前任者に似た人を採りたくなるとき|必要な能力を分けて見極める

採用・評価・人材育成
Psychology Laws 編集部

優秀な前任者が異動・退職すると、「次もあの人に似た人を採りたい」と考えることがあります。前任者が活躍した経験は大切な手がかりです。しかし、前任者に話し方や経歴が似ていることと、今回の仕事に必要な能力を持つことは別です。

まず前任者が実際に担当した仕事と成果を確認し、本人の行動、周囲の支援、当時の業務条件を分けます。そのうえで、今回の職務に必要な行動、入社時から必要な能力、入社後に育てられる能力を整理し、応募者を同じ基準で比較します。前任者と似ているから採用するのでも、似ていないから候補から外すのでもなく、職務に必要な事実を確かめましょう。

前任者に似た人を選びたくなるとき、何を基準にしているのか

以下は説明用の仮の場面です。営業支援の担当者が異動するため、後任を採用します。前任者は明るく話し、同じ業界で長く働き、取引先にも営業担当者にも信頼されていました。採用担当者は「同業の経験があり、はきはき話す人」を探し始めます。

ところが実際の案件を振り返ると、前任者は納期変更を早めに把握し、見積条件を正確に記録し、問題を関係部署へ適切に引き継いでいました。明るい話し方と業界経験が、その一つひとつにどれほど必要だったかは、まだ確かめられていません。

さらに現在は、案件管理システムを使った記録が増えています。前任者を高く評価することと、前任者の人物像をそのまま新しい採用条件にすることは分けて考える必要があります。

面接官が考える「理想の社員」に似ていることは、採否判断と関連していた

DalessioとImada(1984)は、5人の面接官による37人の応募者の面接を対象に、面接官の思い描く理想の社員像との似かよりと、面接官自身との似かよりが、採否判断にどう関係するか調べました。面接は複数の面接官で行う構造化された方式でした。

その結果、採否判断は、面接官自身との似かよりよりも、面接官が考える理想の社員像との似かよりに強く関連していました。ただし、少数の面接官と応募者を対象とした現場研究であり、似ていることが採否を引き起こしたと証明したものではありません。また、理想の社員像が前任者に基づいていたか、採用後の成績を正しく予測できたかは、この論文の要旨からは確認できません。

今回の採用で「前任者のような人が理想だ」と感じたら、何が似ているとよいのかを具体的な仕事に置き換える必要がありそうです。

「それらしく見えること」が、実際の可能性の代わりになる場合がある

KahnemanとTversky(1973)は、人物の特徴を説明する文章から、その人が大学院のどの専攻に属するかを推測する課題などを調べました。専攻ごとの人数の割合を考える条件、人物が各専攻の学生の典型像にどの程度似ているかを判断する条件、専攻を予測する条件を比べています。

結果として、専攻の予測は人物像の「典型的な学生への似かより」と強く一致し、専攻ごとの人数の割合とは大きく異なりました。これは大学院の専攻に関する予測研究で、採用面接や前任者の後任選びを直接検証したものではありません。それでも、「前任者に似た経歴なら成果を出しそう」と感じるとき、実際の職務能力まで確認できているかを考える手がかりになります。詳しい概念は代表性ヒューリスティックの解説も参考になります。

職務に関係する質問と評価基準を使う

Levashinaら(2014)は、事前に質問や採点方法を整える「構造化面接」の研究をレビューし、偏りの軽減、過去の行動を尋ねる方法、評価尺度、追加質問などを検討しました。多くの研究知見がある一方、未解決の論点もあるとしています。

米国人事管理局(OPM)の構造化面接の解説でも、仕事に必要な能力を職務分析から特定し、応募者に共通する質問と評価基準で確認する方法が紹介されています。これらは「前任者に似た人を避ければ必ず採用が成功する」という根拠ではありません。似かよりを全体的な印象で判断するのではなく、仕事に必要な能力を個別に確かめるための参考になります。

前任者の成功から、必要な能力をどう取り出すか

「明るい人」「気が利く人」といった表現のままでは、応募者を何で評価すべきか分かりません。次の点を整理します。

  • 前任者が実際に行った仕事:納期変更の連絡、見積条件の確認、進捗記録、関係部署への相談など、行動として説明できる仕事を挙げます。前任者の評判ではなく、作業記録や関係者への確認から整理します。
  • 成果と職場の支援:前任者の工夫に加え、先輩や別部署の支援、既存顧客との関係、使用していた仕組みが成果に関わった可能性を考えます。本人の特徴だけが成果の原因だと決めつけません。
  • 今回変わった仕事内容:取り扱う商品、案件の数、関係部署、システム、求められる品質などを確認します。前任者が担当していなかった新しい仕事も採用基準に入れる必要があるかもしれません。
  • 入社時に必要な能力と育成できること:初日から必要な判断・情報管理・安全上の能力と、入社後に教えられる社内の商品知識や操作手順を区別します。OPMの職務分析の案内でも、後から学べる能力をすべて採用時の必須条件にしないよう注意しています。
  • 職務と関係しない条件:前任者の年齢や性別、家族状況、出身地などを「似た人」という採用条件にしません。厚生労働省の公正な採用選考の基本は、応募者の人権を尊重し、職務遂行に必要な適性・能力で選考することを示しています。

前任者の特徴を、確認できる選考項目に置き換える

営業支援担当者の後任を選ぶ場面なら、次のような整理が考えられます。これは説明用の仮の比較表であり、特定の会社の採用基準を示すものではありません。

前任者への印象 今回必要な仕事 採用前に確かめる材料
明るく話す人だった 納期・見積条件を分かりやすく正確に伝える 条件の変更を説明した具体例。相手との認識をどう確かめたか
同業で長く働いていた 案件に必要な情報を判断し、確認する 情報不足の案件にどう対応したか。業界固有の知識は入社時に必要か
営業担当者に頼りにされた 問題を見つけて適切な人へ引き継ぐ トラブルの発見、報告、役割分担を本人がどう行ったか
紙の管理表で仕事を整理した 新しい案件管理システムで進捗と変更を記録する 記録漏れを防いだ経験。システム操作は研修で身に付けられるか

仮に応募者Aは同業出身で話し方も前任者に似ていますが、トラブル対応を本人が担当したかはまだ分かりません。応募者Bは別業界の経験者ですが、関係部署との調整と記録を具体的に説明できました。ただし、今回必要な商品知識をどこまで持っているかは未確認です。いずれも架空の応募者であり、この情報だけでどちらを採用すべきかは決められません。

前任者と同じ経歴が有利な場合もあります。しかし、経歴の違う応募者にも、必要な能力を別の仕事で身に付けている可能性があります。前任者との似かよりではなく、今回の作業との対応を確認します。

前任者の代わりを、今回の職務基準で選ぶ手順

以下は研究と公的な採用資料を参考に考えた実務上の提案です。この手順そのものが、すべての採用で成果を高めると実験で確認されたわけではありません。

  1. 前任者の仕事を具体化する。職務記述書、案件記録、周囲の担当者の話をもとに、担当業務と必要な判断を整理します。以前は重要だったが、今回の仕事には関係が薄い作業も分けます。
  2. 職務に必要な能力と優先順位を決める。入社時点で必要な条件と、採用後に育てられる知識を分けます。「前任者と同じ業界出身」は、仕事上どうしても必要な場合にだけ根拠を示して扱います。
  3. 共通の質問で具体的な行動を聞く。例えば「納期変更を関係者へどう伝えましたか」「情報が足りない案件では何を確認しましたか」と尋ねます。本人の担当範囲と結果を確かめ、職務に関係する範囲で追加質問します。
  4. 回答と評価を分けて記録する。「変更履歴を残し、担当者へ連絡した」という回答内容と「調整力がありそう」という推測を分けます。聞けなかった項目は、能力がないと決めず「未確認」と残します。
  5. 応募者同士を同じ基準で比べる。必須条件、確かめられた行動、未確認点、必要な育成支援を並べます。必要な能力が確認できなければ、選考手順に沿って追加確認し、採用要件や育成計画を見直すことも検討します。

採用会議では、例えば次のように伝えられます。これは説明用の仮の会話例です。

「前任者は取引先の対応が上手だったので、似た人を探したくなります。ただ、実際に助かっていたのは、納期変更の共有と、条件を正確に残す仕事でした。今回は新しい案件管理も必要なので、雰囲気や業界経験だけでなく、これらの仕事をできるかを共通の質問で確認しませんか」

前任者の経験は、後任に必要な能力を考えるために使えます。大切なのは「どんな人に似ているか」ではなく、「必要な仕事をどんな行動で担えるか」に置き換えることです。そうすれば、前任者に似た応募者も、異なる経験を持つ応募者も、今回の役割で比べられます。

参考文献・出典