自分の好みを顧客のニーズと思い込んでいない?商品・機能の需要を確かめる

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新しい商品や機能を考えるとき、自分が「これなら使いたい」「こんな機能があれば便利だ」と思うと、顧客も喜んでくれるはずだと感じることがあります。作り手の好みは企画の出発点として大切です。ただし、自分が欲しいものと、顧客が仕事や生活で実際に必要としているものは、必ずしも一致しません。

開発を決める前に、まず誰が使う商品なのか、普段どんな困りごとが起きているのかを確かめます。さらに、自分が気に入った案と別の解決案を同じ条件で試し、感想と実際の利用や購入に近い行動を分けて見ます。「自分の好み」「顧客の好意的な反応」「実際の利用・購入」を区別することが、商品・機能の需要を確かめる基本です。

自分の好きな機能は顧客も欲しいと思いやすい理由

説明用の仮の場面です。小規模店舗向けの在庫管理アプリを企画する担当者は、詳しい売上グラフを眺めるのが好きで、色や指標を自由に変えられる分析画面を考えました。社内の同僚も「格好いい」と評価したため、「店長なら誰でも使いたいはず」と考え、開発を優先しようとします。

しかし、接客中に商品が欠品することを困っている店長には、詳しいグラフより欠品通知の方が役立つかもしれません。一方、複数店舗を比べる責任者には分析画面が必要な可能性もあります。ここで挙げた店長や責任者は説明のために考えた仮の顧客像であり、実際の調査結果ではありません。

Ross・Greene・House(1977)は、自分が選ぶ反応を、ほかの人もどれほど選ぶと考えるかについて4つの研究を行いました。仮の選択場面についての質問紙や実際の対立場面などで、参加者は自分と同じ反応を選ぶ人を相対的に多く見積もり、違う反応を一般的ではないと考える傾向を示しました。Rossら(1977)の原著論文要旨

この傾向は「偽の合意効果」と呼ばれ、自分の意見や選択が他の人にも共有されていると考えやすいことを指します。ただし、この研究はマーケティング担当者が実際の商品機能を誤って選ぶ割合を測ったものではありません。心理の基本的な仕組みは、偽の合意効果の解説でも扱っています。

もっとも、自分の経験を判断の手がかりにすることが、常に不正確というわけでもありません。Hoch(1987)は、参加者に平均的な米国の既婚消費者、大学院の同級生、配偶者の態度を予測してもらい、自分の態度を使う程度と予測の正確さを分析しました。一般消費者の予測では、自分の回答に重みを置きすぎる参加者が相対的に多かった一方、同級生や配偶者の予測では異なる傾向がありました。自分の回答をもっと参考にした方が正確に予測できた参加者もいました。Hoch(1987)の原著論文要旨

この研究は、自分の経験がどれほど役立つかは予測の対象によることを示しています。企画担当者自身も利用者に近い立場なら、経験から生まれた発想は役立つ場合があります。ただし、自分と仕事の内容が違う顧客層まで、同じ好みだと決めつけないことが重要です。

顧客のアイデアと、買ってもらえる需要は同じではない

作り手に見えていない困りごとを知るには、顧客自身のアイデアを集めることも手がかりになります。PoetzとSchreier(2012)は、ベビー用品を扱う企業の実際の開発課題について、社内の専門家が考えた案と、利用者がアイデア募集で提案した案を比較しました。企業の評価担当者が案の出所を知らずに評価したところ、利用者からの案は独自性と顧客にとっての利点が高く評価され、一方で実現可能性の評価はやや低い結果でした。Poetz・Schreier(2012)の原著論文要旨

これは特定の開発課題に参加した利用者の案の評価です。応募者が顧客全体を代表しているわけではなく、その案が販売されて実際に売れたことを確認した研究でもありません。顧客の意見を聞くことと、そのまま全員のニーズと判断することは分ける必要があります。

また、購入したいという回答も、実際の購入と同じではありません。Morwitz・Steckel・Gupta(2007)は、多様な商品と調査に関するデータを使った2つの研究で、購入意向と実際の購買との関連を調べました。その関連の強さは一定でなく、新商品より既存商品、長い期間より近い時期、漠然とした商品分類より具体的なブランド・型番の購入意向を聞く場合に強い傾向がありました。Morwitzら(2007)の原著論文要旨

こちらも今回の在庫管理アプリを直接調べた研究ではありません。ただし、「便利そう」「いつか買いたい」という反応と、実際の契約や継続利用を分けて考える理由になります。

機能を聞く前に、顧客が普段どんな仕事をしているか確かめる

ここからは研究でそのまま効果が実証された商品開発手順ではなく、仕事の場面に応用するための提案です。最初から「分析グラフは欲しいですか」と聞くより、顧客の行動と課題を確かめます。

  1. 誰に使ってもらうか決める。1店舗の店長、複数店舗を管理する人、日々の在庫入力をする従業員では、必要な機能が違うかもしれません。企画担当者がどの顧客層に近く、どの層とは異なるかも明確にします。
  2. 最近の具体的な困りごとを聞く。「先週、欠品で困ったことはありましたか」「いつ売上を確認し、どんな判断に使いましたか」と尋ねます。「きれいなグラフが欲しいですよね」と答えを誘導しないようにします。
  3. 困りごとの頻度と影響を確かめる。どれくらいの頻度で起こり、何分かかり、今はどう解決しているかを尋ねます。覚えていない部分は推測で補わず、可能なら業務記録と照合します。
  4. 機能名より目的を確認する。「グラフが欲しい」と言われたら、日々の発注を決めたいのか、会議で報告したいのかを聞きます。同じ目的を別の方法で満たせるかも検討します。
  5. 実際に利用できる条件を聞く。費用、端末、操作の手間、データ入力、社内承認などを確認します。機能が気に入っていても、導入に必要な負担が大きい場合があります。

調査対象の選び方にも注意が必要です。社内メンバーや好意的な既存利用者だけでは、まだ購入していない人や使用をやめた人の困りごとが見えないことがあります。何人調べたかだけでなく、どの顧客層から選んだかを残します。利用記録を扱う際は権限や情報管理の条件も確認します。

「便利そう」と言う人と、実際に使う人を比べる

仮に、小規模店舗の運営に関わる20人を対象に、詳細な売上グラフと欠品通知の2つの機能を試したとします。両方の案を同じように説明し、その後の同じ2週間に、両方の試作品を使えるようにした場合の例です。以下は説明用に作った架空の数字で、実在の製品の実績ではありません。両方を「便利そう」と答えることができ、すべて対象の20人を分母としています。

機能 便利そうと答えた人 2週間で一度以上操作した人 追加で確かめたいこと
詳細な売上グラフ 20人中14人 20人中4人 何の仕事に使ったか、使わなかった理由、料金を払うか
欠品を知らせる通知 20人中10人 20人中11人 通知が役立ったか、誤通知、継続して使うか

この仮の結果では、最初の好意的な反応は売上グラフの方が多い一方、試用期間に操作した人は欠品通知の方が多くなっています。しかし、これだけで「欠品通知の方が売れる」「顧客の過半数に需要がある」とは言えません。対象者をどう集めたか、機能の使いやすさや試用した時期、操作する必要があったかで結果が変わる可能性があります。

一度操作したことも、長期の利用や有料での申し込みとは違います。また、月に一度だけでも重要な仕事を助ける機能はあります。操作回数が少ないことだけで不要と決めつけず、使わなかった理由や利用の機会も聞きます。

次に検証するなら、価格、利用できる期間、機能の内容をそろえ、何を「利用した」「申し込んだ」と数えるか先に決めます。無料の試用から得られた反応を、そのまま有料契約の需要と扱わないようにします。

調査結果から、作る・小さく試す・見送るを判断する

以下は研究が直接成果を保証した手順ではなく、今回の企画判断のための実務上の提案です。

  • 自分の好みと顧客の実際の困りごとが一致した場合:その機能を候補として残し、必要とする顧客層、使う頻度、料金、開発と保守の費用を確かめます。
  • 好意的な感想は多いが試作品は使われなかった場合:試す機会がなかったのか、操作しにくかったのか、本当に重要な困りごとではないのかを調べます。すぐに本開発へ進まず、試作や説明を修正できます。
  • 自分は使わないが特定の顧客層には必要だった場合:その層の業務と規模を確かめ、対象を限定した機能や追加プランとして検討します。自分の感覚だけで却下しないことが大切です。
  • 欲しいと答えた人がいても、価格や導入の負担が合わない場合:仕様・料金・手間を見直します。利用者の判断に必要な条件を明示して、必要なら小規模な有料試用を相談します。
  • 調査人数が少ない、または対象が偏っている場合:得られた結果は仮説として使い、別の顧客層に調査を広げるか、開発前に追加で確認します。小さな標本の結果を顧客全体の割合とは扱いません。

需要がありそうでも、開発に投資すべきかは別の判断です。品質を維持できるか、追加作業の負担やほかの機能を後回しにする影響、継続して利用される条件も比較します。

企画会議では「私なら欲しい」を仮説として共有する

自分の好みを言うこと自体は問題ではありません。顧客の需要と混同しない形で話せば、商品を考える材料になります。以下は説明用の仮の社内会話例です。

「私は詳しい売上グラフがあると便利だと思っています。ただ、店舗の皆さんも同じものを必要としているかは、まだ確認できていません。まず普段の在庫管理と売上確認で何に困るかを聞きませんか。そのうえで、グラフと欠品通知を同じ条件で試してもらい、便利そうという回答だけでなく、実際の操作や継続する条件も見てから開発の優先順位を決めたいです」

予想と違う反応が出たら、顧客の理解不足と決めつけず、説明の仕方、試作品の使いやすさ、対象者の選び方、仕事の違いを確かめます。反対に予想どおりの反応が出たなら、確認できた範囲を根拠として判断できます。

自分が欲しいものを思いつくことと、顧客が必要としていると確かめることは別です。自分の経験から仮説を作り、顧客の仕事や行動で確かめ、必要なら修正する。そうすれば作り手の発想と顧客の声を、どちらも商品づくりに生かせます。

参考文献・出典

  • Ross, L., Greene, D., & House, P.(1977)“The ‘False Consensus Effect’: An Egocentric Bias in Social Perception and Attribution Processes.” Journal of Experimental Social Psychology, 13(3), 279–301. 出版社掲載の原著論文要旨。4つの研究で、自分の反応と同じ選択を他者も選ぶと推定する傾向を扱った根拠。
  • Hoch, S. J.(1987)“Perceived Consensus and Predictive Accuracy: The Pros and Cons of Projection.” Journal of Personality and Social Psychology, 53(2), 221–234. 原著論文のDOI。米国の消費者、大学院の同級生、配偶者の態度について、自分の意見を判断に使う程度と予測の精度を比べた研究。
  • Poetz, M. K., & Schreier, M.(2012)“The Value of Crowdsourcing: Can Users Really Compete with Professionals in Generating New Product Ideas?” Journal of Product Innovation Management, 29(2), 245–256. 出版社掲載の論文要旨。ベビー用品の開発課題で、専門家と利用者の案の独自性・顧客への利益・実現可能性を比べた研究。
  • Morwitz, V. G., Steckel, J. H., & Gupta, A.(2007)“When Do Purchase Intentions Predict Sales?” International Journal of Forecasting, 23(3), 347–364. 出版社掲載の論文要旨。2つの研究で、購入意向と実際の購買の関連が、商品や設問・期間によって異なることを調べた研究。