経験を積むだけで判断力は育つ?事例検討と振り返りを仕事に取り入れる

採用・評価・人材育成
Psychology Laws 編集部

担当件数が増え、同じような仕事を何度も経験しているのに、部下が似た判断で繰り返し迷ってしまう。上司や育成担当者は「もっと経験すれば分かるようになる」と考えがちです。しかし、経験した案件の数と、そこから次の判断に使えることを学んだかどうかは同じではありません。

経験は判断力を育てる材料になりますが、件数を重ねるだけで、どの仕事でも正しい判断ができるとは限りません。仕事で実際に選んだ方法と当時の理由を残し、結果が分かった後に成功・失敗の両方を振り返り、条件の異なる事例と比べます。そのうえで、次に似た状況が来たら何を確かめ、どの条件なら判断を変えるかまで整理することが大切です。

同じ仕事を経験しても、判断力が育つとは限らないのはなぜか

「この方法で前回はうまくいった」という経験は、次の仕事で役立ちます。一方で、たまたま良い結果になっただけかもしれません。例えば、十分に確認せず納期を約束しても、今回は偶然予定どおり進んだとします。その成功だけを覚えて次も同じように約束すれば、判断の不足に気づかない可能性があります。

また、後から結果を知ると「最初から分かっていた」「あの選択は間違いだった」と感じやすくなります。結果に引きずられて当時の判断まで評価してしまう点は結果バイアスの解説にも関係します。経験から学ぶためには、判断した時点で分かっていたことと、結果が出て初めて分かったことを区別する必要があります。

KahnemanとKlein(2009)は、経験に基づく専門家の直感が役立つ場合と、過度の自信につながる場合を検討した論考で、判断する環境に学習可能な規則性があるか、その規則性を学べる機会が本人にあるかを重視しました。経験しているという本人の感覚だけでは、判断の正確さを測れないとも論じています。

これは新人や社員に何年働かせればよいかを比較した実験ではありません。実務への示唆は、繰り返し同じ仕事をしていても、何が結果に影響したか分からず、判断の良し悪しを確かめられないなら、経験から学びにくい可能性があるということです。顧客の希望や市場の変化など、結果を予測しにくい仕事では、一度の成否を「次も同じになる規則」として扱わないようにします。

では、経験した仕事を振り返ることに効果はあるのでしょうか。EllisとDavidi(2005)は、兵士が繰り返し行うナビゲーション訓練で、毎日の訓練後に失敗した出来事だけを振り返る条件と、成功・失敗の両方を振り返る条件を比較した準実験を行いました。成功・失敗の両方を扱った条件の方が、その後の訓練成績の改善が大きいという結果が得られました。

これは軍事訓練での結果であり、一般企業で成功例も話し合えば必ず判断力が伸びるという実験ではありません。それでも、失敗だけを教材とせず、うまくいった仕事でも「なぜうまくいったのか」「危うかった点はなかったか」を検討する理由になります。

Ellis、Mendel、Nir(2006)は、実験室の課題で、先の結果が成功か失敗かを分け、正しかった行動に注目する振り返り、誤った行動に注目する振り返り、両方を扱う振り返り、振り返りをしない条件を比べました。成功後は誤った行動を取り上げる振り返りが特に有効で、失敗後はいずれの行動に注目する振り返りでも効果が見られました。振り返りによって、出来事の説明がより具体的になり、自分たちの行動に目を向ける傾向も見られました。

この結果も実験課題でのものです。実際の仕事では本人の判断だけで結果が決まらないことがありますから、振り返りを「誰のせいか」という話に置き換えず、仕事の条件や他の要因も調べる必要があります。

より幅広い研究をまとめたTannenbaumとCerasoli(2013)のメタ分析では、個人とチームの振り返りを扱う46標本、計2,136人のデータを比較し、振り返りを行った条件では対照条件より平均的に高い成果が見られました。訓練を模した場面と実務の場面、個人とチームの両方を含む研究です。ただし、何を振り返るかと何の成果を測るかが対応していることが重要で、どの職場でも同じ大きさの効果が生じるわけではありません。

以上から、経験を学びにつなげるには、件数や在籍年数だけでなく、経験の内容を確かめ、判断を振り返り、次に使える形へ直せているかを見ることが大切だと考えられます。

事例検討の前に、どの情報をそろえるか

経験を振り返るときは、「成功した・失敗した」という結論から話し始めるより、当時の意思決定を再現できる記録をそろえます。特に次の材料を分けて確認します。

確かめること 見る記録・質問 次の判断へのつながり
判断を求められた場面 何を決める必要があり、期限、担当範囲、守るべき規則はどうなっていたか そもそも別の案件と比較できる仕事か、条件を確認する
その時点で利用できた情報 当時のメール、案件記録、顧客からの要望、関係部署の回答、まだ分からなかったこと 結果を知った後の知識で当時の判断を責めたり褒めたりしない
検討した選択肢と見通し 何を選び、何を選ばなかったか。予想した利点・不利益と相談先は何か 次に似た場面が来たとき、比較すべき案と条件を整理する
実際に起きた結果 納期、品質、顧客への影響、後から分かった情報、事前の予想との差 成功・失敗の理由を調べる材料とし、結果だけで判断の質を決めない
外部条件や他者の関与 担当部署の支援、予定外の変更、偶然の要素、本人が変えられなかった条件 改善できる行動と、仕事の仕組みや支援を見直す点を区別する

判断前の記録が残っていなければ、本人や関係者から経緯を聞きます。ただし、後からの記憶を「当時の確定した事実」と混ぜません。確認できない項目は未確認のまま残し、「成功したのだから正しく考えていたはず」などの推測で埋めないことが大切です。

事例を二つ比べるときも、部署名や成果の大きさだけでなく、判断の場面が似ているかを確認します。結果は違っても、当時の情報や選択の過程は共通していたかもしれません。反対に、結果は同じでも、納期や権限など大切な条件が違っていた可能性もあります。

一度の成功から「この方法なら必ず成功する」、一度の失敗から「もう二度とこの方法は使わない」と規則を作るのは避けたいところです。繰り返し使える判断の手がかりなのか、今回に限った条件だったのかを分けて考えます。

実際の案件を使い、次の判断につながる振り返りをするには

以下は説明用の仮の例です。ある会社の営業支援チームで、顧客から納期を短縮してほしいと頼まれた案件を二つ振り返ります。案件Aでは、担当者が関連部署に作業可能日を確かめ、一部の作業を先に渡す案を顧客へ提示し、約束どおり進みました。案件Bでは、担当者が従来の作業日数を基に短縮を約束したものの、必要な確認作業が増え、納期の再調整が必要になりました。

「Aは成功したから良い判断、Bは失敗したから悪い判断」と評価して終わらせず、当時の条件を並べて確かめます。

振り返る材料 案件A(仮の成功例) 案件B(仮の未達例)
最初に分かっていたこと 顧客の希望日と、作業範囲の一部を分けられること 顧客の希望日と、以前の類似案件の作業日数
判断前の確認 関係部署に作業可能日を確認した 今回の追加確認の要否が、承諾時点では未確認だった
選んだ対応 一部を先に渡す案と残りの予定を説明した 従来の作業日数を参考に、全体の納期短縮を約束した
後から分かった結果 提示した条件で作業が進んだ 追加確認が必要になり、納期を再調整した
次に確かめたい点 部分対応が難しい案件でも使えるか。事前確認で見落としはなかったか 追加確認を予測できたか。誰にいつ相談できたか

この二例だけでは、Aの方法が常に優れているとも、Bの担当者に判断力がないとも言えません。案件Bの追加確認が当時は予測できなかったなら、その情報を得る方法があったかから調べます。案件Aでも、必要な承認を偶然問題なく通過しただけなら、今後の改善点になり得ます。

次の進め方は、経験からの学習と振り返りの研究を参考にした実務上の提案です。以下の手順をそのまま実行すれば、どの職場でも判断力が向上すると直接検証されたものではありません。

  1. 成功例と困った例を一つずつ選ぶ。目立つ大失敗ばかり集めず、日常のよくある判断から始めます。本人を非難する会議ではないと目的を共有し、顧客情報などは必要な範囲だけ扱います。事故や契約違反などが疑われる場合は、先に所定の報告・対応を進めます。
  2. まず結果を伏せて、当時の情報に戻る。「そのとき何が分かっていたか」「何を予想し、なぜ選んだか」「どの情報が足りなかったか」を記録から確かめます。結果を知っていることによる後付けの説明と区別します。
  3. 実際の結果と、予想との違いを確かめる。予想どおりだったこと、違ったこと、本人だけでは変えられなかった条件を分けます。失敗した案件でも妥当だった対応を探し、成功した案件でも危うかった部分や見落としを調べます。
  4. 事例を比べて、判断が変わる条件を言葉にする。「納期を短縮するときは、関係部署の作業可能日と必要な確認を確かめる」「部分対応が可能かを調べる」など、今回の仕事で次に確認する候補を挙げます。少数の例から万能な規則を作らず、条件付きの仮説として残します。
  5. 次の案件で検証し、判断材料を更新する。同じ相談が来たら何を記録し、誰にいつ確認するかを決めます。実際の案件で、チェックした情報が判断に役立ったかを確かめ、新しい例外があれば見直します。仕事の権限や必須の手順は、上司・関係部署と照合します。

上司は、例えばこう尋ねられます。

「今回の二つの案件では、納期短縮の依頼を受けた時点で、何が分かっていましたか。結果が出る前に、どの確認をしたかをまず比べましょう。成功した案件にも、ほかの条件なら問題になり得た点はありませんか。次に似た依頼が来たとき、何を確認してから返答するか決めましょう」

事例検討の後は「気をつける」という感想だけで終わらせず、次に使う確認事項、相談先、見直す条件を短く記録します。記録が使われなかった場合は、本人の意欲の問題と決めず、実際の作業で見られる場所にあるか、使える権限や時間があるかも確かめます。

経験を積めば、判断に役立つ情報が増える場合があります。しかし、結果だけを覚え、何が判断を分けたかを確かめなければ、次にも使える学びになるとは限りません。「何を決めたか」「当時は何を知っていたか」「結果から何が分かったか」「次はどこを変えるか」をつなぐことが、日々の仕事で判断力を育てるための出発点です。

参考文献・出典