ミラーリング効果とは?しぐさの同調と対人関係の研究

Psychology Laws 編集部

話しているうちに相手と姿勢が似てきたり、相手が笑うと自分も笑ったりすることがあります。こうした「いつの間にか相手と似た動きをしている」現象は、人と人のやり取りの中で自然に起こります。

一般に「ミラーリング効果」と呼ばれるものに近い研究対象は、心理学では行動的模倣(behavioral mimicry)やカメレオン効果(chameleon effect)として研究されています。相手の姿勢、しぐさ、表情などを無意識にまねることや、まねられた相手との関係がどう変わるかを扱います。Chartrand & Bargh(1999)

ただし、「相手の動きを意図的にまねれば必ず好かれる」という意味ではありません。研究の中心は自然に起こる無意識の模倣であり、意図的なミラーリングをそのまま営業や面談のテクニックとして勧める根拠とは区別する必要があります。

ミラーリング効果とは 意味と仕組み

ChartrandとBarghは1999年、相手の姿勢や動作を意識せずにまねる現象を「カメレオン効果」と呼びました。人は対話相手の足の動きや顔に触れる動作などを見ていると、自分でも知らないうちに似た動作を増やすことがありました。Chartrand & Bargh(1999)

この研究で重要なのは、「まねよう」と意識していなくても同調が起こる点です。2013年のレビューでも、行動的模倣は、しぐさ、姿勢、癖のような動作を自動的にまねる現象として整理されています。また、どの程度まねるかは、相手との関係、親しくなりたいという動機、感情、性格などによって変わるとされています。Chartrand & Lakin(2013)

そのため、「相手が腕を組んだら自分も腕を組む」といった機械的なコピーだけをミラーリングと考えるのは狭すぎます。実際の対話では、姿勢だけでなく、声の調子、話す速さ、言葉の使い方など、さまざまな同調が起こりえます。

また、ミラーリングと単純接触効果も別の現象です。単純接触効果は、繰り返し接することと好意の変化を扱います。ミラーリングでは、対話中に相手と行動が似ることや、その同調が関係の受け止め方にどう関わるかが中心です。

研究で分かっていること

研究からは、自然な模倣が対人関係の滑らかさや好意と関係する例が確認されています。ただし、模倣の効果は状況や方法によって変わり、意図的にコピーすれば同じ結果が得られるとは限りません。

無意識の模倣が起こり、まねられた相手への好感も変わった

ChartrandとBarghは1999年、3つの実験を行いました。最初の実験では、参加者が一緒に作業した相手の動作に無意識に近づくことを確認しました。相手が足を動かしていると参加者も足を動かしやすくなり、相手が顔に触れていると参加者も同じような行動を増やしました。

2つ目の実験では、実験協力者が参加者の姿勢や動きをまねる条件と、まねない条件を比較しました。まねられた参加者は、相手をより好意的に評価し、やり取りもより滑らかだったと評価しました。3つ目の実験では、共感的な傾向が高い参加者ほど模倣が多く見られました。Chartrand & Bargh(1999)

この研究は、自然な行動の同調と対人関係の評価が結びつく例を示しています。ただし、実験室で確認された結果であり、仕事の面談で同じように動きをコピーすれば好感が上がるとまでは言えません。

模倣する側と、まねられる側の両方に関係の変化が見られた

StelとVonkは2010年、実際に2人が対面するやり取りの中で、模倣する側とまねられる側の両方を調べました。その結果、模倣がある条件では、双方が相手との結びつきをより強く感じ、やり取りをより滑らかだと評価しました。Stel & Vonk(2010)

ただし、研究者自身も、それ以前の模倣研究には、まねられる側の効果に研究が偏っていたことや、模倣する側については相関研究や実際の対話を伴わない研究が多かったことを指摘しています。行動的模倣については、どの条件で誰にどのような影響が出るのかを分けて考える必要があります。

法律相談の現場では、模倣した弁護士が選ばれやすかった

Kuleszaらは2023年、ポーランドの法律事務所で、実際に相談に来た顧客を対象とする2つの実験を行いました。1つ目の実験には60人、2つ目には90人が参加しました。

弁護士が顧客の発言を言い換えたり、声の調子を合わせたりする「言語的模倣」を行う条件と、行わない条件を比較しました。2つ目の実験では、さらに手や腕、姿勢を相手の動作後に合わせる条件も加えました。1つ目の実験では言語的模倣をした弁護士への代理依頼が非模倣条件より多くなりました。2つ目の実験では3条件全体に差があり、言語と非言語を組み合わせた模倣では、非模倣より代理依頼が多いという差が、偶然のばらつきだけでは説明しにくい結果になりました。一方、複数の比較による偶然の差を効果と誤認しにくくする調整後は、言語的模倣だけで代理依頼が増えたとは明確に確認できませんでした。Kuleszaら(2023)

仕事に近い現場で行われた点は参考になりますが、一般化には注意が必要です。著者ら自身、参加者数が比較的小さく、2つの法律事務所はいずれも同じ国にあり、別の文化や職業でも同じ結果になるかは追加研究が必要だとしています。また、意図的な模倣を人への影響手段として使うことには倫理上の問題もあると論じています。

まね方によっては、むしろ評価が下がることもある

模倣なら何でも良いわけではありません。2020年の研究では、参加者が仮想の対話相手と会話し、相手が頭の動きを鏡のように合わせる条件、身体の同じ側を動かす条件、まねない条件を比較しました。

鏡のように見える模倣では相手への評価が比較的肯定的になる傾向がありましたが、身体の同じ側をそのまま動かす模倣では、まねられない場合より相手への評価が低くなりました。Casasantoら(2020)

この研究は仮想エージェントとの会話なので、そのまま職場へ置き換えることはできません。それでも、模倣の仕方が不自然であれば好意につながるとは限らないことを示しています。

仕事での具体例と活かし方

仕事でこの研究を参考にするなら、相手の動作を意識してコピーする「テクニック」として使うより、相手の話し方やペースに自然に合わせ、理解していることを返すという方向が使いやすいでしょう。

面談では、動きをコピーするより会話のペースを合わせる

説明用の例です。顧客がゆっくり考えながら話しているのに、担当者が早口で次々と質問すると、会話のリズムが合いません。

そこで、相手のペースを見ながら、質問の間を少し長く取る、話し終わるまで待つ、重要な言葉を自然に言い換えて確認するといった対応をします。

たとえば、顧客が「今の業務では入力の手間が一番困っています」と話したなら、「入力作業の負担が一番大きいのですね」と返します。これは単に言葉をそのままコピーするのではなく、相手の内容を理解したことを確認する応答です。

「姿勢を同じにする」ことを目標にしない

相手が腕を組んだから自分も腕を組む、相手が前に身を乗り出したから数秒後に同じ動きをする、といった方法を機械的に実行する必要はありません。

研究の中心は自然に生じる模倣であり、意図的な模倣をそのまま実務テクニックとして保証しているわけではありません。相手の動作ばかり意識すると、話の内容を聞くことがおろそかになったり、不自然な動きになったりする可能性があります。

相手に合わせても、判断内容まで合わせない

会話のテンポや言葉が自然に似てくることと、意見まで同じにすることは別です。たとえば上司との会議で話し方が似ていても、問題点があれば異なる意見を伝える必要があります。

ミラーリング研究が扱うのは主に対人関係や相互作用の滑らかさです。提案の正しさ、価格の妥当性、相手の専門性などが高まることを意味しません。人間関係の感じ方と、仕事上の判断は分けて確認します。

「ミラーリング効果」という言葉から、相手を意図的にまねれば好かれる方法だと理解するのは適切ではありません。研究で確認されている中心的な現象は、対話の中で自然に起こる行動的模倣です。仕事では、動作をコピーすることより、相手の話をよく聞き、会話のペースを合わせ、内容を理解したことを自然に返すことのほうが実践しやすい考え方です。

参考文献・出典