顧客インタビューの最初の質問が答えを誘導していない?聞き方を点検する

マーケティング・集客
Psychology Laws 編集部

顧客インタビューの最初に「新しい通知機能があれば便利ですよね」と聞くと、顧客が実際にどんな困りごとを抱えているかを聞く前に、こちらの考える解決策を示してしまいます。最初の質問では、評価してほしい機能や期待する答えを先に伝えず、顧客が最近どのように仕事を進めたかを聞くことから始めるのが一つの方法です。

ただし、少しでも具体的な言葉を使えば必ず誘導になるわけではありません。誰に何を確かめたいのかによって、必要な質問の詳しさは違います。大切なのは、顧客が自分で挙げた課題と、聞き手が先に示した論点とを区別して記録できることです。

最初の質問が、その後の答えを方向づけるのはなぜか

例えば、予約管理サービスを企画する担当者が、顧客の予約確認業務について知りたいとします。冒頭で「予約の連絡を自動化できたら助かりますよね」と聞けば、顧客は自動化について考えてから話し始めることになります。一方「直近の予約を受け付けたとき、確認の連絡はどのように進めましたか」なら、現在の行動から話してもらえます。

これは仕組みを説明するための架空のインタビュー例です。最初の聞き方だけで顧客の回答が必ず変わると確認した事例ではありません。ただ、質問に含まれる言葉や最初に考えた話題が、後の記憶や判断を方向づける場合があることは、心理学の研究で扱われています。

先に聞いた話題によって、後の評価が変わった実験

Strack・Martin・Schwarz(1988)は、人生全体への満足度を答える前に、交際の頻度など特定の生活領域について質問することで、回答がどう変わるかを2つの実験で調べました。独立した質問として続けて提示される条件では、先に尋ねた話題が後の全体評価に反映されやすい結果でした。しかし、二つの質問が同じ会話の流れとして理解される条件では、重複した話を避けようとする判断が働き、その影響が弱まりました。

つまり、最初にある質問は後で考える材料に影響し得ますが、どのような話の流れで聞くかによって結果は違います。関連する仕組みはプライミング効果の解説でも紹介されています。

さらにSchimmackとOishi(2005)は、先行研究の強い質問順効果を追試しましたが、研究1の225人では再現できませんでした。ほかの研究でも、質問の順番の影響は比較的小さく、普段から本人にとって重要な情報が生活満足度の判断に強く関係していました。「質問の順番を変えれば回答を大きく動かせる」という単純な結論にはできません。

質問の一語が、記憶した出来事の答えを変えた実験

LoftusとPalmer(1974)は、参加者に自動車事故の映像を見せ、車が衝突した速度を質問する2つの実験を行いました。衝突を強く表す動詞を使った質問では、穏やかな表現を使った場合より、推定速度が高くなりました。別の実験では1週間後に存在しなかった割れたガラスについて聞くと、強い表現の質問を受けた参加者ほど「見た」と回答する傾向がありました。

この研究は事故の記憶についての実験であり、顧客の製品に対する好みや購入意向を直接調べてはいません。しかし、聞き手が質問に付けた表現を、相手が答えを考える材料として取り入れる可能性を考えるうえで参考になります。

インタビューの冒頭で、何を点検するか

まず、作成した最初の質問をそのまま声に出して読みます。そして、質問の中に「こちらが期待する答え」や「まだ確かめていない前提」が入っていないかを探します。

最初の質問にある問題 誘導になり得る聞き方(仮) 確かめたい事実に戻した聞き方(仮)
よい評価を前提にする 「自動通知は便利ですよね?」 「最近、予約の確認連絡をどう進めましたか?」
問題があると決めつける 「確認作業でどれくらい困っていますか?」 「確認作業で時間がかかったり、困ったりした場面はありましたか?」
原因や解決策を先に示す 「手作業が多いせいでミスが起きますか?」 「最後に連絡の行き違いが起きたとき、何がありましたか?」
賛成か反対かだけを求める 「この機能があれば使いますか?」 「今は何を使い、どのように対応していますか?」

右側の聞き方がすべての場面で最適だという意味ではありません。例えば行き違いが一度も起きていない人に、最初から「最後に行き違いが起きたとき」と尋ねるのも前提を押し付けます。問題があるか自体が未確認なら、「最近の連絡で、うまく進んだ点や難しかった点はありましたか」と、両方の可能性を残します。

また、聞き手が自社製品の担当者だと、相手が気を遣って答える可能性もあります。ただし、「はい」と答えたことだけで本音ではないと決めつけず、実際の利用記録や具体的なエピソードと照合します。

聞き方を直す前に、何を確かめておくか

最初の質問が中立的かどうかは、知りたいことと結び付けて判断します。具体的には、次の三つを整理します。

  • 何を知りたいか。 現在の業務で困っている点を発見したいのか、既に提示した新機能の理解度を調べたいのかを分けます。前者で機能のよさを最初に聞くと、必要な情報が欠けるおそれがあります。後者では、機能を見せた後に評価を聞くこと自体は必要な場合があります。
  • 誰の経験か。 実際に予約の連絡をしている人と、導入費を承認する人では知っている事実が違います。役割と最近の担当経験を確かめてから、本人が直接経験したことを聞きます。
  • 回答を判断にどう使うか。 ある機能への好意的な発言から「顧客全体に需要がある」と結論づけないようにします。発言が自発的に出たのか、機能の説明や誘導的な質問の後で出たのかも記録します。

英国政府の利用者インタビューの公式ガイドも、始めは仕事や普段の行動についての一般的な質問で話しやすくし、その後は開かれた中立的な質問で具体的な体験を聞くことを勧めています。聞きたい項目をまとめた進行用の案内を事前に試し、参加者の発言に合わせて追加で尋ねる方法も紹介されています。これは利用者調査の実務指針であり、すべての顧客への効果を保証する実験結果ではありません。

最初の一問から、顧客の経験を聞く進め方

次は予約確認業務を調べる架空のインタビューを使った実務上の提案です。心理学研究と公式ガイドを参考にしていますが、この手順が顧客の回答を必ず正確にすると直接検証されたものではありません。

  1. 趣旨を伝え、同意を確かめる。 何を調べるか、どのくらい時間がかかるか、録音・メモをどう扱うかを説明します。「よい感想を集める場」ではなく、実際の経験を理解するための調査だと伝えます。
  2. 業務や最近の出来事から始める。 「普段はどのような予約を扱っていますか」「直近の予約では、確認連絡をどんな順番で進めましたか」と尋ねます。まだ困りごとの有無を決めつけません。
  3. 相手の言葉を使って詳しく聞く。 「確認に時間がかかる」という言葉が出たら、「それはどの場面でしたか」「そのとき何をしましたか」「毎回ですか、それとも特定の条件だけですか」と確かめます。質問に新しい原因を勝手に加えません。
  4. 反対の経験や、問題がない場合も確かめる。 「その作業がうまく進むのはどんなときですか」「特に困らなかったケースもありましたか」と尋ねます。困っていないという回答も、企画を見直す情報です。
  5. 商品や新機能への評価は分けて聞く。 顧客の現在の仕事を聞き終えた後で必要なら、機能を中立に説明して「どの場面に合いそうですか」「合わない場面はありますか」と聞きます。先に経験を聞いた記録と、提案後の感想を混ぜません。

例えばインタビュー中に顧客が「電話で確認しています」とだけ答えたなら、すぐ「手間ですよね」と返す代わりに「直近では何件ほど電話で確認しましたか」「そのやり方で困ることはありますか」と追加で聞けます。電話が役立っている理由が見つかれば、自動化すべき作業の範囲も変わるかもしれません。

すでに誘導的な質問をしていたら、記録をどう扱うか

既に最初に「この機能は便利ですよね」と聞いてしまった場合、後から質問を直すだけで、同じ面談の回答への影響がなくなるとは限りません。そこで「自発的に出た不便」と「こちらから機能名を出した後の評価」を分けて記録します。言い換えて聞き直した結果も、完全に独立した新しい回答だと決めつけません。

複数の顧客へインタビューする予定なら、次回からは話題を先に示さない導入を試し、何が自発的に語られたかを比較する方法があります。ただし、回答者の仕事や経験が異なれば発言の違いは質問文だけのせいとは言えません。重要な企画判断では、利用記録や問い合わせ、必要に応じた追加調査でも確かめます。

記録の見直しで「顧客が自ら挙げた課題は何か」「聞き手が最初に示した機能や問題は何か」「まだ分からない条件は何か」を整理すれば、賛成の数だけで企画を決めずに済みます。インタビューの最初の質問は、答えを予想どおりに引き出すためではなく、顧客の経験を知らないまま聞き始められる形にすることが大切です。

参考文献・出典