古い設備の売却額に納得できない|思い入れと市場の評価を分ける

企画・意思決定
Psychology Laws 編集部

長く使ってきた設備を売却しようとしたところ、買取業者から想像よりずっと低い金額を提示されると、「まだ使えるのに、なぜこの値段なのか」と納得しにくいことがあります。購入時の費用や、手入れしながら使い続けた経験があるほど、その金額では手放したくないと感じるかもしれません。

そんなときは、自社がその設備に感じる価値、同種の設備に買い手が支払う価格、売却後に実際に残る金額を分けて確認します。 最初の査定をすぐに受け入れる必要も、思い入れがあるから高値にこだわり続ける必要もありません。査定の根拠と引き渡し条件をそろえれば、価格の再確認を求めるか、別の売却先を探すか、当面は保有するかを考えやすくなります。

使い続けた設備を手放すとき、価格の判断に何が影響するのか

説明用の仮の場面です。ある工場で、長年使ってきた包装機を売却することになりました。担当者は故障のたびに修理を手配し、作業が止まらないよう工夫してきました。「まだ動くし、整備にも費用をかけた。もっと高く売れるはずだ」と思っていましたが、査定額は予想を下回りました。

担当者が知っているのは、これまで役に立った場面や、手をかけて維持してきた経緯です。一方、買い手は、機械の型式や状態に加え、運搬・再設置にかかる負担、使える部品や保守体制、買い手が見つかる可能性などを考えます。設備が自社で役立ったことと、別の会社がその金額で買うことは、同じ判断ではありません。

所有している品物を高く評価する傾向

Kahneman、Knetsch、Thaler(1990)は、参加者の一部にマグカップを無作為に与え、市場で売買する実験を行いました。マグカップの所有者が手放してもよいと考える価格は、所有していない買い手が支払おうとする価格より高く、実際の取引量も理論上の予測より少なくなりました。一方、実験内で現金換算の価値があらかじめ決められた取引対象では、予測に近い取引量が見られました(Kahnemanら, 1990)。

このように、自分のものを所有していると評価が高くなる傾向は「保有効果」と呼ばれます。MorewedgeとGiblin(2015)の研究レビューでは、損失への抵抗だけでなく、比較の基準にする価格や、売り手と買い手が思い出しやすい情報の違いなど、複数の説明が整理されています(Morewedge・Giblin, 2015)。詳しい仕組みは、サイト内の保有効果の解説でも紹介しています。

低い査定の原因を「気持ちの問題」だけにしない

ただし、保有効果はいつも同じ強さで現れるわけではありません。PlottとZeiler(2005)は、参加者に価格の答え方を十分に説明し、練習してもらう手続きを採った実験では、マグカップなどの売り手と買い手の価格差を観察しませんでした(Plott・Zeiler, 2005)。これに対し、Fehrら(2015)が類似の手続きを再検証した実験では、マグカップの価格差が残りました(Fehrら, 2015)。

これらは日用品を用いた実験であり、会社が中古の機械設備を売る場面で同じ価格差が出ると直接確かめたものではありません。整備状態が査定に反映されていない、撤去費用が高い、買い手が限られるなど、実務上の理由もあり得ます。納得できないという反応を見ただけで、担当者の心理や査定の正しさを決めつけないことが大切です。

売却額が安いと感じたとき、まず何を確かめるか

価格を比較するときは、次の三つを混ぜないようにします。第一に、購入費や修理にかけた費用、これまでの貢献から感じる自社にとっての価値。第二に、同じような設備について買い手が提示する取引条件付きの価格。第三に、その価格から売り手が負担する費用を引いた売却後の手取りです。取得時に高価だったことだけでは、現在の買い取り価格は決まりません。

国際評価基準(IVS、2025年1月31日発効)の機械設備に関する部分では、型式・能力、整備履歴、物理的・技術的な古さ、設置場所からの撤去費用などが評価に関係するとされています。また、市場での比較に使う情報として同一・類似設備の実際の売買価格と売り出し価格を挙げ、売り出し価格より実際の取引価格を優先する考え方を示しています(International Valuation Standards・IVS 300)。

実際の査定を読むときは、次の点を確認します。

  • 比較された設備はどれか: 型式、製造年、稼働時間、能力、付属品、点検・修理履歴が近いでしょうか。状態の違う機械の価格をそのまま使っていれば、査定の見直しを頼む材料になります。
  • 価格は成約額か、売り出し額か: 高い価格で掲載中の設備があっても、実際にその額で売れたとは限りません。実際の成約例か、まだ売れていない希望価格かを分けます。
  • 誰が何を負担するか: 電源の切り離し、解体、搬出、運搬、仲介手数料などは買い手・売り手のどちらが負担しますか。価格が同じでも、手取りは違うことがあります。
  • 査定の前提は何か: 現物を確認した金額か、写真だけの概算か。いつまでに引き取るのか、いつ支払われるのか、動作保証や引渡後の責任はどうなっているかを確かめます。
  • 十分な比較対象があるか: 特殊な設備では同型機の売買事例が少なく、単純な市場比較では価格を決めにくい場合があります。判断を急がず、専門の評価や別の販売経路を検討する余地があります。

国際評価基準は専門的な資産評価のための資料であり、ここに挙げた確認項目をそろえれば査定額が上がると保証するものではありません。取引の目的や売却までの期限によっても、比較すべき条件は変わります。

思い入れと売却条件を分け、次の行動につなげる方法

以下は保有効果の研究と設備の評価基準を参考にした実務上の提案です。この手順で売却価格や納得感が改善することが研究で直接証明されたわけではありません。

査定額ではなく、同じ条件での手取りを並べる

先ほどの包装機について、同じ時期に複数の売却先から見積もりを受けたとします。次の金額は比較方法を説明するための仮の数字であり、実際の査定相場や取引実績ではありません。計算を分かりやすくするため、記載した費用以外の税金や手数料などは含めない前提です。

仮の売却先 提示された買取額 売り手の負担 売却後の手取り
甲 52万円 0万円(搬出・運搬は買い手負担) 52万円
乙 65万円 搬出・運搬18万円+手数料3万円 44万円
丙 55万円 搬出費8万円 47万円

この仮の条件では、乙の提示額は最も高い65万円ですが、手取りは65−18−3=44万円です。甲は52−0=52万円、丙は55−8=47万円となります。金額以外にも、入金時期、引取り日、現物確認後の減額条件、保証や責任範囲が異なれば、それも比較に加えます。見積書が拘束力のある買い取り約束なのか、変更され得る概算なのかも確かめてください。

査定に納得できないときの確認と判断

  1. 自社側の根拠を書き分ける。 「長年役立った」「高額で買った」は過去や自社にとっての価値です。一方、稼働状態や整備記録、付属品の有無は、買い手にも確認できる情報です。思い入れそのものを否定せず、相手に伝わる材料を分けます。
  2. 査定担当者に根拠を聞く。 例えば「同型機の実際の取引例と、今回の設備の違いを教えてください」「整備記録を示した場合、評価に変わる部分はありますか」「この額に撤去費用や手数料は含まれますか」と確認します。査定の前提が違えば、訂正や再査定を依頼します。
  3. 同じ条件で複数の見積もりを取る。 設備の写真・型式・稼働状況・引渡場所・希望時期をそろえ、金額だけでなく手取りと責任範囲を比べます。相場の情報が乏しい場合、複数の見積もりがあっても正しい市場価格が一つに決まるとは限りません。
  4. 価格と、売るかどうかの判断を分ける。 条件をそろえても提示額が低いなら、買い手が現時点で評価できる価格帯なのかもしれません。一方、自社で今後使う予定があり、使用価値が売却後の手取りを上回ると考えられるなら、保有を続ける理由もあります。売却を急ぐ事情、保管費、代替用途も確認して判断します。

結論が変わるのは、たとえば整備の記録を示して査定条件が改善したとき、売り手負担の費用が判明したとき、あるいはまだ自社で使う必要があると確認できたときです。「こんなに大切にしてきたのに」という感覚と、「相手がその額を支払う理由があるか」を分けることで、売却を断る場合にも受け入れる場合にも、説明できる判断になります。

参考文献・出典