商談前に最悪の展開ばかり考えるとき|備えることと考えすぎを分ける

営業・交渉
Psychology Laws 編集部

大切な商談を控えていると、「価格が高いと断られたら」「答えられない質問が来たら」「その場で競合に決められたら」と、悪い展開ばかり想像してしまうことがあります。準備しているつもりでも、次々と別の不安が浮かび、提案内容を確かめる時間が減ってしまうかもしれません。

商談前は、最悪の展開を考えること自体をやめるのではなく、その心配から「確認する情報」と「取れる行動」が決まるかどうかで、備えと考えすぎを分けます。起こり得る問題への対応を準備することには意味があります。一方、根拠や対応策が増えないまま同じ失敗を想像し続けても、商談の条件が明らかになるわけではありません。

この記事では、悪い可能性を考えることが準備に役立つ場合と、負担になり得る場合について研究を確認し、営業担当者が商談前に実行できる整理方法を考えます。

商談前に悪い展開を考えることは、なぜ準備にも考えすぎにもなるのか

「断られたら終わり」と考えても、対策が決まるとは限らない

説明用の仮の場面です。ある営業担当者が、初めて取引する顧客に年間契約を提案することになりました。前夜から「価格を聞いて不機嫌になられたら」「こちらの説明が伝わらず、もう話を聞いてもらえなくなったら」と考えています。

価格への反応を心配した担当者が、費用の内訳や導入範囲を整理しておくなら、その想像は準備につながっています。一方、「嫌われたらどうしよう」「失注したら評価が下がる」と考え続け、何を確認するかも決まらないなら、別の状態です。

相手の反応を事前に断定することはできません。心配している場面と、実際に起きる可能性の高さも同じではありません。考えた結果として情報や行動が増えたのかを見て、準備の必要性を判断します。

悲観的な見通しが、準備に役立った実験もある

NoremとCantor(1986)は、失敗する可能性がある課題に向き合う人の対処方法を2つの実験で調べました。低い期待を持つことは成績に悪影響を与えると考えられがちですが、実験1では、「防衛的悲観主義」と呼ばれる、悪い結果も想定しながら不安に対処する方法が、参加者によっては役立つことが示されました。

実験2では、この方法を使っている人が、自分なりの状況の捉え方を妨げられた場合に成績が下がり、妨げられなかった場合には同じ低下が見られませんでした。つまり、低い期待そのものが常に悪いのではなく、どのように課題へ備えるかが関わると解釈されています。Norem & Cantor(1986)の研究要旨

ただし、これはすべての人に悲観的な想像を勧める研究ではありません。商談の失注率や営業成績を直接調べた結果でもありません。「不安だから良くない」と決めつけず、実際の準備の仕方を見ようという手がかりです。

考えを繰り返すことの影響は、内容だけでは決まらない

Watkins(2008)は、同じことを繰り返し考える心理について研究を整理しました。その結果、繰り返し考えることには、将来への準備などに役立つ面も、不安を強めるなど負担となる面もあり、その違いは「悪いことを考えているか」だけでは説明できないと論じています。

何を考えるかに加え、本人が置かれた状況や、考えが抽象的なままなのか具体的な状況に向かっているのかなどが重要な要素として挙げられました。Watkins(2008)の研究レビュー

これは複数の研究を整理した論文であり、「具体的に考えれば必ず不安が消える」という実験結果ではありません。商談に当てはめるなら、「失敗したら困る」という漠然とした考えから、「どの条件が分からず、何を用意できるか」へ移せるかが、準備を見分ける目安になります。

障害と対応を結び付ける計画には、一定の研究結果がある

Wangら(2021)は、望む結果を考えた後で現実の障害を特定し、「その障害が起きたら、この行動をする」という計画を立てる方法について、21件の研究に含まれる24の独立した効果を統合しました。研究は健康行動、学業、対人関係などの目標達成を扱い、対照条件と比べて小~中程度の効果が報告されました。

一方、出版されやすい結果への偏りがある可能性も示され、実際の効果は分析値より小さいかもしれないとされています。Wangら(2021)のメタ分析

商談での失注防止や不安の解消を直接検証した研究ではありませんが、「悪い結果を考え続ける」のではなく「想定する障害と次の行動を組にする」という準備方法を考える参考になります。

最悪の展開を考えたら、何を確かめるか

心配していることは、事実・予想・不明点のどれか

「先方は価格が高いと感じるはずだ」と思ったら、まずその根拠を確認します。顧客が前回「予算はこの範囲です」と話したなら、その発言は確認できる事実です。しかし、「高いと言われるはずだ」という反応は、まだ起きていない予想です。

予算の上限を聞いていないなら、価格に関する判断材料そのものが不足しています。事実と予想を分けると、資料を見直すべきか、商談で質問すべきか、いまは分からないまま置くべきかを選べます。

自分が準備できることと、相手が決めることは何か

価格の根拠を説明すること、提案範囲を確認すること、答えられない質問の持ち帰り先を決めることは、営業担当者が準備できます。

一方、顧客がどの案を選ぶか、競合企業の最終提示が何円か、顧客の社内で誰が賛成するかなどは、自分だけでは決められません。分からない情報は確認対象にし、動かせない結果は「必ず避けられる失敗」として扱わないことが大切です。

備えを追加すると、実際に何が変わるか

同じ失敗を何度も考えるときは、次の問いで準備の必要性を確かめます。

  • 新しい情報:追加で確かめられる資料や相手への質問があるか
  • 具体的な行動:その場面になったら自分が取れる対応を決められるか
  • 優先度:顧客の発言や契約条件から、商談前に対処する必要があるか
  • 区切り:用意する資料や確認先が決まった後、さらに考える理由があるか

重大な不備が見つかったなら、時間をかけて対応したほうがよい場合があります。逆に、何も確かめることが増えず、「それでも失注したら」と繰り返しているだけなら、同じ予想を続けるより、準備済みの事項を確認して商談に向かう判断ができます。

不安を商談の備えに変え、考えすぎを区切る方法

ここからは、紹介した研究を参考に考えた実務上の手順です。商談での成果や不安の解消を保証する方法として検証されたわけではありません。

1. まず一つの心配を、起きる場面に言い換える

「商談が失敗したら大変だ」では、何を準備するか決めにくい状態です。そこで、「価格を提示した後に、予算に合わないと言われる」「機能について、手元の資料にない質問を受ける」のように、商談中の具体的な場面に分けます。

懸念を増やすためではなく、その場面に必要な確認を選ぶための作業です。まずは重要そうなものから取り上げ、無数の失敗をすべて想定しようとはしません。

2. 事実と準備できる行動を対応させる

次は営業担当者が業務システムを提案する場合の、説明用の仮の例です。

心配している場面 確認する材料 商談前に用意する対応
価格が高いと言われる 見積もりの内訳、必要な機能、前回聞いた予算条件 費用差を説明し、重視する機能・予算を質問する
技術的な質問に答えられない 仕様書、確実に答えられる範囲、社内の確認先 不明点は断定せず、回答担当者と回答時期を相談する
決裁する人が不在だった 参加者、意思決定に必要な条件、次回の予定 今回確認できる点を聞き、決裁者への説明機会を相談する
競合に決まったと言われる 顧客が比較している条件と、確認できている経緯 差し支えない範囲で理由と今後の検討余地を聞く

どの場面も、実際に起きるかどうかは分かりません。表の対応は相手を説得するための決まり文句ではなく、情報が足りないまま約束したり、相手の判断を決めつけたりしないための準備案です。

3. 「もし起きたら、どうするか」を短く決める

たとえば、「もし予算に合わないと言われたら、すぐ値下げを約束せず、どの費用と条件が合わないかを確認する」「もし仕様が不明なら、その場で推測して答えず、担当部署へ確認して回答方法を伝える」と決めておきます。

実際に使える資料、権限、相談先を伴わない対応は計画になりません。値引き権限がないなら、値下げを確約する対応は選ばず、社内へ持ち帰ることを準備します。

このように条件と行動を組にする発想は、先ほどの目標達成研究とつながります。ただし、個々の会話例が営業で最も効果的だと立証されたわけではありません。

4. 準備が終わる条件を決め、追加の心配を分けて置く

たとえば、見積もりの内訳を説明できる、重要な仕様を確認した、答えられない事項の確認先を決めた、商談の目的と次の確認事項をまとめた、という状態を準備の区切りにします。

その後に同じ不安が浮かんだら、「追加で確認できる事実や行動があるか」を見直します。新たな問題が見つかったなら対応し、何も増えないなら懸念としてメモに残して、商談資料の最終確認へ戻る方法が考えられます。

心配が繰り返し浮かぶことだけを理由に、本人の性格や能力を評価する必要はありません。大切なのは、悪い結果を想像した回数ではなく、そこから準備できる内容と、今は自分では決められないことを分けられたかです。

参考文献・出典