個人成績を重視すると協力が減る?チームへの貢献を評価に含める

採用・評価・人材育成
Psychology Laws 編集部

「各自の目標は達成しているのに、必要な情報が共有されない」「困っている同僚を助けると、自分の数字が下がってしまう」。個人成績を重視しているチームで、そんなことは起きていないでしょうか。

個人成績を評価すること自体で、必ず協力が減るわけではありません。ただし、自分の数字に直結する仕事だけが認められ、情報共有や引き継ぎなどが評価されないなら、社員には協力を後回しにする理由が生まれます。本人が担当した成果を評価しながら、共同作業に必要な、確認できる協力行動も別に評価材料へ含めることが大切です。

個人の数字が中心になると、協力が後回しになり得るのはなぜか

例えば、顧客対応の担当者が、処理件数だけで個人評価を受けているとします。難しい案件を同僚に引き継ぐための説明や、ほかの社員の相談への対応には時間がかかります。その時間が自分の処理件数に反映されなければ、本人は目の前の案件を先に進めようと考えるかもしれません。

これは、社員が利己的な性格だからとは限りません。「自分の成果として何が認められるか」という仕事の条件によって、時間や注意の向け先が変わる可能性があります。反対に、担当業務が独立している場合は、個人の目標を重視することが適切な場面もあります。

Wood、Leoni、Ladley(2023)は、個人の成果に応じた報酬と、チームなど集団の成果に応じた報酬を直接比較した36件の研究論文をレビューしました。確認した研究の範囲では、集団への報酬、または個人と集団の両方への報酬が、個人だけに連動した報酬より良い成果と結び付く結果が多く見られました。協力やアイデアの創出が、その違いに関係する可能性も論じられています。

ただし、このレビューには現場での観察研究と実験が含まれ、職場での観察結果だけから報酬制度が成果を変えたと断定できません。また、仕事内容の違いによる効果や、協力が成果につながる過程を直接確かめた研究は限られていました。「チームの報酬に変えれば必ず協力が増える」という結果ではありません。

具体的な比較もあります。Pearsall、Christian、Ellis(2010)は、90チームに状況判断を要する模擬課題を行ってもらい、個人成績に応じた報酬、チーム成果を分け合う報酬、両方を組み合わせた報酬を比較しました。組み合わせた条件では、個人のみ・チームのみの条件よりチームの成果が高く、必要な情報の分配が改善し、集団の中で個人の努力が弱まる傾向も抑えられました。

このように、チームだけの評価にも課題があります。共同作業で自分の努力が目立ちにくくなり、力の入れ方が変わることは社会的手抜きの解説で詳しく扱っています。ただし、模擬課題の報酬実験から、実際の会社で何%を個人評価、何%をチーム評価にすればよいかは分かりません。

仕事の種類による違いも重要です。Beersmaら(2003)は、4人組75チームの模擬作業で、競争的な報酬と協力的な報酬を比較しました。競争的な条件は作業の速さ、協力的な条件は正確さという、異なる面で成果を高めました。つまり、チーム協力に関わる評価を考えるときも、何の仕事の質を求めているかを確かめる必要があります。

さらに、Morgan、Orzen、Sisak(2026)は、3人組が複雑な課題に取り組む対面とオンラインの二つの実験で、仲間の評価によって個人の報酬の取り分が変わる条件を調べました。その条件では、参加者の意欲、作業時間、会話は増えましたが、チーム全体の成果には統計的に明確な改善が見られませんでした。仲間によく見られるための行動が増えたり、時間の使い方が非効率になったりする可能性も示されています。

したがって、「個人評価は悪い」「相互評価を増やせば協力できる」と単純に考えず、個人の仕事と共同作業の両方に何が必要かを確認することが出発点です。上記の実験結果を、そのまま一般企業の人事評価制度の効果として扱うことはできません。

チームへの貢献を評価する前に、何を確かめるか

協力が減ったように見えたとき、いきなり「チームワークも採点する」と決める前に、協力が必要な仕事かどうか、その仕事をしにくくする条件がないかを確認します。

確認すること 見る事実・記録 評価や対応へのつなげ方
仕事の依存関係 一人で完結する業務か。他の人への引き継ぎや情報共有が成果に必要か 協力が不可欠な仕事では行動基準を設け、独立性が高い仕事に無理に同じ基準を当てはめない
個人に期待された成果 担当件数、期限、品質、顧客対応など、事前に合意した役割と実績 協力したという理由で本人の成果や未達を見えなくしない
具体的な協力行動 次の担当者に必要な情報を渡したか。難しい案件の相談、再利用できる手順の共有、問題の早期報告があったか 「協調性がある」といった印象より、仕事を進めるための行動と内容を確認する
共有の質と必要性 共有した内容は正確で、受け手が使えるものだったか。不要な連絡や重複作業になっていないか 投稿数、会議参加回数、手伝った時間の多さだけを得点にしない
本人が置かれた条件 協力する時間、権限、情報へのアクセス、業務量、相談できる体制があったか 機会や支援がなかったことを、本人の協力不足と決めつけない
評価・報酬のルール 既存の評価項目と配分基準、チーム目標、給与・賞与の決定権限 期末に新しい配点を後付けせず、制度変更が必要なら人事担当者と確認する

英国の人事専門団体CIPDの2026年の業績管理資料は、中心的な担当業務の遂行に加え、他のチームへの支援など組織に役立つ行動も、仕事ぶりの一つとして整理しています。チームワークへの依存が高い仕事では行動目標が有用な場合がある一方、個人とチームの目標が互いに矛盾しないよう注意が必要だとしています。

例えば、同僚から相談された回数だけを評価すると、本当に必要な支援より「協力しているように見える行動」を増やすことも考えられます。逆に、十分な記録がない仕事を「貢献していない」と片付けるのも早計です。本人の説明だけでなく、引き継ぎ記録や共有資料、実際に受け取った人の確認を合わせ、事実と評価者の印象を分けます。

また、「いつも周囲を助けている人」だけに本来の担当外の仕事が集中している場合には、協力を褒めるだけでは不十分です。役割の割り振りと負担の調整も必要になります。

個人成績を残しながら、協力をどう評価に含めるか

以下は説明用の仮の例です。顧客からの問い合わせを担当するチームで、Aさんは1か月に50件、Bさんは38件に対応したとします。Bさんは難しい問い合わせへの相談に応じ、繰り返し使える案内文も更新しました。上司は処理件数だけを見て、Aさんの方を高く評価しようとしています。

しかし、件数だけでは、それぞれが担当した案件の難しさ、回答の正確さ、期限の達成度までは分かりません。Bさんが更新した案内文を誰が使い、どんな問題を減らすのに役立ったかも、まだ確認が必要です。一方、Bさんの協力行動が重要だったとしても、個人の担当業務の達成度を無条件に満点とすることはできません。

この場面では、次のように個人の成果と協力行動を別の欄に分け、会社が定めた評価制度に沿って判断する方法が考えられます。

  1. 本人の担当業務と、チームに必要な連携を定義する。「問い合わせを期限内に正確に回答する」という個人の役割に加え、「難しい案件を引き継ぐとき、確認済みの事項と未確認点を伝える」など、今回の仕事に必要な連携を具体化します。評価期間の途中で目標を変える場合は、理由と適用時期を本人と確認します。
  2. 個人の成果は従来の基準で確かめる。Aさんの50件、Bさんの38件について、件数に加えて品質、期限、案件の条件を照合します。成果が目標に届かなかった事実を、協力したことだけで打ち消さないようにします。
  3. 協力の実績を、役に立ったかまで確認する。相談への対応、引き継ぎの内容、案内文の更新履歴などを確認します。「たくさん手伝った」ではなく、「必要な情報が共有され、その後の担当者が使えたか」を関係者にも確かめます。協力する機会があったかも合わせて見ます。
  4. 個人・チーム両方の評価項目を制度に沿って扱う。個人成果と連携行動を混同せず、同じ仕事を二重に加点しないようにします。チーム成果も対象とする制度なら、その目標と個人の役割を区別します。評価の重みや報酬の配分を変える場合は、人事部門や権限を持つ担当者と事前に確認します。
  5. 面談で根拠を説明し、仕事の条件も直す。どの成果と協力行動を確認したか、改善が必要な点は何かを伝えます。情報共有の時間が取れない、支援役が偏っているなどの問題があれば、評価だけでなく仕事の割り振りや相談方法を見直します。

例えば、Bさんへの面談では次のように伝えられます。

「今月の問い合わせ対応は38件でした。件数や回答の質は、担当業務の基準で確認します。一方、難しい案件の相談に応じたことと案内文を更新したことも、チームの仕事に関わる行動として記録したいです。どの場面で、誰の仕事に役立ったのか、更新履歴や関係者の話と照らして確認しましょう。負担が集中していないかも教えてください」

この例では、AさんとBさんのどちらを高く評価すべきか、まだ決められません。確認できた事実、事前の目標、仕事の条件がそろってから判断します。評価制度に協力行動の項目がない場合も、期末に独自の配点を作るのではなく、今後の制度や目標設定でどう扱うかを人事担当者と相談します。

ここで示した手順は研究と公式資料を参考に組み立てた実務上の提案です。これを導入すれば必ず情報共有が増える、チーム成果が改善する、と直接確認された方法ではありません。

個人成績と協力は、どちらか一方だけを選ぶ話ではありません。本人に任せた仕事をどう果たしたかと、共同成果に必要な協力をどう担ったかを、役割に合う事実と基準で別々に確かめることが、チームへの貢献を人事評価に含める出発点です。

参考文献・出典