優秀な先輩をまねても新人が伸びない|経験差に合う教え方を考える

採用・評価・人材育成
Psychology Laws 編集部

新人に優秀な先輩の仕事を見せ、「この人のようにやってみて」と伝えているのに、仕上がりがなかなか近づかない。先輩が素早くまとめた提案書を手本にしても、新人は見た目を似せるだけで、提案の理由をうまく説明できない。こうした場面で、本人の努力や適性だけを問題にしていないでしょうか。

優秀な先輩の方法をまねさせるだけで、新人が同じ仕事をできるようになるとは限りません。先輩は、経験の中で覚えた情報の見方や判断を、短い手順にまとめている場合があります。まず新人がどこまで理解し、何を自力でできるかを確かめ、不足している基礎知識や判断を補う説明から始め、支援を少しずつ減らすことが考えられます。先輩の方法を否定するのではなく、学ぶ順番を経験差に合わせます。

優秀な先輩のまねだけでは、なぜ同じ仕事にならないのか

先輩が見せているのは、長年の経験を使って仕上げた仕事の「完成形」かもしれません。例えば提案書が簡潔なのは、調査をしていないからではなく、顧客の課題や費用の前提を検討したうえで、必要な内容を選んだからという場合があります。新人が完成形だけをまねると、先輩がその前に確認したことが抜ける可能性があります。

説明する側も、自分には簡単な作業が新人には難しいと気づきにくい場合があります。Hinds(1999)は、専門家、中級者、初心者が、初心者の複雑な作業に必要な時間を予測する研究と、参加者の経験の程度を実験的に変えた研究を行いました。両方で、経験が豊富な人ほど初心者の作業時間を正しく予測しにくく、難しさを小さく見積もる傾向がありました。その見積もりを修正するための働きかけにも、十分には改善しない結果が見られました。

これは業務の指導時間や習得日数を直接測った研究ではありません。ただ、「自分がすぐにできるから新人も短時間でできるはず」という見積もりを、実際の新人の作業状況で確かめる必要があることを示唆しています。こうした知識や経験の違いによる見積もりの難しさは知識の呪いの解説とも関係します。

さらに、Hinds、Patterson、Pfeffer(2001)は電子回路の配線を使って、経験の異なる人が初心者へどんな指示をするかを調べました。最初の研究では、専門家は初心者の説明者より抽象的で高度な表現を多く用い、具体的な表現が少なくなりました。

続く研究では、初心者から説明を受けた人の方が、教わったのと同じ作業では成績が良く、説明上の問題も少なく報告しました。しかし、同じ分野の別の作業に取り組んだときは、専門家から説明を受けた人の方が良い成績を示しました。最初の作業を再現するために役立つ具体的な説明と、別の場面にも考え方を応用するための説明は、役割が異なり得るという結果です。

これも電子回路の課題であり、一般企業の先輩が教える仕事を直接調べたものではありません。「経験の浅い人が教えた方が常に優秀」という結論でもありません。新人がまず一件を安全にこなすための説明と、慣れた後に別の案件へ応用する説明を、どちらも残しておく理由になります。

教え方と習熟度の関係を整理したKalyugaら(2003)の研究レビューでも、詳しい説明や補助が、経験の少ない学習者には役立つ一方、すでに知識のある学習者には役立たなくなったり負担になったりする例が紹介されています。経験を積むと、一度に理解・処理できる情報のまとまりが変わるためです。

ただし、どの教材でも必ずこの逆転が起きるわけではありません。例えばNievelsteinら(2013)が法律の事例を考える学生を対象にした研究では、解き方を示した見本からの学習は、法律の学習経験が少ない学生だけでなく、より経験のある学生にも有利でした。法律のように判断の筋道が複雑な課題では、経験が増えたというだけで詳しい見本を外すべきではありません。

先輩をまねられない新人について、まず何を確かめるか

「一度見せたのにできない」という結果だけでは、支援を増やすべきか、別の練習を用意すべきか判断できません。先輩の実績や新人の性格を比べるより、今の仕事を完成させるのに必要な要素のうち、どこで止まっているかを確かめます。

新人に起きていること 先に確かめる事実 考えられる支援
見本の説明についていけない 専門用語、仕事の目的、使用資料、必要な基礎知識を理解できているか 用語と前提を短く確認し、身近な具体例と途中の作業を示す
見た目はまねられるが理由を説明できない 先輩が採用・除外した情報や、完成までの判断を知っているか 完成品に加えて、判断前の材料と選択の理由を示す
横で教わればできるが一人だと止まる どの工程で質問や確認が必要になるか。見本を見ずにできる部分はどこか できる工程は本人に任せ、難しい工程だけ確認項目や見本を残す
同じ案件はできても条件が変わると迷う 何を変えてよいか、別の案を選ぶ条件や相談先を説明できるか 先輩が使う考え方を説明し、違う条件の案件で練習する
理解していても本番の時間内にできない 作業量、情報へのアクセス、中断、確認・承認の時間が足りているか 業務量や支援体制を調整し、速さではなく必要な品質を保てるか確かめる

ここで最初に確かめたいのは、「説明を理解したつもり」ではなく、具体的な小さな作業を本人ができるかです。「分かりました」と答えても、資料の根拠を選べなければ、そこから教える必要があります。反対に、本人が説明できて実行もできるなら、同じ説明を長く繰り返す必要はないかもしれません。

先輩の速さを目標にする前に、顧客への約束、承認、品質、安全などの必須条件を守れているか確認します。仕事の難しさや機会の少なさ、忙しさが原因の場合もあるため、できないことを新人の能力だけに帰さないようにします。

また、「優秀な先輩がやっていた方法」が今回の仕事内容や現在のルールに合っているかも別に確認します。先輩が経験によって行っている省略は、職務の権限や支援が異なる新人には認められない場合があります。先輩の成果を目指すことと、承認を省いたり無理に速く進めたりすることは区別します。

新人の経験に合わせて、先輩の方法をどう教え直すか

以下は説明用の仮の例です。商品企画チームの優秀な先輩は、短い提案書で顧客の課題を整理し、二つの案を比べ、会議で分かりやすく説明しています。新人は完成した提案書をまねて1枚にまとめましたが、費用の前提と顧客の要望が十分に確認できておらず、「なぜこの案なのか」と聞かれると答えられませんでした。

この場面で「先輩と同じように短くまとめて」と繰り返すより、まとめる前に必要な情報を見分ける技能があるかを調べます。先輩の文章のうまさだけでなく、完成までに使った資料と考え方を新人の経験に合う順序で見せます。

学習の支援を徐々に減らす方法には研究があります。Renklら(2002)は、解答のある完全な例と自力で解く問題を交互に扱う方法に対し、解答の一部を徐々に空白にして本人が補う部分を増やす方法を、学校での実験1件と実験室での2件で比較しました。段階的に解答を減らす方法は、学んだ内容に近い課題への応用で、学習上の利点が見られました。一方、かけ離れた課題への応用については、同様の効果をはっきり示したわけではありません。

この実験は学校・大学での学習課題を扱っており、会社の提案書作成を直接調べたものではありません。次の手順は、先輩の見本と新人の自力作業をつなぐための実務上の提案です。この順番で教えれば必ず成長すると検証された方法ではありません。

  1. 新人がまず再現する小さな技能を決める。「先輩のような企画提案をする」ではなく、「顧客から確認した事実と、推測している課題を分けて記録する」など、現在の経験で取り組める一工程に絞ります。必要な社内ルールと承認範囲も確認します。
  2. 先輩の完成品と、完成前の材料を一緒に見せる。完成した提案書だけでなく、顧客から得た情報、比較した案、確認した費用の前提を示します。「どの情報を残し、なぜほかを省いたのか」を新人が追える形で説明します。確認していない資料を、実際に使ったものとして補いません。
  3. 新人が不足している部分を埋める練習にする。最初は先輩が整理した資料から「顧客の課題」の欄を新人に書いてもらうなど、一部だけ自力で考えます。できるようになった部分の見本は減らし、費用の比較や案の選択など、次の工程を増やします。
  4. 別の案件で、一人でできる部分を確認する。見本と似ているが条件の違う仮の依頼を使い、本人が必要な情報を探し、案を比べられるか確かめます。困った場所を見て、基礎の説明を戻すか、より自由に考える課題へ進むかを決めます。
  5. 習熟に合わせて、先輩の考え方と裁量を広げる。基本の調査や比較を自力でできるようになったら、先輩が使う判断の原理や、例外に気づく手がかりも話し合います。実際の顧客への提案や金額・期限の確約は、権限に応じて上司や関係部署が確認します。

指導担当者は、例えば次のように伝えられます。

「先輩の提案書が短いのは、確認することが少ないからとは限りません。まず今回は、顧客の要望として確かめられたことと、まだ仮説の部分を分けてみましょう。そこができたら、二つの案を比べる部分をあなたに考えてもらいます。会議で説明する前に、費用や承認が必要な点は一緒に確認します」

新人が初めから十分な技能を持っているなら、このように細かく区切る必要はありません。逆に、基本の用語や資料の読み方でつまずく場合は、提案の応用練習を急がず基礎へ戻ります。先輩の説明を細かくするか、自分で考える部分を増やすかは、年次や印象ではなく、その工程を本人が実際にできるかで決めます。

先輩の方法を学ぶ意味は、最初から先輩と同じ速さや表現を再現することだけではありません。新人が今使える情報で一つの仕事を正しく進め、その後に理由や原理を学び、別の仕事にも応用できるようにすることです。経験の差を確認して教える順番と支援を変えることが、単なるまねから学習へつなぐ出発点になります。

参考文献・出典