広告費を取り返したくて成果の出ない広告を続けていない?今後の採算で判断する
すでに多くの広告費を使ったのに、問い合わせや契約が伸びないと、「ここで止めたら今までの費用が無駄になる。あと少し続けて取り返したい」と感じることがあります。しかし、過去に使った広告費の大きさだけでは、これから追加の広告費を払うべきかは決まりません。
まず、今までの配信結果を事実として整理し、これから必要な費用、今後の契約から得られる利益、成果が分かるまでの期間、改善できる具体的な理由を確認します。そのうえで、今の広告を続ける、根拠のある部分を修正して小さく試す、配信を停止するという選択肢を比べます。過去の損失を取り返すためだけに支出を増やさず、過去に損失があったという理由だけで将来の可能性まで否定しないことが大切です。
「ここで止めたら今までの広告費が無駄」と感じるのはなぜか
説明用の仮の場面です。企業向け業務支援サービスのマーケティング担当者が、4週間で広告に24万円を使いました。問い合わせは12件、広告経由として記録された正式契約は2件です。期待した成果を下回り、会議で継続を問われると、担当者は「この広告は自分が選んだ。途中で止めれば失敗を認めることになる」と思い、さらに予算を使いたくなりました。
すでに支払って取り戻せない費用や時間が、その後の選択に影響する現象を「サンクコスト効果」と呼びます。ArkesとBlumer(1985)は、演劇の定期券を高い価格で買った人が、安い価格で買った人より、その後6か月間に多く観劇したという現場での結果と、質問紙実験を報告しました。Arkes・Blumer(1985)の論文要旨。すでに支払った金額を無駄にしたくない気持ちが、今後の行動に影響する可能性を示しています。基本的な仕組みはサンクコスト効果の解説でも扱っています。
「自分で決めた企画なのだから成功させたい」という思いに関係する研究もあります。Staw(1976)は、ビジネススクールの学生240人に模擬的な投資判断を行わせ、以前の投資を本人が決めたかどうかと、その結果がよかったか悪かったかを操作して比べました。自分の判断に責任があり、その結果が悪かった条件で、以前の方針へ追加で投入する資源が最も大きくなりました。Staw(1976)の原著論文要旨
ただし、この傾向が必ず生じるわけではありません。Białek・Węgrzyn・Meyers(2021)は、Stawの結果を再検証するため参加者365人を調べましたが、その研究では追加投入を増やす効果は確認されませんでした。参加者は見通しのよい計画へ多く投資しており、数的な能力や直感を見直す傾向による違いも確認されませんでした。Białekら(2021)の再検証研究
これらは定期券や投資の課題を使った研究であり、個々の広告担当者に同じ心理が働いたと断定する根拠にはなりません。実務では、「今後の採算が見込めるから続けたい」のか、「過去の24万円を無駄にしたくないから続けたい」のかを分けて考えることが役立ちます。
以前の広告が赤字だったから、必ず停止すべきとも限らない
過去の支出に引きずられないようにしようとすると、「以前赤字になった施策はすべて止めるべきだ」と考える場合があります。しかし、それも今後の利益を見落とす原因になり得ます。
Heath(1995)は、これまでに投資した金額と、これから必要な追加投資の判断を変える複数の実験を行いました。将来の費用と将来得られる価値が同じでも、すでに使った金額が大きいと、利益につながる追加投資まで断ってしまう結果がありました。人が頭の中で決めた予算を超えたと感じることは、早すぎる打ち切りに関係すると考えられています。一方、予算を決めていない場合や支出を把握しにくい場合には、追加投資を増やし続けることがあり得ると論じています。Heath(1995)の原著論文要旨
この研究も広告運用についての実験ではありません。したがって今回の判断では、続けることや止めること自体を目的にせず、今から追加で使うお金と、今後得られる可能性がある価値を確認します。
今までの広告費は過去の採算記録から消しません。しかし、それがもう回収できず、今後の選択によって変わらないなら、追加配信を決めるときの将来の費用とは分けます。反対に、解約料や最低契約期間により停止後も支払う必要がある費用は、今後の負担として確認します。
継続の前に、成果と費用を同じ基準で確かめる
「成果が出ていない」という言葉の中身も確かめます。クリックが少ないのか、問い合わせはあるが成約しないのか、契約までに時間がかかっているのかで、必要な対応が違うからです。以下は研究で効果が直接確認された運用手順ではなく、今回の判断のための実務上の提案です。
- 目標と実績をそろえる:広告表示・クリック・問い合わせ・有効な商談・正式契約・売上を分け、目標と同じ期間・定義で比べます。契約まで数か月かかる業種で、配信した週の契約だけを見て失敗と断定しないようにします。
- 契約1件から残る金額を確かめる:売上から納品・外注などの追加直接費用を引き、広告費との比較に使える金額を整理します。売上全額が広告費の回収に使えるわけではありません。継続契約の価値を見込む場合も、実際の更新実績や追加費用を確認します。
- 今後必要な費用だけを分ける:すでに支出した広告費と、追加の配信・制作・計測・管理費を分けます。広告を停止した場合の支払い義務や、ほかの施策を選ぶ機会も考慮します。
- 顧客の検討状況を追う:すでに問い合わせた顧客の商談は、広告停止後に契約することもあります。新規配信を止めることと、既存の見込み客への対応を終えることは別です。
- 計測と原因を確認する:広告管理画面の「成果」と契約記録が一致するか、同じ契約の重複計測がないかを確かめます。訴求、広告の配信先、申込画面、販売側の対応のどこに改善できる点があるのか、事実から調べます。
広告経由として記録された契約は、広告がなければ成立しなかった契約と同じではありません。広告の売上への上乗せ効果を測ったLewisとRao(2015)は、米国の大手小売・金融企業が行った25件の大規模な現場実験を分析しました。多くが数百万人規模へ広告を表示していても、顧客ごとの購入金額のばらつきなどにより、広告効果を十分な精度で測ることが難しい場合がありました。Lewis・Rao(2015)の原著論文要旨
この研究は「広告の成果は測定できない」と断定したものではありません。しかし、数件の契約だけを見て、今後の広告の利益率や、広告によって純粋に増えた売上まで確定することは避けます。記録で分かることと、まだ推定できないことを分けます。
過去の24万円と、これからの収支を分けて計算する
ここからは説明用に作った架空の費用と契約件数です。実在企業の広告実績や業界平均ではありません。過去4週間の広告費24万円に対し、広告経由として記録された契約が2件あったとします。
1件当たりの売上が40万円、契約を履行するために新たにかかる直接費用が34万円だとすれば、1契約で残る金額は40万円-34万円=6万円です。2件で12万円となり、過去の広告費24万円との差は12万円-24万円=マイナス12万円です。この差額は制作や共通の人件費などを入れる前の単純な収支であり、会社全体の利益や、広告によって純粋に増えた利益を示すものではありません。
このマイナス12万円は、これまでの広告成果を振り返るために必要な記録です。しかし、すでに使ったお金を取り戻そうとするだけで、次の広告費を追加してよいとは言えません。次に判断するのは、ここから新たに払う費用と、そこから見込める将来の契約です。
仮に、次の2週間は「同じ広告を追加8万円で継続する」か、「広告の訴求と申込画面を修正し、配信8万円に作業費2万円を加えて試す」かを検討するとします。1契約で残る金額を6万円とした場合、契約件数の違いで次のようになります。
| 次の2週間の仮の新規契約数 | 同じ広告を継続:追加費用8万円 | 広告を修正して配信:追加費用10万円 |
|---|---|---|
| 0件 | 0-8=-8万円 | 0-10=-10万円 |
| 1件 | 6-8=-2万円 | 6-10=-4万円 |
| 2件 | 12-8=+4万円 | 12-10=+2万円 |
この表は結果の違いを示す仮の計算で、0件・1件・2件の起こりやすさを示す予測ではありません。特に、今まで24万円使って2件契約したという記録だけでは、追加8万円で2件の契約が期待できる根拠にはなりません。広告を変更した場合の成果も、事前に確定できません。
例えば従来の広告を続ける場合、追加費用8万円を上回る金額を2週間で得るには、仮の前提では少なくとも2件の新規契約が必要です。しかし、過去の広告により獲得した見込み客がこれから契約することもあり、その契約を追加広告の効果として数えてはいけません。また、広告を停止しても、これまでの見込み客の対応や契約は続き得ます。広告を止めたら契約が必ず0件になる、という比較表ではありません。
将来の改善案に投資する判断は、過去のマイナス12万円を消せるかではなく、新たな費用と、改善できそうな要因について確かめられた情報をもとに行います。
続けるなら「何を直し、どの時点で再判断するか」を決める
「もう少し続ければ取り返せるかもしれない」という期待だけでは、追加予算の理由として不十分です。以前の広告で、ターゲットと訴求が合っていなかった、申込画面に入力上の問題があったなど、改善できそうな具体的な事実があるなら、修正案を考えられます。ただし、修正すれば契約が増えると確認されたわけではありません。
追加配信の前には、修正する内容、追加費用の上限、確かめたい指標、結果を見る時期、続行・停止を再判断する担当者を明確にします。契約に時間がかかる商品なら、短期では問い合わせの内容や商談化なども確認し、正式契約までの追跡を別に設けます。単にクリック数が増えたから採算が改善したとは扱わないようにします。
また、2つの広告を並べただけでは、広告を出さない場合と比べて契約が何件増えたかまでは分かりません。必要なら配信しない比較対象を設けるなど、目的に合う検証方法も相談します。ただし、少ない予算・契約件数で精度よく差を測るのが難しい場合もあるため、得られる範囲の情報だけで判断します。
途中で広告の表示内容に誤りがあったり、計測が動かなかったり、予定した費用を超えたりした場合は、最初に決めた期間が終わるまで無理に続ける必要はありません。必要な修正や停止を優先します。
今後の条件によって、継続・修正・停止を分ける
- 将来の追加費用を上回る成果が見込める根拠があり、提供体制も整っている場合:配信上限と確認日を決め、継続を検討します。過去の損失ではなく、これからの採算を根拠にします。
- 今の成果は不足しているが、問題点と修正案が具体的な場合:訴求や申込画面などを直して、予算を限定した再検証を考えます。少数の契約で効果を断定せず、結果によって次の判断を変えられるか確認します。
- 今後の費用に見合う成果が見込めず、改善の根拠も乏しい場合:配信停止や別の施策への予算の振り替えを検討します。「すでに24万円使ったから」という理由だけで続けません。
- 契約まで時間がかかり、現時点では結果を判断できない場合:新しい広告費の投入を保留し、既存の問い合わせや商談の結果を追う方法もあります。途中段階の数字を最終的な成功・失敗と決めつけません。
- 内容の誤り、計測不良、契約上の問題が見つかった場合:必要な調査や修正、配信停止を優先し、対応できる範囲と責任者を確認します。広告費を取り戻すために問題を放置しないようにします。
広告を停止することは、以前の施策を考えた人の努力が無意味だったという評価とは違います。過去の結果を検証に使いながら、これから払う費用については別の選択として判断します。
会議では「取り返したい」ではなく、次の費用と判断材料を示す
担当者自身が広告を選んだ場合、止めることを言い出しにくいかもしれません。そんなときも、気持ちを否定せず、過去の記録と今後の見通しを分けて説明できます。以下は説明用の仮の社内報告例です。
「広告費は4週間で24万円、広告経由として記録された契約は2件でした。1件当たりの直接費用を引いた金額を6万円とすると、合計12万円に対して広告費24万円で、差額はマイナス12万円です。取り返したい気持ちはありますが、それだけで追加の費用は決めません。今の広告を2週間8万円で続けるなら、少なくとも2件の新規契約を得る必要がある仮の計算です。ただし、その件数を見込める根拠はまだありません。現在の商談状況と申込画面の問題を調べ、継続・修正・停止のどれが適切か改めて判断したいです」
報告の後は、営業側に商談の進み具合、広告運用側に配信条件と申込の計測、経理側に今後発生する支払いなどを確認します。すでに使ったお金は正しく記録し、まだ確定していない収入を確実なものとして報告しません。
成果の出ない広告を惰性で続けることも、過去の赤字を見て理由なく止めることも避けたい判断です。今後の広告費に対して何が得られると見込めるか、その根拠は何かを明確にし、結果に応じて方針を変えることが大切です。
参考文献・出典
- Arkes, H. R., & Blumer, C.(1985)“The Psychology of Sunk Cost.” Organizational Behavior and Human Decision Processes, 35(1), 124–140. 出版社掲載の論文要旨。演劇の定期券を高額で購入した人ほど、その後に多く観劇した現場での結果と質問紙実験の根拠。
- Staw, B. M.(1976)“Knee-Deep in the Big Muddy: A Study of Escalating Commitment to a Chosen Course of Action.” Organizational Behavior and Human Performance, 16(1), 27–44. 出版社掲載の原著論文要旨。240人の学生が模擬的な投資判断を行い、本人の責任と悪い結果が追加投資に関わる条件を調べた研究。
- Białek, M., Węgrzyn, M., & Meyers, E. A.(2021)“Escalation of Commitment Is Independent of Numeracy and Cognitive Reflection: Failed Replication and Extension of Staw (1976).” Economics and Business Review, 7(2), 5–16. 学術誌掲載の再検証研究。365人ではStawの追加投資の効果が確認されず、見通しのよい計画へ投資される結果だったことの根拠。
- Heath, C.(1995)“Escalation and De-escalation of Commitment in Response to Sunk Costs: The Role of Budgeting in Mental Accounting.” Organizational Behavior and Human Decision Processes, 62(1), 38–54. 出版社掲載の原著論文要旨。過去の支出と予算によって追加投資を増やす場合だけでなく、利益の見込める投資まで早く止める場合を扱った研究。
- Lewis, R. A., & Rao, J. M.(2015)“The Unfavorable Economics of Measuring the Returns to Advertising.” The Quarterly Journal of Economics, 130(4), 1941–1973. 出版社掲載の原著論文要旨。25件の広告現場実験について、購入金額のばらつきと広告効果を正確に推定する難しさを検討した研究。