一つ有望な企画が見つかったら調査を終えてよい?代替案を探す範囲

企画・意思決定
Psychology Laws 編集部

企画を考えているとき、有望な方法が一つ見つかると「これで進められそうだ」と感じ、ほかの方法を探すのが後回しになることがあります。時間も限られるため、いつまでも案を増やすわけにはいきません。

最初の有望案をすぐに採用する前に、同じ目的を別の方法で達成できないかを一度調べましょう。ただし、すべての案を探し尽くす必要はありません。 現状維持も含め、課題への対処の仕方が異なる候補を比較し、追加で調べても採用候補や判断が変わりそうにない段階で探索を終えます。残った候補の詳しい検証と、候補を探す作業は分けて進めるのがポイントです。

一つの企画が有望に見えると、ほかの案はなぜ見えにくくなるのか

説明用の仮の場面です。社内の問い合わせ対応に時間がかかっているため、企画担当者がAIチャットによる自動回答を提案されました。デモ画面は使いやすく、同じ質問にすぐ答えられそうです。担当者は導入費用と機能を詳しく調べ始めましたが、問い合わせが増える理由や、既存の案内ページを直す方法はまだ調べていません。

この段階で「AIチャットが役立ちそう」と判断すること自体は問題ではありません。しかし、有望な一つの方法を説明できることと、ほかの方法より今回の課題に合っていることは別です。最初の案の良い点を詳しく考えるほど、それ以外の解決方法を思い浮かべる機会が減る可能性があります。

別の結果も説明すると、判断の偏りが弱まる場合がある

HirtとMarkman(1995)は、仮の出来事について一つの結果を説明する場合と、異なる二つの結果を説明する場合を比べる3つの実験を行いました。最初の二つの実験では、別の結果も説明した参加者の方が、一つの結果だけを説明した場合に見られる見込みの評価の偏りが小さくなりました。ただし、第3実験では、追加で考えた結果がどれほどあり得そうかも、偏りが弱まるかどうかに関係していました(Hirt・Markman, 1995)。

この実験は、出来事の結果について見込みを判断する研究であり、企画案を何本作れば事業の成果が増えるかを測ったものではありません。それでも、思いついた案の説明だけを続けず、実現できそうな別案も考えてみることには意味があると考えられます。すでに選んだ案に合う材料だけを集めないための心理的な注意点は、確証バイアスの解説でも紹介しています。

組織の意思決定では、代替案の探し方にも違いが見られる

Nutt(1993)は、組織の戦略的な意思決定168事例について、解決方法の探し方と意思決定の結果を調べました。最初から完成した案を持ち込む方法はよく使われていた一方、成功と結び付きにくく、複数の情報源から有用な方法を組み合わせる進め方では比較的良い結果が見られました。ただし、繰り返し案を探す方法の成果は、決定の重要性・緊急度・支援体制といった条件にも左右されていました(Nutt, 1993)。

さらにNutt(2001)は、8種類の戦略的意思決定について、繰り返し探索する方法、ほかの組織の方法を組み合わせる方法、自分たちで新しく設計する方法などの成否を比べました。適した探し方は、サービスの改善か、製品や組織の変更かといった決定の種類によっても異なりました(Nutt, 2001)。

これらは主に組織の意思決定事例を比較した研究で、代替案を増やすことだけが良い結果の原因だったと断定できるものではありません。 仕事への応用では、「案を何個集めたか」よりも「違う解決の方向まで検討したか」を確かめることが大切です。

代替案は何を基準に、どこまで探すか

まず、見つけた企画の名称ではなく、解決したい問題を一文にします。先ほどの例なら「問い合わせ担当者が、同じ確認や聞き直しに使う時間を減らす。ただし誤案内や情報管理上の問題は増やさない」です。「AIチャットを導入する」を目的にしてしまうと、ほかの手段を比較しにくくなります。

次に、実際の問い合わせ記録を調べ、どこに負担があるかを分類します。例えば、ある月の150件を、一件につき主な負担の理由を一つに決めて分類したところ、定型質問が60件、依頼内容の不足による聞き直しが50件、個別判断が必要なものが40件だったとします。これは説明のために作った仮の数値です。実際には理由が重なる場合があるため、分類方法も確認します。

この情報があれば、同じ目的に対して、少なくとも次のように違う方向の候補を探せます。

候補 解決しようとする負担 採否を考える前に確認すること
現状維持 新しい仕組みの導入は不要。ただし今の問い合わせ負担は残る 月の対応時間、問題の重大さ、維持費
案内ページの改善 同じ定型質問が繰り返される負担 回答の内容、見つけやすさ、ページを見ても問い合わせる理由
問い合わせフォームの改善 情報不足による聞き直しの負担 不足しやすい項目、入力負担、必要な確認を省かない設計
AIチャットの導入 主に定型質問への一次回答の負担 誤回答、管理・更新作業、個人情報の扱い、費用

150件の内訳は、どの方法が最も効果的かを示す数字ではありません。例えば定型質問が60件あっても、そのすべてを案内ページやチャットで減らせるとは限りません。また、フォーム改善が必要な人の入力負担を増やす可能性もあります。候補ごとに対応できる問題が違うからこそ、同じ目的に照らして比べる必要があります。

英国財務省の『The Green Book 2026』では、公的事業を評価する際、最初から一つの案を詳細に調べるのではなく、幅広い案を出して実現性を絞り、残った案を詳しく比較する進め方が示されています。現状維持を比較の基準として残すこと、検討の広さを費用やリスクに見合ったものにすることも重視しています。これは英国の公共事業向けの指針であり、小規模な社内企画に決まった候補数を義務付けるものではありません。

候補を多数並べると判断が難しくなる場合については、選択のパラドックスの解説も参考になります。ここで必要なのは、同じ案の名前や機能を少し変えて増やすことではなく、目的への到達方法を違う角度から確かめることです。

追加で探す前に、どの不明点が判断を変えるかを確かめる

代替案の探索を終えるかどうかは、候補の数だけでは決まりません。次の点を確認します。

  • 目的に合う異なる方法を見たか: 定型質問を減らす方法だけでなく、聞き直しを減らす方法も調べたでしょうか。まだ手付かずの大きな原因があるなら、別の解決法を探す理由があります。
  • 実現できない条件を確認したか: 予算、導入期限、必要な人員、法令や情報管理上の条件などを満たせない案は、理由を記録して詳しい比較から外せます。似た案を増やすためだけに調査を続ける必要はありません。
  • 比較の根拠がそろっているか: 同じ期間の対応時間、期待する削減の範囲、初期費用、運用負担、重大な失敗の条件などを、候補間で比べられるでしょうか。不明点が結論を左右するなら、追加の聞き取りや小規模な試行を考えます。
  • もう一案見つかれば結論が変わりそうか: たとえば問い合わせの大半が定型質問で、対処方法と運用条件が比較できており、新たな方式を調べても候補の優先順位を変える材料がなさそうなら、探索を区切る理由になります。逆に今の候補が対応できない重大な負担が残るなら、再び候補を探します。
  • 探索に使える時間・費用はいくらか: 判断期限と調査担当者を決めておきます。調査を増やすことで得られそうな判断材料と、その手間を比べます。ただし、情報漏えいなど放置できない問題があれば、予定の期限だけを理由に調査を打ち切りません。

「あと一つ調べれば完璧な案が見つかる」と考え続ける必要はありません。一方、最初の案で解決できない問題が明らかになったのに、「もう有望案はある」と探索を終えるのも避けたいところです。

調査を区切り、候補の比較と試行へ進む手順

次の手順は、心理学の実験結果と組織の意思決定研究、公的な評価指針を参考に考えた実務上の提案です。これによって企画の成功率が必ず上がると直接確認された手順ではありません。

  1. 問題と必須条件を記録する。 「担当者の問い合わせ対応時間を減らす」「重要な誤案内を増やさない」「導入後の管理作業を含めて比較する」など、候補を選ぶ前に条件を共有します。
  2. 本命と違う解決方法を短く探す。 現状維持に加え、今回なら案内ページ、フォーム、チャットのように、負担の原因や働きかけ方が違う方法を候補にします。これは説明上の4候補で、すべての仕事に必要な標準数ではありません。
  3. 最初のふるい分けを行う。 各候補について、対象にする問題、実現するために必要な条件、明らかに許容できないリスク、費用のおおよその範囲をそろえます。条件を満たせない案や、ほかの候補と実質的に同じ案は詳しい比較から外します。
  4. 結論を左右する情報だけ深く調べる。 例えばチャットの回答品質が不明なら、個人情報を入れずに代表的な質問で動作を確かめます。案内ページやフォームなら、問い合わせ記録をもとに何の聞き直しが減り得るかを確認します。結果が未確認の段階では、削減時間を確定値として扱いません。
  5. 終了条件を満たしたら探索を止める。 大きな問題に対応する異なる方法を比べられ、必須条件を満たす候補があり、追加の探索で採用候補が変わりそうな重要な不明点が残っていなければ、候補探しを区切って詳細比較や限定的な試行へ進みます。判断に影響する新しい情報が出た場合は、探索を再開します。

会議では「良い企画が見つかったので、もう調査は不要です」ではなく、「同じ問題を解く別の方法は何を比べましたか」「本命案で解決できない負担は残りますか」「何が分かると候補の優先順位が変わりますか」と確認できます。十分な候補を比べた上で最初の案が残るなら、その案を進める理由を説明しやすくなります。

参考文献・出典

  • Hirt, E. R., & Markman, K. D. (1995). Multiple Explanation: A Consider-an-Alternative Strategy for Debiasing Judgments. Journal of Personality and Social Psychology, 69(6), 1069–1086. — 仮の出来事について一つまたは二つの結果を説明させた3実験で、別の説明を考える効果と、その説明がもっともらしいかという条件の根拠。公開された原著の要旨・該当箇所を確認。
  • Nutt, P. C. (1993). The Identification of Solution Ideas During Organizational Decision Making. Management Science, 39(9), 1071–1085. — 組織の意思決定168事例で、解決案の発見方法と意思決定結果・状況条件との関係を調べた根拠。出版社の原著要旨を確認。
  • Nutt, P. C. (2001). A Taxonomy of Strategic Decisions and Tactics for Uncovering Alternatives. European Journal of Operational Research, 132(3), 505–527. — 8種類の組織の戦略的な決定で、異なる探索方法と結果の関係を調べた根拠。出版社の原著要旨を確認。
  • HM Treasury (2026). The Green Book 2026. — 幅広い案の作成、実現性による絞り込み、現状維持を含む比較、規模・リスクに応じた調査の進め方に関する英国政府の公式指針。公式HTMLを確認。