研修で学んでも実務に生かされない|実践と振り返りをつなぐ方法
研修中は質問に答えられ、終了後のアンケートでも「役立った」と回答していたのに、職場へ戻ると仕事の進め方が変わらない。研修を企画した担当者や部下を送り出した上司には、そんな悩みがあるかもしれません。
研修で理解できたことと、実際の仕事で使えることは分けて確認する必要があります。「もっと意識して使って」と伝えるだけではなく、何の仕事で試すのか、試せる条件があるのか、結果をどう振り返って次につなげるのかを研修の前後で具体化します。まず使わなかった理由を確かめることが出発点です。
研修で覚えた内容が、そのまま職場で使われないのはなぜか
研修の練習では、扱う課題や使う時間が決まっています。一方、普段の仕事では、顧客の要望、急ぎの依頼、社内の承認手順などが重なります。研修で学んだ方法を知っていても、その方法を使う場面に気づかなかったり、実際には使う時間や権限がなかったりすることがあります。
研修で覚えた知識や技能を、学んだ場とは違う実務で使い続けることを「学習の転移」と呼びます。ここでは難しい用語を覚えることより、研修の理解度と、現場での行動が別のものだと考えることが大切です。
Blumeら(2010)は、研修で学んだことを仕事に生かす程度と、本人の特徴、意欲、職場環境、研修の方法などの関連を調べた89研究をまとめました。学んだことを使う意欲や、学んだ内容を使いやすい職場環境などには、実務での活用との正の関連が見られました。特にリーダーシップ開発のように状況に応じた判断が必要な技能では、ソフトウエア操作のような比較的手順が決まった技能より、意欲や職場環境との関連が強い傾向がありました。
ただし、これは研究全体の関連を分析した結果であり、「上司が励ませば必ず研修内容を使うようになる」という因果関係を証明したものではありません。また、研修後の実施状況を同じ回答者・同じ測定場面で把握した研究では、関連が強めに現れる傾向も報告されています。満足度や本人の「使えたつもり」だけで成果を判断しない理由にもなります。
使う機会そのものに注目したFordら(1992)の研究では、米空軍の技術研修を終えた人とその上司、計180人に、研修終了4か月後の実務での作業機会について尋ねました。研修で習った作業を実施できる機会には人によって違いがあり、その違いは上司の姿勢や職場の支援、本人の自信や認知能力などと関連していました。対象は特定の技術研修であり、一般企業の全ての研修に同じ結果が当てはまるとは限りません。
Salasら(2012)も、研修研究を整理したレビューで、研修中の教え方だけでなく、研修前の業務上の必要性の確認や、研修後に学んだ内容が実務へ移ったかの確認が重要だと述べています。つまり、受講が終わった時点で研修全体の仕事が終わるわけではありません。
さらに、実際に行動した後の振り返りにも根拠があります。TannenbaumとCerasoli(2013)は、個人やチームが実践後に出来事を振り返る方法について46標本、計2,136人の研究をまとめました。振り返りを行った条件は、比較条件より平均して高い成果を示しました。訓練場面と実際の仕事、個人とチームを含む分析で、振り返る目的と評価する成果の対応が重要だと報告されています。
この研究は営業研修や一般企業の面談だけを調べたものではなく、「毎週何分話せば必ず成果が上がる」と証明したものでもありません。以下では、これらの知見を参考に、研修後の実務と振り返りをつなぐ進め方を考えます。
研修後の行動が変わらないとき、何を確かめるか
「学んだのに使わない」と見えても、理由は一つとは限りません。確認する相手も受講者だけではなく、仕事を割り振る上司や、実務の手順を決める担当者を含みます。
| 確認すること | 具体的に確かめる材料 | 分かったときの次の判断 |
|---|---|---|
| 何を使う研修だったか | 研修で練習した行動と、実際の業務で求める成果は対応しているか | 研修内容と仕事の目的がずれていれば、研修課題か実務上の目標を見直す |
| 試す機会があったか | 対象の案件や作業が研修後にあったか、本人の担当・権限に入っていたか | 機会がなければ「できない」と判断せず、機会の確保や時期の調整を検討する |
| 使おうとして何が起きたか | 案件記録、成果物、本人の説明などから、使った場面・使わなかった場面を区別できるか | 手順を思い出せないなら再練習、使ったが難しいなら実務に近い条件で練習する |
| 仕事の条件が妨げていないか | 時間、承認手順、必要な情報、上司からの依頼、従来の評価指標はどうなっているか | 研修の方法と仕事の要求が衝突するなら、本人への注意だけで済ませず運用を調整する |
| 試した後に確かめたか | 何をしたか、相手がどう反応したか、仕事の目的に近づいたかを振り返ったか | 実践の成否や障害が分かれば、次に続ける行動と変える行動を分ける |
研修の理解度テストに合格したのに対象の仕事を一件も担当していなければ、まだ実務で使えるかどうかは分かりません。反対に、何度か試したものの条件に応じた対応ができなかったなら、研修での練習内容に不足があった可能性があります。
研修後アンケートの「役に立った」は受講者の受け止め方であり、仕事上の実施記録そのものではありません。本人への聞き取りに加えて、既存の業務記録や成果物から、目標とした行動が実際に行われたかを確認します。必要以上に個人を監視するのではなく、研修の目的に関わる記録だけを使います。
実施していないことが分かった場合も、いきなり「意欲がない」と決めつけないようにします。技能を理解できていないのか、使う場面がなかったのか、使えるような仕事の条件ではなかったのかで、取る対応は変わります。
最初の実務と振り返りを、どうつなげるか
以下は説明用の仮の例です。顧客の要望を聞き取る研修で、「希望する機能」だけでなく「何のために必要なのか」を確認する質問を練習した営業チームを考えます。研修中の役割演習では質問できたのに、職場へ戻ると顧客の要望を聞いた直後に商品説明へ進むことが続いていました。
この場合、研修をもう一度受けさせる前に、実際に質問を試す機会があったのか、顧客が急いでいるなど質問しにくい事情があったのか、説明を急ぐ業務上の要求があったのかを確かめます。次の進め方は、研究から直接効果が検証された一つの決まった手順ではなく、研修と実務の接点を作るための提案です。
- 研修内容を、一つの確認できる行動にする。「顧客理解を深める」ではなく、「顧客が機能を要望した際、提案前に使い道や制約を一つ確認し、商談記録に残す」と決めます。質問が不要・不適切な条件も確認し、回数を増やすこと自体を目的にしません。
- 試す案件と支援役を決める。次に来る適切な商談で試せるか、上司と本人が確認します。重要な条件の説明や契約上の約束を勝手に変更せず、既存の営業方針と承認手順の範囲で行います。初めてなら短い役割演習で再練習してからでも構いません。
- 実務では「使ったか」と「目的を果たしたか」を分けて記録する。質問した事実、顧客から確かめられた背景、提案に必要な情報が増えたかを残します。顧客が急いでいて質問できなかったなら、その状況も記録します。受注・失注だけから研修内容の良し悪しを決めません。
- 実践した案件を短く振り返る。本人と上司で「どんな場面だったか」「何を試したか」「何が分かり、どこで困ったか」「次に変えることは何か」を確かめます。できなかった理由を本人の性格に結びつけず、時間や役割の制約も聞きます。
- 次の似た案件で、変更した行動をもう一度確かめる。質問の仕方が難しかったなら言い方を変えて練習し、案件の割り振りが問題なら試す機会を調整します。次に実際の行動が変わったかを見て、研修内容や仕事の進め方を修正します。
振り返りの会話も、例えば次のようにできます。
上司:「研修の質問を使えそうだった商談はありましたか」
社員:「ありましたが、顧客が急いでいたので商品説明を先にしました」
上司:「そのとき聞きたかった背景は何でしたか。次に同じ状況なら、短く確かめる方法はありそうですか」
社員:「使う部門だけ確認してから、詳しい説明に入れそうです」
上司:「次の対象案件で試せるか、商談準備のときに確認しましょう」
ここでの目的は、研修で習った質問を毎回必ず使わせることではありません。顧客の状況に応じて使えたのか、そもそも使う条件だったのかを見極めることです。練習した内容と実務の条件の違いが大きければ、研修側の課題や支援を変える判断も必要になります。
実際に使う機会を設けても活用が進まない場合は、本人の理解度、業務上の優先順位、必要な権限や支援、研修内容と現場の適合をもう一度確認します。振り返りだけで職場の制約がなくなるわけではありません。
研修を終えることではなく、「学んだ内容をどの仕事で試したか」「試した結果、何が分かったか」「次に何を変えるか」までつなげることが、研修後の行動を確かめる方法になります。上司や研修担当者にも、試す場と振り返る機会を用意できるかを確認する役割があります。
参考文献・出典
- Blume, B. D., Ford, J. K., Baldwin, T. T., & Huang, J. L.(2010). Transfer of Training: A Meta-Analytic Review. Journal of Management, 36(4), 1065–1105. ― 89研究における研修内容の実務活用と本人の特徴・職場環境などの関連、技能の種類と測定方法による違い(出版社の原著要旨を確認)。
- Ford, J. K., Quiñones, M. A., Sego, D. J., & Sorra, J. S.(1992). Factors Affecting the Opportunity to Perform Trained Tasks on the Job. Personnel Psychology, 45(3), 511–527. ― 米空軍の技術研修修了者と上司計180人への調査。研修後の実践機会と職場の支援などとの関連(出版社の原著要旨を確認)。
- Salas, E., Tannenbaum, S. I., Kraiger, K., & Smith-Jentsch, K. A.(2012). The Science of Training and Development in Organizations: What Matters in Practice. Psychological Science in the Public Interest, 13(2), 74–101. ― 研修前・研修中・研修後の設計と実務活用を整理した研究レビュー(学会の公式解説・書誌情報を確認)。
- Tannenbaum, S. I., & Cerasoli, C. P.(2013). Do Team and Individual Debriefs Enhance Performance? A Meta-Analysis. Human Factors, 55(1), 231–245. ― 個人・チームの実践後の振り返りについて、46標本・2,136人をまとめた研究(出版社の原著要旨を確認)。