評判を守るために無理な取引を続けていない?継続条件を整理する

営業・交渉
Psychology Laws 編集部

長く付き合ってきた取引先との契約が、追加対応や人員負担によって厳しくなっていても、「断れば悪い評判が広まるかもしれない」「今まで支えた会社を見放したと思われたくない」と考え、条件を変えられないことがあります。

ただし、顧客への約束を守ることと、採算や提供体制が合わない取引を次回も同じ条件で続けることは別です。まず契約中に果たすべき義務を確認し、継続による今後の収入・費用・品質への影響と、条件変更や終了による顧客の負担を並べます。そのうえで、続けられる条件、見直す時期、変更できない場合の対応を社内で決め、顧客に説明します。評判への不安だけで継続や終了を決めないことが大切です。

「続けないと信頼を失う」と感じるのには理由がある

説明用の仮の場面です。企業向けの問い合わせ対応を請け負う営業担当者が、長年の取引先から、休日対応や個別資料の作成を何度も頼まれています。当初の料金は変わらず、担当部署では残業が増えています。それでも担当者は「ここで値上げや対応範囲の変更をお願いすると、長い付き合いを裏切ったと思われそうだ」と心配しています。

この心配を単なる思い込みとは言い切れません。Dorison・Umphres・Lerner(2022)は、見通しが悪くなった活動に投資を続ける人と、投資をやめる人が、第三者からどう評価されるかを3つの事前登録実験(合計3,888人の募集参加者)で調べました。最初の2実験では、継続する人の方が誠実さや善意に基づく信頼を高く評価され、金銭を預ける課題でも第三者から多く託されました。一方、3つ目の実験では、継続の判断が他人に見える条件と見えない条件で、継続する傾向に明確な違いはありませんでした。Dorisonら(2022)の原著論文

つまり、続ける姿勢が信頼の印象につながる場合はあるものの、「他人に見られるから必ず続ける」という結果ではありません。実験は投資判断などの課題であり、実際の法人取引で契約を終了したときの評判や売上を測定していません。「悪評が必ず広まる」という見通しまで証明されたわけではないのです。

過去の判断を否定したくないために、不利な状況でも以前の方針を続けてしまうことは「コミットメントのエスカレーション」と呼ばれます。関連する仕組みは、コミットメントのエスカレーションの解説でも確認できます。ただし、長い取引を続けるだけで心理的な偏りがあるとは判断できません。将来の収入や顧客への責任など、継続を選ぶ合理的な理由もあります。

評判への不安と、実際の顧客への影響を分けて確かめる

取引を見直す前に、次の3つを別々に考えます。

  1. 確認できる事実:顧客が約束した支援を必要としているか、実際に苦情が出ているか、取引終了や変更について契約に何が書かれているかを確認します。「値上げしたら必ず悪く言われる」は、相手に確かめていなければ予測の段階です。
  2. 自社が守るべき約束:現在の契約期間、提供範囲、通知期限、変更・終了の手続き、顧客が移行に必要な作業を確認します。契約期間中に提供する義務と、次の契約更新を受けるかの判断は分けます。契約の扱いが不明なら営業だけで決めず、法務・契約担当に確認します。
  3. 対応を変えた場合の影響:顧客が業務を続けられるか、代替手段はあるか、ほかの契約や関係者への影響が生じるかを検討します。想像上の悪評を金額に換算したかのように扱わず、確認できる影響と不確かな影響を区別します。

評判へのリスクを無視しない理由は、顧客側の反応を調べた研究にもあります。Béalら(2025)は、採算の合わない顧客に対して企業が一部のサービス提供をやめる場面を、予備的な定性調査、準実験、2つの仮想場面実験で検討しました。一部サービスの停止によって、顧客が別の契約も終了させる可能性や、否定的な口コミを広める意向が高くなる結果を報告しています。顧客が拒絶されたと感じ、怒りを抱くことが関係し、説明・補償・代替先探しの支援を組み合わせることが怒りを弱める結果も示されました。Béalら(2025)の研究要旨

ただし、この研究は一部サービスの打ち切りについての結果であり、契約更新時の価格改定や、すべての法人取引の終了を同じ条件で測ったものではありません。説明を丁寧にすれば悪評を防げると保証したものでもありません。実務への応用として、条件変更が顧客の業務と感情に及ぼす影響を確かめ、可能な支援を話し合うことが考えられます。

継続した場合の費用を、次の契約期間で比較する

「今まで支えてきた取引先だから」という理由とは別に、これからの取引が続けられるかを確かめます。次は説明のための仮の数字であり、実在する企業の採算や相場ではありません。現在の契約を満了まで履行する義務は別に確認したうえで、次の12か月の更新を判断するものとします。金額は税抜きで、各案に必要な作業を自社で見積もったと仮定します。

次の12か月の選択肢 売上見込み これから発生する直接費用等 売上から費用を引いた差額
現行料金・現行範囲で更新 240万円 280万円 -40万円
提供範囲は維持し、料金改定を相談 300万円 280万円 +20万円
顧客の合意を得て、対応範囲を縮小 240万円 220万円 +20万円
次回更新をせず、必要な引き継ぎを行う 0円 10万円(引き継ぎ費用の仮定) -10万円

この表の差額は、示した直接費用等を引いた簡単な比較であり、会社全体の利益を表していません。現行のまま更新すると40万円の不足が見込まれる一方、料金改定や範囲変更に顧客が同意するかどうかは未確認です。たとえば顧客の業務に休日対応が不可欠なら、そのサービスを削る案は必要条件を満たさず、選択できません。

更新を見送る場合も、収入がなくなること、引き継ぎ作業や契約上の負担、他の取引への影響を無視できません。すでにかけた営業活動の時間と、これから支払う義務がある費用は区別します。過去に使った費用の惜しさだけを継続理由にせず、これから得るものと負担を同じ期間で比較します。

将来の紹介や別案件につながる可能性を見込む場合は、それが確定した契約なのか期待にすぎないのかを分けます。期待する紹介数や将来の利益を根拠なく作り、現状の負担を帳消しにしないようにします。

無理な取引を続けないために、継続条件と判断の担当を決める

RitterとGeersbro(2011)は、営業担当者800人超への横断的な調査から、企業の顧客関係を終了する仕組みと、望ましくない取引先が占める割合との関係を分析しました。取引終了を選択肢として認めていること、対象となる顧客の定義が共有されていること、終了の手続きが明確であることは、望ましくない顧客の割合が少ないことと関連していました。Ritter・Geersbro(2011)の大学掲載の研究要旨

これは組織間の関連を示した調査であり、ルールを作れば必ず利益が改善するという因果効果を検証したものではありません。今回の商談への応用として、担当者一人が評判への不安を抱えたまま判断するのではなく、継続条件と承認の仕組みを明確にする方法が考えられます。

例えば次のように、今回の顧客について具体的に決めます。これは研究で直接効果が確認された手順ではなく実務上の提案です。

  1. 継続に必要な条件:来期の対応範囲と費用、必要な担当人数、品質を守れる上限、顧客側が本当に必要とする支援を整理します。赤字だから直ちに終了と決めず、他の契約を含めて見る必要があれば、その対象も明示します。
  2. 変更可能な条件:料金、対応時間、追加依頼の有償化、作業の分担、更新期間など、顧客と相談できる点を担当部署に確認します。一方的に品質を落とす案は選びません。
  3. 判断を見直す時期と必要な情報:契約更新の通知期限より前に、費用見込みと顧客の要望を再確認する日を置きます。顧客の返答が得られない場合や、追加の費用が判明した場合の扱いも決めます。
  4. 判断・連絡の責任者:営業、サービス提供部署、経理、契約担当者がそれぞれ何を確認し、誰が条件変更や非更新を承認するか決めます。担当者の独断で「いつまでも対応する」と約束しないようにします。

「評判が下がるのが怖い」と感じることは、検討すべき懸念として記録してかまいません。ただし、可能なら過去の問い合わせや実際に寄せられた意見などの事実と分け、何が起こるか未確認であることも明示します。

取引先には、継続できる条件と変更理由をどう伝えるか

条件を見直す場合、まず社内で実行可能な範囲と契約上の扱いを確認します。そのうえで顧客が困る点を聞き、これまで提供してきたサービスと、これから継続できるサービスを分けて説明します。次は説明用の仮の会話例です。

「これまでお任せいただいている問い合わせ対応について、来期の提供条件を相談させてください。現在の契約期間の対応は、契約に従って進めます。一方、休日の個別対応が当初の想定より増えており、次回更新も同じ料金と範囲で続けることは難しい状況です。休日対応を維持する場合の料金改定案と、必要な対応を確認して範囲を調整する案を用意したいと考えています。御社で外せない時間帯と、切り替えが難しい作業を教えていただけますか」

ここで「こちらが赤字なので当然値上げしてください」と一方的に求めても、顧客が条件に納得できるとは限りません。継続したい業務、変更で困ること、代替できる手段を聞き、費用や提供内容を具体的に説明します。正式な契約条件は文書で確認し、口頭での相談を変更合意と扱わないようにします。

確認結果に応じて、判断を分けます。

  • 必要な条件で継続でき、顧客も同意する場合:変更する料金・支援範囲・開始日・責任分担を明記し、社内承認と顧客の正式な合意を確認してから更新します。
  • 追加費用や提供範囲を検討中の場合:未確定項目と回答期限を決め、顧客にも判断に必要な時間を伝えます。仮の見込みを確約しないようにします。
  • 顧客が必要とする品質を自社では維持できない場合:今の契約で必要な対応を確認したうえで、更新見送りや他の提供会社への移行支援を検討します。代替先を必ず用意できるとは約束しません。
  • すでに契約中の条件を変更しなければならない場合:一方的な停止や条件変更で済ませず、契約・法務担当と対応義務や必要な手続きを確認し、顧客と協議します。

顧客が不満や不信感を示す可能性は残ります。説明によって必ず評判を守れると保証することはできません。それでも、変更を直前まで隠したり、実行できない約束を繰り返したりするのではなく、守れる約束と相談が必要な条件を分けて伝えることが、顧客の判断を支える方法になります。

参考文献・出典

  • Dorison, C. A., Umphres, C. K., & Lerner, J. S.(2022)“Staying the Course: Decision Makers Who Escalate Commitment Are Trusted and Trustworthy.” Journal of Experimental Psychology: General, 151(4), 960–965. 全文公開の原著論文。継続する意思決定者への第三者の信頼評価、信頼ゲームでの行動、公開・非公開条件の3つの実験の根拠。
  • Béal, M., Lécuyer, C., Bayart, C., & Clot, D.(2025)“A Rejection-Based Model of Partial Service Termination and its Impact on Unprofitable Customers.” Journal of Service Research, 28(3), 413–433. 出版社の論文要旨。一部サービス提供を終了された顧客の拒絶感、他契約の終了や否定的な口コミ、説明や代替支援による違いの根拠。
  • Ritter, T., & Geersbro, J.(2011)“Organizational Relationship Termination Competence: A Conceptualization and an Empirical Test.” Industrial Marketing Management, 40(6), 988–993. Copenhagen Business Schoolの論文要旨。営業担当者800人超の調査による、取引終了を選択肢にする認識、対象の定義、手続きと望ましくない顧客関係との関連の根拠。