失敗しそうな仕事を部下に任せられない|支援と任せる範囲の決め方

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部下に少し難しい仕事を任せたい。でも、途中で失敗して顧客に迷惑がかかるのではないかと心配になり、結局は上司が自分で引き取ってしまう。こうしたとき、失敗を覚悟して全部任せるべきなのでしょうか。

「全部任せるか、任せないか」の二択にする必要はありません。まず、失敗した場合の影響と、上司が不安に感じている点を分けて確認します。そのうえで、部下が自分で判断する範囲、上司の承認が必要な事項、途中の確認点、利用できる支援を決めます。重大な損失を防ぐ責任は上司側に残しながら、部下が自分で考え、試せる部分を作る進め方です。

「失敗しそう」と感じたとき、何を一緒に避けているのか

以下は説明用の仮の場面です。新人の営業担当者が顧客への改善提案を初めてまとめます。上司は「数字の根拠を間違えたら困る」と考え、情報収集から提案書の作成まで自分で行いました。顧客に誤った金額を伝える危険は避けられそうですが、部下は提案の構成や根拠の確かめ方を練習できません。

上司の心配には合理的な部分があります。顧客に約束した金額や納期は、後から容易に直せない場合があるからです。一方、社内で作る下書きまで任せられなかったのかは別の問題です。失敗が怖いと感じると、修正できる小さな試行と、取り返しがつかない重要な決定を、一緒に避けてしまう可能性があります。これは仮の例を使った考察で、今回の上司に特定の心理的偏りがあると断定するものではありません。

一度のミスをもとに「この部下にはできない」と判断を固定すれば、その後の経験機会や支援が少なくなることも考えられます。低い期待が接し方を変える心理は、ゴーレム効果(低い期待と接し方の関係)の解説にも関連します。ただし、経験や知識が本当に不足している可能性もあるため、現在の能力と仕事の危険度は個別に調べる必要があります。

選択する余地は意欲に関係するが、丸投げとは違う

仕事を「自分で意味を理解し、納得して進める」という意欲は、自律的な動機づけと呼ばれます。部下の考えを聞き、仕事の進め方に選択の余地を与える上司の関わり方は、その意欲と関係することがあります。自律性を尊重するとは、上司が必要な情報や支援を渡さず、責任だけを部下に押し付けることではありません。

Slempらの2018年のメタ分析は、職場の72研究、計32,870人のデータを統合しました。上司が部下の意見や選択を尊重する関わり方は、本人の自律的な仕事への意欲、仕事に対する良好な態度などと正の関連を示しました。一方、外からの圧力に従う動機づけとは明確な関連が見られませんでした。ただし、分析対象の多くは一時点で測定した研究です。裁量を渡したことが原因で必ず業績が上がる、と確かめた結果ではありません。

さらに、Cheongらの2016年の職場調査では、韓国の企業や研究機関の上司と部下の回答を使い、権限を与えるリーダーの関わり方を分析しました。「自分にもできる」という感覚を高めて成果につながる面だけでなく、仕事の緊張を高め、好ましい影響を弱める面も支持されました。仕事を任せることと、負担に見合う支援を整えることは、セットで考える必要があります。この結果も、特定の職場で任せ方を変える効果を保証するものではありません。

失敗からの学習は、試せる場所があってこそ考えられる

KeithとFreseの2008年のメタ分析は、訓練中に試行錯誤し、ミスから学ぶよう促す方法を、失敗を避けるよう手順を教える訓練などと比較した24研究、計2,183人の結果をまとめました。平均的には試行錯誤を促す訓練の成績が有利で、特に習った課題とは構造が異なる新しい課題への応用で大きな差が見られました。ただし、研究ごとの結果にはばらつきがありました。

ここで扱ったのは訓練中の学習です。実際の契約、安全、個人情報の取扱いなど、重大な損害につながる本番業務であえて失敗させる根拠ではありません。職場に応用するなら、社内の下書き、模擬説明、検証用のデータなど、誤りを見つけて直せる場面を選ぶ方法が考えられます。

また、Edmondsonの1999年の職場研究では、製造業の51チームを調べ、質問や失敗の共有など、人間関係上のリスクを取っても大丈夫と感じられる状態と、チームの学習行動との関連が見られました。観察研究のため、相談しやすくすれば必ず失敗を防げるという因果関係までは示していません。それでも、部下が困ったときに声を上げられるかを点検する材料になります。

任せる前に、失敗の影響と部下の準備状況を確かめる

「部下が心配だから」という感覚だけでは、どこまで任せられるか分かりません。次の五つを確かめると、任せてよい部分と上司が関わるべき部分を分けやすくなります。

  • 何が失敗なのか:下書きの手直し、期限の遅れ、顧客への誤案内、金額の確約など、起こり得る問題を具体的に並べます。漠然とした不安と、現実に避けるべき問題を区別します。
  • 後から直せるか:社内資料の修正は取り戻せても、契約条件の約束、安全事故、法令違反、個人情報の漏えいなどは取り戻せない影響があり得ます。重大な部分には承認や専門部署の確認を先に設けます。
  • 本人にどんな経験と時間があるか:似た仕事の実績、必要な知識、今の業務量を確認します。「まだやったことがない」と「できない」を同じにせず、着手に必要な練習や情報を聞きます。
  • 判断するための権限と支援があるか:関係資料を閲覧できるか、他部署へ質問できるか、誰に相談できるかを確認します。責任だけ渡して、必要な権限や情報がない状態を避けます。
  • 問題に気づく確認点を置けるか:最終日に初めて成果物を見るのではなく、構成案の完成時、数字の確定前、顧客への提示前など、影響が大きくなる前に確認できるか考えます。

必要な資格や技能、社内の承認体制がなく、失敗時の影響も大きいなら、すぐに単独で任せない判断は合理的です。その場合でも、経験者に同行する、模擬課題を担当するなど、安全に学べる部分がないかを検討できます。

自分で決める範囲と、上司が支える範囲を合意する

以下は研究の知見を参考にした実務上の提案であり、手順全体の効果が実証されているわけではありません。仕事ごとの危険や社内規程に合わせて調整します。

  1. 仕事の目的と完成条件を伝える。「提案書を作って」だけでなく、「顧客の課題、選択肢、費用の根拠が分かる初稿を作る」と話します。完成度の基準と期限は示しつつ、部下自身が選んでよい進め方も明確にします。
  2. 部下が判断することと、上司の承認事項を分ける。情報収集の進め方や構成は部下が選び、価格や納期の確約は上司が確認するなど、境界を事前に決めます。判断に迷うときは、その場で立ち止まって相談してよいと伝えます。
  3. 必要な情報と相談先を渡す。使える過去資料、数字の調べ方、関係部署の連絡先を用意します。相談したことを「一人でできない証拠」として扱わず、上司が細部まで毎回指示しすぎないようにします。
  4. 危険が大きくなる前に進捗を確かめる。初稿の見出しを作った段階や社外へ送る前など、確認する時点と内容を合意します。すべての作業を監視するのではなく、判断を変える必要がある地点に確認を置きます。
  5. 結果と進め方を振り返り、任せる範囲を更新する。上手くいかなかった部分は本人の能力だけでなく、情報、説明、時間、支援の不足も確かめます。できた部分は次回の裁量を広げる判断材料にし、必要なところには追加の支援を用意します。

顧客向けの提案書を任せる場合の分け方

次の表は説明用の仮の例です。実際には社内規程や契約上のルールを優先してください。

仕事の段階 部下が自分で進めること 上司などが確認すること
課題整理と構成案 顧客の要望を整理し、提案の選択肢を考える 初稿段階で目的のずれや情報不足を確認する
費用や効果の見積もり 根拠となる資料を集め、仮の計算を行う 数字の出典、計算の前提、承認が必要な条件を確認する
顧客への正式な提示 説明資料を整え、承認後の修正を反映する 価格・納期・契約条件を承認し、約束してよい範囲を決める

ここでは、提案を考える裁量は部下に残し、誤った確約を防ぐ役割を上司が持ちます。部下にとっても、どこまでは判断できるのかが分かる状態です。

任せるときの伝え方

次の会話も仮の例です。

「今回の提案書は、まず初稿をお願いしたいです。課題の整理や構成は自分で考えてみてください。価格と納期をお客様に約束する前には、必ず私と担当部署で確認します。構成案ができた時点で一度見せてください。迷ったら、その日を待たずに相談して大丈夫です」

仕事を進める途中で問題が出たときは、「やっぱり任せるべきではなかった」とすぐ判断せず、判断の根拠、必要な情報、支援が足りていたかを聞きます。改善できたなら次の仕事で裁量を増やせますし、重大なリスクが見つかったなら任せる範囲を狭めて確認を強める必要があります。

部下の成長のために危険な失敗を経験させる必要はありません。一方、あらゆる失敗を恐れて上司が仕事を抱え続ける必要もありません。部下が自分で判断できる部分と、上司が責任を持って支える部分を決めれば、安全を守りながら挑戦する機会を作れます。

参考文献・出典