実績のある人の方法しか認められない|新しい知見を研修に取り入れる

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研修の内容を見直そうとしたとき、「うちで一番成果を出している人はこのやり方だから、ほかの方法を教える必要はない」と言われることがあります。実績のある社員の方法は貴重な教材です。しかし、その人の仕事で成功したことと、別の経験を持つ受講者や今の業務条件でも同じ方法が最適であることは、分けて考える必要があります。

実績のある人の方法を捨てるのではなく、どんな条件で役立ったのかを残したうえで、新しい知見が何を示し、どの仕事に当てはまるかを比べます。研修担当者は「誰が言ったか」だけで教材を決めず、必要な技能、根拠の確かさ、現場の条件、必ず守る手順を確認します。その結果によって、従来の方法を残す、新しい方法を追加する、場面によって使い分けるという選択ができます。

実績のある人のやり方が、唯一の正解に見えるのはなぜか

高い実績は、その人の経験や専門性を判断する重要な手がかりです。研修担当者にとっても、実際に成果を上げた人の話は説得力があります。ただし、成果には本人の技能のほか、担当顧客、チームの支援、当時の制度や市場の状況が関わっていたかもしれません。方法だけを抜き出しても、成功した理由のすべてが分かるわけではありません。

また、経験豊富な人が自信を持って説明すると、内容を十分に比べる前に「間違いない」と感じる場合があります。肩書きや実績への信頼を、個別の説明の確かさと分ける考え方は、権威バイアスの解説とも関係します。これは、ベテラン社員に必ず偏りがあるという意味ではありません。採用する側が何を根拠にしているかを点検するための視点です。

Önkalら(2017)は、予測について専門家の助言を受ける人が、助言者の地位・評判による信頼と、過去の予測の正確さによる信頼をどう使うか、4つの実験で調べました。助言者が過去に正確な予測をしていたという情報があると、情報がない対照条件より助言が重く扱われました。一方、過去の正確さが低いという情報だけでは、対照条件より助言が軽く扱われる結果にはなりませんでした。

肩書きなどから推測される地位が高いというだけでは、対照条件より助言の重みは増えませんでしたが、地位が低いという情報は重みを減らしました。過去の正確さと地位を同時に示した場合、専門外の参加者では正確さの情報がより重要になり、専門職の参加者では両方が判断に影響しました。つまり、実績と肩書きが助言に与える影響は同じではなく、受け取る側の立場や提示された情報によっても異なります。

別のVan SwolとSniezek(2005)の研究では、助言する人と判断する人を組にした2つの実験を行いました。1つ目では、助言者への信頼、助言者の自信、実際の正確さ、以前からの関係、報酬の決定権と、助言を受け入れる程度との関係を調べました。助言者への信頼や自信は助言を受け入れる程度と関連し、これらの要因を使った分析では、助言者の自信が有意な予測要因として残りました。

これらの実験は、予測や助言の判断課題を扱ったもので、会社の研修講師を誰にするか、どの教材が受講者の技能を伸ばすかを直接調べた研究ではありません。それでも、よく知られた人の自信ある説明と、方法の妥当性を確かめる作業を分ける理由になります。実績を尊重することと、その方法しか検討しないことは別です。

研修方法そのものにも、仕事との相性があります。Arthurら(2003)は、企業などで実施された研修の研究をまとめた分析で、研修を受けた人の反応、学習、職場での行動、業務上の成果を区別して調べました。全体として研修の効果が見られた一方、研修の方法、教える技能・課題の性質、何を成果として測るかによって効果の大きさに違いがありました。特定のベテランの教え方と新しい教え方を直接比較した結果ではありませんが、「どの研修にも同じ方法を使えばよい」とは言えない根拠になります。

さらに、Salasら(2012)は、研修研究を整理し、研修前には誰に何を学んでもらう必要があるかを調べ、研修中は学ぶ内容に合った練習方法を選び、研修後は実務で使われたかと研修の改善点を確かめるよう勧めています。新しい知見を教材に加えることも、目新しさではなく、今回の職務で学ぶ必要があることから判断するのがよいでしょう。

研修の教材を変える前に、何を比べて確かめるか

「前から使っている方法」と「新しく見つけた方法」のどちらを信じるかという議論を避けるため、まず同じ仕事の課題に対する材料をそろえます。

確認する材料 具体的に確かめること 分かったときの判断
研修で身につけたい技能 受講後、どの場面で何を判断・実行できるようになってほしいか 目的が異なる方法は、優劣を無理に一つに決めず、対象の技能ごとに選ぶ
実績のある人の方法と成功条件 どんな顧客・案件・役割で使ったか。期間、成果の記録、必要だった支援は何か 条件が合うなら残す。条件が違うなら、そのまま全員に教える前に確かめる
新しい知見の出所と内容 研究なら対象・比較条件・結果、社内データなら集計期間・対象・記録方法は何か 新しいだけで採用せず、今回の仕事に当てはまる範囲で使う
両方に共通する点と異なる点 目的は同じか。判断の順番、確認する情報、相手への説明のどこが違うか 両立する部分は残し、判断が分かれる条件を研修の題材にする
変更できない業務上の条件 安全、法令、契約、顧客情報、承認権限、社内の必須手順に関わるか 必須手順を無断で置き換えず、変更が必要なら所定の承認を先に取る
教材の確認方法 受講者が実際の場面に近い課題で、必要な確認・判断・説明をできるか 講師への好感や研修の満足度だけでなく、仕事で必要な行動を確かめる

ここで、ベテランが話す「いつもうまくいく方法」は、どの範囲の実績に基づいているのか尋ねます。同じ担当顧客で続けて成果を出した方法なら、その顧客との関係や本人の経験も含めて確認します。説明できないことがあっても経験の価値がなくなるわけではありませんが、別の部署で同じ結果を期待してよいかはまだ分かりません。

新しい資料についても同じ厳しさで確かめます。例えば「最新の研修方法で効果があった」という研究なら、誰が何を学び、何と比較して、知識のテスト・実際の行動・仕事の成果のどれが変わったのかを調べます。新しい社内の記録なら、たまたま目立った数件の意見なのか、必要な対象と期間を含めた記録なのかを確認します。

比較しているのが別々の課題なら、勝ち負けはつけられません。重要なのは「研究だから正しい」「実績があるから正しい」のどちらでもなく、今回の仕事に必要な判断と、それを支える確かな情報をそろえることです。

実績のある方法と新しい知見を、研修でどう扱うか

以下は説明用の仮の例です。部署の引き継ぎ研修では、長く成果を出している社員の「引き継ぎは直接話して覚えてもらう」という方法だけを教えていました。その社員は、いつも同じ数人と仕事をしていました。一方、最近の社内記録には、担当替えの後に必要な情報が届いていなかった事例があり、研修担当者から「口頭説明と記録を組み合わせる内容も教えたい」という提案が出ました。

この例では、どちらの方法が必ず優れているかは分かりません。口頭で質問できることが役立つ場面もあれば、後で参照できる記録が必要な場面もあります。記録の形式だけ整っていても、内容が不十分なら十分な引き継ぎにはなりません。

研修担当者は、次のように新旧の方法を比較して教材を組み立てられます。これは研究を参考にした実務上の提案であり、この手順自体の有効性が実験で保証されたものではありません。

  1. 引き継ぎで必要な結果を先に決める。「受け手が担当範囲、未対応の仕事、期限、相談先を確認できる」など、仕事で必要な状態を具体化します。会社に必須の引き継ぎ項目があれば、その遵守を前提にします。
  2. ベテランの方法が役立った条件を聞く。「誰にどんな仕事を引き継ぎましたか」「相手は何を事前に知っていましたか」「聞き返す機会はありましたか」と尋ねます。会話の場で状況をすぐ確かめられる強みも教材に残します。
  3. 新しい記録や知見が示す問題を確かめる。実際の引き継ぎ漏れが何に関係していたか、社内記録の範囲で確かめます。口頭説明だけが原因と決めつけず、受け手の不在、手順の変更、記録の不足なども調べます。
  4. 条件の違う二つの練習課題で比べる。同じ場所で働く人への引き継ぎと、勤務時間が異なる人への引き継ぎを仮の事例にします。それぞれ、口頭説明と必要な記録をどう組み合わせるか受講者に考えてもらい、必須項目の抜け、質問の機会、後から確認できる情報を同じ基準で点検します。
  5. 残す方法・追加する方法・使い分けを決める。口頭での確認を残しつつ、必要な情報は記録にも残すなど、条件に合わせて教材を修正します。決定した理由と未確認点を講師にも共有し、実務の記録と矛盾が見つかれば研修内容を再確認します。

実績のある社員には、例えば次のように相談できます。

「これまでの引き継ぎでうまくいった場面と、そのとき相手に確認できたことを研修に残したいです。一方、担当者が入れ替わったときに情報が届かなかった記録もあります。口頭での説明が特に役立つ条件と、記録を残す必要がある条件を、同じ事例で一緒に確認してもらえますか」

この伝え方は、ベテランの成功を否定するためではありません。経験の中にある役立つ判断を残しながら、変わった仕事の条件に合わせて教材を整えるためです。研究で効果が確かめられた研修法でも、対象が異なれば結果をそのまま当てはめず、現場の必須手順を守った練習と確認が必要です。

研修で採用する方法を決める際は、「実績のある人がそうしていたか」ではなく、「どの場面で役立ち、何を根拠に教え、条件が変わったらどう判断するか」を示します。今までの方法を残す場合も、新しい方法を追加する場合も、その理由が分かる教材にすることが大切です。

参考文献・出典