正解のない判断を新人に教えるには?条件付きで決める練習の進め方

採用・評価・人材育成
Psychology Laws 編集部

新人から「この仕事では、どちらを選べば正解ですか」と聞かれたとき、「状況によるから自分で考えて」と答えて終わっていないでしょうか。上司自身も一つの正解を決められない仕事ほど、何を教えるべきか迷うかもしれません。

正解が一つに決まらない仕事では、結論を覚えさせるより、どの情報を確かめ、どの条件ならその選択が妥当で、何が変われば判断を変えるかを練習します。新人に最初から丸投げせず、理由付きの見本を示してから、条件が違う事例を比較し、本人に考えを説明してもらいます。ただし、安全・法令・契約・承認権限などの必須条件は、自由に決めてよい部分と分けて教えます。

同じ答えを覚えるだけでは、別の場面で迷うのはなぜか

例えば、「取引先からの依頼は社内の仕事より先に対応する」と教えたとします。しかし、取引先の期限が翌日でもよく、社内の資料はその日の重要な決定に必要なら、同じ順番が適切とは限りません。新人が前回の答えを覚えていても、答えが変わる条件まで理解していないと、新しい場面に当てはめにくい可能性があります。

Gentner、Loewenstein、Thompson(2003)は、交渉を学ぶ初心者を対象に、事例の学習を別の交渉課題に応用できるか3つの実験で調べました。二つの事例を比べて共通する交渉の仕組みを考える条件は、二つの事例を別々に学ぶ条件より、新しい交渉場面への応用に有利でした。また、二つの事例を比較する際の支援を増やすと、対面で行う交渉課題への応用が増えました。

これは交渉を学ぶ参加者の研究で、一般企業の新人の優先順位判断を直接検証したものではありません。ただ、似た事例の結論だけを示すのではなく、「どの情報が同じで、どの違いが判断を変えたのか」を比べる練習を考える根拠になります。

一方、最初から本人に難しい判断をすべて考えさせる方法が最適とも限りません。Nievelsteinら(2013)は、オランダの大学で法律の事例を考える1年生75人と3年生36人について、一般的な判断手順の説明、解き方を示した具体例、両方の組み合わせ、支援なしを比較しました。具体的な解答例を学ぶ方法は、自分で問題を解く方法より学習成果が高く、初心者だけでなく、法律の学習経験がある学生にも利点が見られました。

法律事例は、単純な手順の暗記だけでは解けない課題です。ただし、法律の学生を対象とした実験なので、あらゆる仕事の新人教育にそのまま当てはまるとは限りません。実務への応用として、まず指導者が選択の理由を示し、次に新人が自分で考えるという進め方が考えられます。

試しながら学ぶ方法について、KeithとFrese(2008)は、試行錯誤と失敗からの学習を促す訓練を、失敗を避けながら手順を学ぶ訓練などと比較した24研究、計2,183人をまとめました。平均的には試行錯誤を重視する訓練に利点があり、特に練習したものと構造が異なる新しい課題への応用で差が大きく見られました。

また、BellとKozlowski(2008)は350人が複雑なコンピューター上の模擬課題を学ぶ実験で、探索を促す学習や失敗を学びに使う説明が、新しい条件への応用に良い影響を与えることを確認しました。ただし、学習途中でどのように考えるかへの影響は、認知能力や目標の持ち方によって異なる場合もありました。

この二つの研究は訓練の場での効果を扱っています。顧客や会社に実害が出る本番で、失敗させる方がよいという意味ではありません。試行錯誤は影響を抑えられる練習で行い、実務では必須の確認や承認手順を守る必要があります。

新人が決める前に、何を確認できるようにするか

「正解がない」と「何を選んでもよい」は違います。指導する側は、何を守らなければならないかと、どこに判断の余地があるかを分けておきます。

判断に必要な材料 新人に尋ねること 判断が変わる分かれ目
仕事の目的と期限 何のための依頼で、いつまでに何が必要か 期限に余裕があるか、遅れが誰に影響するか
必ず守るルール 安全確認、契約上の約束、法令、承認権限はどうなっているか 本人だけで決めてよいか、所定の承認が必要か
分かっている事実と不明点 確認できた情報と、想像しているだけのことは何か 今選べるか、確認を先にする必要があるか
実際に取れる選択肢 先に対応する、期限を相談する、分担するなど何が可能か どの方法なら重要な条件を守れるか
相談が必要な境界 顧客への確約、予算、安全上のリスクなど、どこから誰の判断が要るか 本人が仮決定するか、上司や専門部署に引き継ぐか

顧客に納期を約束する権限がない新人が、勝手に期限を確定させることは、自由な判断として認められません。一方で、どちらの案も規則に合い、情報が不確かなら、違う選択にそれぞれ妥当な理由がある場合もあります。

そのようなときは、指導者と違う結論だったという理由だけで不正解にせず、何を重視したのか、何が分かれば変えるのかを聞きます。「まだ決めず、必要な情報を確かめる」も判断の一つですが、いつまでに誰へ確認するかまで考える必要があります。

条件を変えた事例で、判断の理由を練習する

以下は説明用の仮の例です。新人に、取引先からの資料修正の依頼と、社内会議で使う資料の準備が同時に届きました。どちらを先に進めるかを練習するとします。これは架空の場面で、実際の会社の仕事の優先順位を示すものではありません。

仮の条件 考えられる判断 その前に確認すること
取引先には当日の確定した提出期限があり、社内資料は翌日でも使える 取引先への対応を先に進め、社内の担当者に調整を伝える 顧客との約束、資料の確認・承認、社内の期限変更が可能か
取引先は翌日でもよく、社内資料は当日の重要な判断に必要 社内資料を先に整え、取引先へ対応予定を伝える案を考える 取引先の了解、社内会議の期限、本人の回答権限
双方の期限と遅延の影響が不明で、本人には外部への期限確約の権限がない いきなり順番を決めず、双方の事情を確認して必要なら上司に相談する いつまでに確認を終え、判断や承認を得る必要があるか

表の結論をそのまま暗記することが目的ではありません。上司が重視する順番を教えるだけでなく、新人に「この条件が逆だったらどうするか」と尋ね、結論が変わる理由を言えるようにします。複数の妥当な案があるなら、それぞれの利点と影響を比べます。

次の進め方は、事例の比較・見本による学習・試行錯誤に関する研究を参考にした実務上の提案です。これを実施すればすべての新人の判断力が高まると、直接検証された手順ではありません。

  1. 判断を一つに絞り、守る条件を先に示す。例えば「二つの依頼の優先順位」に限定します。顧客への返答権限、会社の承認手順、連絡しなければならない期限を確認し、練習には架空の案件を使います。
  2. 上司が一例を、理由付きで解いてみせる。「取引先の提出期限を確認し、社内で調整できるか調べます」と、見た情報、検討した選択肢、選ばなかった理由、不明点を説明します。ベテランの判断の着眼点を取り出す方法は熟練者の判断の手がかりを新人に伝える記事でも説明しています。
  3. 一つ条件を変え、新人に判断してもらう。「取引先の期限が翌日だったら」「社内資料が当日の承認に必須なら」と問い、何を優先して何を確認するかを話してもらいます。できれば二つの例を並べ、判断を変えた条件を指してもらいます。
  4. 結論だけでなく、理由と判断の境界に意見を返す。「なぜその案を選びましたか」「どの情報がなければ決められませんか」「どこで上司に相談しますか」と尋ねます。大切な条件を見落としていれば補い、妥当な別案があればその理由も認めます。
  5. 新しい事例で確かめ、実務では段階的に任せる。前の例と見た目が違う仕事でも、重要な条件を整理できるか確かめます。実務の最初の案件では対外的な確約前に上司が確認するなど、影響の大きさに応じて支援を残します。

指導のやり取りは、例えば次のようになります。

新人:「取引先の依頼を先にするのが正解ですか」

上司:「まだ分かりません。両方の期限と、遅れたときの影響を確認しましょう。取引先が翌日でもよいなら、何が変わりますか」

新人:「社内資料の期限が動かせないなら、社内の仕事から進める案を考えます。ただ、取引先への返答は確認が必要です」

上司:「その通りです。自分に期限を約束する権限がなかったら、誰に何を確かめますか」

新人を評価するときは「上司と同じ結論にしたか」だけではなく、「確認すべき情報を挙げたか」「選択の理由を説明できたか」「判断が変わる条件と相談先が分かっているか」を確かめます。契約、安全、法令上の必須条件を外した案は、根拠があるように聞こえてもそのまま実行させません。

正解のない判断を教えることは、何を選んでも正しいと教えることではありません。選択の根拠を示し、条件が変われば判断を見直し、必要なときに相談できるようにすることです。新人が自力で考えられる範囲を少しずつ確かめながら、仕事への責任と学習の両方を支えます。

参考文献・出典