社内ランキングで無理をする社員が増えたら|競争の設計を見直す

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社内ランキングを導入してから、順位を上げようと遅くまで働く社員や、件数を優先して確認を急ぐ社員が目立つようになった。そんなとき、競争に熱心な本人だけの問題として片付けてよいのでしょうか。

まず確かめたいのは、ランキングが何を評価し、どんな行動を有利にしているかです。人は同僚との順位を知ることで努力を増やすことがありますが、その影響は一様ではなく、仕事の質やリスクの取り方が変わる場合もあります。「競争をやめるか、続けるか」の二択ではなく、労働時間・品質・仕事の条件と一緒に順位の仕組みを点検し、必要な部分を見直すことが大切です。

順位を見せると、なぜ働き方まで変わることがあるのか

以下は説明用の仮の例です。営業チームで「毎週の新規契約件数」のランキングを全員に公開し、上位者を朝礼で表彰することにしました。しばらくして契約件数は増えましたが、ある社員は営業時間外の連絡を重ね、別の社員は契約前の確認に十分な時間をかけなくなったように見えます。

ランキングには、同僚との比較によって「もっと上を目指したい」と感じるきっかけがあります。これは、自分の能力や立ち位置を他人との比較から捉える社会的比較とも関係します。比較相手や基準によって自己評価が変わる仕組みは、社会的比較理論の解説でも紹介しています。

問題は、順位が「仕事の目的」そのものに見えてしまう場合です。新規契約数だけを競えば、顧客にとって適切な契約か、後の対応に支障がないか、時間内に無理なく働けているかは順位に表れません。これは仮の場面から考えられる可能性であり、実際の職場で確認するまでは原因と決めつけられません。

研究では、努力が増える結果も、望ましくない行動も見られた

Charnessらの2014年の実験研究では、固定報酬の作業で自分の相対順位を知らせると、知らせない場合より平均的な努力が高まりました。一方、ほかの参加者の成果を下げたり、自分の成果を見かけ上増やしたりする選択肢を設けた条件では、費用を払ってでも順位を上げようとする参加者がいました。これは実験で用意された行動機会の結果であり、職場のランキングを導入すると社員が必ず不正をするという証拠ではありません。

Erikssonらの2009年の実験では、出来高に応じて支払う条件と、他者との勝敗で報酬が決まる条件で、途中の順位情報を伝える方法を比較しました。全体として順位の途中報告は成績を改善せず、どちらの報酬条件でも、成績の低い参加者の回答の正確さが下がる結果が見られました。実験は計算課題で行われているため、営業現場のミスが必ず増えるという意味ではありませんが、件数だけでは成果の良し悪しを測りきれないことを考える材料になります。

一方で、Cadsbyらの2019年の研究は、学生と工場で働く人が参加した数の計算課題で、順位情報が特にリスクを避ける傾向の弱い参加者の成績向上につながる場合を示しました。順位を個別に伝えるか全員に公開するか、順位を報酬に結び付けるかによる結果にも、学生と就業者で違いがありました。ランキングが常に有害とも、誰にでも同じように有効ともいえません。

さらに、Brookinsらの2016年の実験研究(ワーキングペーパー)では、他者との成績比較で報酬が決まる条件において、同僚の行動や結果の情報を見られる場合と見られない場合で、リスクを取る選択の方向が異なりました。同僚の情報がある場合には非競争的な報酬条件よりリスクを取りやすく、情報がない場合には逆の結果でした。この実験は仕事上の危険行為を直接測ったものではありません。順位の見せ方と報酬の仕組みを分けて考える必要があることを示す材料として扱えます。

「ランキングで無理をしている」と判断する前に確かめること

ランキングの導入後に残業やミスが増えていても、ほかに人員不足、繁忙期、担当案件の難しさ、上司の指示などの原因が重なっているかもしれません。次の四つを照らし合わせると、変更すべき点を探しやすくなります。

  • 何が順位に反映されるか:契約件数・売上などの量だけか、顧客への説明の適切さ、解約・手戻り、確認手順といった質も見ているか。数字を上げるために省かれやすい仕事がないかを調べます。
  • 何が順位に結び付くか:単なる参考情報なのか、表彰、賞与、昇進、人事評価に使うのか。上位だけが得をする仕組みなのか、一定の基準を満たせば誰でも評価されるのかを整理します。
  • 誰に、どの頻度で見えるか:本人だけが確認するのか、チーム全員に毎日公表するのか。常に順位を追いかける状態になっていないか、社員への聞き取りも含めて確かめます。
  • 実際の負担と結果はどう変わったか:順位と同じ期間の労働時間、業務量、休憩の取り方、ミス、苦情、解約や再対応を確認します。担当顧客の数や難しさ、支援の有無などの条件差も見ます。

長時間労働や体調面の懸念がある場合は、順位の効果を分析し終えるまで対応を待つ必要はありません。勤務状況を確認し、業務量の調整や相談につなげます。英国の労働安全衛生当局HSEも、仕事のストレスに関する管理基準で、仕事量や働き方、本人の裁量、上司や同僚からの支援などを確認対象としています。これはランキングの効果を実証した資料ではなく、負担を点検するための公的な枠組みです。

社員を叱る前に、競争の設計をどう見直すか

次は、研究から直接効果が確認された一つの処方箋ではなく、現場の記録を使って制度を見直すための実務上の提案です。

  1. 見過ごせない負担や危険は先に止める。休息が取れない働き方、確認手順の省略、安全上の問題が見つかったら、担当業務や日々の競争をいったん調整します。健康や顧客への影響が疑われる状況で、ランキングの継続を優先しないことが出発点です。
  2. 順位で測りたい目的を言葉にする。「頑張りを見えるようにしたい」のか、「良い仕事の方法を共有したい」のか、「報酬を配分したい」のかで必要な制度は違います。誰かを必ず最下位にすることが、目的達成に必要かも問い直します。
  3. 件数の隣に、欠かせない質と負担の指標を置く。仮の営業例なら、契約件数だけでなく、説明の記録、解約・苦情、手戻り、実際の労働時間を確認します。品質や安全の必須条件は「高い件数で埋め合わせてよい項目」にせず、満たすべき条件として扱う方法も考えられます。
  4. 比較する相手と見せ方を調整する。担当条件が大きく違う人同士を単純な件数で並べる代わりに、役割ごとの基準達成度や本人の改善も示す方法があります。全員への常時公開が必要か、本人への個別フィードバックで目的を達せられるかも検討します。
  5. 変更後は、順位以外の数字と社員の声で確かめる。変更前後で、成果の量だけでなく質、労働時間、相談や協力のしやすさを確認します。繁忙期や人員構成が違えば単純比較できないため、数字の変化をすぐ制度の効果と断定せず、影響を受けた社員に具体的な働き方を聞きます。

仮の営業チームなら、評価の見直しはこう考える

現状の見え方 追加で確かめること 見直し候補
契約件数の上位者を毎日公表 順位更新の頻度、報酬や評価との関係 掲示頻度や公開範囲を絞る。個別に達成度を伝える
件数は増えたが残業も増加 勤務実態、担当件数、案件の難しさ、人員配置 業務量を調整し、件数だけで競わない
契約後の苦情や手戻りが目立つ 説明・確認の記録、発生条件、担当者への支援 品質と遵守すべき手順を評価条件に入れる

この表は成果や制度変更の実績ではなく、管理職が確認するための仮の整理例です。たとえば会議では「誰がもっと頑張るべきか」ではなく、「今の順位表は何を増やしていて、何を見落としているか」と問いを置くと、働き方と制度を一緒に検討できます。

ランキングを残す場合も、なくす場合も、見るべきなのは上位者の数だけではありません。目指す成果を増やす過程で、品質、健康、信頼が損なわれていないか。その確認から、競争の目的と評価方法を選び直せます。

参考文献・出典