「今の評価は納得できません」と相談されたとします。

すぐに「給与額が不満なのだ」と決めるのではなく、公平理論の考え方を使って、何を比較しているのかを整理します。

  1. 何を自分の貢献だと考えているか。
    成果、担当範囲、経験、難しい案件への対応など、本人が重視しているものを確認します。
  2. 何を見返りだと考えているか。
    給与だけなのか、昇進、裁量、評価、担当業務なども含まれるのかを確認します。
  3. 何と比べているか。
    同僚、同じ職位の人、以前の自分など、比較の基準を確認します。
  4. どこに釣り合わなさを感じているか。
    貢献が評価されていないのか、評価基準が分からないのか、説明と実際の扱いが合わないのかを分けます。

これによって、不満を「もっと給料が欲しいだけ」と片づけず、本人がどの関係を不公平だと捉えているかを確認できます。

報酬差を付けるなら、比較できる判断基準も示す

同じ職位の2人に異なる評価や報酬を付ける場合、差があることだけで不公平になるとは限りません。責任、成果、必要な技能など、本人が「その差に関係する」と理解できる基準があるかが重要です。

たとえば、「成果を総合的に見ました」だけでは、何が評価されたのか分かりません。

  • 売上だけでなく、継続率も評価対象にする。
  • 管理職では、個人成果だけでなくチーム育成も見る。
  • 評価期間と対象となる成果を事前に示す。

このように、何を貢献として評価するのかを明確にすれば、結果の違いを検討しやすくなります。ただし、評価基準を示せば誰もが結果に納得するとは限りません。

「同じにすること」と「公平にすること」を分ける

たとえば、経験も役割も異なる2人へ同じ報酬を設定すれば、形式上は平等です。しかし、一方だけがより大きな責任を担っていると考えているなら、その人は不公平だと感じるかもしれません。

逆に、報酬に差があっても、その差と仕事上の貢献との関係が理解できれば、公平だと受け止められる可能性があります。

仕事で公平を考えるときは、「全員を同じにしたか」だけでなく、違いを付ける場合に、その理由と基準を説明できるかを確認します。

他人の給与を推測して結論を出さない

公平感は比較から生まれますが、その比較に使う情報が正しいとは限りません。「あの人は自分より給料が高いらしい」「あの部署だけ楽をしている」といった推測で不公平感が強くなることもあります。

給与など他人の個人情報を開示するのではなく、職位ごとの役割、評価基準、報酬レンジなど、組織として共有できる情報を使って確認する方法があります。

公平理論から仕事で学べるのは、報酬への納得感を、金額だけの問題として扱わないことです。人は自分が何を出し、何を受け取っているかを、周囲との比較の中で捉えます。一方、その比較は本人の認識に基づき、実際の公平さと必ず一致するわけではありません。貢献、見返り、比較相手、評価基準を分けて確認することで、「何が不公平だと感じられているのか」を具体的に考えやすくなります。

参考文献・出典

  • Adams, J. S. (1963). Toward an Understanding of Inequity. Journal of Abnormal and Social Psychology, 67(5), 422–436. — 公平理論の初期の提示。不公平が生じる条件と、その状態を減らそうとする反応を整理した論文。
  • Adams, J. S. (1965). Inequity in Social Exchange. Advances in Experimental Social Psychology, 2, 267–299. — 投入、見返り、比較相手、不公平への反応を体系的に整理した理論論文。
  • Pritchard, R. D. (1969). Equity Theory: A Review and Critique. Organizational Behavior and Human Performance, 4(2), 176–211. — 当時の公平理論研究をレビューし、不足側の不公平には支持がある一方、過大報酬の効果は十分に実証されていないと整理した論文。
  • Greenberg, J. (1988). Equity and Workplace Status: A Field Experiment. Journal of Applied Psychology, 73(4), 606–613. — 198人の従業員を一時的に異なる地位のオフィスへ移し、職場上の地位という見返りと業績の変化を調べたフィールド実験。
  • Greenberg, J. (1990). Employee Theft as a Reaction to Underpayment Inequity: The Hidden Cost of Pay Cuts. Journal of Applied Psychology, 75(5), 561–568. — 一時的な15%の給与削減と従業員の窃盗、不公平感、削減理由の説明との関係を調べた研究。