ゴーレム効果とは?低い期待と接し方が仕事に与える影響

Psychology Laws 編集部

「この人には難しい仕事は任せにくい」と上司が考え、その結果として重要な仕事を任せる機会や成長につながるやり取りが減る。すると本人も自信を失い、成果が伸びない――。こうした流れは、低い期待が結果に影響する可能性を考えるときの一つの例です。

ゴーレム効果とは、指導者や周囲から向けられた低い期待が、接し方や本人の認識・行動を通じて、その後の成果低下に関わるという自己成就的な期待効果です。ただし、「低く評価された人は必ず成績や業績が下がる」という法則ではありません。期待が結果を正確に予測しているだけの場合もあり、期待そのものが原因だったかどうかは分けて考える必要があります。

ゴーレム効果とは 意味と仕組み

ゴーレム効果(Golem effect)は、期待が人の成果に影響する研究の中で、低い期待による負の方向の自己成就を表す言葉です。高い期待が成果向上に関わる「ピグマリオン効果」と対になる形で扱われます。

Babad、Inbar、Rosenthalは1982年、教師の期待について、肯定的な期待による効果を「Galatea」、否定的な期待による効果を「Golem」と区別して研究しました。研究には26人の教育実習生と202人の生徒が参加しました。偏った情報の影響を受けやすい教師は、自分が「潜在能力が低い」と見なした生徒を否定的に扱う一方、高い期待を向けた生徒にはより好意的に接していました。偏りの小さい教師は、3つの生徒群をより公平に扱っていました。こうした差は教師の行動だけでなく、生徒が行った課題の成績にも表れました。Babadら(1982)

この研究は、期待と接し方、そして成果がつながる可能性を示しています。ただし、低い期待を向けられた生徒の一部は教師自身が「潜在能力が低い」と判断して選んだ集団で、低い期待を無作為に割り当てたわけではありません。そのため、この研究だけで「低い期待が原因で成績が下がった」と完全に切り分けることはできません。

自己成就的な期待は、一般に「期待する側が相手を違うように扱い、その扱いを受けた相手の行動が期待に近づく」という流れで考えられます。重要なのは、低い期待そのものではなく、期待が実際の接し方や本人の自己評価・努力に影響するかという点です。

研究で分かっていること

ゴーレム効果は教育場面で研究されてきましたが、職場で低い期待を意図的に与える実験には倫理的な問題があります。そのため、仕事に近い研究では「低い期待を作る」のではなく、「低い期待が生まれにくくする」「自然に存在する低い期待との関係を見る」といった方法が使われています。

低い得点を「能力の低さ」と結びつけないと、その後の成績が改善した

OzとEdenは1994年、軍隊の部隊で、低い身体能力テスト得点から指導者が低い期待を形成することを防ぐ実験を行いました。小隊の指導者34人を無作為に2群へ分け、17人には「この身体能力テストの低得点は、その人が今後うまくできないことを示すものではない」と説明しました。残る17人には、テスト得点をどう解釈するかについて特別な説明をしませんでした。

その後の2回の測定では、最初に得点が低かった隊員のうち、指導者に説明を行った部隊の隊員のほうが対照部隊より大きく改善し、その差も維持されました。また、説明を受けた指導者の部隊では、隊員が指導者をより好意的に評価し、満足度も高くなりました。Oz & Eden(1994)

この研究は「低い期待を与えて成績を下げた」実験ではありません。むしろ、低得点を「能力が低い証拠」と解釈しないようにすることで、その後の改善を促せるかを調べています。そのため、ゴーレム効果を直接作った証拠というより、低い期待の形成を抑えることが成果に関わる可能性を示した研究として読むのが適切です。

職場では、否定的な「部下像」と低い成果が関連した

LeungとSyは2018年、営業、娯楽、医療など複数の業界から、101人の上司と202人の部下を含む職場グループを調べました。研究では、「部下とは能力が低く、受け身である」といった集団内の否定的な部下像と、部下本人の自己効力感、努力、上司が評価した成果との関係を分析しました。

否定的な部下像が強いグループほど、部下の自己効力感が低く、その自己効力感は努力と関連し、さらにグループ間では努力と成果が関連していました。統計モデルでは、否定的な部下像と成果の関係が、自己効力感と努力を通じて間接的につながる結果が得られました。Leung & Sy(2018)

ただし、この研究は一時点で測定した横断研究です。著者ら自身も、この設計では「否定的な期待が成果低下を引き起こした」という因果の向きを証明できないと述べています。成果が低いために否定的な見方が強くなった可能性なども残ります。

期待の自己成就効果は、一般には大きくない

JussimとHarberは2005年、教師期待と自己成就予言について35年間の研究をレビューしました。結論は、自己成就的な期待効果は実際に存在するものの、平均すると小さく、時間とともに大きく積み重なるとは限らないというものでした。また、教師の期待が生徒の成果を予測する理由の多くは、期待が自己成就したからではなく、教師の見立てがもともとある程度正確だったためだと整理しています。Jussim & Harber(2005)

この点はゴーレム効果を理解するうえでも重要です。上司が低い成果を予測し、その後本当に成果が低かったとしても、それだけでゴーレム効果とは言えません。低い期待が接し方や本人の行動を変え、その変化が成果に寄与したと考えられる場合に、自己成就的な影響として検討できます。

仕事での具体例と活かし方

仕事でゴーレム効果を考える目的は、「部下を高く評価すれば業績が上がる」と思い込むことではありません。現在の評価を、その人の将来の能力や扱い方まで固定する材料にしないための視点として使うのが実用的です。

低い評価と、将来の可能性を分ける

説明用の例です。新しい業務を担当した社員が、最初の2回の報告でミスをしたとします。上司が「この人には難しい仕事は無理だ」と決めると、その後の仕事の割り振りや説明の仕方が変わる可能性があります。

そこで、次のように分けて考えます。

  1. 現在確認できた事実を書く。「2回の報告で数値確認のミスがあった」のように、観察した内容を具体化します。
  2. 原因を一つに決めない。知識不足、手順、説明不足、時間、経験量などを確認します。
  3. 次に必要な支援と基準を決める。チェックリストを使う、レビューを1回増やすなど、改善を確認できる条件を作ります。
  4. 再評価する時期を決める。最初の印象を固定せず、一定期間後の結果で判断を更新します。

「今はできていない」と「今後もできない」は同じではありません。評価を更新できる仕組みにしておくことが重要です。

仕事の割り振りやフィードバックに差が出ていないか確認する

低い期待があると、本人に任せる仕事、説明の量、意見を聞く機会などが知らないうちに変わることがあります。これは仕事への応用としての確認項目です。

たとえば、同じ役割の社員について、挑戦的な仕事を任せる機会、必要な情報へのアクセス、フィードバックの具体性、質問や提案の機会が大きく違っていないかを確認します。差がある場合は、「実績に基づく合理的な違いなのか」「最初の印象をそのまま引きずっているのか」を分けます。

全員を同じように扱う必要はありません。経験や役割に応じた支援の違いは必要です。問題になるのは、低い期待を理由に成長や再評価の機会そのものを狭め、その結果を「やはり能力が低かった」と解釈する循環です。

本人にも「低い評価」を固定的なラベルとして渡さない

フィードバックでは、「向いていない」「能力がない」と人物全体を評価するより、改善できる行動や成果に焦点を当てます。

たとえば「企画力がない」ではなく、「今回の企画では顧客データと提案のつながりが不足していた。次回はこの2点を確認しよう」と伝えます。現在の問題と改善方法を具体化すれば、評価がその人の固定的な能力ラベルになりにくくなります。

ゴーレム効果は、低い期待だけで人の能力が下がるという単純な法則ではありません。低い期待が接し方や本人の自己効力感・努力に影響し、成果低下に関わる場合があるという考え方です。一方、期待効果全般の研究では平均的な自己成就効果は小さく、期待が正確な予測である場合も多いことが分かっています。仕事では、現在の評価を固定せず、接し方と評価機会を点検し、実際の行動と成果に応じて見立てを更新することが大切です。

参考文献・出典