グラフの縦軸で成果が大きく見える|報告資料の表現を点検する

マーケティング・集客
ビジネススクロール編集

月次報告のグラフを見ると、成果が大きく伸びたように感じるのに、実数を確かめると増加は小さかった。そんなときは、縦軸がどの数値から始まっているか、何と何を比較しているかを確認します。同じ数字でも、目盛りの取り方によって差が大きくも小さくも見えるからです。

ただし、縦軸を必ずゼロから始めればよいわけではありません。棒の長さで数量を比べる棒グラフと、細かな変動を読む折れ線グラフでは注意点が違います。報告をする人も受ける人も、見た目の勢い、実際の増減、成果としての評価を分けて考えることが大切です。

縦軸を途中から始めると、成果の差がどう見えるか

例えば、あるチームへの問い合わせが前月100件から今月110件に増えたとします。これは説明用の仮の数値で、実際の会社の成果ではありません。

数値 前月 今月
問い合わせ件数 100件 110件
前月からの変化 基準 10件増・前月比10%増

この2本の棒を縦軸0件から描けば、棒の高さはそれぞれ100と110に対応します。ところが、縦軸95件から描くと、表示された棒の長さは95件を超える部分の5と15です。画面に見える棒の高さは3倍になりますが、問い合わせの実数は100件と110件で、比率は1.1倍です。

縦軸をよく読めば気づける違いでも、会議で短時間だけ見る資料では、棒の長さから「成果が何倍にもなった」と感じる場合があります。だからといって作成者が意図して誇張したとは限りません。目盛りの設定をそのまま使った、細かな変化を見せたかったなど、実際の事情も確認する必要があります。

棒グラフの差を大きく感じる現象は実験でも確認されている

Yangら(2021)は5つの研究で、縦軸を途中から始めた棒グラフと、そうでない棒グラフを使い、図に示された数量の差をどう判断するかを調べました。縦軸を切り取ったグラフでは差が大きく受け取られやすく、全研究を通じて83.5%の参加者にその傾向が見られました。切り取りの影響を教えられても、その効果は弱まるだけで完全にはなくなりませんでした。

この結果は棒グラフでの数量差の知覚を調べたもので、特定の営業資料を見た人が必ず誤った事業判断をする、という意味ではありません。

折れ線グラフでは異なる結果もあり、ゼロが常に正解とは限らない

Correllら(2020)は、さまざまな形式のグラフで縦軸を切り取ることと、表示された差の大きさの受け止め方を調べました。切り取りを明示する工夫をしても印象への影響が残る場合がある一方、折れ線グラフでは細かな変化を読みやすくするために、ゼロ以外から始めることが役立つ場面もあると指摘しています。

一方、Driessenら(2022)は、架空の鳥の個体数の増加を示す折れ線グラフについて、縦軸の始点と文章の文脈を変えた実験を行いました。分析対象247人のデータでは、関連する条件を考慮した主要な分析において、縦軸の切り取りによる評価や増加率推定への明確な影響は確認されず、評価には文章の文脈が強く関係していました。

棒グラフの実験結果をすべての折れ線グラフに当てはめることはできません。見かけの変化が誤解につながるかは、図の種類と、読み手にどの判断をしてほしいかによっても変わります。

会議や報告資料で、縦軸のどこを確かめるか

「成果が大きく改善しました」と説明された場合でも、まず事実と見た目の印象を分け、次の項目を確認します。

  1. 縦軸の始点と終点。 棒グラフなら棒が0から伸びているか。途中から始まる場合、棒の高さの比率が実数の比率と違っていないかを確かめます。
  2. 目盛りと単位。 縦軸は件数、円、割合のどれか。例えば80%から85%なら5ポイント増であり、「5%増」と同じ意味ではありません。
  3. 何を比べる図か。 部門ごとの件数・金額を比較したいのか、週ごとの細かな上下を見たいのか。数量比較と変化の観察では、棒グラフと折れ線グラフの適切な使い方が異なります。
  4. 複数のグラフの尺度。 部門Aと部門Bなどを別々に並べたとき、片方だけ縦軸が狭く設定され、より大きく伸びたように見えないか。
  5. 実際の差と評価の基準。 前月100件、今月110件なら「10件・10%増」です。その増加が十分かどうかは、目標値、必要な費用、業務の状況など、図とは別の情報が必要です。

比較する期間や集計対象が違う場合はそこも確かめます。ただし、数字の集計自体が正しいかと、同じ数字をどう図にしているかは別の問題です。ここでは、縦軸の表示によって結論が大きく見えすぎていないかを確かめます。

報告する目的に合わせて、どう描き直すか

英国の国家統計局(ONS)はグラフの軸に関する公式指針で、棒グラフや面グラフは数値軸をゼロから始める一方、折れ線グラフや散布図では、細かな変動を読み取るために軸を途中から始める場合があると説明しています。比較する複数の図で、できるだけ目盛りをそろえることも勧めています。

仕事の資料での使い分けを、仮の例で整理すると次のようになります。これは公的ガイドと心理学の研究を参考にした実務上の提案であり、この表の方法で判断ミスが減ると直接検証されたわけではありません。

伝えたいこと 考えられる図 添えておきたい情報
2か月の問い合わせ件数の違い 縦軸0件からの棒グラフ 100件と110件、10件・10%増
毎週の小さな上下の変化 必要な範囲を示す折れ線グラフ 縦軸の始点、単位、全体の水準
複数部門の推移を比べる 尺度をそろえた折れ線グラフ 比較期間、実数、共通の目盛り

折れ線グラフで軸を縮める場合には、何件から表示しているか読み取れるようにし、なぜ細かな変化を強調したかを説明します。ただし、Correllらの研究によれば、切り取りを明示しただけでは印象への影響を完全には防げない場合があります。全体の水準が分かる図や実数を併記する方法も考えられます。

提出前と会議中に、何をどう伝えるか

例えば、上司が急な右肩上がりの図を見て「かなり伸びたのですね」と言ったとします。相手が数値を読めないと決めつけず、次のように事実を共有する方法が考えられます。

「グラフでは大きく見えますが、縦軸を途中から表示しています。前月100件、今月110件なので、増加は10件・10%です。この結果が目標に対して十分かは別に確認します」

これは仮の会話例で、研究で検証された言い方ではありません。報告資料を提出する側なら、次の順序で点検できます。

  1. 元の数値を先に書き出す。 比較前と比較後の値、差、増減率を確認し、単位を付けます。
  2. 棒グラフをゼロから描き直す。 元の図と比べ、見た目だけで過大な印象になっていないか確認します。折れ線グラフについては、見せたい変動と全体の水準の両方が伝わるかを見ます。
  3. 受け手に読み取れた差を尋ねる。 「何件増えたと読みましたか」と短く確かめ、想定とずれていたら、目盛り、数値ラベル、補足の文章を調整します。これは理解を確かめるための提案であり、必ず認識が一致する方法ではありません。
  4. 成果の評価基準を別に示す。 例えば「10件増(10%増)だが、仮に設定した目標150件には届いていない」のように、実数と判断基準を並べます。施策が増加の原因だったかも、グラフの形だけでは判断できません。

縦軸をゼロ以外から始めること自体を一律に悪いとするのではなく、見た目の差が実数とどう対応し、その差をどの目的で伝えているかを確かめることが重要です。数字が変わらなくても印象が変わると知っておけば、成果を過大にも過小にも評価しない報告につながります。

参考文献・出典

  • Yang, B. W., Vargas Restrepo, C., Stanley, M. L., & Marsh, E. J.(2021)「Truncating Bar Graphs Persistently Misleads Viewers」Journal of Applied Research in Memory and Cognition, 10(2), 298–311。縦軸を切り取った棒グラフでの差の判断、警告の影響。大学・出版社の研究要旨まで確認。
  • Correll, M., Bertini, E., & Franconeri, S.(2020)「Truncating the Y-Axis: Threat or Menace?」CHI 2020, 1–12。図の種類ごとの縦軸切り取りの影響、切り取りの表示方法。著者公開の論文本文と研究機関情報を確認。
  • Driessen, J. E. P., Vos, D. A. C., Smeets, I., & Albers, C. J.(2022)「Misleading graphs in context: Less misleading than expected」PLOS ONE, 17(6), e0265823。247人を対象に、縦軸と文章の文脈を変えた折れ線グラフの実験。原著本文で方法・結果・限界を確認。
  • Office for National Statistics(発表年未確認)「Chart details: Axes and gridlines」。棒グラフと折れ線グラフの軸の扱い、比較図の尺度の公式ガイド。英国国家統計局の公開ページを確認。