他社やSNSの評価が気になって企画を変えてしまう|顧客の声に立ち返る

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競合企業の新サービスがSNSで絶賛されると、自社で進めている企画も変えた方がよいのでは、と不安になることがあります。しかし、他社への高評価やSNSでの反応だけを理由に、進行中の企画を変える必要はありません。その話題を「顧客が何を求めているかを確かめるきっかけ」にして、自社が向き合う顧客の声と行動を照合することが大切です。

反対に、SNSの声を軽く見てよいわけでもありません。そこに、自社が見落としていた不便や、新しい利用条件の変化が表れている場合もあります。重要なのは、どの人の評価なのか、顧客のどんな問題を示しているのか、企画の何を変える理由になるのかを分けて考えることです。

他社の評判が高いと、なぜ自社の企画を変えたくなるのか

例えば、架空の請求書作成サービスを提供する会社が、小規模事業者向けに入力手順を簡単にする企画を進めていたとします。ところが競合企業が新しいAI機能を発表し、SNSで「これが次の標準」「すごい」といった反応が広がりました。担当者は「うちもAI機能を優先しないと遅れるのでは」と感じます。

これは心理を説明するための仮の場面です。競合の新機能が実際に役立つか、投稿した人が自社の想定顧客と同じか、入力手順の改善をやめるべきかは、その時点では分かりません。それでも、他の人の高評価が目に入ると、企画の優先順位を急いで動かしたくなる場合があります。

人は自分だけでは確かな判断ができないとき、他の人の行動や評価を手がかりにすることがあります。関連する心理は社会的証明の解説でも紹介されています。ただし、他社の評価を気にしているというだけで、担当者に特定の心理効果が働いていると断定することはできません。競合が先行しているという実際の事業上の理由もあり得ます。

他人の評価が、次の人の評価に影響した実験

Muchnik・Aral・Taylor(2013)は、ニュース集約サイトのコメントに付く評価を使った大規模な無作為化実験で、初期の肯定的・否定的な評価が、その後の利用者の評価をどう変えるか調べました。研究者が最初に肯定的な評価を加えたコメントでは、後から肯定的な評価を受ける確率が32%高まり、最終的な評価も平均25%高くなりました。一方、否定的な評価には修正する方向の反応も見られ、影響は正負で同じではなく、話題などの条件によっても違いました。

この実験はSNS上のすべての商品評価や、企業の企画会議を調べたものではありません。それでも、オンラインで見えている高評価は、それぞれの人が独立して判断した結果だけとは限らないことを示しています。高評価を企画変更の根拠にするときは、その評価が何を表すのか確かめる必要があります。

Salganik・Dodds・Watts(2006)の実験では、14,341人が参加する架空の音楽市場で、知らない曲を試聴・ダウンロードする際に、他の人のダウンロード状況を見られる場合と見られない場合を比べました。他人の選択が見える条件ほど曲ごとの人気の差が大きくなり、どの曲が成功するかも予測しにくくなりました。一方、独立して選ばれたときの人気から見た曲の品質にも一定の関係があり、人気がすべて偶然という結果ではありませんでした。

これも音楽の実験であり、競合企業の製品の良し悪しを直接示す研究ではありません。他社の人気を無視する理由ではなく、評判の大きさと、自社顧客にとっての必要性を別々に調べる理由になります。

SNSの大きな反応は、顧客全体の声なのか

目に入る投稿の数と、実際の顧客の人数は同じではありません。同じ人が何度も書いている場合、商品を買っていない人が感想を述べている場合、特定の用途を持つ人が集中的に発信している場合も考えられます。高評価が事実でも、自社の顧客全体の意見を表すとは限りません。

Pew Research Center(2021)は米国の成人Twitter利用者2,548人を対象に調査し、その一部が提供したアカウントの投稿も分析しました。2021年6〜9月の対象アカウントの投稿では、投稿量の多い上位25%の利用者が全投稿の97%を占めました。発言する人の数と発言量に、大きな偏りがあった例です。

この結果は当時の米国の成人Twitter利用者を対象にしたもので、日本のSNS全体や特定商品の購買層について同じ割合になるとは言えません。それでも、SNSで多く見える意見を、そのまま対象顧客の多数意見として扱うことには注意が必要です。

例えば「競合の新機能が話題」という情報だけでは、投稿者が実際に利用したのか、何を評価したのか、継続して使うのか、自社の顧客が同じ問題を抱えているのかは分かりません。まず、発信している人と自社が商品を届けたい人の違いを確かめます。

企画を変える前に、自社の顧客について何を確かめるか

元の企画は誰のどんな困りごとを解決するものだったか

先ほどの架空の請求書サービスなら、元の企画は「毎月の入力でつまずく小規模事業者が、必要な作業を終えやすくすること」でした。競合のAI機能への評価を見たときも、まずこの困りごとが解消されているか、優先順位を変えるほど事情が変わったかを確認します。

具体的には、対象顧客、普段の作業、起きている不便、影響の大きさ、現在の解決方法を整理します。競合の話題が自社の顧客にとっても重大なら、そこで初めて企画変更の候補になります。

SNSの評価を、確かめられる顧客の疑問に置き換える

「みんながAI機能を求めている」とまとめる前に、顧客に聞くことを具体化します。「いま請求書を作るとき、どこに時間がかかりますか」「最近困った場面を教えてください」「そのとき何を試しましたか」といった質問なら、機能名を先に与えず、実際の作業を聞けます。

一方で「AI機能が付いたら便利ですよね」とだけ尋ねると、顧客が何を解決したくて答えたのか分かりにくくなります。新機能の必要性を調べたいなら、「どの作業がどの程度変わるか」「導入の手間や費用が増えても利用したいか」も条件付きで確かめます。聞き取りの答えは顧客の経験についての情報であり、それだけで全顧客の需要の割合が分かるわけではありません。

英国政府の利用者調査の参加者募集ガイドでも、実際の利用者・将来利用する可能性のある人を対象にし、異なる状況の利用者を含めることや、募集方法による偏りに注意することを勧めています。自社のSNSを熱心に見ている人だけでなく、購入を見送った人、利用をやめた人、日常的に使っている人なども、確認したい問いに応じて対象にします。調査では必要な同意を取り、個人情報の扱いにも配慮します。

反応の多さと、実際の行動を照合する

問い合わせ・商談記録、導入時につまずいた作業、機能の利用状況、解約理由など、顧客が実際に経験したことも確かめます。数字が得られる場合は、対象期間と対象顧客をそろえて比較します。例えばAI機能を尋ねる問い合わせが増えたのか、入力手順の不満が依然として多いのかを別々に調べます。

ただし、問い合わせが少ない問題でも、特定の顧客には重大な場合があります。件数だけで切り捨てず、困る状況や影響の大きさも確認します。安全性や法令に関わる問題が示されている場合には、通常の企画変更の検討とは別に、早急な事実確認と適切な対応が必要です。

他社の評価と顧客の声が違うとき、どう判断するか

次は、競合の新機能が評判になった場面で使える実務上の確認表です。研究を参考に考えた判断の整理であり、この表の通りにすれば売上が伸びると直接検証されたものではありません。

確認できたこと まだ分からないこと 次に取る行動の例
競合への高評価がSNSで目立つ 誰のどんな用途に役立ったか、自社顧客にも必要か 評価の具体的内容を仮説にし、対象顧客へ確認する
自社の対象顧客から、同じ困りごとが繰り返し聞かれる どの解決方法が役立ち、費用や運用に合うか 既存企画との優先順位を比較し、小さく試す
対象顧客の不便が、元の企画でまだ解消できていない 競合をまねることが、その不便を解消するか 元の企画を維持・改善し、競合の案は別に検討する
重要な顧客条件が変わったことが確認できた 変更の影響範囲、必要な費用、未検証の前提 変更案と現行案を比較し、変更範囲・試行条件を決める

例えば、対象顧客は依然として請求書の入力方法に困っており、競合の新機能は別の業種での用途が中心と分かったなら、当初の改善を優先する理由があります。反対に、自社の対象顧客が新機能によって具体的な作業を省けると分かれば、試作や限定的な提供を検討する理由になります。いずれも仮の判断例です。

会議で焦って方針を変えないための進め方

競合の好評やSNSでの批判が話題になった会議では、最初から「まねるか、無視するか」の二択にしない方が、必要な確認を整理できます。

  1. 話題を一つの事実として記録する。 「競合の新機能への投稿が多い」と書き、評価した人、利用場面、確認できていない点を分けます。「顧客は全員これを望んでいる」と広げません。
  2. 元の企画の判断材料を並べ直す。 誰の何を解決するための企画か、どんな顧客の声や行動に基づいていたか、未解決の条件は何かを確認します。
  3. 必要な顧客に追加で聞く。 顧客層や利用経験が偏らないように対象を選び、実際の仕事の困りごとと新しい機能への必要性を別々に確かめます。調査で何を知りたいか、先に決めます。
  4. 選択肢を三つ以上置く。 「当初の企画を続ける」「新機能に関係する部分だけ小さく試す」「優先順位を正式に変える」を、顧客への価値・実現費用・期限・リスクで比べます。
  5. 次に判断する条件を残す。 例えば試作で対象顧客が問題を解決できるか、既存機能の改善を遅らせる負担に見合うかを確認し、その結果に応じて方針を見直す約束をします。

会議で「他社は評判がいい。こちらも今すぐ変更した方がいい」と言われたら、次のように返す方法があります。これは説明用の仮の会話例で、研究で効果が確かめられた言い回しではありません。

「競合の機能が評価されていることは確認します。ただ、いま取り組んでいる顧客の困りごとと同じかは、まだ分かりません。元の改善を止める前に、対象顧客がどの作業で困っているかを聞き直し、必要なら新機能の一部を試す形で比較したいです」

他社やSNSの評価は、市場で起きている変化に気づく材料です。ただし、自社の顧客が何を必要としているかを確かめる作業の代わりにはなりません。企画を変えるときも変えないときも、どの顧客の、どの問題に、どんな根拠で応えようとしているかを説明できる状態にします。

参考文献・出典

  • Muchnik, L., Aral, S., & Taylor, S. J.(2013)「Social Influence Bias: A Randomized Experiment」Science, 341(6146), 647–651。ニュース集約サイトのコメント評価を操作した無作為化実験。肯定的・否定的な初期評価による違い。PubMedの要旨と著者による説明を確認。
  • Salganik, M. J., Dodds, P. S., & Watts, D. J.(2006)「Experimental Study of Inequality and Unpredictability in an Artificial Cultural Market」Science, 311(5762), 854–856。他人の選択を見られる条件と独立した選択を比べた音楽市場実験。大学公開の原著本文と研究機関の要旨を確認。
  • McClain, C., Widjaya, R., Rivero, G., & Smith, A.(2021)「The Behaviors and Attitudes of U.S. Adults on Twitter」Pew Research Center。米国成人Twitter利用者の調査と一部アカウントの投稿分析。調査対象・期間と投稿量の偏りを公式レポートで確認。
  • UK Government, User research community(2026年9月更新)「Finding participants for user research」GOV.UK Service Manual。利用者調査の対象者を適切に選び、募集方法の偏りを考慮するための公式指針。公式ページを確認。