異論を言う部下を低く評価していない?発言内容と態度を分ける

採用・評価・人材育成
Psychology Laws 編集部

会議で上司の方針に反対した部下を、「協調性がない」「扱いにくい」と評価したことはないでしょうか。反対意見が出た場面では、意見の内容だけでなく、反対されたときの不快感や発言の強さも印象に残ります。

しかし、意見が上司と違うこと自体を、仕事ぶりの低評価に直結させるのは避けたいところです。人事評価では、①指摘や提案の内容と根拠、②実際に観察できた伝え方や対人行動、③担当業務での成果や協力行動を分けて確認します。発言に問題があれば必要な範囲で指摘しつつ、異論に含まれる有用な情報まで退けないことが大切です。

上司への異論が「協調性の低さ」に見えてしまうのはなぜか

例えば、会議で部下が「その納期では必要な検査を終えられません」と伝えた場面を考えてみます。部下は品質上のリスクを指摘したつもりでも、上司には「自分の計画を否定された」と感じられるかもしれません。どちらの受け止め方が実際に生じたかは、発言を聞いただけでは断定できません。

上司への意見には、賛成や補足だけでなく、問題点を示して従来の進め方を変えようとするものがあります。研究では、仕事の改善につながる意見を上司や組織に伝える行動を「従業員の発言行動」として調べています。

Burris(2012)は、現場調査1件と実験2件で、上司の方針に挑戦する発言と、現在の方針を支持する発言への管理職の反応を比べました。その結果、挑戦的な発言をする社員は、支持的な発言をする社員より仕事の成果を低く評価され、提案も採用されにくい傾向がありました。発言者を忠実だと感じるか、脅威だと感じるかという受け止め方が、こうした違いに関わっていました。

ここで比較したのは、方針に異議を唱えるか、支持するかという発言の種類です。「声を荒らげたから低評価になった」という実験結果ではありません。反対意見の内容そのものと、発言時の態度を区別する必要がある理由を示しています。

また、Whitingら(2012)は3つの実験室研究で、発言者の専門知識や信頼性、解決案の提示と肯定的・否定的な表現、発言のタイミングや組織の発言規範などを変えて、発言者への仕事の評価を調べました。発言者・メッセージ・状況の各側面で、少なくとも一部の条件が評価に影響し、多くの影響には好感、組織のためという動機の受け止め方、建設的な発言と捉えるかが関わっていました。

この結果も「否定的な言い方は必ず不利」「反対意見はいつでも有益」と一律に結論づけるものではありません。発言の中身を判断するつもりでも、話し手への印象や場面の条件が評価に入り得るということです。一つの目立つ言動から、無関係な能力まで同じように評価することについては、ハロー効果の解説も参考になります。

一方、問題点の指摘が常に悪く評価されるわけでもありません。Yang(2020)は中国の銀行に勤める社員と上司の組み合わせ372組を調べ、危険や問題を指摘する発言と、上司による安全面の仕事評価との間に正の関連を確認しました。その関連は、本人と上司のリスクを避けることへの意識が合っている場合に強くなりました。これは一つの銀行での調査であり、問題を指摘すれば評価が上がる因果関係を示したものではありません。

さらに、Weissら(2023)は、米国の病院の救急医療従事者101人に、看護師が治療について代案を示す場面と、意見を控える場面を無作為に割り当てて評価してもらいました。職場で異論を述べても安全だと感じている参加者では、意見を述べる看護師の方がチームへの貢献が高く評価されました。一方、その感覚が低い参加者では、明確な差は見られませんでした。職場の安心感は測定されたもので、安心感を高める介入の効果を実験したわけではありません。

これらの研究は、反対した人が必ず損をするという説明ではなく、何を言ったかだけでなく、誰がどの場面で言ったか、評価者がどう受け止めたかによって評価が変わり得ることを示しています。以下は、この知見を人事評価に応用して考えた確認方法です。

部下の発言を評価する前に、何を分けて確かめるか

「会議で反発した」「態度が悪かった」といった評価メモでは、どの言動が問題だったのか分からない場合があります。最初に発言記録や議事録、同席者の説明を確認し、次の材料を別々に整理します。

評価を分ける観点 確認する事実 判断のポイント
意見の内容と根拠 何に異議を述べたか。数字、品質、安全、顧客への影響など、どんな理由を示したか 上司への賛否ではなく、論点の妥当性と確認すべき情報を検討する
伝え方・対人行動 発言のタイミング、相手の説明を遮ったか、人格への侮辱があったか、必要な情報を共有したか 実際の行動に基づき、職務上求める対話・協力の基準と照合する
日頃の仕事ぶり 担当業務の成果、期限や品質の順守、関係者との具体的な協力や引き継ぎ 一度の反対意見を、別の評価項目や期間全体の評価へ無条件に広げない
発言した場面の条件 危険が差し迫っていたか、話し合う余裕や相談先はあったか、本人の役割と権限は何か 緊急の警告と通常の意見交換では、適切な伝え方の条件も異なり得る

例えば「この数字では計画を決められません」と言ったことと、「そんなことも分からないのですか」と相手を侮辱したことは、同じではありません。後者の発言が実際に確認できれば、職場で求められる対人行動の観点から指導や評価が必要になる場合があります。ただし、指摘された数字の間違いや業務上のリスクまで無視してよいことにはなりません。

逆に、上司の説明に反対した、口調がはっきりしていた、会議で質問を重ねたという事実だけで「協調性がない」とするのも早計です。協働を評価するなら、情報共有や役割分担、合意した仕事への対応など、何を期待し何が起きたかを確かめます。意見が採用されなかったという結果だけで、本人の能力や態度を決めつけないようにします。

特に、安全上の危険や規則違反を報告した場面は、通常の提案と同じ扱いで済ませないことも重要です。内容の確認と適切な報告経路を優先し、必要なら会社の通報・相談制度に沿って対応します。

評価面談で「異論の中身」と「伝え方」をどう話すか

以下は説明用の仮の例です。予算会議で上司が示した売上見通しについて、部下が「その数字は昨年度の実績です。今期の契約見込みと分けて考えるべきではありませんか」と発言したとします。会議後、上司は「皆の前で否定された」と不快に感じ、協調性を低く付けようとしています。

この場合、評価を確定する前に、売上見通しの数字が実際に何を表していたかを確認します。部下の指摘が正しければ、問題に気づいたという職務上の行動を認められます。指摘が誤っていた場合も、誤りの内容や事前に確認できた情報を具体的に扱い、反対したこと自体を人格評価に置き換えません。

上司が「会議の進行を妨げた」と感じているなら、何分の発言があったかだけでなく、相手の発言を繰り返し遮ったのか、決められた進行を無視したのか、緊急に指摘する必要があったのかを確認します。「自分の案への反対が不快だった」という感情は、確認された対人行動とは別です。

面談や評価会議では、次の順番で整理できます。

  1. 評価メモを観察事実に直す。「反抗的だった」ではなく、「会議で売上見通しの根拠となる期間について質問した」と記録します。不適切な表現があったと考える場合は、発言内容と場面を確認します。
  2. 発言内容を検証する。指摘されたリスクや数字は実際にどうだったか、採用・不採用の理由は何かを、資料と関係者の説明で確認します。意見が採用されなかった理由も残します。
  3. 伝え方を別の基準で見る。相手を侮辱した、説明を遮り続けたなどの具体的な行動があれば、会社が共通に求める対話上の基準で扱います。発言の正しさが不適切な行動を免除するわけでも、伝え方の問題が意見の内容を無効にするわけでもありません。
  4. 評価項目ごとに仕事ぶりと照合する。「協働」の項目なら、会議での一場面だけでなく、評価期間中の情報共有や担当業務での協力を確認します。意見への同意と協働を同義にしないようにします。
  5. 面談で判断の理由を説明し、本人の認識を聞く。「数字の根拠を確認した点」と「発言の仕方で改善が必要な点」があれば分けて伝えます。記録と本人の説明が食い違えば追加確認し、未確認の推測で評価を決めません。

例えば、発言の内容が妥当であった一方、実際に同僚の発言を遮っていたことも確認できたなら、「今期の見通しを検討するうえで重要な数字の違いを指摘できました。次回は、相手の説明が終わってから論点を示してください。今回の貢献と対話上の改善点は分けて確認します」と伝えることができます。内容だけを褒めて伝え方を見逃したり、態度だけを注意して指摘を無視したりしないためです。

もちろん、異論を言う社員だけを特別扱いする必要はありません。上司に賛成する社員にも、反対する社員にも、同じ職務上の期待と対人行動の基準を使います。必要な確認をしたうえで反対意見を退けることもありますが、「反対したから低評価」ではなく、何を根拠に仕事と行動を評価したのか説明できる状態にしておくことが大切です。

ここで示した手順は、研究で直接効果が確かめられた人事評価制度ではなく、反対意見への受け止め方を点検するための実務上の提案です。こうした整理だけで評価の偏りや職場の対立が必ず解消するとは限りません。

参考文献・出典