選択肢を増やせば顧客は満足する?選びやすさと自由度の考え方
商品やサービスの種類を増やせば、より多くの顧客の希望に応えられそうです。しかし、選択肢が増えたからといって、選びやすさや購入後の満足が必ず高まるわけではありません。反対に、単純に種類を減らせばよいわけでもありません。
品ぞろえを考える担当者が確かめたいのは、顧客が「欲しいものがなくて選べない」のか、「欲しいものはあるのに見つけにくい」のか、あるいは「選んだものが期待と違った」のかという違いです。原因によって、商品を追加する、見せ方を変える、商品説明を直すなど、必要な対応が変わります。
商品が増えると、なぜ自由度と選びやすさが両立しない場合があるのか
例えば、贈り物を販売する架空の通販サイトで、ギフトセットを8種類から20種類に増やしたとします。予算や配送日、包装の希望に合う商品が見つかる人にとっては、選べる幅が広がるでしょう。一方、似た商品が多く、何が違うのか分からなければ、比較するための負担も増えます。これは説明用の仮の場面で、実在する店舗の事例や成果ではありません。
選択肢の多さによって決定が難しくなったり、選んだ後の満足が下がったりすることがある現象は、選択のパラドックス(選択過多)として知られています。ただし、「多いほど悪い」という単純な法則ではありません。
少ない選択肢の方が購入や満足に有利だった研究
IyengarとLepper(2000)は、店頭でのジャムの購入、チョコレートの選択、学生の課題テーマの選択などを扱う3つの実験を行いました。6種類のような限られた候補と、24種類または30種類の多い候補を比べたところ、限られた選択肢の方が購入や課題への着手につながりやすく、選択後の満足についても有利な結果が報告されました。
ただし、これは実験で用いた商品や課題、候補数での結果です。通販サイトの全商品を6種類にすれば満足度が上がる、という結論ではありません。
好みが明確なら、多い選択肢が役立つ場合もある
Scheibehenneら(2010)は、公表・未公表の50実験、63条件、計5,036人の結果を統合しました。選択肢の増加による平均的な悪影響はほぼゼロでしたが、実験によって結果には大きな違いがありました。
Chernev(2003)は4つの実験で、希望する特徴の組み合わせをあらかじめ明確に思い描けるかどうかが、商品の候補数と選んだ商品への好みの強さとの関係を変えることを報告しました。大きな品ぞろえでも希望が明確な人は選んだ候補への好みが強くなる場合がありました。ここで確かめたのは、主に選んだ候補への評価であって、通販の継続利用や購入後の満足そのものではありません。
さらにChernevら(2015)は、過去の研究の99の観測結果、計7,202人を分析しました。候補間の違いが複雑なこと、選ぶ課題が難しいこと、本人の好みが定まっていないこと、判断の手間を減らそうとする目的があることが、選択肢の多さによる負担を強める条件として示されています。
つまり、品ぞろえの最適な数を一律に決めるのではなく、誰が、何を、どのくらい明確な条件で選ぶかを確認する必要があります。
「自分で選べる」と「選んでよかった」は別のこと
選択肢の数とは別に、BottiとIyengar(2004)は、自分で選ぶ条件と他者に決めてもらう条件を、好ましい候補が並ぶ場合と好ましくない候補が並ぶ場合で比べました。自分で選んだ人の方が結果に満足したのは好ましい候補から選べた場合で、好ましくない候補ばかりのときには逆の結果が見られました。
この研究は「候補数を増やす効果」を直接調べたものではありませんが、自分で選択する自由があることと、選択結果への満足が同じではない点を考える材料になります。
種類を増やす前に、顧客がどこで困っているかを確かめる
顧客が「選びにくい」と言っているだけでは、商品が多すぎるのか、足りないのかを判断できません。問い合わせ、サイト内検索、購入せずに離れた場面、購入後の感想を確認し、次のように分けて考えます。
| 起きていること | 確かめること | 検討する対応 |
|---|---|---|
| 希望に合う商品がない | どの予算・用途・配送条件が満たせないか | 不足している商品や仕様の追加 |
| 希望に合う商品はあるが見つからない | 検索語、分類名、絞り込み、違いの説明が分かるか | 探し方と比較表示の改善 |
| 購入したが期待と違った | 購入前に何を想像し、届いた商品と何が違ったか | 写真・寸法・内容・条件などの説明や商品そのものの改善 |
例えば「予算5,000円で、明後日までに届く贈り物が欲しい」という声に合う商品がなければ、候補の追加や配送条件の見直しが課題になります。商品はあるのに「どれが期日に間に合うか分からない」なら、配送日の表示や検索機能を先に改める方が合理的です。
また、新規の顧客と、買いたい商品が決まっているリピーターとでは必要な情報が違うかもしれません。初めて来た人には用途ごとの案内が役立つ場合があり、再購入する人には商品名や型番ですぐ探せることが重要になります。相手の心理を推測で決めず、実際の利用状況で確かめます。
自由に選べる幅を残しながら、比較を楽にするには
次も、ギフト商品を20種類扱う通販サイトを想定した実務上の仮の提案です。研究で直接、この手順の効果が検証されたわけではありません。
- 最初に顧客が重視する条件を示す。 「予算」「届けたい日」「贈る相手」「包装の必要性」など、今回の商品選びで違いが出る項目から選べるようにします。必要な条件が分からない人には、用途から探せる入口も用意します。
- 条件に合う候補を先に比較できるようにする。 例えば20商品のうち条件を満たす4商品を表示し、価格、内容量、配送予定、包装方法を同じ項目で比べられるようにします。4という数字は仮の例で、推奨する固定件数ではありません。
- 全商品に戻る方法も残す。 絞り込みに合わない候補を永久に隠すのではなく、条件を変更したり一覧に戻ったりできるようにします。希望を後から変えたい人や、珍しい商品を探す人の自由度を失わないためです。
- 似た商品の違いを言葉にする。 「人気」「おすすめ」だけでなく、「常温配送が可能」「包装の種類を選べる」など、購入後に関係する違いを示します。必要な情報を比べられなければ、候補を並べる意味が薄れます。
この進め方の狙いは、商品を少なく見せて特定の品へ誘導することではありません。選べる候補は残したまま、今の顧客が一度に比べる情報を整理することです。
顧客満足をどう測り、品ぞろえを判断するか
商品を追加した後に閲覧数や売上だけを見ると、「欲しいものが見つかったか」「迷わず選べたか」「買ってよかったか」の違いが分かりません。確認したい段階ごとに情報を分けます。
- 品ぞろえの適合: 「必要な条件を満たす商品がありましたか」と尋ね、見つからなかった条件を記録します。検索された言葉と実際の商品が合っているかも確認します。
- 選ぶ過程: 候補を比較した後の離脱や、探し方についての質問、「違いが分かりにくかった」という声を確認します。離脱だけで迷いが原因と決めつけず、価格や在庫の問題も調べます。
- 購入後の結果: 実際に商品を受け取った後で、「用途に合ったか」「説明と違う点はあったか」「選択に納得しているか」を確認します。配送や品質の問題は、商品数による影響と分けます。
- 選択の自由: 欲しい商品へたどり着けない人や、絞り込みの解除ができず困る人がいないかも確認します。見つけやすくしたつもりで、必要な候補を隠していないかを点検するためです。
変更を検証するなら、まず「商品数を増やす効果」と「表示を整理する効果」を分けて考えます。例えば表示方法をそのままに商品の追加だけを試す期間と、商品数を変えず表示方法だけを試す期間を設ける方法があります。ただし、前後の比較だけでは季節、広告、来訪する顧客の違いなどが結果に影響するため、可能なら同時期に比較可能な顧客群で検証します。必要な情報が十分集まるまで、数件の感想だけで全体の満足が変わったとは判断しません。
希望する商品が足りない顧客が多ければ種類を増やす理由になります。候補は十分なのに見つけにくいなら、先に検索や比較の仕方を改善します。購入後の期待外れが続くなら、商品説明や提供内容そのものを見直します。どれを優先するかは、顧客が困っている段階を確かめた結果から決めます。
参考文献・出典
- Iyengar, S. S., & Lepper, M. R.(2000)「When choice is demotivating: Can one desire too much of a good thing?」Journal of Personality and Social Psychology, 79(6), 995–1006。6種類と24・30種類の候補を比較した、購入・選択・満足に関する3実験。大学・出版社掲載の要旨を確認。
- Scheibehenne, B., Greifeneder, R., & Todd, P. M.(2010)「Can there ever be too many options? A meta-analytic review of choice overload」Journal of Consumer Research, 37(3), 409–425。50実験・63条件の統合分析で平均効果がほぼゼロだったことと研究間の違い。出版社の要旨を確認。
- Chernev, A.(2003)「When more is less and less is more: The role of ideal point availability and assortment in consumer choice」Journal of Consumer Research, 30(2), 170–183。希望する特徴を明確に持てるかによって、大きな品ぞろえと選んだ候補への評価の関係が変わる4実験。原著・出版社の要旨を確認。
- Chernev, A., Böckenholt, U., & Goodman, J.(2015)「Choice overload: A conceptual review and meta-analysis」Journal of Consumer Psychology, 25(2), 333–358。99の観測結果、7,202人を対象に、選択過多に関係する4条件を整理した統合分析。出版社・大学の要旨を確認。
- Botti, S., & Iyengar, S. S.(2004)「The psychological pleasure and pain of choosing: When people prefer choosing at the cost of subsequent outcome satisfaction」Journal of Personality and Social Psychology, 87(3), 312–326。自分で選ぶことと、選んだ結果への満足が候補の好ましさによって異なる研究。大学・医学文献データベースの要旨を確認。