企画審査のメンバーが同じ考えに偏る|異なる観点で点検する方法
企画審査でメンバーの意見がそろっていると、十分に検討された案だと感じることがあります。しかし、全員が賛成したことと、判断に必要な情報がそろったことは別です。意見を無理に対立させるのではなく、今回の企画に必要な顧客・現場・費用・情報管理などの観点が審査に入っているか確かめることが大切です。
具体的には、審査の目的と判断基準を明確にしたうえで、メンバーが確認できた情報、まだ調べていない情報、他部署の知識が必要な情報を分けます。不足があれば必要な担当者に確認し、確認結果を企画案の比較に反映させます。部署の人数や反対者の数を増やすことだけを目的にしません。
企画審査で似た意見が集まると、何を見落としやすいのか
以下は説明用の仮の場面です。ある会社が、20店舗へ新しい来店予約システムを導入する企画を審査しています。5人の審査メンバーは企画・営業部門の担当者が中心で、予約しやすさや販売機会の拡大を評価しています。一方、現場の受付担当者や情報管理の担当者は審査に参加していません。
提案資料には導入費や期待される予約件数が載っていますが、店頭予約と新システムの予約が重複した場合の処理、繁忙時の作業、顧客情報の管理方法は十分に確認されていません。この状態で全員が賛成しても、運用まで問題がないとは言えません。
ただし、営業や企画の担当者だから現場の事情を知らない、と決めつける必要もありません。必要な情報が資料などでそろっているなら、担当部署の人を全員会議に呼ぶ必要はない場合もあります。問題は参加者の肩書が似ていることそのものではなく、判断に必要な情報が不足していることです。
全員が知っている情報ばかり話題になる場合がある
StasserとTitus(1985)は、大学生の4人グループに学生代表の候補者3人から1人を選んでもらいました。各自が持っている候補者情報を、全員で共有している条件と、各自に一部ずつ分けている条件などを比較しました。
話し合いによって情報を持ち寄れば、当初の印象を修正できるはずの条件でも、最初に多数派が好んだ候補が選ばれました。議論では、多くの人がもともと知っている情報や、すでに好んでいる案に有利な情報が取り上げられやすいことが確認されました。
これは学生代表の選考を使った実験であり、企業の企画審査を直接検証したものではありません。実務への示唆として、全員が知る企画の魅力ばかり繰り返し、現場でしか分からない問題が共有されていない可能性を考えられます。
会議前から意見が違うと、情報の検討が深まる条件がある
Schulz-Hardtら(2006)は、3人組135グループに、4人の候補者から1人を選ぶ採用選考の課題を与えました。各メンバーが持つ情報は不完全で、グループで持ち寄ることで適切な候補を選べる設定でした。
会議前に全員が同じ不適切な候補を支持していたグループでは、正しい候補がほとんど選ばれませんでした。一方、事前の意見が異なるグループでは正しい候補を選ぶ割合が高く、異なる意見を持つ人が正解を支持していない場合にもその違いが見られました。この差には、より多くの情報を議論したことなどが関わっていました。少数派1人の異論と、全員の意見が異なる場合とでは、判断の正確さに明確な差は認められませんでした。
この研究から、会社の審査メンバーを増やすだけで判断が正確になる、形式的な反対役を置けば成功する、とまでは言えません。異論が有用になり得るのは、違う意見をきっかけに情報を確かめ直せる場合です。
情報の共有が判断の質と関わることは、研究の統合でも確認された
Lu、Yuan、McLeod(2012)は、情報がメンバーに分散しているグループ意思決定に関する65研究、計3,189グループを分析しました。一般に、全員が知っている情報は個人だけが持つ情報より多く話題になり、個々のメンバーだけが持つ情報が幅広く議論に出たグループほど判断の質が高いという関連が見られました。
ただし、グループの人数、扱う情報の量、課題の性質によって結果は変わりました。全員に別々の立場を取らせればよいという意味ではありません。必要な情報が実際に集まり、比較に使われたかを確かめることがポイントです。
審査メンバーに足りない観点を、どう見つけるか
先ほどの予約システムを審査するなら、次の表のように判断する問いと、確認に必要な情報を対応させます。これは研究の結果を参考にした実務上の例であり、この表自体の効果を実験で検証したものではありません。
| 必要な観点 | 判断したい問い | 確認できる資料・相手の例 |
|---|---|---|
| 顧客の必要性 | どの顧客が、今の予約方法で困っているか | 問い合わせ記録、利用状況、顧客の声 |
| 店舗の運用 | 予約の重複や変更が起きたら誰が対応するか | 店舗担当者、受付手順、繁忙時の記録 |
| 費用・成果 | 導入費だけでなく教育・保守費はいくらか。効果の見込みは何を根拠にしたか | 見積書、現行業務の費用、効果の試算条件 |
| 情報管理 | 顧客情報を誰が扱い、障害時にどう対応するか | 情報管理・システム担当者、契約条件、社内規程 |
| 代替案 | 全店一斉導入でなければ目的を達成できないか | 部分導入の可否、現状継続の負担、元に戻す条件 |
ここでは、「すでに資料で確認済み」「特定の担当者は知っているが審査で未共有」「まだ誰も確認していない」を分けます。たとえば情報管理欄に「問題なし」と書かれていても、何を調べた結果なのかが不明なら、判断の根拠にはなりません。
また、異なる部署の人が参加していても、全員が同じ提案書の期待効果だけを見ていれば、資料の偏りは解消しません。どの立場の人がいるかと、必要な材料があるかを別々に確かめることが重要です。
不足している情報を補い、企画審査の判断につなげる
ここからは研究で見られた傾向を参考にした実務上の提案です。これらの手順を取れば、どんな企画でも判断が改善すると保証するものではありません。
- 会議前に各自の情報を整理する。賛否とその理由だけでなく、「自分が資料で確認したこと」「ほかの人には伝わっていないと思うこと」「担当外で確認が必要なこと」を短く書き出してもらいます。全員が知る情報の繰り返しにならないようにします。
- 情報の不足を具体的な問いにする。「現場の視点が足りない」だけで終わらせず、「二つの受付方法を併用したとき、店員の確認作業は増えるか」といった、判断に影響する問いを作ります。
- 必要な担当者に、確認事項を絞って聞く。店舗担当者に作業上の問題を聞き、情報管理担当者に顧客データの扱いを確かめます。書面で確認できるなら全員を会議に加える必要はありません。機密情報や決裁権限は社内規程に従います。
- 確認結果を案の比較に使う。全店舗へ一斉に導入する案、一部店舗で試す案、今回は見送る案について、顧客・運用・費用・情報管理を同じ基準で比べます。短い試行だけでは、全店舗で生じる障害を確認できない場合もあります。
- 決裁・追加確認・見送りの条件を分ける。必要な条件がそろっていれば採用を検討し、重要な情報が不足していれば、担当者と確認期限を決めます。安全や法令上必須の条件を満たしていないなら、賛成が多くてもそのまま承認しません。
会議での伝え方は、たとえば次のようにできます。これは説明用の仮の会話例です。
「予約しやすくなるという狙いには賛成が多いですね。ただ、予約が重複したときの店舗での対応と、顧客情報の管理はまだ確認できていません。店舗担当者と情報管理担当者に必要な条件を聞き、一斉導入案と一部導入案を同じ基準で比較してから、決裁しませんか」
会議で異論を出しにくい状況の仕組みについては、集団浅慮の解説も参考になります。ただ、今回の審査で目指すのは異論の数を増やすことではありません。新たに分かったこと、まだ不明なこと、それらによって採用案や条件がどう変わるのかを、決裁の記録に残すことが大切です。
参考文献・出典
- Stasser, G., & Titus, W.(1985)「Pooling of Unshared Information in Group Decision Making: Biased Information Sampling During Discussion」Journal of Personality and Social Psychology, 48(6), 1467–1478。大学生の4人グループによる候補者選びで、共有情報と個人だけが持つ情報の議論・選択への影響。大学公開の原著の方法・結果を確認。
- Schulz-Hardt, S., Brodbeck, F. C., Mojzisch, A., Kerschreiter, R., & Frey, D.(2006)「Group Decision Making in Hidden Profile Situations: Dissent as a Facilitator for Decision Quality」Journal of Personality and Social Psychology, 91(6), 1080–1093。3人組135グループの選考課題で、議論前の意見の違いと判断の正確さの関係。大学公開の論文要旨を確認。
- Lu, L., Yuan, Y. C., & McLeod, P. L.(2012)「Twenty-Five Years of Hidden Profiles in Group Decision Making: A Meta-Analysis」Personality and Social Psychology Review, 16(1), 54–75。65研究・3,189グループの統合分析による、共有情報の偏り、独自情報の共有と判断の質との関係、および適用条件の違い。出版社掲載の要旨を確認。