評価者や場面によって人事評価が揺れる|同じ行動をどう見るかすり合わせる
同じ社員の同じ行動について、上司Aは「主体性がある」、上司Bは「協調性が足りない」と評価した。あるいは、日頃の面談では高く評価されていた行動が、昇格審査では十分と見なされなかった。人事評価でこうした食い違いが起きると、何を基準に判断すればよいのか迷います。
必要なのは、評価者の点数を無理に同じにすることではありません。何を観察したのか、どの評価項目と基準を当てはめたのか、社員の役割や仕事の条件は同じだったのかを分けて確かめることです。同じ条件の行動には共通の基準を使い、条件が異なるならその違いを説明できるようにします。
同じ行動でも、評価者によって見方が変わるのはなぜか
社員の行動を評価するとき、人は単に出来事を記録するのではなく、「この行動は良い仕事ぶりを表しているか」と意味付けします。その際、ある評価者は「周囲に合わせること」を重視し、別の評価者は「課題を指摘すること」を重視しているかもしれません。どちらの評価者も自分なりの理由を持っていても、基準が異なれば点数はそろいません。
過去の印象が別の評価項目にまで広がることもあります。例えば、普段から頼りになる社員の一つの発言を、十分な根拠を確認せず「リーダーシップの表れ」と捉える場合です。このような見方に関係するハロー効果の説明もあります。ただし、評価が食い違っただけで、どちらかに心理的な偏りがあったと決めつけることはできません。
SulskyとDay(1992)は、大学生94人に、評価基準を例とともに学ぶ訓練か比較用の訓練を受けてもらい、映像に登場する3人の管理職を3つの項目で評価してもらいました。共通の判断基準を学んだ群では、評価の正確さと行動の分類の正確さが高まりました。一方で、観察した行動の一部を後から認識する課題では、正確さが下がる結果も出ています。基準の共有だけで、行動の記憶まで必ず正確になるわけではありません。
また、Keown-GerrardとSulsky(2001)は、96人の参加者に大学教員の仕事ぶりを記した20の資料を読んでもらい、評価項目の基準、本人が置かれた状況上の制約、その両方の扱い方を学ぶ条件などを比較しました。行動の評価基準を学ぶ訓練は観察された仕事ぶりの評価を、制約についての訓練は制約の評価を、それぞれ正確にする方向の結果が示されました。評価にどう重みを付けるかという方針を与えられた参加者は、その方針に沿って評価しました。
その後、Gormanら(2024)は、過去の4研究の大学生計471人のデータを分析しました。共通基準を学ぶ訓練は、低い水準の仕事ぶりを見分ける場合に特に有効で、高い水準を評価する場面では訓練群と比較群の差が小さいことが分かりました。訓練の効果が、すべての水準に同じように現れるわけではないという点も重要です。
これらは映像や文章による評価課題を中心とする研究であり、実際の会社で評価会議を開けば必ず人事評価が一致する、と直接示したものではありません。ただ、評価する行動の意味や、仕事の条件をどのように捉えるかをそろえることを考える根拠になります。
評価をすり合わせる前に、何を確かめるか
評価の差を見つけたら、先に点数の平均を取るのではなく、差がどこから生まれたかを調べます。確認する材料を次のように分けると、単なる好みの違いと、実際の業務条件の違いを混同しにくくなります。
| 確かめること | 具体的な確認 | 違いが見つかったら |
|---|---|---|
| 観察した事実 | 誰が、いつ、どの場で、何を伝え、どんな対応をしたか。記録と伝聞のどちらか | まずメールや議事録などを照合し、確認できない点は保留する |
| 評価項目と基準 | 「協働」「主体性」など、何を測り、どの行動を期待水準とするか | 項目を混ぜず、同じ項目に同じ判断基準を使う |
| 役割と仕事の条件 | 担当範囲、決定権限、期限、情報や支援の有無、リスクの大きさ | 条件が違う場合は機械的に同点にせず、理由を記録する |
| 評価する期間と目的 | 同じ評価期間の行動を見ているか。育成面談か、昇格・処遇の審査か | 目的が違うなら判断の用途を明示し、共通の人事評価項目は事前の基準に戻す |
特に「場面」の違いには注意が必要です。平常時に自分から報告することと、緊急時に必要な相手へ迅速に連絡することでは、同じ「報告」という行動でも求められる役割が異なり得ます。また、役割の異なる社員を評価するときも、共通項目だけでなく、それぞれに事前に示された職務上の期待を確認します。
評価の目的も受け止め方に関わります。英国の人事専門団体CIPDの2016年の研究レビューでは、昇給・昇格などの処遇を決める評価よりも、育成を目的とする評価の方が厳しくなる傾向が紹介されています。用途の異なる評価を同じ点数として扱う前に、その目的を確認する必要があります。
評価者同士で、同じ行動の見方をそろえる進め方
以下は研究を参考に組み立てた実務上の提案です。評価者が複数いる職場なら、実際の人事評価を確定する前に、評価項目ごとの代表的な行動例で「どこを見ているか」を話し合えます。
- 先に評価項目と期待水準を共有する。例えば「協働」を評価するなら、「関係者に必要な情報と理由を共有し、次の対応につなげる」といった観察できる行動に置き換えます。仕事の役割や基準は評価期間の初めに示し、会議で都合よく後から変更しないようにします。
- 同じ事例を、評価者が先に個別に評価する。会議で強い立場の人の意見を聞く前に、同じ事実と職務条件を使い、該当する項目と判断理由を記録します。実際の社員の事例を使う場合は、共有する個人情報の範囲を必要最小限にします。
- 点数が異なる理由を三つに分ける。見ている事実が違うのか、同じ事実への基準の当てはめ方が違うのか、役割や状況の捉え方が違うのかを確認します。事実の違いなら記録を補い、基準の違いなら評価項目の意味をそろえます。
- 判断の分かれ目を短い行動例に残す。「期待水準に届く場合」「足りない場合」「上回る場合」で、どんな事実を見て判断するかを記録します。一つの事例だけで複雑な仕事を決めつけず、必要なら異なる場面も扱います。
- 実際の評価と本人への説明を再確認する。共通基準に照らして評価を見直し、事実が不足する箇所は未確認とします。評価者が合意しても、それだけで正しい評価になったとは限りません。社員から新しい事実が示された場合の確認方法も用意します。
仮の例として、ある社員が会議で進行案に反対し、納期の根拠と代替案を示したとします。上司Aは「主体性が高い」、上司Bは「協調性が低い」と記録しました。すり合わせでは、まず反対したという事実と、根拠・代案を示したという事実を区別します。そのうえで「主体性」と「協働」の評価基準をそれぞれ確認します。
もし「協働」の期待水準が、関係者に根拠や影響を共有して検討につなげることなら、反対意見を述べたことだけで協調性を低く評価する理由にはなりません。ただし、実際に相手へ必要な情報を伝えたか、会議前の調整が役割として求められていたかは、記録や関係者への確認が必要です。「主体性があるから協働も高評価」と別項目へ広げることにも注意します。
評価のすり合わせが必要なのは、評価者を全員同じ考え方にするためではありません。異なる見方があればその根拠を確かめ、同じ条件では共通の基準を使い、異なる条件では違いを説明できる状態にするためです。会社の評価制度や労務上の手続きに沿って記録し、社員には、人格の印象ではなく具体的な行動と判断理由を伝えることが出発点になります。
参考文献・出典
- Sulsky, L. M., & Day, D. V.(1992). Frame-of-reference training and cognitive categorization: An empirical investigation of rater memory issues. Journal of Applied Psychology, 77(4), 501–510. ― 大学生94人による映像上の管理職評価。評価基準の訓練が評価・分類の正確さを高めた一方、一部の行動の認識成績が下がったという結果の根拠(原著要旨を確認)。
- Keown-Gerrard, J. L., & Sulsky, L. M.(2001). The Effects of Task Information Training and Frame-of-Reference Training With Situational Constraints on Rating Accuracy. Human Performance, 14(4), 305–320. ― 大学教員の仮想的な業務資料を用い、行動・状況上の制約・重みづけの訓練条件を比較した研究(出版社の要旨を確認)。
- Gorman, C. A., Jackson, D. J. R., Meriac, J. P., Himmler, J. R., & Contreras, T. F.(2024). Beyond rating accuracy: Unpacking frame-of-reference assessor training effectiveness. Industrial and Organizational Psychology, 17(2), 206–219. ― 大学生471人を含む4研究の再分析。評価対象の仕事ぶりの水準によって訓練の効果が異なる点の根拠(公開原著を確認)。
- Chartered Institute of Personnel and Development(CIPD)(2016). Performance management: Could do better? ― 人事評価の目的と評価の厳しさ・公平さなどを整理した研究レビュー(公開概要を確認)。