商談で「検討します」を合意と捉えていない?次の行動を確認する

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商談の終わりに顧客から「前向きに検討します」と言われると、営業担当者は「導入する方向で合意できた」と受け止めたくなることがあります。しかし、「検討します」は、契約を承諾したことも、断ったことも、それだけでは示していません。社内で比較したいのか、予算や承認を確認したいのか、まだ判断できないのかは、言葉だけでは分からないからです。

まずは顧客が何を検討し、何が分かれば次の判断に進めるのかを聞きます。そのうえで、顧客側と営業側の次の行動、連絡してよい時期と方法を、双方が納得できる範囲で確かめます。次回の連絡が決まっても、それは次の確認への合意であり、契約への合意とは区別して記録します。

「検討します」が受注の合意に聞こえてしまうのはなぜか

説明用の仮の場面です。営業担当者が、顧客企業に問い合わせ管理システムを提案しました。顧客は説明をよく聞き、機能について質問した後で「よさそうですね。社内で検討します」と答えました。営業担当者は、手応えを感じて「導入に前向き、ほぼ合意」と営業報告に記入しました。しかし、顧客の予算、決裁する人、現在のサービスから移行できる時期は確認していません。

営業担当者は顧客の態度や自分の期待を知っていますが、顧客が社内で何を話す予定かまでは分かりません。同じ言葉を聞いても、それぞれが持つ情報によって意味の受け止め方が違う可能性があります。

Keysar(1994)は4つの実験で、皮肉とも普通の発言とも解釈できる文章を使い、発言の背景を知る参加者が、その背景を知らない聞き手にも皮肉が伝わると考えるかを調べました。参加者は発言が実際には皮肉だと知っていると、背景を知らない聞き手も皮肉と受け取るだろうと判断しやすくなりました。声の調子の手がかりがない文章でも、持っている情報が相手の解釈の予測に影響したという結果です。Keysar(1994)の原著論文・要旨

これは皮肉の解釈についての実験であり、日本語の「検討します」や法人営業での発言を直接調べたものではありません。それでも、自分の期待や知っている事情を相手の発言に重ねていないかを確かめる理由になります。自分の見立てに合う情報ばかりを重く受け止める仕組みは、確証バイアスの解説でも扱っています。実際にこの顧客がそうした心理で発言した、と決めつけることはできません。

また、何かをするつもりであることと、実際に行動することも同じではありません。WebbとSheeran(2006)は、行動への意向を強める働きかけを行った群と対照群を比較した47件の実験をまとめました。意向の強まりは中程度から大きめ(効果量 d=0.66)だったのに対し、実際の行動の変化は小さめから中程度(d=0.36)でした。ここでの効果量dは、比較した群の差の大きさを共通の尺度で表す指標で、行動した人の割合や受注確率を示すものではありません。Webb・Sheeran(2006)の大学掲載の研究要旨

この分析は主に社会・健康心理学の行動を扱い、契約の成立を測定した研究ではありません。さらに「検討します」という返答から、顧客の購入意向の強さを測定したものでもありません。したがって、実際の商談では、発言をそのまま受注予定に置き換えず、まだ何が必要かを確認することが大切です。

好意的な返事と、確認できた事実を分ける

商談の雰囲気がよかったことは、その場で確認できた事実かもしれません。しかし、その事実が表している範囲と、まだ推測に過ぎないことを混ぜないようにします。先ほどの仮の商談なら、次のように整理できます。

顧客の発言・行動 確認できたこと まだ確認していないこと
「この機能は便利ですね」 その機能について好意的な反応があった 必要条件をすべて満たすか、導入したいか
「見積書を送ってください」 見積書を求められた 金額への承諾、社内予算の確保
「社内で検討します」 社内で考える意向が示された 検討事項、承認する人、結論の時期、契約の可否
「来週の会議で比較します」 比較する場の予定が伝えられた その会議で契約承認まで決まるか

「見積書を求められた」「検討すると言われた」といった事実は、商談記録に残して構いません。ただし、その時点で確認していない承認や発注を「決まった」と書かないことが重要です。反対に、「検討します」はすべて遠回しな断りだと考える根拠もありません。

「検討します」と言われたら、何を確かめるか

以下は研究でそのまま効果が確かめられた営業手順ではなく、顧客の判断材料を整理するための実務上の提案です。質問はすべて一度に尋ねるのではなく、商談の内容と顧客の負担に合わせて選びます。

  1. 何を比較・検討するのか。費用、必要な機能、導入の手間、現在の方法や他社案との違いなど、今回の判断に重要な点を聞きます。例えば「社内でご確認されるのは、費用と運用の負担のどちらが中心でしょうか」と尋ねます。論点が分かれば、必要な資料を絞れます。
  2. 判断に必要な情報は足りているか。追加見積もり、導入手順、情報管理、契約期間など、説明が不足していることを確認します。営業側で答えられる範囲は資料を用意し、不確かな点は担当部署へ確認します。顧客の疑問が未解決なのに、承諾したことにはしません。
  3. 社内の誰が何を確認するのか。担当者だけで決められるのか、利用部署や決裁者の確認が必要なのかを、差し支えない範囲で聞きます。担当者名や社内事情を答えたくない場合は無理に求めず、「追加資料を誰向けに整理すると役立ちますか」と聞く方法もあります。
  4. 判断の見通しと、次に連絡してよい時期。社内の会議や予算確認がいつ頃か分かれば、その後に何を確かめるか相談できます。時期が決まっていないなら、それを未定のまま記録し、連絡の可否と目安だけ確認します。営業側の希望日を顧客が約束した期限として扱わないことも重要です。

回答次第で対応は変わります。費用が分からないなら条件をそろえた見積もりを準備し、実施体制が不明なら担当部署を交えて確認します。比較する必要がない、当面予定がないと言われた場合は、追加の売り込みを続けるのではなく、その意向を尊重します。

顧客を急かさず、次の確認を提案する言い方

「検討します」に対して「では購入でよいですね」と言い換えてしまうと、顧客がまだ決めていないことまで合意した扱いになります。一方、「よろしくお願いします」だけで終えると、営業側が何を手伝えるのか分からないままです。

例えば、顧客が「社内で検討します」と答えた場合、次のように返せます。これは説明用の仮の会話例です。

「ありがとうございます。社内で判断される際、特に確認したいことはありますか。費用と導入時の作業が論点でしたら、当社で比較しやすい資料を用意できます。ご負担でなければ、資料をお送りした後に質問が残っていないか、来週あらためて確認してもよいでしょうか」

相手が「来週は社内会議なので、その後で」と答えた場合、会議後に連絡してよいか、何を確認する連絡かを確かめます。まだ予定が分からない場合は「日程が決まったらご連絡いただけますか。こちらからの確認は控えた方がよいでしょうか」と聞くこともできます。

質問は承諾を誘導するためではなく、顧客が次に判断するのを支えるために使います。顧客が検討内容を詳しく話したくない場合や、連絡を望まない場合には、それ以上無理に聞き出しません。

次の行動は「誰が・何を・いつ」を確認し、契約とは別に記録する

顧客に検討の意向があっても、どのように行動するかがまだ曖昧なことがあります。GollwitzerとSheeran(2006)は、目標を持つだけの場合と、実行する状況と行動を具体的に結び付ける計画を立てる場合を扱った94の独立した研究結果をまとめました。例えば「もし特定の状況になったら、この行動をする」と決める方法です。目標達成に対して中程度から大きめのプラスの効果(d=0.65)が報告されています。Gollwitzer・Sheeran(2006)のメタ分析

この研究は本人が達成しようとしている目標に対して計画を作ることを扱っており、営業担当者が顧客の予定を一方的に決めれば購入につながると検証したものではありません。仕事への応用として、双方が合意した次の行動を具体的に記録することは考えられますが、それによって成約が保証されるわけではありません。

例えば、顧客が「来週の社内会議で試験導入を検討するので、費用と作業の比較資料がほしい」と明確に伝えたなら、次のように整理できます。これも説明用の仮の例です。

担当 次にすること 時期・確認する状態
営業側 試験導入と通常導入の費用・作業を比較できる資料を送る 金曜日までに送付することを営業側が約束
顧客側 資料を使って社内会議で導入範囲を検討する 翌週の会議予定を顧客が共有。結論は未定
双方 会議後の質問や未解決事項を確認する 翌週水曜日に連絡することを双方が了承した場合のみ確定
契約判断 発注の可否と条件を正式に確認する 社内承認などが済むまでは未合意

「次回の質問確認」は合意できても、「導入を決めること」は未合意という状態は自然です。会議が予定どおり開かれるか、そこで結論が出るかも確定していません。確認できた約束と見込みを区別しておけば、営業側も顧客側も誤解を減らせます。

次回連絡と営業報告は、確認できた状態によって分ける

商談後の社内報告で「ほぼ受注」「先方と合意済み」と書く前に、何についての合意なのかを確かめます。見積送付への合意、次回面談への合意、条件への承諾、正式な発注は別の段階です。次の扱いは、商談状況を整理するための実務上の提案です。

  • 検討するとだけ言われ、確認事項や時期は不明:「検討意向あり、判断材料・時期は未確認」と記録します。必要な情報を尋ねる機会がなければ、無理に受注見込みを高く評価しません。
  • 検討内容と次の行動を確認できた:「見積資料を金曜までに送付、会議後の質問確認を水曜に予定」など、双方が実際に了承した範囲だけ記録します。契約の可否は未定です。
  • 顧客が必要な情報を受け取っても、導入時期が決められない:導入の優先順位や予算時期が不明かどうかを確認し、次回連絡の希望があればそれに従います。日付を勝手に約束した扱いにはしません。
  • 明確に見送り、または連絡を希望しないと伝えられた:その意思を尊重します。「検討します」の意味を無理に掘り下げ、繰り返し連絡することは避けます。

結局、「検討します」を聞いたときに必要なのは、言葉の裏にある本音を見抜くことではありません。顧客がまだ決めていないことを決定済みと扱わず、何を確かめれば次へ進めるかを一緒に明らかにすることです。確認できる事実に沿って記録し、顧客の意思を尊重しながら次の行動を決めます。

参考文献・出典

  • Keysar, B.(1994)“The Illusory Transparency of Intention: Linguistic Perspective Taking in Text.” Cognitive Psychology, 26(2), 165–208. 出版社掲載の論文要旨。皮肉とも解釈できる文章を使った4実験で、背景情報が他者の解釈の予測に影響したことの根拠。
  • Webb, T. L., & Sheeran, P.(2006)“Does Changing Behavioral Intentions Engender Behavior Change? A Meta-Analysis of the Experimental Evidence.” Psychological Bulletin, 132(2), 249–268. University of Manchesterの論文情報・要旨。意向を変える働きかけと実際の行動変化を比較した47件の実験のメタ分析。
  • Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P.(2006)“Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta-Analysis of Effects and Processes.” Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. 出版社掲載のメタ分析概要。実行条件と行動を結び付ける計画が、個人の目標達成に与える影響をまとめた94の独立した研究結果。