自社の商品を高く評価しすぎていない?顧客の比較基準を知る方法
自社商品の説明に自信があるほど、「この機能は便利だから、顧客も高く評価するはずだ」と感じることがあります。ところが商談で詳しく説明しても、顧客は価格や既存システムとの連携ばかり質問し、こちらが考える長所に反応しないかもしれません。
自社の商品を高く評価しすぎていないか確かめるには、自社が考える長所と、顧客が実際に比べている選択肢・判断条件・重視する順序を分けて記録し、顧客の言葉と確認できる実績で照らし合わせます。自社の長所を小さく見せる必要はありません。ただし、その長所が今回の顧客に必要かどうかは、商品への自信とは別に確かめます。
この記事では、営業担当者の見立てと顧客の評価がずれる理由を研究から確認し、商談で比較基準を聞き取って提案を見直す方法を説明します。
自社商品の価値を、顧客も同じように感じるとは限らない理由
「便利だと思う機能」が、顧客の優先事項とは限らない
説明用の仮の場面です。ある営業担当者は、自社の受発注システムにある高度な分析画面を大きな強みと考えています。提案書でも分析機能に多くのページを使いました。しかし顧客は、月末の締め作業で承認履歴を追えないことに困っており、必要なのは履歴の確認と既存システムとの連携でした。
分析機能の性能が高いとしても、顧客の重要な困りごとを解決しないなら、今回の選択で重視されない可能性があります。「商品の機能として優れていること」と「この顧客が購入する理由になること」は同じではありません。
自分が重要だと感じることを、ほかの人も同じように重要だと考えると推測する場合があります。関連する心理に「偽の合意効果」があります。自分の選択や判断が、周囲にも広く共有されていると見積もりやすい傾向のことです。
研究では、自分と同じ選択をする人を多く見積もる傾向が見られた
Ross、Greene、House(1977)は、仮の状況に関する質問紙や実際の対立場面などを用いた4つの研究で、人が自分の選択と他人の選択をどう捉えるか調べました。参加者は、自分と同じ反応をする人は比較的多いと判断し、自分とは異なる反応は少数派で、その人の特徴をよく表すものだと受け止める傾向を示しました。Rossら(1977)の研究要旨
この研究は、営業担当者による商品の価格評価を直接調べたものではありません。そのため、自社商品に自信がある人は必ず顧客の評価を過大に推測する、とまでは言えません。ただし、自分にとって分かりやすい長所を、顧客も重視するはずだと考えていないか点検する理由になります。
営業担当者の顧客理解と、顧客自身の評価が違った研究もある
SharmaとLambert(1994)は、営業担当者が顧客の認識をどれだけ正確に捉えているかを、化学・ハイテク・サービスの3業種で比較しました。研究では、営業担当者の顧客に関する見立ては、平均すると正確ではありませんでした。Sharma & Lambert(1994)の研究要旨
この要旨で確認できるのは認識のずれであり、営業担当者が常に高く評価する方向へ間違えたという結果ではありません。
また、Mullinsら(2014)は、営業担当者と顧客の双方から得た回答を対応させ、顧客との関係の良さをどう捉えるか調べました。その結果、自信の強い営業担当者は顧客との関係を実際の顧客評価より高く見積もる傾向があり、顧客志向の強い担当者は逆に低く見積もる傾向が報告されました。Mullinsら(2014)の研究要旨
こちらが調べたのは顧客との関係の評価であって、商品の性能や価値そのものではありません。重要なのは、営業側の自信や思い入れが、顧客側の評価を正確に示しているとは限らないことです。
法人向けの研究でも、顧客側が感じる価値を測る必要性が扱われた
UlagaとChacour(2001)は、法人向け取引における顧客が感じる価値を先行研究から整理し、複数の質問項目でその価値を測る方法を提案しました。そして国際市場で事業を行う大手化学メーカーの販売戦略づくりを例に、その方法の活用を示しました。Ulaga & Chacour(2001)の研究概要
この論文は測定の方法と活用例を扱っており、特定の聞き方をすれば必ず受注が増えると証明したものではありません。ただし、売り手が考える長所だけではなく、買い手がどこに価値を感じるかを確かめることの重要性を示しています。
顧客の比較基準を知るために、何を確かめるか
顧客は自社商品を、何と比べているか
顧客の選択肢は、競合の商品だけとは限りません。現在の仕事のやり方を続ける、既存システムを改修する、一部だけ外注する、導入を延期するといった方法もあります。
「いま検討されている方法には、当社の製品以外にどのようなものがありますか」「現在の方法を続ける場合、何が困りますか」と尋ねると、比較の出発点を確かめられます。
比較相手が変われば、重要な費用や機能も変わります。競合製品と比較するなら連携機能や契約条件が重要かもしれません。現状維持と比較するなら、切り替え作業や教育の負担が判断材料になります。
何が必須条件で、何を優先しているか
顧客が「安ければいい」と話しても、必要なセキュリティや対応期限を満たさない商品は選べないかもしれません。まず「満たさないと導入できない条件」を聞き、そのうえで価格、作業のしやすさ、サポート、導入時期などの優先順位を確認します。
同じ会社でも、現場担当者は使いやすさを、管理者は履歴や費用を重視する場合があります。誰の発言かを残し、最終判断に誰が関わるのかも確かめます。一人の担当者が答えたことを、会社全体の決定とみなさないようにします。
自社の長所は、顧客の仕事でどんな違いを生むか
「分析機能が豊富です」と説明するだけでは、顧客が比較する材料として十分ではない場合があります。実際に何の作業で使うのか、今の方法より何が変わるのか、費用や作業の負担は増えないかを確かめます。
効果がまだ測れていないなら、「作業時間が半分になります」のような数字を作らず、顧客が確認したい成果と測定方法を相談します。試用が可能なら、対象業務と比較期間を決めて試す方法も考えられます。
顧客の比較基準に合わせて提案を見直す方法
ここからは、上記の研究を参考に考えた実務上の進め方です。この手順で受注率が上がることを、紹介した研究が直接検証したわけではありません。
1. 自社が「強み」と考えていることを、仮説として書き出す
商談前に、自社商品の長所と、その長所が顧客に役立つと考えた理由を並べます。「自動分析機能がある」は商品の仕様として確認できることです。一方、「顧客はその機能を最も重視する」は、まだ確認していない予想です。
仕様や実績で確認できたことと、顧客の反応に関する推測を分けておけば、何を聞く必要があるかが明確になります。
2. 比較相手と判断条件を、先に顧客へ質問する
商談では、最初から長所を列挙する前に、次のように尋ねる方法が考えられます。
- 「今回、当社の商品以外にどのような方法と比べていますか」
- 「今の方法を続ける場合、一番困るのはどんな場面ですか」
- 「導入できるかどうかを決める必須条件は何ですか」
- 「候補がいくつか残ったとき、最後は何を重視して比べますか」
「分析機能が重要ですよね」と先に答えを限定せず、相手の言葉で条件を確認します。その後で、分析機能を使う可能性や必要性を具体的に聞くことはできます。
3. 自社の長所と顧客の比較基準を照らし合わせる
次は、架空の受発注システムを使った説明用の例です。顧客は月末の締め作業を改善したくて、現在の手作業と複数の製品を比べているとします。
| 自社が推した長所 | 顧客から確認できたこと | 次に確かめること |
|---|---|---|
| 高度な分析画面 | 分析は既存ツールで足りている | 追加の分析が必要な業務はあるか |
| 操作履歴を保存できる | 承認履歴を追えることが必須 | 必要な履歴が実際に残るか試す |
| ほかのシステムと接続できる | 現在の販売管理ソフトとの連携が重要 | 対象ソフト・連携範囲・追加費用を確認する |
この例では、分析画面の性能を最初から強調するより、承認履歴と連携条件を先に確かめるほうが顧客の判断に必要です。ただし、自社製品がこれらの条件を満たせるかは、仕様書や試用などで検証しなければなりません。
4. 合う条件・合わない条件・不明点を分けて提案する
顧客が重要視する条件と自社の長所が一致し、その違いを示す根拠があるなら、その点を中心に説明します。長所が顧客に必要なければ、無理に価値を強調せず、ほかの必要条件へ説明を移します。
反対に、顧客の必須条件を満たせないことが確認できた場合は、代替仕様や対応可能な範囲を相談するか、今回の商品は適さないと伝える判断も必要です。重要な条件が未確認なら「対応できます」と確約せず、確認先と回答方法を決めます。
提案の終わりには「今回、重視されるのは承認履歴と既存ソフトとの連携で、分析機能の優先度は高くないという理解ですが、合っていますか」と顧客へ確かめます。条件が変わった場合には、比較表や提案の優先順位も見直します。
自社の商品に自信を持つことと、顧客にとって価値が高いと判断することは別です。顧客が何と比べ、何を重視し、何を確認できれば決められるかを聞いてから、商品の長所をその条件に結び付けることが大切です。
参考文献・出典
- Ross, L., Greene, D., & House, P.(1977)The “false consensus effect”: An egocentric bias in social perception and attribution processes. Journal of Experimental Social Psychology, 13(3), 279–301. 自分と同じ選択・反応の一般性についての推定を、質問紙や実際の対立場面など4つの研究で調べた論文。出版社公開要旨を確認。
- Sharma, A., & Lambert, D. M.(1994)How accurate are salespersons’ perceptions of their customers?. Industrial Marketing Management, 23(4), 357–365. 化学・ハイテク・サービス業界で営業担当者による顧客の認識の正確さを比較した研究。大学公開の研究要旨を確認。
- Mullins, R. R., Ahearne, M., Lam, S. K., Hall, Z. R., & Boichuk, J. P.(2014)Know Your Customer: How Salesperson Perceptions of Customer Relationship Quality Form and Influence Account Profitability. Journal of Marketing, 78(6). 営業担当者と顧客の双方の回答を比較し、関係の評価の認識差と営業成績との関連を調べた研究。出版社公開の要旨を確認。
- Ulaga, W., & Chacour, S.(2001)Measuring Customer-Perceived Value in Business Markets: A Prerequisite for Marketing Strategy Development and Implementation. Industrial Marketing Management, 30(6), 525–540. 法人向けの顧客価値を測る複数項目の方法を提案し、化学メーカーの事例に適用した論文。大学公開の研究概要を確認。