バイスタンダー効果とは?人が多い場面で援助行動はどう変わるか

Psychology Laws 編集部

会議中に問題が起きても、「誰かが言うだろう」と全員が様子を見る。障害通知が大勢のチャットに届いても、「担当者が対応するはず」と思って誰も動かない。人が多い場面では、こうしたことが起こる場合があります。

バイスタンダー効果(傍観者効果)とは、援助や対応が必要な場面で、ほかにも人がいると、一人ひとりが行動する確率や行動までの速さが低下することがある現象です。ただし、「人が多いほど誰も助けなくなる」という単純な法則ではありません。研究全体では傍観者による抑制効果が確認されていますが、危険が明確な場面では効果が弱くなることがあり、実際の公共空間では複数の人が援助する例も多く確認されています。

バイスタンダー効果とは 意味と仕組み

英語では bystander effect と呼ばれ、日本語では「傍観者効果」とも呼ばれます。研究の中心は、周囲にほかの人がいることが、個人の援助行動にどう影響するかです。

代表的な説明の一つが責任の分散です。自分しか気づいていないと思えば「自分が対応しなければ」と感じやすい一方、何人も同じ状況を知っていると思うと、「ほかの誰かが動くだろう」と一人ひとりの責任感が薄くなる可能性があります。

もう一つ重要なのが、周囲の反応を見て状況を解釈する働きです。何か異常が起きていても、周囲の人が平然としていると、「自分が大げさに考えているだけかもしれない」「緊急ではないのかもしれない」と判断することがあります。曖昧な場面では、他者の無反応そのものが判断材料になるわけです。

そのため、バイスタンダー効果を「冷たい人が増える現象」と理解するのは適切ではありません。古典研究でも、行動しなかった参加者が無関心だったというより、どう対応するか迷っていたことが示されています。Darley & Latané(1968)

キティ・ジェノヴィーズ事件の「38人が見て誰も助けなかった」は事実として扱わない

バイスタンダー効果は、1964年にニューヨークで起きたキティ・ジェノヴィーズ殺害事件と結びつけて紹介されることがあります。長く、「38人が事件を目撃したのに、誰も警察へ連絡せず助けなかった」という物語が広まりました。

しかし、Manning、Levine、Collinsが2007年に史料を再検討したところ、38人の目撃者がいたこと、全員が事件を目撃したこと、全員が何もしなかったことを裏づける証拠はないと結論づけています。Manningら(2007)

この事件についての有名な物語と、数十年にわたるバイスタンダー研究の結果は分けて考える必要があります。事件の語られ方に問題があっても、傍観者の存在が個人の援助行動に影響するという実験研究まで否定されるわけではありません。

研究で分かっていること

古典研究では、周囲にほかの人がいると個人が援助する割合や速さが低下しました。一方、その後のメタ分析と実際の公共空間の観察研究からは、状況によって効果の大きさが変わることも分かっています。

ほかにも聞いている人がいると思うと、発作の通報が遅くなった

DarleyとLatanéは1968年、大学生が個室からインターホンで話す状況を作り、その途中で別の参加者が発作を起こしたように聞こえる場面を設定しました。実際には発作の音声は録音されたものでした。

参加者は、自分だけがその人の声を聞いていると思う条件、ほかに1人の傍観者も聞いていると思う条件、ほかに4人の傍観者も聞いていると思う条件に置かれました。

発作の音声が終わるまでに助けを求めに動いた割合は、自分しか聞いていないと思った条件で85%、ほかに1人いると思った条件で62%、ほかに4人いると思った条件で31%でした。周囲に対応できる人が多いと信じるほど、個人が行動する割合と速さが低下しました。Darley & Latané(1968)

この実験では参加者同士は直接顔を合わせておらず、ほかの人が実際に何をしているかを見ることもできませんでした。それでも「ほかにも対応できる人がいる」と考えるだけで行動が変わったことから、研究者らは責任の分散を重要な説明として提示しました。

周囲が動かないと、異常そのものを「緊急ではない」と解釈することがある

LatanéとDarleyは同じ1968年、別の実験で、質問票に答えている部屋へ煙が入ってくる状況を作りました。

一人で部屋にいた参加者では75%が煙を報告しました。一方、煙を無視するよう指示された2人の実験協力者と一緒にいた参加者では、報告したのは10%でした。また、事情を知らない参加者3人が同じ部屋にいた条件では、煙を報告したのは38%のグループでした。Latané & Darley(1968)

この研究では、周囲の人が平然としていることで、参加者が「煙は危険ではないのかもしれない」と状況を解釈しやすくなったと考えられました。つまり、人が多いことで責任だけが薄れるのではなく、周囲の反応によって「そもそも対応が必要な状況か」という判断まで変わることがあります。

研究全体では傍観者効果が確認されるが、危険な場面では弱くなる

Fischerらは2011年、1960年代から2010年までのバイスタンダー研究をメタ分析しました。7,700人を超える参加者、105の独立した効果量をまとめた結果、全体としては、ほかの傍観者がいると個人の援助行動が抑えられる傾向が確認されました。Fischerら(2011)

ただし、効果の強さは同じではありませんでした。危険性が高いと知覚される状況、加害者がいる状況、介入に身体的な負担が伴う状況では、通常のバイスタンダー効果が弱くなりました。さらに、周囲の人が介入する本人にとって身体的な支えになり得る一部の状況では、傍観者の存在が援助を抑えない場合も確認されました。

研究全体から言えるのは、「人が多ければ必ず助けなくなる」ではなく、傍観者の存在は平均すると個人の援助を抑えるが、その大きさと方向は状況によって変わるということです。

実際の公共空間では、約9割の対人衝突で誰かが介入していた

Philpotらは2020年、英国、オランダ、南アフリカの公共空間で監視カメラに記録された219件の対人衝突を分析しました。

その結果、10件中9件ほどの衝突で、少なくとも1人の傍観者が何らかの援助行動を行っており、多くの場合は複数人が介入していました。また、その場にいる傍観者が多いほど、「少なくとも誰か1人が介入する確率」は高くなっていました。Philpotら(2020)

これは古典的なバイスタンダー効果と矛盾する結果ではありません。古典研究の多くは一人ひとりが援助する確率を調べています。一方、この研究は被害を受けた側から見て集団の中で少なくとも誰かが助けるかを調べています。個人の援助確率が下がっても、人数そのものが増えれば、集団全体として誰かが行動する可能性は高まることがあります。

また、この研究は公共空間で起きた対人衝突を扱っています。病気、事故、職場のトラブルなど、あらゆる種類の緊急事態で同じ結果になると考えることはできません。

仕事での具体例と活かし方

仕事でバイスタンダー効果を参考にするなら、「周囲の人は無責任だ」と考えるより、誰が最初に何をするか分かる状態を作ることが役立ちます。以下は研究結果を職場へ応用するための実践的な考え方です。

「誰か確認してください」ではなく、担当を明確にする

説明用の例です。サービス障害の通知が20人のチャットへ届いたとします。

「誰か状況を確認してください」とだけ書くと、自分以外の誰かが対応すると考える余地が残ります。そこで、必要な役割を明確にします。

  • 「佐藤さんはエラーログを確認してください」
  • 「田中さんは顧客影響を確認してください」
  • 「私は責任者への連絡をします」

これは「名前を呼べば必ず動く」という実験結果ではありません。責任の分散という研究知見を踏まえ、職場で担当の曖昧さを減らすための運用上の工夫です。

周囲が静かでも、「問題なし」と判断しない

煙の実験が示したように、曖昧な状況では他人の無反応が自分の判断に影響することがあります。

たとえば会議で重要な数値の誤りに気づいても、誰も指摘していないと「自分の理解が間違っているのかもしれない」と黙ることがあります。この場合は、断定せずに「この数字は前月比でしょうか。念のため確認したいです」と事実確認を始める方法があります。

周囲が動いていないことと、問題が存在しないことは同じではありません。

事故・障害・ハラスメント対応は、最初の行動を事前に決める

緊急時にその場で「誰が対応するか」を考えると、責任が曖昧になりやすくなります。そこで、職場では事故、システム障害、顧客トラブル、相談案件などについて、最初の連絡先や担当役割をあらかじめ決めておく方法があります。

たとえば、「重大障害を確認した人は当番責任者へ連絡する」「安全上の問題を見つけたら、この窓口へ報告する」のように、最初の一歩を具体化します。

実際の身体的な危険や犯罪の可能性がある場面では、自分で無理に介入することより、まず自身と周囲の安全を確保し、適切な緊急対応先へ連絡することが優先されます。

「誰も動かなかった」を個人の性格だけで説明しない

問題が起きた後に、「なぜ誰も言わなかったのか」「みんな無責任だった」と個人の性格だけで原因を説明すると、同じ状況が繰り返される可能性があります。

代わりに、次の点を確認します。

  1. 誰が対応するか明確だったか。
  2. 問題だと判断できる基準があったか。
  3. 最初の報告先が分かっていたか。
  4. 周囲が動かないことを「問題なし」のサインとして受け取る状況になっていなかったか。

バイスタンダー効果は、「人が多いと誰も助けない」という法則ではありません。ほかに対応できる人がいることで、一人ひとりの責任感や状況判断が変わり、個人の援助が遅れる場合がある現象です。一方、危険が明確な場面では効果が弱くなることがあり、実際の公共空間では複数の人が援助する例も多く確認されています。仕事では、傍観者を責めるより、担当者・判断基準・最初の行動を明確にし、「誰かがやるだろう」が起こりにくい仕組みを作ることが重要です。

参考文献・出典