人事評価の点数に理由を後付けしない|行動記録から評価する手順

採用・評価・人材育成
Psychology Laws 編集部

人事評価の時期になり、部下の評価を「5点満点で3点くらい」と先に決めた後、その点数を説明できる出来事を思い出していませんか。そうすると、目立った失敗や成功だけを根拠に選び、評価期間全体の行動を十分に見ないまま理由を整えてしまうかもしれません。

点数に理由を後付けしないためには、評価期間中の行動を先に評価項目ごとに整理し、その記録を基準と照らしてから点数を決めます。点数を支持する事例だけでなく、反対方向の事例や未確認の情報も残すことが重要です。ただし、記録にも偏りが入り得るため、書いてあることを無条件に正しいと扱うのではなく、事実・解釈・仕事の条件を分けて確認します。

先に「この人は3点」と決めると、記録の読み方はどう変わるか

次は説明用の仮の場面です。ある上司は、部下の「関係部署との情報共有」を5点満点で2点だと感じていました。思い出したのは、3月に連絡が遅れて再調整が発生した出来事です。一方、2月に納期の変更見込みを早めに共有したことや、4月に複数部署の予定を整理していたことは、評価表を書くときにすぐ出てきませんでした。

もちろん、3月の連絡遅れが重要でないとは限りません。業務への影響が大きければ、評価基準に沿って重く扱う理由もあります。しかし、先に「2点」という結論を置き、その点数に合う出来事だけを探すと、同じ評価項目に関係するほかの行動を見落とすおそれがあります。

人は一度考えを持つと、それと一致する情報に注意を向け、食い違う情報を見落としたり厳しく見たりする場合があります。これに関連する心理が確証バイアス(最初の見立てに合う情報を重く見やすい傾向)です。ただし、点数を先に付けた上司が必ず確証バイアスによって行動している、と決めつけることはできません。判断の仕方だけでなく、担当業務や評価基準を確かめる必要があります。

最初の印象は、行動を「記録する段階」にも影響し得る

Balzerの1986年の実験では、学生80人が同じ講師の授業場面を映した短い映像を二つ見て、講師の良い行動と悪い行動を日誌形式で記録しました。最初に見せる講師の出来が良いか悪いか、行動記録を評価課題としてどれほど重視させるかを条件として変えています。

結果は、最初の印象が後の行動記録に影響するというものでした。ただし、その影響は単純に「最初に良い印象を持つと、良い行動だけを多く記録する」という方向ではなく、後の記録で逆方向の違いが強調される対比効果が見られました。また、記録することの重要性と最初の印象を組み合わせた条件でも結果が違いました。したがって、日誌を付けるだけで記録の偏りがなくなるとはいえません。この実験は学生による映像の評価であり、実際の社員に対する人事評価を直接調べたものではありません。

評価前に行動を整理して思い出すことには、研究上の根拠がある

DeNisiとPetersによる1996年の現場実験は、二つの組織の評価者を対象に、行動を決まった形式で記録する方法と、評価前に情報を整理して思い出す方法を検討しました。実施後、評価者は業績に関する情報をよりよく思い出し、評価点は過度に高くなりにくく、社員間や評価項目間の違いを付けやすくなりました。評価手続きへの受け止め方も改善しました。

ただし、研究者自身が、実際の職場で「何点が客観的な正解か」を判断することの難しさに触れています。記録の整理で評価が変化したことと、その評価点が絶対的に正しくなったことは別です。

BaltesとParkerの2000年の実験では、169人を対象に、観察前に与える業績の印象を良い・悪い・なしに分け、偏った評価への注意を促す訓練、行動を体系的に思い出す方法、介入なしを比較しました。どちらの介入も事前の期待が行動評価へ及ぼす影響を小さくしましたが、特に整理して思い出す方法には、記憶と評価の対応を高める利点が見られました。これも実験課題での結果であり、社内制度での効果を保証するものではありません。

さらに、Varmaらの1996年の職場調査では、85人の評価者による404人への評価を調べ、行動日誌を付けた評価者ほど、部下への好意と評価点の関連が強くなりました。研究者は、好意が評価をゆがめたとは限らず、良い仕事をする部下に好意を感じている可能性もあると考察しています。この研究も、行動の記録があれば印象の影響を自動的に排除できるわけではないことを考える材料です。

点数を付ける前に、どんな情報を確かめるか

評価者がまず確かめたいのは、「この部下は何点か」ではなく、どの評価項目について、評価期間中に何が起きていたかです。

  • 評価基準と対象期間:担当職務に求められた役割、どんな行動・成果を何点相当とするのか、いつからいつまでを評価するのかを確認します。期末になって好みに合わせて基準を変えないためです。
  • 良い行動と改善が必要な行動:強く印象に残った一件だけでなく、期間中の記録を同じ項目で集めます。問題の発生回数だけでなく、影響の大きさも確かめます。
  • 観察した事実と上司の解釈:「3月14日に関係者への連絡が期限を過ぎた」は事実として確かめられますが、「協調性がない」は解釈です。記録が当事者の報告だけなら、確認済みの事実として扱わないようにします。
  • 本人が担当した範囲と仕事の条件:同じ結果でも、受け持った案件の難しさ、情報へのアクセス、指示や役割の変更、他部署の遅れによって事情が違います。結果をすべて本人の能力や性格のせいにしないためです。
  • 記録されていないもの:上司が見ていない業務、本人が説明できる成果、部署をまたぐ仕事などが抜けていないか確かめます。記録がないことを「何もしていない証拠」とみなさず、必要なら担当者や仕事の記録を追加で確認します。

日誌を増やすだけでは、上司が見た場面ばかり詳しく残る場合もあります。本人による記録や成果物なども併せて確認しつつ、他者の意見をそのまま事実扱いしないことが大切です。人事評価の記録には個人情報が含まれるため、アクセスできる人や保存範囲は社内の規程に従って管理します。

行動記録を整理してから評価点を決める手順

以下は、紹介した研究の知見を参考に組み立てた実務上の提案です。ここに示す順序や記録表そのものが、すべての職場で評価の誤りを減らすと直接検証されたわけではありません。

  1. 評価項目と点数の目安を先に確認する。たとえば「情報共有」なら、必要な相手に必要な情報を、業務に支障のないタイミングで伝えることを基準にします。「5点はどんな行動か」「基準に満たない場合は何が不足するか」も自社の評価制度に沿って確認します。
  2. 評価期間全体の記録を集める。日付・仕事内容・本人が取った行動・確認できた結果・出典となる日報や記録を集めます。最初から高評価・低評価に合う例を選ばず、良い点と改善点の両方を並べます。
  3. 事実と解釈、条件を別の欄に記入する。「連絡が遅れた」「事前に共有した」といった行動と、「周囲に配慮した/しなかった」という解釈を混同しません。上司が知らなかった事情は未確認として残します。
  4. 各項目の材料を確認してから仮の点数を付ける。基準に照らして、よく見られた行動、仕事への影響、特に重要な出来事を確認します。材料が足りないときは、無理に中間点を置いたり、想像で理由を補ったりせず、確認すべき内容を残します。
  5. 点数と食い違う事例を点検する。低い点数なら、それに反する良い行動を見落としていないか。高い点数なら、繰り返し起きた問題を軽く扱っていないかを見ます。新たな事実で点数を変更した場合は、何が変わったかを記録します。
  6. 本人に説明できる形で確定する。評価会議や面談では、点数だけでなく、参照した行動、基準との対応、考慮した条件、未確認の点を示します。判断が割れたときは印象の強さではなく、どの評価基準に対する証拠かを話し合います。

「情報共有が2点」という印象を持ったときの記録例

以下はすべて説明用の仮の例です。実際の人事評価の基準や実績を示すものではありません。

時点・確かめられた行動 仕事の状況と結果 評価前に確認すること
2月:納期の変更見込みを関係部署に事前共有 調整時間を確保できた 本人の担当範囲と、必要な共有を行った記録
3月:仕様変更の連絡が所定の期限後になった 関係部署で再調整が生じた 本人が変更を知った時点、連絡規程、影響の大きさ
4月:複数部署の予定を一覧にして共有 調整に使える情報が整理された 本人の役割と、共有が必要な相手に届いたか

この記録だけで「2点は誤り」「4点が正しい」と結論は出せません。評価項目の定義と、3月の遅れがどれほど重大だったかによって扱いが変わるからです。重大な安全・法令上の違反なら一件でも重い評価理由になり得ます。反対に、通常の情報共有の習慣を評価するなら、期間全体の行動と頻度を見比べる必要があります。

本人との面談では、「情報共有は2点です。3月に遅れたからです」と点数から始める代わりに、「評価期間の情報共有について、この三つの記録を確認しました。3月の連絡の時点で、どの情報が利用できたか教えてください」と事実と未確認点から話す方法があります。そのうえで、制度の基準に沿った点数と理由を説明します。

評価点を説明できる文章に整えること自体は必要です。避けたいのは、説明したい点数を守るために、都合のよい記録だけを探すことです。行動記録から判断に進み、最後に点数の理由を文章にする順序なら、評価の違いも確認しやすくなります。

参考文献・出典