受注予定を楽観的に見積もっていない?営業予測に幅を持たせる

営業・交渉
Psychology Laws 編集部

営業会議で「今期はあと260万円の受注が見込めます」と報告したものの、期末になってから「決裁が来月になった」「比較中だった顧客が見送った」と分かることがあります。顧客の反応がよいと、その案件は決まりそうだと感じるのは自然です。ただし、受注の期待と、予定した期間に契約が成立する見込みは別です。

営業予測では、まず「いつまでに、どの条件を満たせば受注として数えるか」を明確にします。そのうえで、顧客が実際に確認・承認したことと、営業側の期待を分けて記録し、期内に成立する案件が少ない場合・中間的な場合・多い場合を並べます。予測に幅を持たせることは、すべての案件を悲観的に扱うことではありません。まだ確定していないことを、確定した売上のように報告しないための方法です。

好調な商談ほど、受注予定を高く見積もりやすいのか

説明用の仮の場面です。営業担当者は、顧客の担当者から「提案はよさそうです」と言われ、120万円の案件は今月決まると思いました。さらに見積もりを提出した80万円の案件、初回面談が盛り上がった60万円の案件も、今期中の受注予定に加えました。しかし、120万円の案件は決裁者の承認待ち、80万円の案件は競合比較中、60万円の案件は予算さえ未確認です。3件の合計260万円は、今の段階で確約された売上ではありません。

Bonneyら(2020)は、米国の大手医療用品会社の営業データなどを用い、営業担当者と営業管理者による商談機会の評価を3つの研究で比較しました。結果として、営業担当者の方が管理者よりも商談に楽観的で、自信が強く、見通しの過信も大きい傾向が見られました。一方、管理者の評価はより慎重で、好材料と悪材料を広く検討する傾向がありました。Bonneyら(2020)の論文概要

これは特定の企業の営業組織を調べた研究です。すべての営業担当者が管理者より楽観的だとか、管理者の予測が常に正しいと示したものではありません。ただし、担当者が顧客の前向きな反応を見ているとき、未確認の承認や日程を別の人と点検する理由になります。判断への自信と実際の正確さを分ける考え方については、過信バイアスの解説でも扱っています。

予測が強気になる理由も一つではありません。顧客の言葉への期待、直近の成功経験、目標達成への意欲、見積もりの前提が曖昧なことなどが考えられますが、ある担当者の予測が外れただけで、その人の性格や心理的な偏りが原因だと決めつけることはできません。顧客側の事情や、競合・承認手続きの変化も確認する必要があります。

受注予測の前に、「何を、いつまでに数えるか」をそろえる

「今月は受注できそう」という言葉を使うときは、何を予測しているのかをそろえます。例えば、今月末までに顧客が発注を確定する金額なのか、来期まで含めた契約見込みなのか、入金見込みなのかでは、数える対象が違います。

  1. 期間と成立条件を決める。今月末や今四半期末などの期限と、注文書の受領・契約の成立など、社内で「受注」と認める条件を確認します。口頭での前向きな反応と、正式な発注は分けて扱います。
  2. 契約額に含まれる範囲をそろえる。初期費用と継続料金、税の扱い、見積額と値引き後の額などを整理します。1年間の契約総額と今月の売上計上額、受注見込みと入金見込みも混ぜないようにします。
  3. 顧客側の未完了事項を確認する。予算の承認、最終決裁、競合比較、法務・購買の確認、開始日の合意など、誰が何を終えれば進むのかを記録します。「社内で検討します」だけで、決裁が済んだことにはなりません。
  4. 予測した日付と、その根拠を残す。同じ案件でも、見積もり提出時と決裁者から返事があった後では判断材料が変わります。前の見込みを消さずに残せば、予測の変更理由を後で確認できます。

これらの項目が決まっていないと、同じ「受注見込み80%」でも、人によって「いつかは契約しそう」と「今月中に正式受注する」のどちらを指すかが異なり、営業会議で比べにくくなります。

3件の商談を、確定事項と未確認事項で分ける

先ほどの3件について、すべて説明用に作った架空の案件・金額として、今四半期末までの正式受注を予測するとします。実際の受注実績や一般的な成約率を示すものではありません。

案件・想定契約額(税抜) 確認できたこと まだ分からないこと
A社:120万円 利用範囲と見積条件は担当者と確認済み 決裁者の承認がいつ終わるか
B社:80万円 正式な見積書を提出済み 競合との比較結果、購入条件への合意
C社:60万円 初回面談で課題を聞いた 予算、導入時期、決裁者、購入の意向

3件を単純に足すと260万円ですが、これは「すべて今期中に契約した場合」の金額です。A社の決裁時期が翌期になれば、A社が将来的に契約する可能性があっても、今期の受注額には入りません。C社の商談が盛り上がったことも、今期中に予算が確保される根拠とは別です。

営業担当者と上司が見通しをすり合わせるときは、「今期の受注額に含めた理由は何か」「顧客が確認したことと、こちらの想定はどこで分かれているか」を質問します。上司の感覚で一律に金額を減らすのではなく、顧客から得られた事実と、まだ進んでいない手続きを並べて考えます。

1つの予想額にまとめず、複数の展開を示す

今期の受注額を1つだけ報告すると、何が起きれば予想から外れるのかが見えにくくなります。そこで、成立時期や顧客の判断が異なる展開を並べます。次の表は、上の架空の3案件について計算したもので、どの展開がどれほど起きやすいかを研究や実績から算出したものではありません。

展開の例 今期中に成立する案件の仮定 今期の受注合計
下振れ A・B・Cとも未成立または翌期へずれる 0万円
中間 Aのみ期内に成立し、B・Cは未成立 120万円
上振れ A・B・Cのすべてが期内に成立する 260万円

この0〜260万円という幅は、3つの案件だけを対象にした可能な結果の例です。特定の確率で実績が収まる「統計的な予測区間」ではなく、真ん中の120万円が最も起こりやすいと確認されたわけでもありません。実際にはAが失注してBだけ受注するなど、表にない組み合わせもあります。既に受注が確定している案件があるなら、未確定分と分けて加算する必要があります。

幅を実務で役立てるには、「何が起きたらこの展開になるか」を具体化します。例えばA社の決裁者が今期中の承認に間に合わない場合、どの程度の売上が翌期へずれるのかが分かれば、人員や仕入れの計画を見直す材料になります。上振れの260万円だけを売上の確定額として扱うことは避けます。

予測の幅は、後の実績を見ながら調整する

予測に幅を持たせても、広ければ常に正確とは限りません。狭い範囲を自信満々に示して外してばかりでも、反対にほとんど何でも当てはまる幅を示しても、計画には使いにくいからです。

Jainら(2013)は、専門職を含む参加者を対象とした一連の実験で、遠い将来について一度に予測する場合と、その間にある近い時点を分けて考える場合を比較しました。将来を途中の時点に分けて考えると、参加者の予測区間が広くなり、予測した範囲と実際の結果の対応が改善しました。予測の広さを考慮しても、総合的な予測の評価が改善する条件も報告されています。Jainら(2013)の大学掲載の研究概要

またBolgerとÖnkal-Atay(2004)は、参加者が時系列の将来の値について、指定した確信度で結果が収まる範囲を予測し、結果のフィードバックを受けて別の系列を予測する実験を行いました。最初は予測範囲を狭く見積もる過信が見られましたが、フィードバック後には、予測区間と実績の対応が改善しました。単に範囲をむやみに広げたというより、時系列の変動の大きさを捉え直したことが改善に関係していたと報告しています。Bolger・Önkal-Atay(2004)の大学掲載の研究要旨

ただし、どちらも営業案件の期内受注を直接予測した実験ではありません。これらは数値予測の区間を扱った研究であり、上の表のように案件の成立・不成立を組み合わせる方法の効果を直接検証したものでもありません。実務への応用として、今期末だけを一度に想像する代わりに、途中の承認や発注までの手続きを確認し、予測と実績のずれを振り返ることが考えられます。

例えば、A社について「今週は決裁者への説明、来週は購買部門の確認、期末までに発注書の提出」という予定が分かった場合、各時点で何が確定しているかを更新します。ただし、こうした予定は顧客と確認できていることが前提です。営業側の希望日程を事実として記録しないようにします。

営業会議では、予測額と根拠・見直し条件を一緒に伝える

具体的な営業報告では、数字を一つに絞ることだけを求めず、どこが確定し、どこが動くのかを明確にします。次は説明用の仮の報告例です。

「今四半期の未確定案件はA社120万円、B社80万円、C社60万円の3件です。合計260万円ですが、今期中の成立が確定した金額ではありません。A社は利用条件が整理できているものの、最終決裁が残っています。B社は競合比較中、C社は予算と導入時期が未確認です。3件とも期内に決まらなければ0万円、A社だけなら120万円、すべて決まれば260万円です。これは確率を計算した予測区間ではなく、条件別の展開です。次回は各社の承認状況と回答予定を確認して見直します」

これだけでは、下振れ・中間・上振れのどれを会社の予算に使うべきか決められません。過去に似た状況だった案件の実績と、外れたときの影響を合わせて、営業と管理部門で判断します。起こり得る幅を示すことと、予算の基準値を決めることは別の作業です。

見直しを続ける場合は、次のように整理できます。以下は研究を参考にした実務上の提案で、必ず精度が改善するという保証ではありません。

  1. 同じ基準で過去案件を集める。見積提示や決裁待ちなど、比較したい段階を決め、期末までに正式受注した案件・失注した案件・翌期へずれた案件の数と金額を集計します。失注案件や期ずれ案件を除外しないようにします。
  2. 類似する条件の違いも見る。顧客規模、商品、契約期間、競合比較、決裁時期が違うと、同じ「決裁待ち」でも結果が異なることがあります。少数の案件だけから固定した受注確率を作らず、件数と比較条件を示します。
  3. 予測した時点の数字を残す。期末後に結果が分かってから、当時の「受注予定」を書き換えるのではなく、予測時点、変更した日、変更理由を記録します。結果が良くても悪くても同じ方法で振り返ります。
  4. 当初の予測と実績を照合する。受注額が想定より小さければ、失注なのか翌期へのずれなのか、金額の変更なのかを分けます。反対に想定を上回ったときも、追加案件や前倒しなど、何が変わったのか確認します。

例えば説明用の仮の記録で、「同じ段階にあった30件のうち、期限内の正式受注は9件」なら、その集団の実績割合は30%です。しかし、今回の1件が30%の確率で受注すると確定したわけではありません。比較対象が本当に似ているか、対象期間や件数が十分かを確かめてから予測に利用します。

受注見込みを慎重に扱うことは、担当者の努力を低く評価することではありません。顧客の前向きな反応も、実際に進んだ手続きも、どちらも記録します。期待した数字だけでなく、まだ決まっていない条件と、状況が変わった場合の数字を示すことで、営業活動と事業計画をつなげやすくなります。

参考文献・出典

  • Bonney, L., Plouffe, C. R., Hochstein, B., & Beeler, L. L.(2020)“Examining salesperson versus sales manager evaluation of customer opportunities: A psychological momentum perspective on optimism, confidence, and overconfidence.” Industrial Marketing Management, 88, 339–351. 出版社の論文要旨・概要。医療用品会社の営業担当者と管理者による機会評価を3研究で比べた根拠。
  • Jain, K., Mukherjee, K., Bearden, J. N., & Gaba, A.(2013)“Unpacking the Future: A Nudge Toward Wider Subjective Confidence Intervals.” Management Science, 59(9), 1970–1987. Indian Institute of Management Bangaloreの研究要旨。将来の時点を分けて考えることと予測区間の広さ・実績との対応の関係についての一連の実験。
  • Bolger, F., & Önkal-Atay, D.(2004)“The Effects of Feedback on Judgmental Interval Predictions.” International Journal of Forecasting, 20(1), 29–39. Northumbria Universityの研究要旨。時系列の予測区間と結果のフィードバックにより、予測の過信と実績との対応がどう変わったかの実験。