部下が自分で決めずチームに委ねる|任せる判断と相談事項を分ける

採用・評価・人材育成
Psychology Laws 編集部

部下に「この内容は自分で決めて進めてください」と任せたのに、「チームで話し合ってから決めたい」と毎回会議へ持ち込まれる。相談する姿勢は大切ですが、担当者が決められることまで保留されると、仕事が進まなくなる場合があります。

このときは「もっと主体的に決めて」と促す前に、本人に決める権限があること、判断に必要な情報があること、他の人の確認や承認が必要なことを分けて確かめます。そのうえで「意見を聞いた後は本人が決める」「チームで決める」「上司や担当部署の承認を受ける」を仕事ごとに決めます。相談を減らすこと自体が目標ではありません。

判断をチームに委ねるとき、何が起きているのか

以下は説明用の仮の場面です。顧客向けの問い合わせ案内を改訂する仕事を、上司が若手担当者に任せました。担当者は、説明文の並べ方を変えるかどうかも毎週のチーム会議へ持ち込みます。上司は「それくらい自分で決められるはず」と感じています。

しかし担当者からは、上司の「任せる」がどこまでを指すのか見えていないかもしれません。文章の順番だけなら本人が決められても、回答期限や返金条件を変えるなら他部署の承認が必要です。ほかにも、前に一人で判断して修正を求められた経験がある、顧客対応への影響を知る人の意見が必要、といった可能性があります。行動だけを見て「責任を取りたくない性格だ」と決めつけないことが出発点です。

チームで話し合うことと、決定権があることは違う

ZoghiとMohr(2011)は、欧州連合と英連邦の3か国に関する計4種類の事業所調査データを使い、チーム活動などの参加型の働き方と、従業員の意思決定権限の関係を分析しました。チームなどの活動がある事業所では意思決定の分散が見られる傾向があったものの、すべての国で成り立つわけではなく、その活動だけで説明できる違いは小さいという結果でした。参加型の仕組みがあることと、実際に誰が決められるかは同じではありません。

これは事業所単位の調査結果で、今回の部下がチームへ判断を持ち込む理由を直接確かめた研究ではありません。ただ、会社にチーム会議があるからといって、担当者の決定権まで自然に決まるとは考えないための手がかりになります。

役割を明確にすることには意味があるが、万能ではない

Schaubroeckら(1993)は、大学の業務サービス部門で管理職に部下の役割を明確にする面談方法を教え、役割について上司と詳しく話し合う従業員と、順番待ちの対照群に無作為に分けた実験を行いました。面談を行う介入では、本人が役割を曖昧に感じる程度と、上司への不満が低下する結果が見られました。一方、ほかの心理的負担や身体症状、病気による欠勤時間には効果が見られませんでした。

この研究は「相談すること」と「決定すること」を分ける手順自体の実験ではありません。それでも、上司と部下が役割の認識をすり合わせることに、限定的ながら検証された効果があると分かります。

また、Slempら(2018)が職場の72研究、計32,870人をまとめた分析では、上司が本人の考えや選択を尊重する関わり方は、自分で納得して仕事に取り組む意欲と正の関連がありました。外からの圧力に従う動機とは明確な関連が見られていません。主に相関関係をまとめた研究のため、「一人で決めるよう指示すれば意欲が上がる」とまでは言えません。権限だけ渡して必要な情報や支援をなくすことも、自律性の支援とは異なります。

部下に「なぜ会議で決めたいのか」をどう確かめるか

「自分で決めてほしいのに決めない」という印象を、直近の具体的な判断に置き換えてみます。「先週の案内文の順番は、どこで判断が止まりましたか」と聞き、部下の説明を次のように整理します。

  • 決める権限が分からなかった:「上司が最終確認すると思っていた」という返事なら、誰が決定者かを改めて確認します。社内ルールで承認が必要なら、個人判断へ変更してはいけません。
  • 影響を判断する情報が足りなかった:「サポート部門の仕事に影響するか分からない」なら、確認すべき相手と質問を特定します。確認した人全員に最終決定まで求める必要があるかは、別に判断します。
  • 一人で決めた後の扱いが不安だった:「後から勝手に決めたと言われそう」なら、これまでの指示・修正・評価のされ方を確かめます。こう答えた人を「慎重すぎる」と評価するのではなく、判断基準と、報告すればよい時点を共有します。
  • 本当に複数の決定者が必要だった:別部署の予算や顧客への正式な約束を変えるなら、担当者一人で決められない場合があります。必要な決定者、正式な承認経路、期限を確認します。

部下が疑問や心配を話せるかも大切です。Edmondson(1999)が製造業の51チームを調べた研究では、対人関係上の不利益を恐れず発言できるというチームの共通認識と、学習につながる行動との間に関連が見られました(研究の要旨)。ただし、この観察研究から「質問しやすい雰囲気を作れば、部下は必ず単独で決断する」とは言えません。判断に必要な相談を責めない一方、会議に持ち込む目的は聞き取ることが重要です。

本人が決めることと、チームに相談することをどう分けるか

次の表は、問い合わせ案内の改訂を想定した説明用の仮の例です。実際には社内規程、職務権限、顧客との約束、法令・安全上の条件を優先して判断します。

判断すること 判断・相談の扱い 確認する条件
承認済みの案内内容を、読みやすい順番へ並べ替える 定められた範囲内なら担当者が判断し、決定後に共有する 意味や取引条件を変えずに済むか
案内の書き方が、サポート部門の受付手順に影響する サポート担当に必要な事実を確認し、権限内なら担当者が決める どの受付手順が変わるか、承認が必要な変更か
部署共通の返信期限や人員の優先配分を変更する 関係部署・責任者の決定や承認へ回す 誰の権限か、誰の業務・予算に影響するか
返金条件や個人情報の扱いを変更する 指定された管理者・専門部署の承認が必要。本人だけで確定しない 契約、規程、法令、顧客への影響

ここで分けたいのは、情報をもらうための相談、関係者の意見を聞くための相談、正式な承認の三つです。チームから助言をもらっても、決める権限が担当者にあるなら、最終案とその理由は本人が示します。反対に、全員の合意や管理者の承認が必要な事項は「担当者が主体性を見せるため」という理由で省略しません。

相談のあとに判断が進むよう、上司ができること

以下は研究を踏まえて組み立てた実務上の進め方であり、この一連の手順が決断を早めると直接実証されたものではありません。まずは一つの案件で試し、判断の根拠と相談の必要性が見えるか確かめます。

  1. 止まった具体例を一緒に確認する。「案内文の並べ替えを会議に持ち込んだのは、何を確かめたかったからですか」と聞きます。「チームで決めたほうが安心だから」だけでは、どんな支援が必要か分かりません。
  2. 担当者が決める範囲を一つの判断について明記する。「承認済みの内容を変えない書き順はあなたが決めてよい。一方、受付期限や料金条件は変更前に承認を取る」と、その業務に沿った境界を確認します。決定権を与えられない内容は、その場で任せたことにしません。
  3. 会議へ持ち込む前に、暫定案と疑問点を書いてもらう。「A案を考えています。サポート部門の受付に影響するかだけ確認したいです」のように、本人の考えと必要な情報を分けます。知識不足なら、その準備を手伝います。
  4. 相談の相手、目的、返答期限を決める。必要なのがサポート担当の確認なら、全員参加の定例会議まで待つ必要があるかを検討します。ただし、部署全体の合意が必要な変更なら、正規の会議・承認手順を使います。
  5. 誰がどう決めたかを残し、次回に生かす。「サポート担当に受付手順を確認し、本人がA案に決定。内容の変更はなし」のように記録します。上司は結論だけを評価するのではなく、確認が必要だった理由や、見落とした条件を振り返ります。

「チームに決めてもらいたい」と言われたときの会話例

次の会話も仮の例です。

部下:「案内文の順番は、チームの皆さんに決めてもらいたいです」

上司:「決める前に、どの点をチームに確かめたいですか」

部下:「並べ替えるとサポート部門での受付に支障がないか心配です」

上司:「その点は担当者に確認しましょう。内容を変えない並べ替えなら、最終的な順番はあなたが決めて構いません。もし受付のルール自体を変える必要があれば、私とサポート部門で承認範囲を確認します」

このやり取りでは、相談を否定するのではなく、何を知るために相談するのかをはっきりさせています。部下が自分で決められる仕事を不必要に止めない一方で、他者の仕事や正式な権限に関わる判断まで一人に背負わせません。

参考文献・出典