顧客を会社規模だけで分類していない?商談で実際の課題を聞くポイント
新しい商談先が「従業員40人の会社」だと分かると、営業担当者は「専任の担当者が少なそうだ」「予算を抑えたいはずだ」と考えて、提案を準備するかもしれません。会社規模は事前準備の手がかりになりますが、それだけで顧客の課題が分かったことにはなりません。
商談では、会社規模から考えたことをいったん仮説として置き、実際の仕事の流れ、困っている場面、解決したいこと、判断に関わる人を顧客自身に確認します。大切なのは、予想に合う答えだけを集めず、別の課題が見つかる質問も用意することです。
この記事では、最初の顧客像が質問に影響する心理を研究から確かめ、商談で相手の実情を聞き取るための質問と判断方法を説明します。
会社規模による思い込みが、商談の質問に影響するのはなぜか
「小規模だから低価格重視」という予想が質問を狭める
説明用の仮の場面です。営業担当者が従業員40人の企業へ業務システムを提案するとします。担当者は「小規模企業だから、まず費用を抑えたいはずだ」と予想しました。
そのまま商談を始めると、「できるだけ安いプランがよいですよね」「機能は少なくても大丈夫ですよね」と質問してしまうかもしれません。顧客が実際に困っていることを話す前から、価格と機能削減の方向へ話題が寄っています。
ところが、その企業では複数の拠点で同じ情報を扱っており、承認履歴を追えないことが問題になっているかもしれません。もしそうなら、価格だけでなく、記録の確認や拠点間の運用が重要な検討条件になります。
会社規模に基づく予想自体が間違いとは限りません。ただ、予想を確定した事実のように扱うと、別の課題を聞く機会が減る可能性があります。
研究では、分類情報だけでなく個別情報を見るかどうかで判断が変わった
NeubergとFiske(1987)は、人が相手を評価するとき、集団に関する情報と、その人自身の特徴のどちらに注意を向けるかを3つの実験で調べました。参加者は、過去に統合失調症で入院したことがあると説明された男性と交流する予定だと伝えられ、男性個人についての情報を文章や映像で示されました。
実験1では、相手との共同作業の結果に自分が左右される条件に置かれた参加者は、分類上の情報より、その人自身の特徴を使って判断する傾向が強まり、個別情報を見る時間も長くなりました。
ただし実験2では、分類情報だけが与えられ、個別の特徴に関する追加情報がない場合、相手との作業結果に関係するという条件の影響は見られませんでした。実験3では、相手を正確に理解しようという目標を持つ条件で、個別情報に基づく判断が増えました。Neuberg & Fiske(1987)の研究要旨
これは企業規模と営業の商談を直接調べた研究ではありません。それでも、「相手をよく理解しよう」と考えるだけでなく、実際にその相手についての具体的な情報を得る必要があることを考える手がかりになります。
予想に合う質問ばかり選ぶとは限らない
SnyderとSwann(1978)は、女子大学生を対象とした4つの研究で、相手が外向的か内向的かという仮説を与え、これから面接で使う質問を選んでもらいました。その結果、参加者は仮説を裏付ける行動を引き出しやすい質問を優先して選ぶ傾向がありました。Snyder & Swann(1978)の研究概要
一方、TropeとBassok(1982)は、3つの実験で計342人に、相手がある性格特性を持つかどうか調べるための情報源を選んでもらいました。この研究では、予想に合う証拠が出そうかどうかより、異なる可能性を見分けるのに役立つかどうかが情報選択の主な決め手でした。予想に合わない情報でも、見分ける力が高ければ選ばれました。Trope & Bassok(1982)の研究要旨
つまり、誰もが必ず自分の思い込みを裏付ける質問を選ぶわけではありません。今回の商談で役立つのは、「その質問は自分の予想を確認するだけか。それとも、違う課題の可能性も見分けられるか」と考えることです。こうした情報の集め方は、確証バイアスの解説でも取り上げられています。
商談で会社規模以外に何を確かめるか
今は誰が、どのように仕事を進めているか
従業員数だけでは、担当者が何人いるか、どこで仕事が発生するか、どの部署が関わるかは分かりません。「現在、この業務はどなたが、どのような手順で進めていますか」と聞き、実際の仕事の流れを確認します。
同じ40人規模でも、担当者が一人で完結させる業務と、複数拠点の情報を集める業務では必要な仕組みが違います。仕事の流れが分かれば、提案する機能や支援範囲を考える材料になります。
どの場面で、何が困りごとになっているか
「人手が足りませんか」「費用を抑えたいですよね」と予想を確かめる前に、「今の進め方で、特に手間がかかるのはどんな場面ですか」と尋ねます。
困りごとが挙がったら、いつ起きるか、誰に影響するか、現在はどう対応しているかを確かめます。単に「大変だ」という話なのか、期限超過、手戻り、確認漏れなど、具体的な影響があるのかで、優先する対策は変わります。
顧客が重視する条件と、導入判断の進め方は何か
会社規模だけで予算の上限や決裁者を決めつけず、「今回、費用・対応範囲・導入時期などの中で何を優先しますか」「最終的な判断には、どなたがどのように関わりますか」と確認します。
予算が限られていると分かれば、必要な機能の優先順位や段階導入を相談できます。反対に、監査対応や障害時の復旧を優先するなら、費用だけでなく記録機能や支援条件を詳しく検討する必要があります。
答えた人が判断者とは限りません。担当者が把握していない条件は、分かったこととして扱わず、次に誰へ確認するかを相談します。
顧客の実際の課題を聞くために、質問をどう変えるか
以下は、心理学研究を参考にした実務上の提案です。この質問の順序や言い方による営業成果が、先ほどの実験で直接確認されたわけではありません。
1. 会社規模から考えたことを「仮説」として残す
商談前に「小規模なので予算重視かもしれない」「大規模なので承認に時間がかかるかもしれない」と考えることは、準備の出発点になります。ただし、それを顧客から聞いた事実と混ぜないようにします。
メモを「事前の予想」「顧客に確認できたこと」「まだ不明なこと」に分けておくと、何を質問すべきか見えやすくなります。
2. 答えを誘導する質問を、状況を聞く質問に変える
次は説明用の仮の質問例です。左側の質問が常に不適切という意味ではありませんが、答えをあらかじめ限定しやすい聞き方です。
| 規模による予想からの質問 | 実際の状況を確かめる質問 |
|---|---|
| 「小規模なので、価格が最優先ですよね?」 | 「今回の検討で、特に重視される条件は何ですか?」 |
| 「大きな会社なので、承認は複雑ですよね?」 | 「導入の判断には、どなたがどの段階で関わりますか?」 |
| 「少人数なら、機能は簡単なもので十分ですよね?」 | 「今の仕事のどの場面で、どの機能が必要になっていますか?」 |
広く聞いた後で「費用はどれくらい重視しますか」と具体化することはできます。最初から一つの答えを前提にしないことがポイントです。
3. 最初の予想と違う可能性を確かめる
顧客から「予算は大切です」と聞いたら、それだけで「低価格重視だった」と決めず、「費用と同じくらい重要な条件はありますか」「必要な機能を減らしても支障のない業務はありますか」と聞けます。
反対に、顧客が「拠点間の情報共有に困っている」と答えたら、何拠点で、どの情報の引き継ぎが、いつ問題になるかを聞きます。回答によって当初の予想を維持するか、見直すかを判断します。
4. 聞き取った課題を顧客に確かめてから、提案を選ぶ
最初の仮の商談例で、従業員40人の企業から「複数の拠点で承認履歴を確認できない」という困りごとが確認できたとします。その場合は、最安プランだけを見せる前に、履歴を残す機能や拠点ごとの運用条件を比較する必要があります。
一方、実際には費用が最優先で、複数拠点の管理機能は不要だと分かれば、必要最低限の構成を検討する理由になります。
提案前には「お話を伺うと、今の課題は○○で、特に△△を重視されているという理解ですが、合っていますか」と確認します。課題そのものが不明なら、提案を急がず、追加で確認する相手や資料を決めます。
会社規模は顧客を理解するための手がかりの一つです。しかし、商談で提案を決める根拠は、実際の仕事の状況と顧客から確認できた課題に置くことが大切です。
参考文献・出典
- Neuberg, S. L., & Fiske, S. T.(1987)Motivational influences on impression formation: Outcome dependency, accuracy-driven attention, and individuating processes. Journal of Personality and Social Psychology, 53(3), 431–444. 分類情報と個人固有の情報の使われ方について、共同作業の条件・個別情報の有無・正確さを重視する目標を比較した3つの実験。公開要旨を確認。
- Snyder, M., & Swann, W. B.(1978)Hypothesis-testing processes in social interaction. Journal of Personality and Social Psychology, 36(11), 1202–1212. 相手の性格についての仮説が面接質問の選択に与える影響を調べた4つの研究。大学公開の研究概要を確認。
- Trope, Y., & Bassok, M.(1982)Confirmatory and diagnosing strategies in social information gathering. Journal of Personality and Social Psychology, 43(1), 22–34. 仮説と一致しそうかだけでなく、仮説を見分ける情報価値が情報選択に与える影響を調べた3つの実験。公開要旨を確認。