毎年のキャンペーンを惰性で続けていない?継続する理由を点検する
毎年同じ時期に行ってきたキャンペーンが、今年も当然のように計画に入っている。そんなときは「前年も実施したから」ではなく、今年の顧客に必要な内容か、実施によって増える成果があるか、その成果が費用に見合うかを確かめてから継続を決めます。
続けること自体が悪いわけではありません。毎年楽しみにしている顧客がいたり、以前の制作物を再利用できたりするなら、それも今年の判断材料になります。ただし、期間中に売上があったというだけでは、キャンペーンをしなくても発生した売上と区別できません。
「毎年やっているから」を継続理由にしやすいのはなぜか
例えば、架空の雑貨店で秋の割引キャンペーンが恒例になっているとします。前年の広告画像や店頭掲示物が残っており、社内では「去年も好評だった」と話されています。一方、今年の顧客が何を買いたいか、値引き後の利益はいくらだったか、実施しない場合と比べてどうだったかは、まだ確認していません。これは心理の仕組みを説明するための仮の場面です。
この状況では、続けることが通常の選択になり、中止や変更だけに説明が求められる場合があります。ただし、続ける理由には実際の顧客需要や手続きの負担もあります。前年どおりの行動を見ただけで、特定の心理が原因だと断定しないことが大切です。
現状の案を優先しやすい心理
SamuelsonとZeckhauser(1988)は、投資などの選択について、同じ候補を中立に提示する場合と、そのうち一つを「現在の状態」として提示する場合を比べました。経営や公共政策を学ぶ学生など486人が参加した質問紙実験では、現状として示された案を選ぶ人が増える傾向がありました。さらに、健康保険や退職後の資産配分の実際の選択データも検討しています。
効果はすべての条件で同じではなく、もともと強い好みがある場合は現状の影響が弱まり、選択肢が増えると相対的な影響が強まる傾向が報告されています。研究で検証されたのは選択肢の示し方と意思決定であり、毎年の販促企画の実施判断そのものではありません。仕事への応用としては、前年と同じ案だけを最初から既定路線にせず、今年の条件で改めて比較することが考えられます。
前年の費用や労力を惜しむ心理
「準備に時間をかけた」「前年に広告制作へお金を使った」という理由も継続判断に影響する可能性があります。すでに回収できない支出を、これからの選択でも重く見てしまうことはサンクコスト効果として研究されています。
ArkesとBlumer(1985)は、劇場の年間チケットを購入した人に、通常価格と二種類の割引価格を割り当てる現場実験を行いました。分析対象54人では、通常価格で買った人の方が、シーズン前半5公演でチケットを多く使いましたが、後半5公演では価格群による明確な差が見られませんでした。
観劇と企業の販促判断は同じではありません。ただ、過去の支払いがその後の行動に関わり得ること、しかも影響が見られない条件もあることは分かります。前年の制作費はすでに支払ったお金ですが、作成済みの広告素材を今年も使えて新たな制作費が減るなら、今年節約できる費用は継続の正当な材料です。過去の支出額と今年の負担を分けて考えます。
今年もキャンペーンを続ける前に確かめたいこと
今年の顧客にとっても必要か
前年に買った顧客が、何を理由に来店・購入したかを確かめます。安く買いたかったのか、新商品を知りたかったのか、季節の買い替えに便利だったのかによって、今年の企画に必要な要素が違います。問い合わせ、購入商品、購入後の意見、常連客の要望などを確かめます。
今年は価格、競合、商品、顧客の事情が変わっているかもしれません。逆に、恒例企画を楽しみにしている顧客がいるなら、取りやめた場合の影響も検討します。好意的な数件の声だけで全顧客の希望と決めず、対象とする顧客層や確認できた範囲を示します。
キャンペーンによって増えた購入なのか
「期間中に200件売れた」ことと「キャンペーンがあったために200件売れた」ことは違います。実施しなくても、季節需要や通常の広告、商品発売などによって購入された分があるかもしれません。前年同時期の売上だけを比べても、今年の客数や競合状況が違えば、増減の原因を決められません。
比較する考え方の参考として、Google 広告の公式ヘルプは、広告を見た群と見なかった比較群で購入などの差を測る「コンバージョンリフト」を説明しています。これは広告に関する測定方法であり、すべての企業が利用できる機能ではなく、年次の値引き企画自体を直接検証した研究でもありません。
店舗や顧客へのキャンペーンでも、同じ時期の比較可能な顧客群や地域で、実施条件を変えて結果を見る方法が考えられます。顧客に不公平な扱いにならないか、運用できるかを確かめ、十分な比較ができなければ効果の推定に不確かさが残ると明記します。
売上だけでなく、今年必要な費用と採算はどうか
値引き後に残る利益、広告費、配布物、スタッフの追加作業、景品や発送の費用などを確認します。売上や注文数が増えても、値引きと費用で利益が減る場合はあります。一方、キャンペーンをきっかけに新規顧客が継続して利用するなら、その価値も判断材料になり得ます。継続利用が確認できていない段階で、将来の売上を確定額として加えないようにします。
売れた件数だけでは判断できない|仮の比較例
次は、対象顧客の構成や期間が比較可能だったと仮定した説明用の数値です。実在する店舗の成績でも研究の実験結果でもありません。
| 項目 | キャンペーンあり | キャンペーンなし |
|---|---|---|
| 対象顧客 | 1,000人 | 1,000人 |
| 購入件数 | 100件 | 80件 |
| 1件当たり利益(値引き・変動費控除後) | 1,200円 | 1,500円 |
| 企画固有の制作・運用費 | 30,000円 | 0円 |
| 試算上の利益合計 | 90,000円 | 120,000円 |
キャンペーンありでは購入件数が20件多くなります。しかし、100件×1,200円-30,000円=90,000円に対し、なしでは80件×1,500円=120,000円となり、この仮の条件ではキャンペーンありの利益が30,000円少なくなります。
この計算だけでキャンペーンをやめるべきだとは言えません。比較した顧客が本当に同等か、数の違いが偶然ではないか、購入後に再び利用する人が増えたかなどは、この表では分かりません。毎年のキャンペーンの評価では、期間中の売上、実施しなかった場合との差として確認できる範囲、追加費用、将来の影響を別々に示すことが必要です。
継続・変更・見送りを、どう決めて来年に残すか
前年どおりの実施と全面中止の二択にせず、今年確認できた条件から選択肢を比べます。以下は研究を参考にした実務上の提案であり、この手順が必ず利益を改善することを研究が直接検証したわけではありません。
| 確認できた状況 | 考えられる選択 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 顧客の需要があり採算も見込める | 目的を明確にして継続 | 企画による追加の購入や利益 |
| 一部の顧客には必要だが負担が大きい | 対象・商品・期間を絞って試す | 必要な人に届き、費用に見合うか |
| 需要や採算の根拠が弱い | 一部を見送り別の施策と比較 | 中止による顧客への影響と代替策の結果 |
会議で「毎年やっているから今年も」と言われたら、例えばこう確認できます。これは仮の会話例です。
「昨年実施したことは分かっています。今年も続ける理由を確認したいです。どの顧客に何を届ける企画なのか、値引きや運用費を差し引いて何が残るのかを見ましょう。対象を絞る案や見送る案も同じ条件で比べませんか」
実施が決まったら、開始前に対象顧客、目的、予算上限、比較期間、主な成果指標、続ける・変える・やめる条件を短く記録します。成果が分かった後に都合のよい指標へ切り替えず、追加で見つけた傾向は別の確認事項として残します。来年の販促カレンダーには「自動継続」ではなく「継続判断日」を入れる方法もあります。
過去に続けたこと自体が今年の価値を決めるわけではありません。毎年行う理由が、顧客にとっての価値と今後の費用・成果で説明できるかを、年ごとに確かめます。
参考文献・出典
- Samuelson, W., & Zeckhauser, R.(1988)「Status Quo Bias in Decision Making」Journal of Risk and Uncertainty, 1, 7–59。現状と示された案と中立に示された案の選択比較、好みの強さや候補数による差。大学公開の原著本文で方法・結果を確認。
- Arkes, H. R., & Blumer, C.(1985)「The Psychology of Sunk Cost」Organizational Behavior and Human Decision Processes, 35(1), 124–140。劇場の年間チケットを割引価格と通常価格で購入した人の、その後の観劇行動。大学公開の原著本文で前半・後半の違いを確認。
- Google 広告 ヘルプ「About Conversion Lift」。広告を見た群と見ない比較群によって、追加の購入などを測る公式説明。公式資料の対象条件と方法を確認。