失敗が不安で研修課題を選べない新人へ|難しさと支援を調整する

採用・評価・人材育成
Psychology Laws 編集部

新人研修で「基本・応用・発展の課題から選んでください」と言われても、「簡単なものを選ぶと消極的に見られるかも」「難しいものを選んで失敗したら評価が下がるかも」と迷うことがあります。育成担当者も、どの難易度を勧めればよいか判断しにくいかもしれません。

そんなときは、難しい課題を無理に選ぶのでも、簡単な課題だけに固定するのでもなく、何が不安なのか、今できることは何か、失敗したら何が起きるのかを確かめ、課題の難しさと利用できる支援をセットで決めることから始めます。評価を伴う研修なら、採点基準や再挑戦の可否も先に確認します。

研修課題を選べないとき、難しさ以外に何が影響するのか

以下は説明用の仮の場面です。新人が、架空の顧客への問い合わせ返信を練習しています。定型文を使う基本課題、問い合わせ内容に合わせて回答案を作る応用課題、複数の条件を整理して対応を提案する発展課題があります。新人は基本課題ならできそうですが、簡単な課題を選んだと思われたくありません。一方、発展課題は失敗して能力を低く見られそうで、結局どれも選べません。

この場面では、課題そのものの難しさに加え、知識を増やすための練習なのか、自分の能力を評価される場なのかという受け止め方も選択に関わり得ます。もちろん、実際に成績を付ける研修もあります。評価への心配を「考えすぎ」と決めつけず、研修の目的と条件を確かめることが必要です。

ElliottとDweck(1988)は、小学5年生101人を対象に、能力を伸ばすことと、よい評価を得ることのどちらを目標にするか、また自分の能力を高い・低いと感じる条件を操作し、学習課題の選択と困難に直面したときの反応を比較しました。能力を伸ばす目標の条件では挑戦を選ぶ傾向が見られ、よい評価を得る目標で能力が低いと感じる条件では挑戦を避け、困難時の取り組み方にも違いが生じました。能力が高いと感じる条件でも、評価目標のもとでは一部の危険を避ける選択が見られました。

これは小学5年生を対象に目標と能力感の条件を操作した課題実験であり、成人の新人研修を直接検証した研究ではありません。そのため、職場の新人全員が評価を恐れていると示したものではありません。知識不足、課題の説明の曖昧さ、時間の不足でも選べなくなる可能性があります。

失敗から学ぶ研修は、試し直せる条件が大切

BellとKozlowski(2008)は350人に複雑なコンピューター上の模擬課題を学んでもらい、試行錯誤の促し方、失敗からの学習を勧める説明、感情を調整する方法などを検討しました。試行錯誤や誤りを許容する説明は、新しい課題への応用成績にプラスに働き、感情調整の方法を教えた条件では研修中の不安が低い結果でした。ただし、参加者の認知能力や目標の持ち方によって一部の結果は異なりました。

さらにKeithとFrese(2008)は、訓練中の探索と誤りからの学習を奨励する方法を扱う24研究、計2,183人を統合しました。平均すると、誤りを避けるよう教える訓練などとの比較で有利な結果がありましたが、研究ごとに違いがあり、差は訓練中の成績よりも訓練後の応用課題で大きくなりました。

どちらも本番の顧客対応で失敗させてよいという根拠ではありません。仕事に応用するなら、架空の事例、練習用データ、途中で修正できる下書きなど、誤りを確認して試し直せる環境を整える方法が考えられます。

課題を選ぶ前に、新人と担当者が確かめること

「失敗が怖い」という言葉だけでは、難易度を下げるべきか、支援を増やすべきかは決まりません。次の五つを確認します。

  • 評価の扱い:演習の結果が人事評価に使われるのか、学習状況の確認だけなのか、基準や再挑戦の機会を調べます。「間違えても評価に響かない」と説明できるのは、本当にそうした運用の場合だけです。
  • できる部分と未経験の部分:「定型文は選べるが、条件を二つ同時に整理する経験がない」のように具体化します。基本手順自体が分からないなら、最初に見本や説明が必要です。
  • 失敗の影響:模擬メールの書き直しで済むのか、実際の顧客に送信されるのかを分けます。個人情報、金銭、契約、安全に関わる仕事は、本番で試さず、模擬課題や必要な承認を設けます。
  • 使える支援:見本、チェックリスト、用語説明、相談先、途中の確認、終了後のフィードバックがあるか確認します。支援があれば取り組めそうなのか、前提知識を先に学ぶ必要があるのかで対応が変わります。
  • 時間と選び直しの機会:制限時間内に試せる量か、途中で難易度を変更できるか、次に別の課題へ挑戦する機会があるかを確かめます。

Kalyugaら(2003)は学習経験に応じた教え方をまとめ、初学者には有効な詳しい説明や見本が、経験者には役に立たなくなり、ときに妨げとなる場合があると報告しました。これは研修課題の選択そのものを調べた実験ではありませんが、新人の現在の理解に合わせて支援を調整する考え方につながります。

難しさと支援を組み合わせて、選べる課題にする

次の表は、架空の問い合わせ対応研修を想定した説明用の課題例です。実際の難易度や支援は、本人の経験と研修目的に合わせて調整します。

新人の現在の状態 練習する課題 用意する支援・確認
手順や用語を十分に理解していない 見本を参照し、架空の定型問い合わせへ回答する 用語説明、完成例、チェックリスト。まず手順の意味を説明できるか確かめる
定型対応はできるが、条件の整理が初めて 架空の顧客の条件を二つ整理して回答案を作る 確認項目の一覧、途中のレビュー。条件の抜けと回答理由を確かめる
条件を整理でき、別の状況にも応用したい 複数の要望が重なる模擬事例で、対応案の違いを説明する 必要時の質問、事後の振り返り。判断の根拠と未確認事項を確かめる

例えば「二つの条件を扱う応用課題が不安」という新人には、確認する項目を先に渡して、条件の整理ができた時点で一度見直す方法があります。必要な知識がなければ基本課題に戻ります。逆に見本を見ずに進められるようになれば、次回は支援を少し減らしたり、新しい条件を加えたりできます。

難しいほど必ず成長するわけでもありません。DeRueとWellman(2009)は、管理職60人の225件の仕事経験を分析しました。仕事の経験の難しさとリーダーシップ技能の発達の関係には、難しさを増すにつれて伸びが頭打ちになる傾向があり、フィードバックを得られる場合はその頭打ちを和らげる関係が見られました。これは新人研修の課題選択を実験した研究ではありません。「もっと難しく」だけでなく、振り返りを含めて考える際の参考になります。

課題が選べない新人と、どう話して決めるか

以下は研究を参考に組み立てた実務上の提案です。この手順全体で不安が必ずなくなると直接検証されたものではありません。

  1. 何を失敗と考えているか尋ねる。「どこが難しそうですか」「間違えたらどうなると思っていますか」と聞き、実際の評価条件と照合します。
  2. 何を学びたいか一つ決める。「難しい課題を選ぶ」を目標にせず、「問い合わせ条件を二つ整理して説明する」といった学びの目標にします。評価目的がある場合は、それも別に明示します。
  3. 課題と支援を同時に選ぶ。未経験の要素が一つ加わる課題を候補にして、使える資料、途中確認の時点、相談先を決めます。本人が選択肢を比較できるようにします。
  4. 安全な模擬課題で実際に試す。結果だけでなく、どの条件が難しかったか、どこで見本や質問が必要だったかを確かめます。誤りはそのままにせず、正しい手順を確認して修正します。
  5. 次回の難易度と支援を見直す。理解できていれば新しい条件を加えるなど一段進め、知識不足なら見本を増やしたり課題を小さくしたりします。評価の扱いが不明なままなら、先に説明をそろえます。

課題選択に迷う新人との会話例

次は練習用演習と正式な評価を分けている研修を想定した仮の会話です。

新人:「応用課題で間違えたら、評価が悪くなりそうです」

担当者:「この演習は練習用で、間違えたところを確認する時間です。正式な評価課題は別で、基準も事前に説明します。応用課題のどの部分が心配ですか」

新人:「条件が二つになると、何から確認すればよいか分かりません」

担当者:「では条件を書き出すところまで取り組みましょう。チェックリストを使って構いません。その時点で一緒に確認してから、回答文を作りましょう」

実際の研修で課題選択や演習中の誤りが評価対象なら、そうした条件を隠して「評価には影響しない」と安心させてはいけません。採点基準と、質問・再挑戦ができる範囲を正確に伝えます。

新人が課題を選べないことを、意欲や性格だけの問題と捉えず、今の理解、これから学ぶ内容、評価の条件、支援を確かめてみてください。課題を選び、試し、振り返り、次回の難しさと支援を更新することが、学びにつながる選択を考える手がかりになります。

参考文献・出典