「成功率」と「失敗率」で印象が変わる提案資料|数字の伝え方を点検する

マーケティング・集客
Psychology Laws 編集部

提案資料に「導入成功率80%」と書くと、前向きな実績に感じられます。同じ結果を「失敗率20%」と書けば、受ける印象が変わるかもしれません。しかし、肯定的な数字を選ぶか否定的な数字を選ぶかよりも先に、何件を対象にし、何を成功・失敗と数えたのかを確かめる必要があります。

同じ集団・期間・判定基準で、すべての結果が成功か失敗のどちらかに入るなら、「成功率80%」と「失敗率20%」は対になる数字です。一方、未判定や集計対象外の案件がある場合、成功と失敗だけで全体を説明できないことがあります。提案担当者は、元の件数と判定基準を示し、相手が利点と限界の両方を確認できる資料にします。

「成功率」と「失敗率」で印象が変わるのはなぜか

説明用の仮の場面です。マーケティング担当者が、企業向けシステムの導入支援サービスを紹介する資料を作っています。同僚から「成功率80%と大きく書けば、実績が伝わりやすい」と提案されました。別の担当者は「失敗率20%と見ると、導入のリスクが気になる」と話します。数字が同じ結果を表していても、目が向く側面は変わります。

同じ対象の特徴を肯定的・否定的に表現することで、評価が変わる場合があります。LevinとGaeth(1988)は、牛ひき肉を「75%が赤身」または「25%が脂肪」と表示して、消費者による品質などの評価を比べました。どちらも同じ割合を別の面から示す表示ですが、「75%が赤身」と示した方が好意的に評価されました。一方、実際にひき肉を試食した後には、表示の違いによる評価の差が小さくなりました。Levin・Gaeth(1988)の原著論文要旨

この実験は食品の属性表示と試食を扱い、法人向けサービスの成功率を提示したときの契約率を測ったものではありません。ただし、言い方による印象と、実際に確かめた品質を分けるという点は、提案資料を見直す材料になります。

別の研究で、McNeil・Pauker・Sox・Tversky(1982)は、慢性疾患のある外来患者238人、大学院生491人、医師424人に、肺がんの手術と放射線治療を選ぶ仮の課題を示しました。治療名を示すかどうか、結果を生存期間か累積確率で表すか、生存する確率か死亡する確率で示すかを変えて比較しました。生存する確率で結果を示した条件では、死亡する確率で示した条件より、手術が相対的に好まれました。McNeilら(1982)の原著論文要旨

これは医療上の選択を想定した研究で、提案資料に肯定的な数字を使えば購入されると示したものではありません。また、治療名や示す指標の形式も操作しているため、すべての差を「生存/死亡」の言い換えだけの効果として説明するのは適切ではありません。

心理学では、こうした表現による評価の違いを「フレーミング効果」と呼びます。Levin・Schneider・Gaeth(1998)は研究を整理し、対象の特徴を肯定・否定で示す「属性のフレーミング」、確実な案と危険を伴う案の選択に関わるもの、行動を促す目的の伝え方に関わるものを区別しました。研究によって扱う課題と仕組みが異なります。Levinら(1998)の研究レビュー要旨。詳しい仕組みについてはフレーミング効果の解説も参考になります。

したがって、「80%成功」と言えば必ず安心されるとも、「20%失敗」と言えば必ず不安になるとも断定できません。資料を作る側ができるのは、表現による印象の差を意識しながら、元となる実績を正確に伝えることです。

成功率と失敗率は、いつ本当に「合計100%」になるか

「成功率80%、失敗率20%」が正確に対になるのは、同じ対象・期間・成功の定義で、すべての結果が成功か失敗のどちらかに判定済みの場合です。例えば、100件すべてを同じ基準で判定し、80件が成功、20件が失敗なら両方の表現は一致します。

しかし、提案で扱う仕事には、まだ結果が出ていない案件、調査が終わっていない案件、結果を記録できなかった案件が含まれる場合があります。その状態で判定済みの案件だけを分母にした80%を、すべての顧客の成功割合であるかのように示すと、伝えている範囲が違ってしまいます。

失敗の反対が必ず成功になるとも限りません。「目標を達成した」「目標には届かなかったが一部改善した」「効果を確認できない」「まだ評価時期に達していない」といった区分がある場合、成功/失敗の2択にすると必要な情報が消える可能性があります。資料を作る前に、結果をどのように分類したか確かめます。

表現と理解の関係については、Armstrongら(2002)が、裁判所で陪審員候補として待機していた451人に、仮の予防手術の判断問題を示した無作為化実験もあります。生存率の推移を示すグラフ、死亡率の推移を示すグラフ、その両方を示すグラフの3条件を比較しました。生存率だけ、または生存率と死亡率の両方を見た群は、死亡率だけを見た群より情報を正確に読み取れました。3つの判断課題のうち2つでは、死亡率だけの群はほかの条件より手術を選びにくい結果でした。Armstrongら(2002)の原著論文要旨

この研究も医療上の仮の選択とグラフ理解に関する結果で、提案書に両方の率を載せれば必ず成約率が上がる、あるいは必ず理解が改善するとは証明していません。今回の資料では、片面だけの表現で隠れる結果がないかを確かめるために、数字の両面を見直します。

「成功率80%」の元データを、未判定も含めて確認する

次は説明用に作った架空の導入支援実績です。実在する企業の実績や業界平均ではありません。仮に、ある四半期に導入支援を開始した案件が60件あったとします。成功は「導入開始から30日以内に、顧客が通常業務を開始できたこと」と定義し、四半期末時点で、開始から30日経過して判定できる案件が45件、残り15件はまだ判定時期前だったとします。

案件の状態(すべて仮の数字) 件数 割合の分母 どう表せるか
導入支援を開始した案件全体 60件 — 調査対象の合計
30日間の判定期間を終えた案件 45件 60件 45÷60=75%が判定済み
30日以内に通常業務を開始できた案件 36件 判定済み45件 36÷45=80%が目標達成
30日以内の開始に至らなかった案件 9件 判定済み45件 9÷45=20%が目標未達
30日間を経過しておらず未判定の案件 15件 全60件 15÷60=25%は結果未確定

ここでは、判定済みの45件に限れば成功率80%、未達率20%です。数値は同じ母数と基準で計算され、36件+9件=45件と一致します。しかし、この80%を「導入した60社の80%が成功」と書くことはできません。残り15件の結果がまだ出ていないためです。

全60件を分母にすれば、四半期末までに成功を確認できた案件は36÷60=60%、未達と確認できた案件は9÷60=15%、未判定は15÷60=25%です。ただし、この60%は全案件の最終的な成功率ではなく、その時点で成功が確認できた割合です。未判定15件を失敗にも成功にも入れません。

さらに、この例の「成功」は導入後30日以内に通常業務を始められたという意味です。売上が増えた、工数が減った、長期的に利用が続いたという意味ではありません。実際の資料では、顧客が知りたい成果と、測定した結果の意味が合っているかを確かめます。

提案資料では、目立つ見出しと根拠の表示を分けて作る

「成功率80%」という見出し自体が、ただちに不正確というわけではありません。しかし、その数字がどの範囲の結果か分からない見せ方では、読む人は自社でも同じ成功確率があると思うかもしれません。以下は前述の架空のデータを使った表示例です。

資料の書き方 何が問題・改善点か
「導入成功率80%!導入すれば安心」 判定対象と成功の定義が不明。すべての新規顧客に成果を保証するように見える
「判定済み45件のうち36件が30日以内に業務開始(80%)、9件は未達(20%)」 成功側と未達側、件数と分母がそろっている
「四半期中に開始した計60件のうち45件が判定済み、15件は判定期限前」 未判定案件の存在を示し、80%の適用範囲が分かる
「成果の指標:30日以内の通常業務開始。売上増加・長期運用の成果ではありません」 成功の定義と、測っていないことを区別できる

見出しは分かりやすくして構いませんが、重要な条件を読めないほど小さな注記だけに押し込めないようにします。「80%成功」のすぐ近くに「判定済み45件中36件」「導入後30日以内に業務開始」と添えるなど、どの数字の条件か分かる位置に置きます。

比較のために前年や他社の実績も載せる場合は、成功の定義・判定期間・対象となる顧客が同じか確認します。別の期間や条件の数字を隣に並べただけでは、公平な比較になりません。

成功の定義・分母・期間を、資料を出す前に確かめる

ここからは研究で効果が直接検証された資料作成手順ではなく、仕事の場面で使うための実務上の提案です。マーケティング担当者と営業担当者、実績の記録を管理する部署とで、次の情報を確認します。

  1. 成功の定義:「導入した」「使い始めた」「目標の作業時間を達成した」「継続利用した」など、どの状態を指すか決めます。複数の指標を混ぜて一つの成功率にしないようにします。
  2. 対象の集団:契約した企業、プロジェクト、拠点、ユーザーなど、何を1件と数えたか明らかにします。複数拠点を持つ1社を何件と数えたかによって数字が変わるためです。
  3. 測定期間と判定の時点:どの期間に開始した案件を集め、いつまで追跡したかを残します。判定に必要な時間が過ぎていない案件は、未判定として区別します。
  4. 失敗・未達・不明の扱い:目標に届かなかった案件、中断した案件、途中で連絡が取れなくなった案件、記録のない案件をどう分類したか確認します。都合の悪い案件だけを除外しないようにします。
  5. 数字の出所と計算:元データ、責任部署、集計日、分母・分子がたどれるか確かめます。成功率と失敗率を両方掲載するなら、同じ集団の相補的な結果であることを確認します。
  6. 読む人が判断したい内容:顧客が知りたいのが導入の速さなのか、費用削減なのか、運用品質なのかを確かめます。必要な成果を測っていないなら、その点を明記し、実施可能な検証を相談します。

また、実績が十分に多いとは言えない場合や顧客の業種・利用規模が異なる場合には、割合だけを見て自社でも同じ結果になるとは言えません。例えば「5件中4件成功」も80%ですが、「45件中36件」とは件数が違います。割合に加えて件数と条件を示します。なお、今回の架空の45件だけから、将来の全顧客の成功確率を保証することはできません。

顧客へ伝えるときは、成功の数字も未達の数字も説明する

顧客から「80%はよい数字ですが、残り20%はどうなったのですか」と聞かれたとします。説明できるデータがあれば、数字の意味を整理して答えられます。次は説明用の仮の会話例です。

「今回の80%は、導入支援を始めた全60件ではなく、導入から30日が経過して結果を判定できた45件のうち、36件が30日以内に通常業務を開始できた割合です。残る9件はその目標に届きませんでした。ほかに15件はまだ判定期間中なので、この割合には含めていません。また、この数字は『30日以内の業務開始』についてで、導入後の売上改善や長期的な成果を示すものではありません。御社が重視される成果についても、確認できる資料と未確認の部分を分けてご説明します」

この例の「目標未達9件」がなぜ達成できなかったのかについては、元データには記していません。原因を想像して「顧客側の準備不足だった」「製品の問題ではなかった」と断定せず、確認済みの理由がある場合だけ説明します。原因の説明と、未達があったという事実は別です。

顧客がこの指標を十分と考える場合は、ほかの提案や費用・条件と比べられるようにします。必要な成果が違う場合は、別の指標や試用を検討します。データが不足しているなら「未確認」と伝え、数字の言い換えで埋めないようにします。

社内レビューでは、表現の印象と計算の正確さを別々に点検する

提案資料の公開・配布前に、2つの点検を分けます。まず、同じ情報を「成功」「未達」の両側から見て、どの見出しなら顧客が何を期待するかを考えます。次に、その見出しが元の件数・集計条件に一致しているかを確認します。どちらか一方だけでは足りません。

例えば担当者が「80%成功と書くと前向きな印象になる」と考えても、分母や成功の意味を省いてよい理由にはなりません。また、「20%が未達」を追加するだけでも、判定前の15件が隠れたままなら問題は残ります。肯定的・否定的な表現をそろえることと、集計が正確であることは別の確認です。

社内の確認者には「自社が見せたい成果ではなく、これを読む顧客が何を確かめたいか」「未判定の案件はあるか」「成功と失敗を足して100%としてよいか」「元の案件一覧と数字は合うか」を見てもらいます。必要な修正があれば、表現だけでなく分母、注記、成果の説明もまとめて直します。

「成功率」と「失敗率」は、同じ結果を伝えるときでも異なる印象を与える可能性があります。だからこそ、どちらが有利に聞こえるかではなく、どの案件を数え、どんな結果が起き、何がまだ分からないのかを、読み手が追えるように示すことが大切です。

参考文献・出典

  • Levin, I. P., & Gaeth, G. J.(1988)“How Consumers Are Affected by the Framing of Attribute Information Before and After Consuming the Product.” Journal of Consumer Research, 15(3), 374–378. 出版社掲載の原著論文要旨。同じ牛ひき肉を「75%赤身/25%脂肪」と示したときの評価と、試食後に表示の影響が小さくなったことの根拠。
  • McNeil, B. J., Pauker, S. G., Sox, H. C., Jr., & Tversky, A.(1982)“On the Elicitation of Preferences for Alternative Therapies.” New England Journal of Medicine, 306(21), 1259–1262. 出版社掲載の原著論文要旨。患者・学生・医師が肺がん治療を想定して選択し、生存/死亡の表示などの条件で選好が変わった研究。
  • Armstrong, K., Schwartz, J. S., Fitzgerald, G., Putt, M., & Ubel, P. A.(2002)“Effect of Framing as Gain versus Loss on Understanding and Hypothetical Treatment Choices: Survival and Mortality Curves.” Medical Decision Making, 22(1), 76–83. 出版社掲載の原著論文要旨。451人を生存率グラフ・死亡率グラフ・両方の3条件に割り付け、理解と仮の治療選択を比べた実験。
  • Levin, I. P., Schneider, S. L., & Gaeth, G. J.(1998)“All Frames Are Not Created Equal: A Typology and Critical Analysis of Framing Effects.” Organizational Behavior and Human Decision Processes, 76(2), 149–188. PubMed掲載の研究レビュー要旨。属性・リスク選択・目標の3種類のフレーミングを区別した研究レビュー。