フット・イン・ザ・ドアとは?小さな依頼の後で承諾は変わるのか

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「まず5分だけ話を聞いてください」「簡単なアンケートだけお願いします」。小さな依頼なら応じてもよいと思った後で、より大きな依頼を受けると、最初から大きな依頼だけをされた場合とは判断が変わることがあります。

フット・イン・ザ・ドアとは、最初に小さな依頼へ応じてもらい、その後でより大きな依頼をする承諾獲得の手続きです。1960年代から研究されており、小さな依頼に応じた後で次の依頼への承諾が増えた実験があります。ただし、その効果はいつでも起こるわけではなく、研究全体では弱く、不成立や逆効果も確認されています。

フット・イン・ザ・ドアとは 意味と仕組み

英語では foot-in-the-door technique と呼ばれます。訪問販売で、まずドアを閉められないよう「足を入れる」という比喩から付いた名称です。心理学では、次のような順序の依頼を指します。

  1. 比較的応じやすい小さな依頼をする。
  2. 相手がその依頼に応じる。
  3. その後、より負担の大きい依頼をする。

ここで重要なのは、フット・イン・ザ・ドアは「依頼の順序」を表す手続きだということです。「人は一貫したくなるから必ず応じる」という単一の心理法則を指すわけではありません。

Burgerは1999年のレビューで、この手続きに関わる候補として、自己知覚、心理的リアクタンス、同調、一貫性、原因の捉え方、コミットメントなど複数の心理過程を挙げています。成功する研究だけでなく、効果が出ない研究や承諾が減る研究も、複数の過程が組み合わさることで説明できると論じています。Burger(1999)

そのため、このサイトで扱う「一貫性の原理」とも区別が必要です。一貫性は過去の選択や発言とその後の行動の整合を考えるテーマですが、フット・イン・ザ・ドアでは、小さな依頼の後に大きな依頼をする手続き全体を扱います。一貫性は、その効果を説明する候補の一つです。

また、後で扱う「ドア・イン・ザ・フェイス」は順番が逆です。最初に大きな依頼をして断られた後、より小さな依頼を提示します。どちらも段階的な依頼ですが、同じ手法ではありません。

研究で分かっていること

最初の研究では大きな効果が確認されましたが、その後の研究をまとめると、フット・イン・ザ・ドアは再現することはあるものの、強く安定した効果ではないと考えるのが適切です。

小さな依頼に応じた後、大きな依頼への承諾が増えた

FreedmanとFraserは1966年、フット・イン・ザ・ドアを検討する2つのフィールド実験を報告しました。最初の実験では、カリフォルニア州パロアルトの家庭に電話し、一部の参加者にはまず家庭で使う石けんなどについて8問の簡単な質問に答えてもらいました。その3日後、5〜6人の調査員を約2時間自宅に入れ、家庭用品を調べさせてほしいという、はるかに大きな依頼をしました。

小さな質問に実際に答えた条件では52.8%が大きな依頼に応じたのに対し、最初の小さな依頼をせず大きな依頼だけをした条件では22.2%でした。Freedman & Fraser(1966)

2つ目の実験では、最初に小さな交通安全の表示を窓などに出す、または請願書に署名するといった依頼をし、約2週間後に別の人が、自宅の前庭に大きな交通安全看板を設置してほしいと依頼しました。大きな依頼だけを受けた条件の承諾率は16.7%でしたが、小さな依頼を先に受けた4条件はいずれも約47〜76%でした。

元研究は、小さな行動の後で次の承諾が変わりうることを強く示した研究です。ただし、この一連の結果だけから「小さな依頼を先にすれば承諾率が必ず上がる」と一般化はできません。

研究全体では、効果は弱く不成立も多かった

Beamanらは1983年、それまで約15年間に行われたフット・イン・ザ・ドア研究をメタ分析しました。120の実験群を検討した結果、現象自体は再現可能と判断された一方、効果は一般に考えられていたほど強くありませんでした。

特に重要なのは、ほぼ半数の研究で効果が見られないか、予想と逆方向の結果だったという点です。また、よく使われる「最初の行動によって自分を協力的な人だと捉える」という自己知覚の説明だけでは、研究結果を明確に予測できないと指摘されました。Beamanら(1983)

この結果を踏まえると、フット・イン・ザ・ドアは「確実に承諾を増やすテクニック」ではなく、条件によって結果が変わる社会的影響の手続きとして理解する必要があります。

同じ人がすぐ次の依頼をすると、逆効果になった研究もある

Chartrand、Pinckert、Burgerは1999年、小さな依頼の後の大きな依頼を、すぐにする場合と2日後にする場合、同じ人がする場合と別の人がする場合で比較しました。

多くの条件では、小さな依頼を先に行った参加者のほうが、大きな依頼だけを受けた対照群より承諾しやすくなりました。しかし、同じ人が小さな依頼の直後に大きな依頼をした条件では、対照群より承諾が少なくなりました。研究者は、典型的なフット・イン・ザ・ドアが逆効果になる条件の例として報告しています。Chartrandら(1999)

著者らは、同じ依頼者が間を置かず続けて依頼すると、相手が過度な圧力を感じ、自由を取り戻そうとする心理的リアクタンスが生じる可能性を論じています。少なくとも、この研究からは「依頼を細かく分けて連続すればよい」とは言えません。

仕事での具体例と活かし方

仕事でフット・イン・ザ・ドアを考えるなら、相手から小さな「はい」を取って大きな承諾へ誘導する方法ではなく、大きな判断の前に、負担の小さい確認や体験を用意するという使い方が適しています。

営業では、小さな依頼だけでも意味がある形にする

説明用の例です。新しい業務システムを提案するとき、いきなり「導入契約をしてください」と依頼するのではなく、まず顧客に10分程度の現状ヒアリングへの協力を求めるとします。

この場合、ヒアリングは次の契約を取るためだけの形式的な依頼にしません。顧客の課題を整理し、その結果を本人に返すなど、小さな段階だけでも相手に価値があるようにします。その後、デモや試用を提案するときも、最初の協力を理由に承諾を迫らず、あらためて選んでもらいます。

たとえば、次のように段階を分けられます。

  1. 課題を確認する。短いヒアリングへの参加を依頼する。
  2. 結果を返す。聞いた内容を整理し、現在の課題や選択肢を共有する。
  3. 次の提案は別に確認する。「必要であればデモもできます」と、次の行動を改めて選んでもらう。

こうすれば、最初の承諾を次の承諾の根拠にせず、相手が各段階で判断できます。

社内では、大きな変更を小さく試せるようにする

新しい業務ルールを導入するときも、いきなり全社運用への賛成を求めるより、限定したチームで試験運用する方法があります。ただし、これは心理的な承諾を利用するためではなく、実際のデータを集めて次の判断をしやすくするためです。

試験運用に参加したことと、本格導入への賛成は別の判断です。「試したのだから導入すべき」と扱わず、使いやすさ、作業時間、問題点などを確認してから改めて決めます。

受ける側は、最初の承諾を次の判断材料にしすぎない

自分が依頼を受ける側でも、「前に協力したから今回も断りにくい」と感じることがあります。そのときは、現在の依頼だけを取り出して考えます。

  • 最初の依頼に応じていなかったとしても、今回の依頼を受けたいか。
  • 最初の依頼から、負担や条件がどれだけ変わったか。
  • 今の依頼を断っても、最初の協力の価値が失われるわけではないか。

フット・イン・ザ・ドアは、小さな依頼の後で大きな依頼への承諾が増える場合がある手続きです。しかし、効果は弱く、不成立や逆効果もあります。仕事では、小さな承諾を利用して相手を縛るのではなく、各段階で負担と条件を明確にし、その都度自由に選べる形にすることが重要です。

参考文献・出典