「来月は良くなる」で計画を変えない|見通しを支える根拠を確認する

企画・意思決定
Psychology Laws 編集部

月ごとの実績が計画を下回っているのに、「来月は良くなるから」と同じ見通しを維持していませんか。前向きな気持ち自体が問題なのではありません。来月は何が変わり、それによってどれだけ改善するのかを確かめないまま、期待を予測として扱うことが問題です。

まず、目指している目標と、今分かっている情報から見込める結果を分けましょう。過去の実績、回復を支える具体的な行動、待つことで生じる費用や期限への影響を確認し、計画を続けるか、予測や実行方法を修正するかを判断します。

「来月は良くなる」という見通しに、何が影響するのか

以下は説明用の仮の場面です。ある部署が、社内申請の新しい処理手順を広げ、月40時間の作業削減を目指しています。毎月約200件の申請が対象ですが、新手順を使えた件数は先々月50件、先月60件、今月70件でした。責任者は「担当者が慣れるから、来月は200件すべて切り替えられる」として、予測値を変えていません。

少しずつ利用が増えているのは事実でも、来月いきなり70件から200件になるには理由が必要です。研修が具体的に決まっているのか、操作上の障害が解消されたのか、対象部署の準備が済んだのかを確認しなければ、目標を予測に置き換えたことになります。

ただし、計画を変えない理由が必ず思い込みだとは限りません。契約や承認の期限、部署間の調整、変更に伴う費用など、実際の制約がある場合もあります。心理的な期待と業務上の条件を分けて考えることが大切です。

うまく進む筋書きは、過去の実績より目立つことがある

Buehler、Griffin、Ross(1994)は、人が課題をいつ終えると予測するかを調べました。学生が行う学習課題などを対象とした研究で、参加者は過去の所要時間よりも、今回の課題を順調に進める手順に注目し、終了時期を早めに見積もる傾向が見られました。

この論文の一つの実験では、123人の学生にコンピューター課題の終了日を予測してもらい、過去の似た課題を思い出すだけの条件、過去の経験が今回の課題にどう関係するかまで考える条件、特別な指示をしない条件を比べました。過去を思い出すだけの条件では、早すぎる予測が残りました。今回との関係まで考えた条件では、平均的な楽観的偏りが見られなくなりました。

一方、その条件でも予測日と実際の終了日の絶対的な誤差は減っていません。過去を振り返れば必ず予測が正確になる、という研究結果ではありません。また、実験で扱ったのは課題の完了時期であり、会社の月次業績や「来月もこの計画を続ける」という判断を直接測ったものでもありません。

今の計画だけでなく、似た過去の結果を見る視点

KahnemanとLovallo(1993)は、現在の計画や想定する進行を中心に将来を考えると、過去の類似案件の統計的な情報を軽く扱い、楽観的な予測につながり得ると論じました。これは心理学の知見を整理して組織の判断への示唆を示した論文で、翌月の売上や作業削減の予測を直接検証した実験ではありません。

仕事への応用としては、「来月は研修が進むはず」という説明だけでなく、過去には同じ条件でどれだけ進んだか、新しく何が変わるかを確認することが考えられます。関連する心理の詳しい説明は、サイト内の楽観バイアスの解説も参考になります。

「来月良くなる」と判断する前に、何を確かめるか

  • 目標と予測は分けられているか:「月200件を新手順で処理したい」は目標で、「来月200件を処理できそう」は予測です。予測の数字には、現在の準備状況などの根拠が必要です。
  • 同じ基準で過去を比べたか:先々月から今月までの実際の処理件数、対象申請の総数、集計対象の部署を確認します。申請の内容や数え方が変わっていれば、数字をそのまま比較できません。
  • 改善の原因になる行動は何か:追加研修、担当者の増員、操作の簡略化などについて、担当者、完了予定日、実施済みかどうかを確かめます。「これから行う予定」と「すでに効果を確認した」を混同しません。
  • 必要な改善幅はどのくらいか:今月70件から全200件へ増やすには、月130件分の切り替えが必要です。利用できる担当者数、作業量、手順の制約から、その増加を支えられるか判断します。
  • 一か月待てる条件か:追加費用、他部署への負担、品質、契約や資金上の期限を確認します。重大な支障につながる場合は、翌月末まで待たずに対応を考える必要があります。

実際に使える人数が増えており、似た条件で処理件数も伸びているなら、来月の改善を見込む理由になるかもしれません。逆に、準備が未完了なら「来月増やしたい」という希望と、確かめられた見通しを分ける必要があります。

月次実績と、来月の目標を同じ表で比べる

先ほどの仮の部署について、月200件の申請を対象とし、新手順を使った一件当たり平均12分の時間短縮があると小規模な確認で推定したとします。件数と12分という値はすべて説明用の仮の数字です。12分がすべての申請や担当者で実現するとは確認されていません。

期間 新手順の利用件数 削減時間の試算
先々月 50件(仮の実績) 10時間
先月 60件(仮の実績) 12時間
今月 70件(仮の実績) 14時間
来月の計画 200件(目標) 40時間(目標からの試算)

今月の14時間は、70件×12分÷60分で求めた計算上の削減時間です。実測した作業時間ではありません。来月40時間も、200件すべてに新手順を使い、12分の削減が続いた場合の条件付き試算であって、実現が確かめられた予測値ではありません。

この前提を使えば、来月も70件なら14時間、100件なら20時間、200件なら40時間という比較はできます。ただし、この三つは条件ごとの計算例であり、実現しやすさや発生確率を示していません。その判断には、利用可能な担当者や、研修の進捗などの追加情報が必要です。

たとえば、部署全体の研修が月の前半までに終わることを確認でき、処理件数の増加につながっているなら、計画を続ける判断材料になります。反対に、予定した研修がまだ始まらず、利用できる人数も変わらない場合は、40時間削減の見通しを維持する理由が弱くなります。

確認した根拠を、計画の維持や修正につなげる

ここからは心理学研究と実務資料を参考に考えた提案であり、すべての職場で予測精度や成果を改善すると研究で直接検証された手順ではありません。

  1. 目標と最新の予測を別々に書く。「月40時間の削減を目指す」という目標を続けながら、実際にどれだけ削減できそうかは最新の情報で見積もり直せます。予測の修正は、目標を捨てることとは違います。
  2. これまでの未達の理由を確認する。先月も「来月は良くなる」と予測していたなら、なぜ届かなかったのか記録と照らします。解消した一時的な問題か、同じ障害が残っているかによって、今回の見通しも変わります。
  3. 改善の前提を途中で点検する。「月の前半までに研修が終わる」「新手順を使える担当者が増える」など、翌月末より前に確認できる条件を決め、担当者と日時を明確にします。予定どおり進んでいなければ、その時点で見通しを更新します。
  4. 続行・修正・縮小や停止を分けて考える。改善に必要な条件がそろい、費用や品質も許容範囲なら計画を続けることができます。条件が足りなければ対象範囲や研修日程を修正します。重大な安全・契約上の問題がある場合には、縮小や停止も検討します。
  5. 次回の判断に使う記録を残す。最新の予測、支える根拠、不明点、見直し日、責任者を簡潔に共有します。根拠が変わったときに計画を修正できるようにします。

英国政府の『Budget holder forecasting handbook』(2023年)も、見通しは固定的ではなく、最新の情報に合わせて更新すること、前提と不確実性を明示すること、予測と実績の差を早めの判断に使うことを重視しています。これは英国の公的部門向け予算管理の指針であり、日本の民間企業に同じ手順を義務付けるものではありません。

会議では、たとえば次のように尋ねられます。これは説明用の仮の会話例です。

「来月に改善する可能性はあります。ただ、70件から200件へ増やすには130件分の切り替えが必要です。どの部署の研修や手順改善が、その増加を支えるのでしょうか。40時間削減という目標は残しつつ、確認できた準備状況で来月の見通しを更新し、月の途中でも判断できるようにしませんか」

「来月は良くなる」という言葉を否定することが目的ではありません。来月に何が変わり、いつ、どの記録で確かめられるのかを具体化することが、希望だけで計画を維持していないか確かめる方法です。

参考文献・出典