企画を選んだ理由が後から変わっている|当初の判断記録と照合する

企画・意思決定
Psychology Laws 編集部

企画を採用した数か月後、「この案を選んだのは費用が安かったからです」と報告されたものの、当初の議事録には別の理由が書かれていることがあります。「話が後から変わっているのでは」と感じても、すぐに誰かが都合よく理由を作り直したと決めつけるのは早計です。

まず、決定時点に残された比較資料・議事録・承認内容と、現在の説明を項目ごとに照合しましょう。 そのうえで、もともと重視していた理由、決定後に分かったこと、現在も採用し続ける理由を区別します。理由の変更そのものを禁じるのではなく、「当時そう判断した根拠」と「今そう判断する根拠」を混ぜないことが大切です。

選んだ理由を、後から違って思い出すことがあるのはなぜか

これは説明用の仮の場面です。ある会社が社員研修の提供方法について、録画配信とライブ配信を比較し、録画配信を採用しました。決裁時の資料には「勤務時間が異なる拠点でも受講しやすいこと」が主な理由として書かれています。費用面は比較が十分ではなく、制作に必要な時間も未確認のままでした。

ところが半年後、別の会議では「録画配信は安く運用できると分かっていたので選んだ」と説明されました。その間に、繰り返し配信するときの費用が判明していた可能性もあります。しかし、現在分かっている費用上の利点が、当時の採用理由だったかどうかは別の問題です。

選択後に、選んだ案の特徴を有利に思い出す研究

Mather、Shafir、Johnson(2000)は、大学生に採用候補者、交際相手、同居人など二つの選択肢から一方を選ぶか、どちらかを除くよう求め、別の課題を挟んで、それぞれの特徴がどちらの選択肢に属していたかを尋ねました。四つの選択場面で、選んだ側に良い特徴を結び付ける方向の記憶の偏りが見られ、選ばなかった側に悪い特徴を結び付ける傾向も一部で見られました。もともと提示された特徴を、違う候補のものとして思い出す誤りも含まれます(Matherら, 2000・原著)。

これは選択肢の特徴を思い出す実験であり、企業の担当者が企画の採用理由を意図的に変えると示した研究ではありません。ただし、後からの説明だけに頼ると、選ばなかった案の長所や採用案の不安材料が抜ける可能性を考える手がかりになります。

結果を知ると、当時の見通しも違って感じられる

FischhoffとBeyth(1975)は、米国大統領の訪問で起こり得る出来事について、事前に参加者が付けた予測確率と、訪問後に本人が思い出した予測確率を比較しました。実際に起きたと思っている出来事の確率は、当初の記録よりも高く思い出される傾向がありました。起きなかったと考える出来事の確率には、反対方向の変化も見られましたが、そちらは弱い傾向でした(Fischhoff・Beyth, 1975)。

また、Fischhoff(1975)は歴史上の出来事などの説明に、結末を知らせる条件と知らせない条件を設けて比較しました。結末を知ると、その結果が起こりそうだったと評価され、どの情報が重要だったかという判断も変わりました。参加者は結果を知ったことの影響を十分に自覚していない傾向がありました(Fischhoff, 1975・原著)。

これらも企業の議事録を比較する実験ではありません。ですが、成果を知った今の見方と、結果がまだ分からなかったときの判断とを区別する理由になります。結果を知った後に「最初から分かっていた」と感じる仕組みは、後知恵バイアスの解説でも詳しく紹介しています。

当初の採用理由は、どの記録で確認できるか

企画の採用理由を探すときは、現在の報告書を読み直す前に、決定が行われた日付に近い資料を集めます。特に、次の違いが重要です。

  • 最終的に承認された資料: 決裁書、稟議の承認版、決定事項を記した議事録です。「何を、どの条件で採用したか」の確認に使います。最新版へ上書きされている場合は、承認時点の版を探します。
  • 判断材料になった比較: 採用案と不採用案の長所・短所、費用見積もり、顧客の声、実施上の制約などです。いま好都合に見える特徴が、当時どの案に記されていたのかを確かめます。
  • 決定時点の未確認事項: 「運用費は試算中」「研修の完了率は未測定」などの記録です。後から良い結果が出ても、未確認だった情報を当初から確定していた扱いにはしません。
  • 決定後に増えた情報: 実施結果、追加の見積もり、現場からの報告、企画範囲の変更などです。いつ得られ、いつ判断に使われたかを確認します。
  • 発言と決定の違い: 会議で誰かが「費用も安そう」と発言しただけなのか、最終的にそれが採用の決め手となったのかは異なります。発言メモと承認された採用理由を混同しません。

議事録には会議中のすべての発言や考えが残っているわけではありません。記録に載っていないからといって、その理由を当時誰も考えていなかったとは言えません。決裁時の資料と関係者への確認を照らし合わせても分からない点は、「当初の採用理由としては確認できない」と記し、推測で穴埋めしないようにします。

当初の記録と現在の説明を並べると、何が分かるか

先ほどの録画研修の例で、記録が次のようになっていたとします。すべて説明用の仮の記録であり、実在する企業の決裁資料ではありません。

照合する項目 決定時に残っていた内容 半年後の説明と、確認する点
採用した主な理由 「各拠点が別々の時間に受講できる」を重視 「運用費が安いから選んだ」/当時の主な理由と一致するか確認する
費用の評価 制作工数と繰り返し配信の費用は未確認 半年間の運用費が集計された/今の継続理由には使えても、当時確認済みだったとは言えない
採用しなかった案 ライブ配信は質問できる利点があるが、拠点ごとの日程調整が難しい 「ライブ配信に利点はなかった」/当時認識していた利点が抜けていないか確かめる
決定時の不明点 録画制作にかかる時間と受講完了率は未測定 「問題なく運用できた」/実績として評価し、決定時の不明点を消さない

この例で、当初の決裁資料から確認できるのは、受講時間の柔軟さを優先して録画配信を選んだことです。半年後に費用面の利点が分かったのなら、それは現在の継続を支える新たな情報として記載できます。ただし、当時の主な理由が費用だったという説明をするには、別の当時の記録や関係者への確認が必要です。

逆に、後から費用が安いと判明したからといって、当時の採用判断が誤っていたとも言えません。当初は受講時間の制約が重要で、決定後に別の利点も分かった可能性があります。「理由の記録が変わったか」と「現在もその企画を続ける価値があるか」は分けて判断します。

説明が食い違ったとき、どう確認して更新するか

以下は先ほどの記憶研究を参考に、企画担当者が実行できるように考えた実務上の提案です。研究で、この手順により職場の記憶の誤りや企画の失敗が減ると直接検証されたものではありません。

  1. 承認された時点の資料を残して比較する。 決定日、当時の資料の版、選ばれた案、ほかの案、判断した人を確認します。最新の説明に合わせて古い決裁資料を書き換えず、必要なら変更履歴や追記を使います。
  2. 当時の「採用理由」と「検討中に出た発言」を区別する。 主な理由として正式に確認できるものと、会議で触れただけのものを分けます。理由の優先順位が記録されていないときは、後から順位を確定したかのように書かないようにします。
  3. 食い違った説明の経緯を聞く。 例えば「決裁資料では受講時間の柔軟さが主な理由で、費用は未確認となっています。今回、費用面が採用理由として説明されているのは、どの時点の確認結果によるものでしょうか」と尋ねます。記憶違い、説明の省略、後からの新情報、正式な方針変更など、可能性を分けて確かめます。
  4. 訂正と、現在の判断の更新を別々に記録する。 「当初は受講時間を理由に採用」「半年後の運用実績で費用面の利点を確認」のように、根拠が得られた日付を付けます。企画の目的・予算・対象が実質的に変わったなら、必要な承認を取り直すかも確認します。
  5. 次の企画では、比較と変更条件を短く残す。 決定日、採用案、検討した代替案、優先した理由、重視しなかった理由、未確認の前提、見直す条件、判断者を一枚の記録にしておきます。結果が出たら、その欄は残して実績と新しい判断を追記します。

資料と説明に食い違いがあっても、必要なのは「誰の記憶が間違っているか」という勝ち負けではありません。当時の判断の記録を守り、後から分かったことは後から分かったこととして加え、今後の判断は最新の条件で行うことです。これにより、採用の経緯を説明する仕事と、現在の企画を改善する仕事を混同せずに進められます。

参考文献・出典

  • Mather, M., Shafir, E., & Johnson, M. K. (2000). Misremembrance of Options Past: Source Monitoring and Choice. Psychological Science, 11(2), 132–138. — 採用候補者や同居人など二つの選択肢について、選択後の特徴の帰属を調べ、選んだ側に有利な記憶の偏りが見られた根拠。大学公開の原著で方法・結果を確認。
  • Fischhoff, B., & Beyth, R. (1975). I knew it would happen: Remembered probabilities of once-future things. Organizational Behavior and Human Performance, 13(1), 1–16. — 実際の出来事の前に記録した予測確率と、その後に思い出した確率を比較した研究。出版社の原著要旨を確認。
  • Fischhoff, B. (1975). Hindsight ≠ foresight: The effect of outcome knowledge on judgment under uncertainty. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 1(3), 288–299. — 結末の情報の有無を比較し、結果の見込みや当時の情報の重要さの評価が変化した根拠。大学公開の原著で実験条件・結果を確認。