主観的な評価をすべて排除すべき?観察事実と解釈を区別する

採用・評価・人材育成
Psychology Laws 編集部

人事評価で「協力的だった」「対応が丁寧だった」と書いたところ、人事担当者から「主観ではなく、数字で評価してください」と言われたことはないでしょうか。確かに、印象だけで評価を決めると、その理由を社員に説明しにくくなります。しかし、数字にしやすい仕事だけが、評価すべき貢献とは限りません。

主観的な評価をすべて排除する必要はありません。大切なのは、観察・記録できた事実と、そこから考えた解釈、職務上の基準に照らした評価判断を分けることです。数値で確認できる成果は使いながら、判断が必要な仕事の質や周囲への貢献についても、何を根拠に評価したのかを確かめられるようにします。

数字だけの評価でも、仕事の全体が見えるとは限らない

例えば、企画担当者を「提案書を何本出したか」だけで評価するとします。提出件数は数えられますが、提案の根拠を調べたか、選択肢を比べたか、実行上の問題を明らかにしたかまでは、件数から分かりません。反対に「発想力がある」「センスがよい」といった感想だけでも、評価の根拠は伝わりにくいでしょう。

英国の人事専門団体CIPDが公表した2026年の業績管理に関する資料では、職務の遂行、担当外も含めた組織への貢献、変化への対応を区別し、それぞれ結果と行動の両面から評価できると説明しています。成果を数えやすい仕事がある一方、専門的な仕事では測定が難しく、主観的な評価も役立ち得るとしています。ただし、その評価方法は、繰り返し使っても評価が安定し、重要な仕事ぶりをきちんと捉えられるかを確かめる必要があります。

数値と人による評価が同じものを測っているとは限らないことは、研究からも分かります。Bommerら(1995)は、従業員の仕事ぶりについて、数えられる指標と人による評定の両方を扱った研究をまとめて分析しました。誤差を調整した両者の平均的な相関は約0.39で、正の関連はあるものの、互いをそのまま代わりに使えるほどの一致ではないと結論づけています。この数値は「39%の人の評価が一致した」という意味ではありません。

ただし、同じ種類の仕事ぶりを同じ水準で測った少数の研究に限る追加分析では、代わりに使える可能性も示されました。著者らは、この追加分析の材料が少ないことを注意点としています。したがって、「客観的な数字は役に立たない」という結論でもありません。何を評価したいのかを先に定め、その目的に合う数字と判断材料を選ぶ必要があります。

一方、人が評価するときには、実際の行動を見るだけでなく「この行動は何を意味するか」と解釈する過程が入ります。一つの強い印象が、直接関係のない評価項目にも広がることはハロー効果の解説でも扱っています。「感じがよい社員だから分析力も高い」と考えるような場合です。ただし、良い印象を持っているだけで、実際の評価に偏りが生じたと断定はできません。

SulskyとDay(1992)は、大学生94人を、仕事ぶりを評価する基準を具体例とともに学ぶ条件と比較用の訓練条件に分け、映像に登場する3人の管理職を3項目で評価してもらいました。共通の基準を学んだ参加者は、比較群より評価や行動の分類が正確になりました。ただし、見た行動を後から思い出すための認識課題では、一部の行動についてかえって正確さが下がりました。

これは大学生による映像の評価実験であり、企業の評価面談で同じ方法を使えば必ず公平になると直接示したものではありません。判断に共通の基準があることは役立っても、観察や記憶まで完全に正しくなるとは限らないという点が、実務で考えたいところです。

「観察した事実」と「上司の解釈」をどう分けるか

評価メモに「主体性が高い」「協調性が低い」と書かれていたら、まず、その言葉の根拠になった出来事を確かめます。印象を否定するためではなく、どこまでが確認できた事実で、どこからが評価者による意味づけなのかを明らかにするためです。

分ける段階 記録の例 次に確かめること
観察・記録された事実 「会議の前日に、二つの企画案について費用と想定利用者を比較した資料を提出した」 提出物、日付、本人の担当部分、資料に書かれた内容を確認する
その事実の解釈 「選択肢を比較して考えている」「準備が丁寧だ」 そう判断した理由は何か。数字の根拠や別の事例も確かめられるか
職務上の評価基準 「企画案の比較に必要な情報を集め、判断材料を整理する」 今回の担当業務で求めていた内容か。どの程度までできれば期待水準か
評価判断と未確認点 「比較の観点は確認できたが、費用試算の精度は未確認」 確認できた範囲で評価するか、追加資料や本人への質問が必要か

上の表は説明のための仮の記録です。「資料を提出した」ことが確認できても、比較した金額の正しさや、企画案の実現可能性まで証明されたわけではありません。事実と解釈を分けた後も、解釈をどの基準に当てはめて評価するかという判断が必要です。事実を並べるだけで評価点が自動的に決まるわけではありません。

また、「部署全員が頼りにしている」は、具体的な行動ではなく、評価者の印象や伝聞かもしれません。誰がどんな仕事で助けられたのか、成果物や当事者の説明で確かめます。一方、記録が見つからない場合も「協力していなかった」とは言えません。評価者が見られなかった仕事は、本人や関係者に確認すべき材料として残します。

数字についても同じように、「何を数えたか」を確かめます。提案件数が多くても、案件の難しさや役割が違えば比較の意味は変わります。反対に、仕事の質を理由に件数や納期の未達を無視することも適切ではありません。評価制度で成果と行動の両方を定めているなら、それぞれを分けて確認します。

主観を消さずに、評価理由を確かめられる形にする

以下は説明用の仮の例です。商品企画の担当者が、評価期間中に提案書を3本作ったとします。上司は「発想力が高い」と評価しました。そのうち1本には、顧客から聞いた課題の分類、二つの代案、費用の見通しが記載されていました。ただし、費用の見通しが担当部署に確認済みかどうかは、まだ分かっていません。

このとき「3本提出」という数字だけを採用すれば、企画の質を見落とすかもしれません。しかし「発想力が高い」という印象をそのまま評点にしても、何が良かったのか説明できません。次のように、判断を残しながら根拠を点検できます。

  1. まず、何を評価する仕事だったか確認する。「提案件数」なのか、「顧客課題を整理して案を比較する力」なのか、役割と評価期間中に示していた基準を確かめます。期末になって上司の好みに合わせ、評価項目を入れ替えません。
  2. 数字と具体的な行動を別々に残す。3本の提出記録に加え、企画書で確認できた比較項目、情報源、代案の検討内容を記録します。「発想が豊か」といった感想は、この段階では評価者の解釈として分けます。
  3. 解釈の根拠と、別の可能性を確かめる。「比較がよくできている」と感じた理由を、職務の期待水準に沿って説明します。例えば、費用試算に未確認の前提が残るなら、担当部署の確認を取る必要があるか調べます。良い印象に合わない情報も無視しません。
  4. 本人や関係者に、足りない事実を聞く。「この費用の数字は何を基にしましたか」「誰が確認しましたか」と尋ねます。報告を受けた内容は、確認が取れるまで本人の説明として扱います。仕事の範囲外の承認が必要だったなら、その役割分担も確認します。
  5. 基準に照らして判断し、説明する。企画の質を評価する基準に沿って、できている点と未確認・改善が必要な点を分けます。資料が足りなければ追加確認します。数値目標の評価も必要なら別に行い、最終的な評点と処遇は会社の制度に従います。

面談では、例えば次のように伝えられます。

「提案書は3本提出されています。そのうち、この企画書では顧客の課題を分類し、代案と費用を比較していました。企画案を比べるための情報整理という点を評価したいです。一方で、費用の前提はまだ確認できていません。どの資料を使い、担当部署とどこまで確認したか教えてください」

本人の話と資料を照合した結果、試算が十分に確かめられていれば、評価を支える材料が増えます。確認すべき前提に漏れがあれば、比較した工夫は認めつつ、企画の精度に関する改善点として扱えます。判断を変えるのは「主観を排除できたから」ではなく、新たに確かめられた事実と基準の対応が明らかになったからです。

数字で十分に捉えられる作業なら、無理に印象による評定を増やす必要はありません。反対に、質や変化への対応が大切な仕事を、数えやすい数字だけで評価することも避けたいところです。事実を確認することと、その意味を職務基準に照らして判断することを、互いの代わりにしない。その区別があれば、評価者の判断を残しながら、本人に説明できる評価へ近づけます。

以上の記録方法や面談の順序は、研究と公式資料を参考に考えた実務上の提案です。これだけで人事評価の偏りがなくなったり、社員の納得度が必ず上がったりすると実験で確認された方法ではありません。

参考文献・出典