最近のSNSの話題だけで企画を変えてよい?継続的な需要との見分け方
SNSである商品が急に話題になり、投稿数や動画の再生数が大きく伸びると、「今の企画をやめて、この流行に合わせた商品を出した方がよいのでは」と感じることがあります。話題になっていることは、顧客の関心を知る手がかりです。しかし、SNSで注目されることと、その商品を必要とする人が今後も買い続けることは同じではありません。
企画を変える前に、話題が広がる前・直後・落ち着いた後を同じ基準で比べ、投稿や検索だけでなく、商品ページの訪問、問い合わせ、実際の注文がどう動いたかを確認します。季節や広告の影響、どの顧客層に広まったかも分けて見ます。一時的な関心を取り込む施策と、継続需要を前提に商品や予算を大きく変える判断は区別することが大切です。
SNSで目立った話題が、広い需要に見えるのはなぜか
説明用の仮の場面です。デスク周りの収納用品を扱うEC企業で、折りたたみ式の収納トレーを紹介した動画が拡散されました。マーケティング担当者の画面には紹介投稿や「便利そう」というコメントが次々と表示されます。担当者は「これからはこのタイプが主力になる」と考え、予定していた別商品の企画を縮小し、在庫を大きく増やそうとしました。しかし、投稿を見た人がどれだけ購入したか、話題が落ち着いても注文が続くかは、まだ確認していません。
印象的な出来事を頻繁に起きることのように感じる仕組みを考えるうえでは、利用可能性ヒューリスティックの研究が参考になります。TverskyとKahneman(1973)は、ある出来事が起こる頻度や可能性を、関連する例をどれほど簡単に思い出せるかで判断する傾向を検討しました。語の種類の出現頻度、組み合わせの起こりやすさ、繰り返し経験した出来事などの課題で、思い出しやすさが実際の頻度以外の要因にも左右され、判断に偏りが生じる結果を報告しました。Tversky・Kahneman(1973)の論文要旨
これはSNS上の商品需要を直接測定した研究ではありません。実際によく起きていることが思い出しやすい場合もあります。注意したいのは、同じ話題の投稿を何度も見たという印象から、顧客全体でその需要が広がっていると判断することです。基本的な心理の説明は、利用可能性ヒューリスティックの解説にもあります。
また、投稿が拡散される理由は購入の必要性だけではありません。BergerとMilkman(2012)は、3か月間に公開されたニューヨーク・タイムズの記事の共有状況を分析し、さらに実験で感情と共有行動の関係を調べました。驚きや畏敬、怒り、不安など、気持ちを強く動かす感情を引き起こす内容は共有されやすく、一方で悲しみを引き起こす内容は比較的共有されにくいという結果でした。実験でも特定の感情が情報を伝えたい気持ちに及ぼす影響が示されました。Berger・Milkman(2012)の原著論文要旨
この研究は主にニュース記事の共有を調べたもので、商品購入の実績や、現在の各SNSの仕組みを直接検証したものではありません。それでも、「すごい」「おもしろい」「驚いた」という気持ちで共有された投稿と、「仕事や生活で必要なのでお金を払う」という選択を、別の情報として扱う理由になります。
注目と売上に関係があっても、長く続く需要とは限らない
SNSの話題を、売上には何の関係もないものとして捨ててしまう必要はありません。StephenとGalak(2012)は、少額融資の取引を仲介するウェブサイトについて、14か月分の日次の取引・売上データと、新聞などでの紹介、ブログやオンラインコミュニティでの言及を調べました。時系列の分析では、従来型メディアによる紹介とオンライン上の言及が、どちらも取引の動きに関係する結果でした。一つの言及当たりの影響は従来型メディアの方が大きい一方、オンライン上の言及は頻度が高いため、頻度を考慮した指標では大きな関連が見られました。Stephen・Galak(2012)の原著論文要旨
ただし、これは特定の少額融資サイトに関する観察データの分析です。SNS投稿が増えれば必ず売れる、投稿の増加が売上の原因だった、あるいは増えた需要が長く続くと証明したものではありません。業界や商品が違えば、投稿から購入までの関係も変わる可能性があります。
商談や商品企画では、「話題があるから無視しない」と「話題があるから商品構成を全部変える」の間に、複数の選択肢があります。投稿に興味を示した顧客に、必要な説明を届けることと、長期の在庫や開発費を約束することは、必要な根拠の量が違います。
継続的な需要かを確かめるために、何を分けて記録するか
ここからは研究で効果を直接検証した「企画変更の正解手順」ではなく、実務上の提案です。SNSで注目を見つけたら、まず対象と期間をそろえて記録します。
- 誰が話題にしているか:投稿の発信者や閲覧者が、実際に購入する可能性のある顧客層と近いかを確かめます。学生の間で話題でも、法人の設備担当者向けの需要とは限りません。投稿数には同じ人による複数投稿や転載が含まれる場合もあります。
- 何への関心なのか:「デザインがおもしろい」「動画が楽しい」「実際に使いたい」「価格を知りたい」「すでに注文した」など、反応の内容を分けます。コメントは購入者全体の代表的な意見とは限りません。
- 期間をどこで区切るか:話題が出る前、急増した時期、落ち着いた後を、週ごとなど同じ長さの単位で比較します。前年の同じ季節に似た増加がなかったかも確かめ、季節需要を一時的な流行と混同しないようにします。
- 購入に近い行動がどう動いたか:商品ページへの訪問だけでなく、条件を確認した問い合わせ、見積もり依頼、注文、キャンセルを確認します。購入後の評価や追加注文が必要な商品なら、時間を置いて追います。
- 同じ条件で比較できるか:広告費、値引き、価格、在庫、販売チャネル、キャンペーン、集計方法が変わっていないかを確認します。変わっている場合は、その期間の比較に影響する事実として記録します。
期間中に売り切れが起きた場合は、注文数が少ないから需要がないと断定できません。一方、SNSの表示回数だけが伸びて注文数が変わらなければ、在庫を増やす根拠はまだ弱いかもしれません。観測された数字と、そこから考えた原因を分けることが重要です。
話題の前・直後・その後を並べると、どう見えるか
先ほどのデスク収納トレーについて、すべて説明用に作った架空の数字を使います。実在する企業のSNS実績や売上データではありません。各期間は週当たりの平均で比較し、ここでは価格・広告費・在庫状況に大きな変更がないと仮定します。
| 集計期間(各期間の週平均) | 関連SNS投稿 | 商品ページの訪問セッション | 注文数 | 注文数÷訪問セッション数 |
|---|---|---|---|---|
| 話題前の4週間 | 20件 | 200件 | 8件 | 4.0% |
| 話題直後の2週間 | 600件 | 1,300件 | 26件 | 2.0% |
| その後の4週間 | 60件 | 340件 | 14件 | 約4.1% |
話題直後には、関連投稿が週20件から600件へ、商品ページの訪問が200件から1,300件へ急増しています。注文も8件から26件へ増えたので、「購入にはつながっていない」とは言えません。しかし、投稿数は30倍でも、注文数は約3.3倍であり、伸び方は同じではありません。また、注文数をページ訪問セッションで割った参考比率は4.0%から2.0%になっています。
話題が落ち着いた4週間後も、注文の週平均は14件で、話題前の8件を上回っています。一部の需要が残っている可能性はありますが、この4週間だけで「何年間も需要が続く」とは言えません。期間中の別の宣伝、価格、在庫、季節の違い、集計対象も確かめます。
この表の投稿件数はユニークな人数ではなく、商品ページ訪問には同じ人の複数セッションが含まれ得ます。注文もすべてSNSから流入した人の購入とは限りません。「注文数÷訪問セッション数」は比較用の参考比率であり、投稿を見た人が購入する確率を示すものではありません。
例えばこの結果なら、すぐに大量生産へ切り替えるよりも、在庫を小さく追加する案、関心のある顧客へ説明を届ける案、次の数週間の注文を確かめてから判断する案を比較できます。これは実務上の提案であり、その対応で利益が上がると研究が保証したものではありません。
検索の急増を使うときも、実際の検索件数や購入数と混同しない
SNSだけでなく検索の動きを見ると、話題の広がりを別の角度から確かめられます。ChoiとVarian(2012)は、インターネット検索データを利用し、自動車販売、失業保険の申請、旅行先の検討、消費者心理など、短期の経済指標を予測する方法を示しました。検索は現在の行動や関心を知る一つの手がかりになり得ます。Choi・Varian(2012)の論文要旨
ただし、これは現在や近い将来の指標を推定する研究であり、SNSで話題になった商品の長期的な需要を検索だけで見抜けると示したものではありません。
Google Trendsを使う場合は、数値の意味にも注意が必要です。Googleの公式説明によれば、表示値は指定した地域と期間の検索全体に占める割合をもとに、0〜100の相対的な尺度に直した指標です。100はその比較条件の中で相対的に高いことを示すもので、100件の検索や100人の購入を意味しません。検索が少ない語は0と表示される場合があり、標本や小さな変動の影響もあります。Google Trends公式ヘルプ「データに関するよくある質問」
同じ地域・同じ検索語でも、比較する期間を変えると尺度の基準が変わります。長期の傾向と直近の急増を調べる際は、期間や地域、検索語の指定を記録し、100と表示されたから市場全体が大きいと結論しないようにします。検索関心が下がっても、固定客の注文が安定している場合があります。
話題の伸び方と購入の証拠で、企画の変更範囲を決める
情報を整理したら、何を変えるかを分けて考えます。投稿の内容を変える程度の小さな対応と、仕入れ・生産・商品開発に大きく投資する変更では、間違えたときの負担が違います。次の分け方は研究で成功率が検証された分類ではなく、社内で判断材料を並べるための提案です。
- SNSだけ急増し、購入や問い合わせは増えていない場合:どの顧客層で話題なのか、商品を買えない理由はあるかを確認します。すぐに生産を増やさず、商品ページや訴求の小さなテストを検討します。
- 投稿と注文が同時に増えたが、期間が短い場合:キャンペーンや在庫・広告の影響を確認し、売り切れや返品の状況も見ます。対応可能な範囲で試験販売や小さな追加発注を検討し、次の確認日を決めます。
- 話題が落ち着いても注文や有効な問い合わせが続く場合:継続的な需要の候補として、季節性、利益率、顧客層、対応人員を確認します。過去の実績や再購入などの商品特性も考慮して、企画変更の規模を決めます。
- 前年も同じ時期だけ盛り上がっていた場合:一時的な流行だけでなく、季節需要の可能性を検討します。常時大量に在庫を抱えるより、需要が増える時期に合わせた商品・販促計画が適する場合もあります。
- 必要なデータがなく、購入につながる条件も不明な場合:「いま決めないと乗り遅れる」という気持ちだけで変更せず、確認する指標・調査担当・判断期限を決めます。機会を逃す可能性も含めて、変更しないことの費用と変更することの負担を比較します。
たとえ話題が短期間でも、その間に限定商品を販売することが事業に合っている場合はあります。逆に、安定して注文があっても利益が出なければ、企画を拡大する理由にはなりません。需要があるかと、その需要に向けて投資すべきかは別々に判断します。
会議では「流行っている」から、何を確かめるかへ話を進める
例えば上の架空の結果が出たとき、社内では次のように提案できます。これは説明用の仮の会話例です。
「収納トレーの投稿が急増しているので、今の関心を確かめる価値はありそうです。ただ、話題直後の投稿数と注文数の伸びは同じではありません。話題が落ち着いた後も週平均の注文は以前より多いですが、4週間のデータだけでは長期需要と断定できません。まず対象顧客と流入経路、広告費、利益率を確認し、在庫負担を抑えた小さな追加販売を検討しませんか。次回は注文と返品、問い合わせの状況で継続か見直しかを判断したいです」
実際に試す場合は、試験販売を始める前に「どの顧客に」「どの商品を」「何週間」「どの費用で」提供するかを決め、注文数、粗利益、返品、問い合わせを同じ方法で記録します。小さな検証の結果が良くても、顧客の層や在庫規模を広げたときに同じ成果になるとは限りません。結果が悪い場合も、在庫切れや配送の遅延など別の理由がないか確かめます。
SNSの話題は、顧客の変化に気づくきっかけになります。重要なのは、注目の勢いを無視することでも、すぐ追いかけることでもありません。話題が広がる理由、購入までの行動、話題の後にも残る需要、変更に必要な費用を分けて確認することで、今の企画を続けるか、部分的に試すか、大きく変更するかを選びやすくなります。
参考文献・出典
- Tversky, A., & Kahneman, D.(1973)“Availability: A Heuristic for Judging Frequency and Probability.” Cognitive Psychology, 5(2), 207–232. 出版社掲載の原著論文要旨。思い出しやすさが頻度・確率の判断に与える影響を、語・組み合わせ・繰り返しの課題などで検討した研究。
- Berger, J., & Milkman, K. L.(2012)“What Makes Online Content Viral?” Journal of Marketing Research, 49(2), 192–205. 出版社掲載の原著論文要旨。3か月間のニューヨーク・タイムズ記事の共有と実験を使い、引き起こされる感情が共有行動に関わることを検討した研究。
- Stephen, A. T., & Galak, J.(2012)“The Effects of Traditional and Social Earned Media on Sales: A Study of a Microlending Marketplace.” Journal of Marketing Research, 49(5), 624–639. 出版社掲載の原著論文要旨。少額融資サイトにおける14か月のメディア活動と取引データの時系列分析。
- Choi, H., & Varian, H.(2012)“Predicting the Present with Google Trends.” Economic Record, 88(s1), 2–9. 出版社掲載の論文要旨。検索データを、自動車販売などの短期的な経済指標の予測に利用した研究。
- Google Trends ヘルプ「Google Trends のデータに関するよくある質問」。公式ヘルプ。検索関心の相対尺度、標本の利用、検索量が少ない場合の表示についての一次資料。